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塩がチーズにもたらす旨味と個性!チーズづくりの最終工程「加塩」の目的と役割

チーズ

チーズづくりの最終工程は「加塩」です。文字通りチーズの元であるたんぱく質の塊に塩をまぶしたり、塩水に浸けるといった作業ですが、加塩の目的はチーズに塩味をつけることではありません。

 

不要な雑菌の繁殖を防いだり、内部に残る水分の排出といった製造に関わる理由に加え、チーズの種類によって適正な早さで熟成が行われるようにコントロールする役目を担い、また、チーズの醍醐味でもある「旨味」を作り出しています。様々なチーズごとに異なる、熟成前の最後の仕上げについてご紹介します。

 

熟成に欠かせない「加塩」は、チーズの個性づけの出発点

世界中の食卓に欠かせない存在とも言えるチーズは、およそ8000年という長い歴史の中で発展してきました。そして現在は1000を超える種類が製造され、愛されています。見た目だけでなく、味わいや風味もそれぞれ異なるチーズですが、原材料を見てみると、どれも「乳」と「塩」だけで作られていることが分かります。

 

また、チーズの製造工程も基本的には同じです。原料乳を乳酸発酵したものに凝乳酵素を加え、乳たんぱく質に含まれるカゼインという成分を固形化させます。そこからさらに余分な水分を取り除いてから型に詰め、濃い塩水に漬けて加塩し、熟成庫で寝かせたらチーズの完成となります。

 

それぞれの工程における微妙な差が、全く違う個性を持つチーズを生み出しますが、これからお話しする「型詰め」と「加塩」が熟成前の最終工程です。加塩は中でも、チーズの個性を決める熟成にとって欠かせません。より美味しいチーズを作るために、私達人間が長い歴史をかけて行ってきた、繊細な工夫について見ていきましょう。

 

様々な形はチーズの個性!刻んだカードを型詰めし、グリーンカードを作る

凝乳酵素によって固めたたんぱく質の塊をカードと呼びます。余分な水分であるホエー(乳清)を取り除く際に、細かいサイコロ状に刻んだカードの粒を型に詰めておくと、粒同士がくっつき合い、また一つの大きな塊となります。これを「グリーンカード」と呼び、最後の段階である熟成に入る準備が整った状態となります。

 

形や大きさなど、どんな型に詰めるかによって、そのチーズを象徴する個性を演出できるため、各生産者は様々な工夫を凝らしています。

 

例えばイタリアのハードチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノを成型する型には、側面のベルト部分にロゴが刻印されています。成型中、更に水分が抜けるのに合わせてベルトを締めると、チーズ本体に名称が刻印される仕組みです。

パルミジャーノ・レッジャーノ

 

本物のパルミジャーノ・レッジャーノを名乗るためには、この刻印と検査に合格したことを示す、パルミジャーノ・レッジャーノ協会の焼印が必要となりますが、このシステムが、チーズの王様とも称されるパルミジャーノ・レッジャーノのブランド価値を高めていると言えるでしょう。

 

他にも特徴的な型で成型を行うチーズづくりは各地域で見られます。フランスの白カビチーズ、ヌーシャテルはハート形、また同じくフランスのバラカは馬蹄形が特徴的です。なお、一般的には円柱形に成型されるチーズが多くなっています。

ヌーシャテルバラカ

 

また、ゴーダチーズと並び、オランダを代表するチーズの一つであるエダムチーズのうち輸出用のものは、表面に赤のパラフィンワックスがかけられています。これは、表面から水分が蒸発するのを防ぐのが目的でしたが、日本では「赤玉」と呼ばれるなど、エダムチーズの個性として浸透させる役割も担いました。

エダムチーズ

 

またエダムチーズには、ワックスだけでなく、透明のフィルムで真空包装されているものもありますが、これも熟成中のチーズを乾燥やカビなどから守り、美味しくいただくための工夫だと言えます。

 

これは、伝統的なチーズの製法とは少し異なっています。一般的には、成型して型からはずしたグリーンカードには、包装もワックスがけも行いません。このようなチーズを「リンドタイプ」と呼びます。リンドとはチーズの表皮を指す言葉で、反対に、フィルムやワックスで表面を覆って熟成させたチーズは、表皮がない「リンドレスタイプ」になります。

 

伝統的なリンドタイプチーズの製法は、非常に手間のかかる作業です。熟成庫に入れた後は毎日、上下を反転させ、チーズの表面にカビなどが付着しないように一つ一つ拭き取る必要があります。

 

チーズの種類によっては、反転作業がオートメーション化されているものもありますが、美味しいチーズを作るためには日々の努力の積み重ねが重要だと言えます。

 

チーズづくりの最終ステップ「加塩」こそチーズの旨味の決め手となる

チーズづくりで塩を加える理由は4つある

熟成直前のチーズの元であるグリーンカードに食塩を加える「加塩」が、チーズづくりの最終段階です。皆さんは、ここでなぜ食塩を加えるのかご存知ですか?チーズの味を思い出してみると、塩味をつけるための工程だと考えがちですが、実はこの「加塩」には、単なる味付け以上に重要な役割があります。

 

チーズに塩を加える理由その①:グリーンカード表面の殺菌

チーズの熟成は、種類にもよりますが長期間にわたって行われます。その間、雑菌が繁殖するのをなるべく防ぐために食塩が利用されています。加塩すると、グリーンカード表面の塩分濃度が非常に上がるため、塩の浸透圧で菌が脱水されて死滅したり、繁殖が抑えられるなど、塩分に弱い菌を減少させることができるのです。

 

チーズに塩を加える理由その②:内部に残るホエー(乳清)をさらに取り除く

原料乳に凝乳酵素を加えて出来たカードを細かく裁断し、種類によってはゆっくり加熱しながら撹拌(かくはん)することで、余分な水分はすでに排除してあります。しかしながら、グリーンカード内部にはまだ多少のホエーが残っており、チーズの美味しさを引き出す熟成の妨げになる恐れがあります。

 

そこで、塩の持つ浸透圧を利用して、さらにホエーを排除していきます。浸透圧とは、細胞などの膜を隔てて濃度の違う2つの水溶液が並んでいる場合、同じ濃度になろうとして水が移動する性質のことです。浸透圧が高いのは濃い水溶液の方ですので、塩分を加えたカードの場合は、カード内部の水分が、塩分濃度の高い表面に出てこようとします。

 

余分な水分が抜け、表面にまぶした塩分が浸透していくのは、漬け物をつけるメカニズムと同じです。こうやって、グリーンカードの成分比率は熟成に適したものとなり、チーズの仕上がりが格段に良くなるのです。

 

チーズに塩を加える理由その③:乳酸菌・カビの生育を抑える

チーズとは、熟成中に乳酸菌などの働きで内部のたんぱく質を分解し、風味を豊かにした加工食品です。また、その種類によっては、人工的に表面にカビ菌を増殖させることにより、さらに内部の熟成を進める製法を採用しているものもあります。

 

とは言え、熟成が進みすぎると独特の風味が強くなってしまいます。特にブルーチーズは特有のピリッとした刺激が出過ぎないように、製造段階で熟成のスピードを抑える工夫が必要です。ブルーチーズの塩分濃度は、他のチーズが1〜2%なのと比べ、4%前後と高くなっているのは、製造、流通を経て食卓にのぼるまでに食べ頃を逃してしまうのを防ぐためです。

 

反対に、白カビタイプのチーズは若いうちは、チーズの真ん中に芯が残った状態ですが、食べ頃なのはより熟成が進んで内部が柔らかくとろけたタイミングです。したがって、白カビタイプの場合は、熟成をより進めるために控えめに加塩しています。

 

健康志向の現代では、チーズの塩分についても敏感な消費者が増えているので、チーズの熟成と、健康のための減塩とのバランスに、より注意を払う必要があるでしょう。

 

チーズに塩を加える理由その④:旨味のもとであるグルタミン酸ナトリウムを増やす

チーズを熟成させるということは、カードに含まれる乳たんぱく質の主成分カゼインが、乳酸菌やカビ菌によって分解されていくということです。カゼインは分解されると単体のアミノ酸になりますが、その中で最も多いのはグルタミン酸という旨味成分で知られるアミノ酸です。

 

グルタミン酸は、昆布だしに含まれることで知られており、鰹だしのイノシン酸、干し椎茸のグアニル酸と並び「三大旨味成分」と呼ばれています。ところがグルタミン酸だけを取り出して味わうと、実は酸味が強く、だしの旨味とはほど遠い味がします。

 

グルタミン酸は単体ではなく、ナトリウムイオンと結合して初めて旨味が出ます。つまり、チーズ内部のたんぱく質を分解してできた「アミノ酸」と「ナトリウムイオン」が結びつき、「グルタミン酸ナトリウム」になることで旨味成分となるのです。チーズ内部に塩分を加える理由は、塩味のためではなく旨味のためなのです。

 

なお、チーズに塩を加える理由4つのうち、①〜③は砂糖(ショ糖)でも代用が利くのですが、旨味成分グルタミン酸ナトリウムの生成だけは、塩でなければ不可能です。ですので、チーズづくりには加塩が欠かせないのです。

 

チーズの種類によって加塩の方法は異なる

それでは、グリーンカードへの加塩がどのように行われているのかを見てみましょう。加塩は、熟成を行うチーズにだけ行われています。これは、先ほど述べた通り、熟成して旨味成分を引き出すための作業だという理由があります。したがって、熟成せずにいただくモッツァレラなどのフレッシュチーズづくりでは、加塩は行いません。

モッツァレラチーズ

 

製造するチーズの種類によって最適な方法で加塩を行いますが、大きく分けるとその手法は3つあります。

 

1つ目は「乾塩法」と呼ばれる方法で、カードを細かく裁断したところに、乾燥した顆粒状の塩を振りかけます。主にチェダーチーズの製造で用いられる方法で、カードを積み重ね、何度も反転したあとにサイコロ状に切ったところで行われます。

チェダーチーズ

 

2つ目は「湿塩法」といい、型からはずしたカードを濃い食塩水に浸ける方法で、ゴーダチーズやパルミジャーノ・レッジャーノなどで用いられています。5〜8時間の間、型に入れて圧搾したカードを型からはずし、濃度20%の飽和食塩水に浸します。そして水温を15℃に保ったまま3日〜5日浸け置きます。

ゴーダチーズパルミジャーノ・レッジャーノ

 

ただし、カードの大きさによってはもっと長い期間にわたり浸け置く必要があります。例えば、パルミジャーノ・レッジャーノのカードは重さ40㎏もの大きな塊もあり、その場合は浸け置き期間が1ヶ月に及ぶ場合もあります。

 

3つ目の方法は、ブルーチーズ製造で用いられる方法です。圧搾のあと型からはずしたカードの表面に、水分を加えドロドロの状態にした塩を刷りこみます。製品の塩分濃度は約4%となり、非常に多くの塩を加えるのですが、3分の1量ずつ、3日間に分けて塗布していきます。

 

この「加塩」が、チーズ製造の最後のステップです。後は熟成して美味しくなるのを待つだけで、私達人間にできることはありません。ここで加えた塩分と乳酸菌、カビ菌の働きに期待しておきましょう。

 

カビを使うと、チーズはより熟成が進んで美味しくなる

およそ8000年にわたるチーズづくりの歴史の中で、より美味しく、より個性的な風味のチーズを求めた人々の飽くなき努力や工夫の結果、現在は1000種類を超えるチーズが生み出されています。チーズの個性を決めるのは、たんぱく質を取り出してからの工程にかかっていますが、中でもどうやって熟成させるかが肝心です。

 

シンプルな熟成型のチーズでは、乳酸菌のみを使ってたんぱく質を分解していきますが、カビ菌や酵母をグリーンカードに添加してから熟成を行うタイプのチーズもあります。原料乳に最初に加えたスターターである乳酸菌と、後から接種したこれらの菌類の相乗効果によって、より熟成を進め、複雑な味わいのあるチーズに仕上げるための工夫です。

 

乳酸菌だけを使ってチーズづくりを行う場合は、熟成させすぎないように注意が必要だと言われています。それは、乳酸発酵が進みすぎるとpH値が低下してしまい、その結果乳酸菌が死滅してしまう危険性があるからですが、これを防ぐためにもカビ菌の接種が有効となります。

 

乳酸菌とカビ菌が共存した環境下だと、カビ菌が乳酸菌を食べてくれるため、乳酸菌の数が減少します。すると乳酸菌が再度増殖できるようになるため、たんぱく質の分解は更に進みます。それにより、チーズ全体の熟成が進み、旨味が強くなるという仕組みです。

 

チーズづくりに使用するカビ菌は、何でもいいというわけではありません。白カビと青カビに限定されており、それ以外の黒カビや赤いカビなどは使われていません。白カビ・青カビの中でも、使われる菌種はそれぞれ次に挙げるものが一般的となっています。

 

ペニシリウム・カマンベルティー(白カビ)

白カビチーズ製造においてカビを加えるタイミングは、殺菌して冷やした原料乳の段階で加える場合と、加塩まで終了したグリーンカードの表面にミスト状に吹き付ける場合とがあります。

 

どちらの場合も白カビはチーズの表面で増殖し、プロテアーゼというたんぱく質分解酵素を分泌します。この酵素がチーズの熟成を早め、チーズ内部をトロトロに柔らかくしますが、同時に白カビ独特の匂いを生み出します。これはしばしば、マッシュルームのトップフレーバーにも例えられる特徴的な香りです。

 

ペニシリウム・ロックフォルティー(青カビ)

青カビチーズを作る際、カビ菌を加える方法は白カビチーズとは異なり、チーズの表面ではなく内部に植え付けて増殖させます。青カビから分泌されるのは、リパーゼと呼ばれる脂肪分解酵素です。

 

リパーゼの脂肪分解能力は強く、分解により揮発性遊離脂肪酸やメチルケトンという成分が作られますが、これらがツンとくる匂いなど、青カビチーズに特有の風味の元となっています。なお、たんぱく質を分解する能力は白カビチーズと比べると小さいため、青カビチーズの組織は柔らかくなりません。

 

カビ菌の増殖には酸素が不可欠です。また青カビは、カードの内部にある隙間で増殖するため、カードから水分を取り除く際には、スキマがちょうど良い具合になるように工夫が必要です。

 

また、酸素が不足するとカビが増殖しないので、空気を供給するために熟成中の青カビチーズの表面に針を無数に刺し、直径およそ3mmから5mmの穴を開ける場合があります。

 

出来上がった青カビチーズをよく見てみると、青カビは針で開けた穴に沿って一直線を描いて生えているのがわかります。青カビチーズを召し上がる機会がありましたら、ぜひ線状に生えた美しいカビの模様にも注目していただきたいものです。

 

乳酸菌だけを使って熟成するチーズと、カビ菌を加えて熟成するチーズとを比較してみると、カビを使ったチーズの方が早く熟成が進みます。食べ頃を迎えるまでの熟成は、青カビチーズがハードタイプの2〜3倍、白カビチーズでは実に4〜6倍の早さで完了しますが、これはカビの持つ酵素が乳酸菌の持つ酵素よりはるかに強力なためです。

 

この他にも伝統的に利用されているカビ菌で有名なものとしては、ジオトリカム・カンディダムという白カビがあります。これは、粉を吹いたような白カビタイプのチーズの他、ウォッシュタイプやヤギ乳のシェーブル製造で利用されるものですが、チーズ表面の乳酸菌を食べることで、内部の熟成に必要な細菌の生育を助けます。

 

また、チーズの熟成のために利用されているのはカビ菌だけではありません。一部の白カビチーズやウォッシュタイプのチーズづくりには、酵母菌が使われています。酵母の役割は主に、チーズの熟成を行う好気性の細菌類の働きを高める環境づくりで、乳糖を分解してエタノールや二酸化炭素を作り出したり、チーズ表面の乳酸と反応してpH値を下げます。

 

このように、カビ菌や酵母菌を使ってチーズの熟成を促進する製法はチーズ製造の現場に定着していますが、熟成が早く進むため、より繊細な管理が必要とされます。これらの菌を上手く組み合わせ、使いこなすことができれば、チーズの世界はもっと広がっていくでしょう。

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