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子供の貧困対策の主役は、官・民・学・NPOそしてあなた

子供の貧困対策で救われた子供

日本の子供の約6人に1人が貧困状態にあり、しかもその貧困は世代を超えて連鎖しています。子供の貧困問題対策は、大きな経済効果も見込まれることがようやく認知され、政府も対策に本腰を入れてきました。国や地方自治体、NPOなど、それぞれの立場で役割を果たし、総合力で子供の貧困と戦いはじめた我が国の取組みを見ていきましょう。

 

政府主導の子供の貧困対策が広がりを見せている

わが国の子供の貧困は、年々深刻さを増していますが、政府はもちろんこの問題に対し、手をこまねいて眺めているわけではありません。

 

国内の法律としては初めて名前に「貧困」という言葉が盛り込まれた「子どもの貧困対策の推進に関する法律(子供の貧困対策法)」が、2013年6月に成立し、翌2014年1月に施行されました。

 

この法律は、生まれ育った環境によって子供の将来が左右されることのないよう、子供の教育の機会均等を図り、健全な生育環境を整えるなどの貧困対策に国が責務を負うもので、親から子へ貧困が引き継がれてしまう「貧困の連鎖」を断ち切ることが究極の目標です。

 

そして、子供の貧困対策法に基づき貧困対策を総合的に進めるため、政府は2014年8月に「子供の貧困対策に関する大綱」を制定しました。大綱では、子供を第一に考えた途切れることのない施策を、貧困の実態を踏まえて策定することなど10項目の基本的な方針を定めています。

 

また、子供の貧困に関する指標として、進学率など教育の機会均等に関わる項目と、ひとり親家庭の就業率など健やかな成育環境に関わる項目合わせて25の指標と、その数値の改善を目指したおよそ40項目の重点施策を定めました。

 

なお重点施策はそれぞれ、「教育支援」、「生活支援」、「保護者の就労支援」そして「経済的支援」の4領域に分類されています。

 

教育支援の中でも象徴的な施策として推進されるのが、スクールソーシャルワーカーの学校現場への配置です。大綱では、学校をプラットフォームとした総合的な子供の貧困対策を進めることが提唱されています。

 

スクールソーシャルワーカーは、教育ではなく福祉の専門家です。悩んでいる子供や保護者の話を聞いて状況を整理し、問題の解決に役立つ福祉の制度を一緒に考え、学校と専門機関を繋ぐ役割を担っています。

 

これまでは、教育の専門家である教員がそういった学習面以外の問題についても対応してきたものの、福祉の制度に精通した専門家が学校の現場に入ることにより、課題解決への道筋がよりはっきりと見えてきました。

 

例えば、ある学校にネグレクト(育児放棄)の疑いがある子供がいたとします。忘れ物が増え、給食費の支払が滞り、子供がサイズの合わない上履きをずっと履いていることなどに気づいた教員は、スクールソーシャルワーカーに相談します。

 

それを受け、スクールソーシャルワーカーは子供と親それぞれとじっくり面談を行い、本音を引き出しつつ原因を探っていきます。原因が経済的な困窮であれば生活保護を受けるようすすめ、また親の健康上の問題で子供と関われないのであれば、ヘルパー制度を利用して家事を分担してもらうことなどを提案するわけです。

 

多面的な要素を持つ子供の貧困問題解消に向け、40項目の重点政策は教育にとどまらず、子供の生活面や親に対するものなど幅広いものとなっていますが、検討会の段階で提言がなされた数値目標を盛り込まなかったために、一部専門家などから批判を受ける内容でした。

 

政府は約3年後の2017年5月に25項目だった指標を見直し、8項目を加えた33項目としました。具体的には、相談相手が欲しいひとり親の割合など子供の成育環境に関わる6項目、全世帯の高校中退率など教育の機会均等に関わる2項目が追加されました。

 

より体系化されたこれらの指標で貧困対策の進み具合をチェックし、2019年の大綱見直しの際に盛り込むことにしています。

 

具体的な子供の貧困対策についても、官邸主導でスピード感をもって進められています。2015年12月の第4回子どもの貧困対策会議では、「すくすくサポートプロジェクト」と称する、ひとり親家庭などの自立を支援する政策パッケージが策定・発表されました。

 

ひとり親家庭の孤立化を防ぐために様々な相談を1カ所で行える自治体窓口を整備したほか、ひとり親家庭の子供50万人分の居場所を確保して生活習慣・学習支援・食事提供を行っています。

 

さらに児童扶養手当を増額しました。具体的には、これまで長年第二子5000円、第三子以降3000円で固定されてきた多子加算額を倍増しましたが、これは第二子では36年ぶり、第三子以降では22年ぶりの引き上げとなり、思い切った施策として注目を集めました。

 

また学校現場へのスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーの更なる配置推進も盛り込まれました。

 

ちなみに、スクールカウンセラーはスクールソーシャルワーカーと同じく、学校現場で問題を抱える子供や親の話を聞く仕事ですが、精神的な問題の解決にかかわっていく立場です。スクールソーシャルワーカーは、福祉の制度利用を提案するなどして問題解決に寄与していきます。

 

「子供の未来応援国民運動」は、国をあげた子供の貧困対策の一大プロジェクト

2015年4月に、政府主導で発足した「子供の未来応援国民運動」は、官公民が連携したプロジェクトです。前年に閣議決定された「子供の貧困対策に関する大綱」に基づいてスタートしたもので、子供の貧困対策は国民を広く巻き込んで進めていかなければならない、という考えが基になっています。

 

貧困の連鎖によって子供達の将来が閉ざされることがないよう、国民の力を結集し、全ての子供達が夢と希望を持って成長していける社会の実現が運動の目的とされ、発起人には安倍首相を始めとする中央・地方政界だけではなく、財界、マスコミそして貧困家庭の子供の支援にあたってきたNPOの代表者たちが名を連ねています。

 

子供の未来応援国民運動では、国民への啓発・広報活動を行うことで運動を盛り上げ、企業の協賛を広く集めようと考えています。シンボルマークを制定し、ポータルサイト(www.kodomohinkon.go.jp)を開設するなど、活動の全体像が国民からも分かりやすくなっています。

 

活動の柱の1つは、支援活動と支援ニーズとのマッチング事業です。地域における様々なニーズと、現在企業や団体が行っている支援の縁結びを行います。ポータルサイトで検索できるようになっており、徐々にメニューが充実してきています。

 

広く集めた寄付金は「子供の未来応援基金」として、独立行政法人福祉医療機構が運営しています(2017年10月までは日本財団が運営)。寄付金集めが課題と言われていましたが、2016年9月の時点で残高は約6億円まで増えています。

 

この基金をもとに、地域に根ざした貧困家庭の子供達の支援を行うNPO団体などに助成を行う「未来応援ネットワーク事業」と、地域に子供達の居場所となる拠点をつくり、自己肯定感など子供の「生きる力」を育むプログラムを提供する「子供の生きる力を育むモデル拠点事業」の2つを実施しています。

 

未来応援ネットワーク事業の第一回公募は2016年6月末から行われ、世間の関心の高さを反映し、535件もの申請がありました。審査の結果、86団体が採択され、支援総額は約3億1500万円となっています。

 

地方自治体の子供の貧困対策も前進

子供の貧困対策法とそれを受けた大綱の制定は、政府が旗ふり役となったことでスピード感を持って進んできました。ですが、子供の貧困対策を実行に移すのはあくまで地方自治体です。各都道府県は、子供の貧困対策を策定・実施する責務があると対策法第四条にも明記されています。

 

子供の貧困対策計画の策定は努力義務となっていますが、2015年度第二次補正予算で24億円を計上し「地域子供の未来応援交付金」を創設することによって、各都道府県の取組み拡大を後押ししています。

 

その結果2017年4月時点で、14の都道府県と9の政令指定都市を含む65の市区町村が、交付金を活用した子供の貧困対策を実施しています。

 

子供の貧困率1位、沖縄県の先進的取組み

山形大学人文学部の戸室健作准教授が発表した子供の貧困率を都道府県別に比較したデータによると、貧困率ダントツ1位は沖縄県です。貧困率の全国平均が13.8%、第2位の大阪府が21.8%のところ、沖縄県の子供の貧困率は37.5%と突出しています。

都道府県別の子供の貧困率(2012年)

 

そのため、沖縄県では子供の貧困問題を深刻に捉えており、積極的な対応を行っています。まず、県内の貧困家庭の子供の生活実態について、様々な調査を行い把握しました。その上で2016年4月に発表したのが「沖縄県子どもの貧困対策計画」です。

 

発表された計画には、統計データで把握しやすい生活保護や就学援助の受給率にとどまらず、食生活や健康状況、子供の通塾率や公共料金の支払状況など、貧困家庭の詳細な実態が盛り込まれています。

 

貧困対策を立案するに当たっては、当事者が本当に困っており、必要としていることに対して援助を行うことが重要です。その意味で沖縄県の取組みは他の都道府県も参考にできる点が多いでしょう。

 

沖縄県はまた、2016年に30億円を投じて「沖縄県子どもの貧困対策推進基金」を創設しました。2017年度は、妊娠期から子育て期まで切れ目ない支援を行う「包括支援センター」の設置促進や、支援メニューの広報活動の他、教育現場と福祉との連携強化のための各施策、そして市町村の事業への補助を行うことにしています。

 

子供の貧困対策における市区町村の取組み、注目株は足立区

子供の貧困問題解決に向け、市区町村も動き出しています。161の自治体首長が参加する「子どもの未来を応援する主張連合」が、2016年6月に発足しました。

 

それぞれの自治体が現場で得たノウハウや知識を共有するほか、国への政策提言も行っていくとしています。きめ細かい対応が求められる子供の貧困対策に、市区町村が積極的な姿勢を見せていることは、問題解決にとって追い風となるでしょう。

 

このように市区町村の動きが加速していますが、中でも注目度が高い足立区(東京都)の取組みをご紹介します。

 

足立区は、東京都の中でも特に子供の貧困問題が深刻な地域です。区内の18歳未満の子供の人口は2000年以降横ばいであるにも関わらず、2016年時点の18歳未満生活保護受給者数は2000年の1.2倍を超えており、貧困層が増加していることが分かります。

 

2015年時点での区の就学援助率も34.2%と非常に高く、都や国の平均を大きく上回っています。2014年時点のデータでは、小・中学校を合わせた就学援助率の平均が国の平均の2.3倍にもなるなど、速やかな対策が求められる状況となっています。

 

そんな中、2014年1月に子どもの貧困対策法が制定されたことを受け、区では同年8月に対策本部を設置しました。2015年が「子供の貧困対策元年」という位置づけのもと、スピード感をもって全庁的な取組みを進めてきました。

 

そして2015年に、子供の貧困対策実施計画である「未来へつなぐあだちプロジェクト」を立ち上げました。「教育・学び」「健康・生活」そして「推進体制の構築」の施策の三本柱を、全庁体制で進めていくとされています。

 

その中には様々な具体的施策がありますが、特に他自治体に先駆けて構築した仕組みとしてASMAPがあります。ASMAPは「あだち スマイル ママ&エンジェル プロジェクト」の略で、これにより妊産婦支援の充実が図られています。

 

区役所に提出した妊娠届の内容や、妊婦面談を受けた人の中から支援が必要な人を抽出し、母子保健コーディネーターなどが個別のケアプランを作成します。妊娠期から子育て期までの切れ目のない支援を行うことが目的で、これは海外の研究事例から明らかになった「子供の貧困問題の解決は早期介入・早期支援が肝要」という考えに基づいています。

 

「未来へつなぐあだちプロジェクト」2本目の柱でもある「健康」と子供の貧困との相関関係の調査にも本腰を入れています。2015年より「子どもの健康・生活実態調査」をスタートし、貧困家庭の子供の生活実態を分析しています。

 

この調査においては、経済的な切り口である「世帯年収300万未満」の他、子供が宿題をする場所が自宅にない、子供用のおもちゃや本がない、またいざという時に使える当座のお金(5万円程度の蓄え)がないなど「生活必需品を持っていない家庭」、「光熱水道費の滞納履歴がある家庭」といった条件に1つでも当てはまれば貧困家庭と定義し、その家庭で暮らす子供を調査対象としました。

 

2016年度の第2回調査結果を分析すると、子供の健康や暮らしぶりと貧困との相関関係が確認できました。

 

まず、生活習慣は年齢が上がるとともに徐々に乱れていく傾向があり、貧困家庭の子供にはその傾向が顕著であるということです。例えば起床時間が7時以降にずれこんでいると答えた子供の割合は、全ての学年において、貧困家庭の子供が非貧困家庭の子供を10ポイント以上上回っています。

 

朝食についても同様で、朝食を食べずに登校することがある貧困家庭の子供の割合は、小2で12.8%ありますが、中2になると29.2%まで増加しています。非貧困家庭の子供では小2で4.8%、中2で12.0%ですので、大きな差があると言えます。

 

次に、子供の「逆境を乗り越える力」はお祭りや子供会、児童館の行事などの地域活動に参加し、地域との関わりを持つことで伸ばしていける可能性があるということです。

 

同じ貧困家庭の子供であっても、地域活動に参加していると、この「逆境を乗り越える力」を持つ子供の割合は大きくなります。また、地域活動に参加している子供であれば、貧困家庭・非貧困家庭いずれの子供でも、逆境を乗り越える力に大きな差は見られませんでした。

 

地域活動に参加することで、ロールモデルとなりうる親以外の大人との関わりを得られ、その結果こころの発達を促すことが期待できるという結果となりました。

 

また、地域活動への参加により、「虫歯」「朝食欠食」など生活習慣の乱れから起こる健康への影響も緩和されることも調査結果から読み取れます。

 

最後に、自宅や学校以外に第3の居場所(運動部、学童クラブ、祖父母の家など)を持つ子供は幸福度や自己評価が高いということです。これは子供が直接回答したデータをもとに、子供の主観的な幸福度と貧困との関連性を明らかにしたもので、非常に画期的な分析です。

 

10点満点で表した幸福度の平均点を見てみると、小4の貧困家庭の子供は7.6点、非貧困家庭の子供の平均は8.4点でした。

 

また自己評価・自己肯定感の項目でも、項目全てに2以下の評価をつけた、自己評価の低い子供の割合に差がありました。こちらは中2になると差が拡大し、非貧困家庭の子供では8.8%だったのに対し、貧困家庭の子供では9.6%もの子供の自己評価が低いとされました。

 

この結果から、貧困家庭の子供には社会参加の機会充実と、第3の居場所を提供することが生活習慣を身につけるのに役立ち、貧困問題の解決に役立つ取組みであると結論づけています。

 

十分な実態調査に裏打ちされた貧困対策の立案と実行という足立区の取組みは、他の市区町村のモデルケースとして、大いに参考になるでしょう。

 

NPOは子供の貧困対策現場で活躍している

子供の貧困対策を行う上で忘れてはならないのが、NPO等非営利団体です。子供の貧困対策に関して、法律などの枠組みを作るのが国や自治体だとすれば、実際に施策を行うのは委託を受けたNPO等の非営利団体であることがほとんどです。これにより貧困の当事者の近くで、個々の細かいニーズに合わせて対応することが可能となっています。

 

ここでは、各自治体がNPOなどに委託して行っている事業のうち、主要な2つについてご紹介します。

 

1つ目は、学習支援事業です。貧困家庭に生まれた子供は教育機会にも恵まれず、そのことが学歴の差を生み、将来の所得格差をもたらしてしまうという貧困の連鎖を食い止めるために有効であると考えられており、多くの自治体が前向きに取り組んでいます。

 

ただ単に勉強を教えれば終わりではなく、子供の居場所づくりや日常生活の支援、さらには親に対する支援などを通じて、子供の将来の自立に向けた包括的な支援を目指しています。

 

NPO法人Learning for Allは、東京の下町である葛飾区・墨田区のほか大阪市、奈良市を中心に、経済的な理由などで学習に困難を抱える子供を対象に、無料の学習支援を行っています。

 

全国各地の自治体で、多くの団体が無料学習塾を展開していますが、Learning for Allは指導にあたるボランティアに50時間の研修を義務づけているところが特徴です。模擬授業を行ったり指導テキストを整備したりすることで、授業のレベルアップを図っています。

 

また、無料学習塾に集まる子供達には、学習面以外にも多くの課題があります。自己評価が低かったり、周りとのコミュニケーションがうまく行かないなど、内面の問題と向き合うことも求められます。そこで、指導ボランティア2〜3名につき1名のメンターがつき、指導内容だけではなく、問題を抱えた子供への関わり方にもアドバイスを行います。

 

その結果、Learning for Allは受講生やその親から高い評価を得ており、これまでの受講者数は3000人を超えています。また、他自治体からの引く手もあまたとなっています。

 

子供の貧困対策としての学習支援事業が広がる中、2016年5月には、教育支援分野の団体が集まり「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」が設立されました。

 

教育支援活動について、①実施する自治体の拡大、②人材確保と育成、③文化教育、体験学習、プログラミングなど活動内容の多様化、④受け入れる地域社会の支援基盤強化の4点を提言として掲げました。

 

日本各地の団体をネットワーク化し、情報交換はもとより政策提言を共同で行う等発信力の強化をすることで、さらに学習支援が根付いていくことを期待したいものです。

 

2つ目にご紹介するのは「子ども食堂」事業です。子ども食堂とは、民間発の事業で、地域のボランティアが週1回〜月1回の頻度で、主に貧困家庭の子供と親、また孤食の子供に温かい食事を提供するサービスのことです。食事は、無料もしくは安い価格でいただけるようになっています。

 

一番有名なのは「要町あさやけ子ども食堂」でしょう。NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークが運営しています。毎月第一、第三水曜日の17:30〜19:00にオープンしており、参加費として子供100円、付添いの大人は300円を払うと、栄養バランスのよい夕食を食べられます。

 

店主は山田和夫さん、通称「山田じいじ」で、食堂として使用する民家を無償で提供しています。また、食材の提供や調理も大勢のボランティアによって成り立っています。オープン3周年を迎えた2016年3月時点では毎回70食分が用意されるなど、いつも大勢の子供や保護者で賑わっています。

 

子ども食堂事業も増加の一途をたどっており、「こども食堂ネットワーク」という団体が組織され、子ども食堂の運営団体が情報交換をし、交流する場となっています。

 

同団体によれば、現在子ども食堂の数は400〜500あり、その9割は市民が自発的に運営しています。横のつながりを持つという意味でも、こうしたネットワークの果たす役割はさらに大きくなるでしょう。

 

豊島子どもWAKUWAKUネットワークは、学習支援や子ども食堂の他にも、プレーパークの運営など遊びでの支援も行っており、また、これと同様の支援活動が全国に広がっています。遊び・学び・居場所づくりを包括的に支えることで、孤立しがちな貧困家庭の子供と地域との結びつきを強めることが期待されます。

 

官・民・学・NPO連携で広がる子供の貧困解決の可能性

子供の貧困は、様々な要因が絡み合う複合的な問題です。政府や自治体、さらにNPOの取組みは本格化してきましたが、それぞれの動きがどう連携するかが、深刻化する子供の貧困問題解決には重要です。

 

子供の貧困対策に関わる人と資源を連携させ、問題解決力を最大限にするために、日本財団とベネッセホールディングスが2016年にスタートさせた「子どもの貧困対策プロジェクト」をご紹介します。

 

子どもの貧困対策プロジェクトでは、子供の貧困対策にどんな施策が効果を持つか、子供の貧困問題に関わる各界のトップランナーが参加して実証実験を行い、特定していきます。

 

日本初の長期支援事業「子どもの家事業」スタート

子どもの貧困対策プロジェクトでは、「子どもの家事業」をモデル事業としています。これは、「家でも学校でもない第三の居場所」を全国に100カ所つくり、そこを拠点に子供達の将来の自立に繋げていくという事業です。対象は主に就学前の幼児から小学校低学年の子供で、第一号拠点は2016年11月、埼玉県戸田市に開所しました。

 

平日の放課後、小学校低学年の子供およそ20人を受け入れ、子供達は最大夜9時まで過ごすことができます。宿題の見守りなど学習面のほか、読書や整理整頓の習慣づけ、温かい夕食やシャワー、衣類の洗濯など生活リズムを身につけることを目指します。

 

学習や生活習慣を身につけるだけではありません。年齢に合った遊具やおもちゃを使い、支援員と存分に遊ぶことも、ここに集う子供達にとっては必要な時間です。

 

第一号拠点の運営にあたるのは、学習支援の実績があるLearning for Allが行い、施設で働くのは保育士や放課後児童指導員の資格を持つスタッフです。日本財団は50億円の資金提供と事業設計を、ベネッセはこれまでの事業で蓄積したノウハウを生かしたコンテンツ提供などを担当しています。

 

また、事業で得られたデータをもとに効果検証を行い、有効な貧困対策を明らかにすることがこのプロジェクトの最終目的です。慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子准教授が分析・検証を担当していますが、今後はさらに人員を広げて、多面的な検証と有効施策の特定を目指していきます。

 

貧困家庭の子供にいま足りないのは、家でも学校でもない「第三の居場所」

子供の貧困対策の有効性を検証するための今回のプロジェクトで、なぜ「家でも学校でもない第三の居場所」づくりを行ったのでしょうか?

 

子供の貧困は、その家庭の収入が少ないという単なる経済的な問題ではありません。貧困家庭の親は周囲のコミュニティから孤立しがちで、その結果、問題を抱えている子供に支援の手が届かないなど、貧困家庭に生まれた子供も同様に孤立してしまうのが現状です。

 

何か悩みや問題があるときに本来頼るべきは親ですが、貧困家庭では親が家を空けがちで、子供と関わる時間が圧倒的に少なくなっています。では学校の先生がその代わりになりうるかというと、それも難しいことです。教師は担当するクラス全員を見なければならない上、教師という立場上、踏み込めない領域が多いからです。

 

数十年前の日本であれば、同居する祖父母などの親族や近所の大人との関わりがあったので、状況はまた違ったかもしれません。しかし核家族化が進み、コミュニティ意識が希薄な現代では、このような「子供が安心し、誰かと一緒にいられる第三の居場所」を作り、提供することが必要だと考えました。

 

安心できる居場所ができ、絶対的な信頼感を得られることが子供の自立への第一歩となるはずです。

 

子どもの家の機能①:自立に必要な力を身につける

子どもの家では大きく分けて3つの役割をもって、子供の貧困問題解決を図っていきます。

 

1つ目は、子供の自立に必要な力を親に代わって与える「社会的相続」です。学習で得られる知識ではない部分、例えば健全な生活リズムや周囲とのコミュニケーション能力などが、子供の自立には欠かせない要素だと考えられています。

 

子供が成長する中で親から受け継ぐべきこれらの要素が、貧困家庭の場合足りなかったり歪んだ形で伝えられたりしています。貧困の連鎖を終わらせるために、子どもの家では「社会的相続」を補う活動を行います。

 

普通の子供が赤ちゃん時代から段階を踏んで習得してきた基本的信頼や自律性、積極性や勤勉性などを、その子の発達段階に合わせて身につけさせていきます。具体的には「生活習慣を身につける」ことと「読書プログラムの提供」を行います。

 

子供が自立するために、生活習慣の習得がどう影響しているのかが分かるデータがあります。足立区が2016年に行った「子どもの健康・生活実態調査」の結果です。

子供の健康・生活における非生活困難世帯と生活困難世帯の比較

 

家庭の経済状況が、子供の生活習慣に大きな影響を与えていることが分かります。例えば虫歯の本数や朝ごはんを毎朝食べているか、といった項目で貧困家庭と非貧困家庭には差が目立ちます。

 

これは、親が規則正しい生活を送れていないことや、わが子が基本的な生活習慣を身につけられるようきちんと関わっていないことの現れでもあります。このままでは、正しい生活習慣とは何かを理解できないまま大人になってしまい、子供の貧困は繰り返されてしまうでしょう。

 

子どもの家で親の代わりに生活習慣形成のお手伝いをすることは、子供の将来の自立に不可欠な活動だと言えます。その過程で急激な生活の乱れに気づくなど、子供が抱える問題の早期発見にもつながると考えられています。

 

また、子どもの家では、食事の準備や整理整頓などを手伝わせることで、周りの仲間や大人との関わり方も学び、将来社会人となるための基礎固めにも繋げていく考えです。

 

もう1つの重点サービスは「読書プログラム」です。東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の共同調査「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」には、興味深いデータがあります。年収200万に満たない同じ貧困家庭であっても、読み聞かせの頻度が高ければ、勉強が好きな子供が増加するというものです。

入学前読み聞かせ頻度別「勉強が好き」な子どもの割合

 

貧困家庭の場合、親が多忙もしくは子供に積極的に関わらないといった理由で、読み聞かせに時間を割いていないことも多いでしょう。また、読み聞かせをしたくとも、子供向けの本が家にないといった状況も考えられます。子どもの家がその点を補完することにより、子供達の学習意欲向上に繋げる狙いがあります。

 

子どもの家では、ソーシャルリーディングという手法を使って読書活動を進めていきます。ソーシャルリーディングとは、何人かで同じ書籍を読んで、感想を話し合って共有するやり方で、最近ではSNSを通じて感想を分かち合ったり、場合によっては著者と直接やりとりをするなど大人の世界のソーシャルリーディングも盛んになっています。

 

読書習慣がない子供達にいきなり本を与えても、興味を持って読み進めることは困難です。そこで、読書を「楽しい経験」にして読書習慣をつけ、国語力アップをはかる「グリムスクール」のノウハウを活用します。

 

グリムスクールはベネッセが運営している読書の教室です。家で読んできた課題図書をもとに、ゲーム形式の様々な「作戦」に楽しんで取り組むことで国語力を鍛えるのですが、国語力は全ての教科の土台となるという考え方から、総合的な学力向上が期待できると考えられています。

 

家庭で十分に読み聞かせや読書ができない子供達も、子どもの家で読書体験を重ね、習慣づけられれば、学習意欲が高まり、学力の向上に繋がると考えています。

 

読書プログラムは、海外の先行研究事例でも盛り込まれていますし、ベネッセが経済産業省の委託を受け行った「進路選択に関する振り返り調査(2005年)」では、子供の頃親から読み聞かせをしてもらった人ほど高偏差値の大学に進学しているというデータもあります。

 

もちろん、子どもの家で提供するプログラムはこの2つだけではありません。自治体や地域の方々に協力を呼びかけ、様々な活動を提供する予定です。学習支援やスポーツの他にも、職業体験や農業体験など面白いプログラムを検討しています。

 

これまでの研究結果を参考に、子どもの家では、就学前から小学校低学年の子供を対象にすることでより高い効果を期待しています。

 

また今後の活動計画の組み立てにあたっては、大人のための「子どもの家」にならないよう留意していきます。サービスを与える側、つまり大人の独りよがりにならないように、子供のやりたいことを尊重していくことが重要であり、そうやって子供の自主性を育てていきたいと考えています。

 

子どもの家の機能②:拠点以外での活動も重要

子供のための「第三の居場所」を作ったからといって、子供の貧困問題はすぐ解決に向かう訳ではありません。こちら側が支援をしたいと考える子供達が皆集まってくれれば話は簡単ですが、必要とする人に必要とする支援ができない、という問題も浮上します。

 

こういった問題を解決するのに欠かせないのが、地域との連携です。子どもの家事業では、地域と連携することにより2つの活動をを行います。

 

1つは、「訪問支援」です。アウトリーチとも呼ばれますが、支援を必要としていても自ら相談機関や支援の拠点に出向くことが難しい人のところへ、支援者が直接出向くことを指します。

 

子どもの家という支援拠点の存在を知らない、また、子どもの家を利用していることを知られるのが怖い、といった理由が考えられますが、この場合、待っているのではなくこちらから働きかける必要があります。その地域にいる貧困家庭の子供をあぶり出し、個別アプローチを行うのですが、主な方法は家庭訪問となります。

 

家庭訪問の効果がよく分かる例を見てみましょう。埼玉県が始めた「アスポート事業」は、生活保護を受けている人の教育、仕事そして住宅を総合的に支援する取組みです。2010年度にスタートし、5年目以降は市に引き継がれています。

 

アスポートの支援員はまず、地域のケースワーカーから支援が必要な家庭、子供の情報をもらいます。アスポートから送付した案内に同意したすべての家庭を、50名を超える支援員が訪問し、子供や保護者の学習・生活面での悩みを聞きます。

 

その上で無料の学習教室の利用を勧めたところ、5割の子供が参加しました。進学することが、いかに子供の将来の可能性を広げるかを個別に伝えられた成果だと言えます。

 

学習教室は県内10カ所の特別養護老人ホーム内に設置し、県内外の大学生ボランティアが学習指導にあたりました。その結果、事業スタート前の2009年度は86.9%だった貧困家庭の子供の高校進学率が、アスポート事業5年目の2014年度には97.7%に伸長しました。

 

子どもの家事業が地域と連携して行うもう1つの活動は、専門家・専門機関と支援が必要な子供とを繋げる要となることで、ブリッジングとも呼ばれる活動です。

 

貧困家庭の悩みは複雑な要因が絡み合っています。それを解きほぐして対応するには、福祉や教育、医療から司法の分野まで様々なスペシャリストの力が必要となります。子どもの家では地域や自治体との連携を強化し、その場で対応することができない課題を抱えた子供を専門機関・専門家へつなぐことで、確実な支援を行う仕組みを構築しています。

 

この「ブリッジング活動」を1995年から行っている先駆者的存在が、大阪市西成区で活動している「あいりん子ども連絡会」です。行政、民間の枠を超えて、地域で子供に関わるあらゆる立場の人たちが関わり、子供のための情報交換や支援のためのネットワークづくりをしています。

 

まず孤立した人を見つけ、家庭訪問を通してどんな支援が必要かを明らかにします。それを地域別、時には個別の支援会議で検討して支援計画を作っていくのと同時に居場所づくり、また支援する側のスキルアップの機会の提供も行っています。

 

緊急的なニーズに対応する拠点としては「こどもの里」があります。1階は児童館、2階は食堂と図書館、そして3階はファミリーホームとなっていますが、親と喧嘩してしまった子供や、このままだと虐待してしまいそうだとSOSを送ってきた親から預かった子供なども緊急的に預かることができます。

 

必要とする人に適切な支援をきめ細かく行うという、地域に根ざした子供の貧困対策の理想とも言える姿として、大いに参考になるでしょう。

 

子どもの家の機能③:長期にわたる追跡調査で効果を見極める

子供の貧困対策は、その複雑な構造ゆえ、何が本当に効果的な施策なのかを特定できないまま現在に至っています。データの裏付けもない推論を基に様々な施策が試され、国費から大きな投資が行われています。わが国でも、海外で先行する研究のように、施策の有効性を科学的に検証した上で政策を立案していくことが求められています。

 

子どもの家事業の大きな目的の1つは、子供の貧困対策に効果があるのはどんな施策なのかを明らかにすることです。また、その場しのぎの貧困解消ではなく、世代をまたいだ貧困の連鎖をなくしていくことが究極の目的でもあります。

 

従って、子供達の追跡調査を長期間実施し、支援を受けた貧困家庭の子供が将来どんな大人になって、どんな人生を送るのかを確認することが非常に重要となります。

 

日本初となるであろう、この長期的な調査プロジェクトによって、もし施策と成果の因果関係が証明できれば、今後の国の貧困対策策定に大きな影響を与えることになり、有効な政策投資にも繋がるでしょう。

 

「ヘッドスタートプログラム」は、全米の低所得者層の3、4歳児と、その家族向けの就学援助プログラムです。学習面だけではなく、健康や栄養面での支援、そして親の教育など包括的な支援事業であり、連邦政府が行っている事業としては宇宙開発に次ぐ巨額の予算が投じられています。

 

このプログラムは、アメリカで行われた研究「ペリー就業前プロジェクト」で得られたデータが根拠となって構築されています。これと同様に、子どもの家事業で得られる検証データも、日本の子供の貧困解消のために、有効な政策立案と投資のきっかけを生み出す可能性を秘めていると言えます。

 

子どもの家事業は、2016年11月に第一号拠点が開設されたばかりです。子供の貧困にどんな施策が有効なのかを特定するまでには、まだまだ試行錯誤を繰り返すことになるでしょう。民間のノウハウなども活用し、きめ細やかな対応をすることで効果の見込める施策を見出していく必要があります。

 

しかし、一旦有効な施策を特定できたら、次は政府の出番となります。全国規模で一つの施策を実施するには、やはり政府がトップダウンで行うのがベストだと言えます。

 

そのためにも、子どもの家プロジェクトは官民連携の形を維持して進めていくべきでしょう。官民連携プロジェクトだからこそ行える政策提言もあるはずですし、将来的に他の社会的な課題解決にも応用できるからです。

 

子供の貧困対策は、放置していると将来大きな社会的損失が生まれるとされ、また、費用対効果が大いに見込める施策だと考えられています。今回のプロジェクトを通じて、政府が子供の貧困対策関連の予算をしっかり確保するべき科学的根拠を、提示できるのではと期待されています。

 

子供の貧困問題解決に向けて、私には何ができるだろう?

2015年4月にスタートした、官公民連携プロジェクトである「子供の未来応援国民運動」は、その名の通り国民すべてを巻き込んだムーブメントになることが期待されています。

 

子供の貧困問題は、今の自分と直接関係ないからといって無視してよいものではありません。貧困問題をそのまま放置することによって、将来わが国の財政収入や経済成長に大きな影響を及ぼすことが分かっています。そうなると、給与の減額や、税金や保険料負担額の増額など、私たち一人ひとりの財布事情をも圧迫します。

 

また、子供の貧困問題は、大きくて根が深い問題です。問題解決にあたっては、ヒト、モノ、カネ、情報の総合力で臨まなければなりません。専門分野の知識でも、物資の提供でも、自分なら何ができるかを、それぞれが考えて力を貸すべき問題です。

 

その中でも寄付は、(月並みですが)忙しい方でも気軽にできる協力ではないでしょうか。2011年に寄付税制改革が行われ、市民にとっては寄付がしやすく、またNPO法人などにとっては寄付金が集めやすくなりました。

 

所得税の税額控除制度が導入され、また住民税の適用下限額が引き下げられたことにより、より多くの人が寄付控除を受けられるようになりました。例えば年収300万円の夫婦2人暮らしの人が1万円を寄付したとしましょう。すると、所得税3,200円、住民税800円、合計4,000円もの税金が戻ってくる計算になります。

 

寄付控除には上限額が定められていますが、数ある団体の中から、興味のある活動をしている団体を見つけて寄付をしてみると、子供の貧困問題にも自分のお財布にも役立つのではないでしょうか。

 

また、クラウドファンディングという方法も最近広がりを見せています。クラウドファンディングという言葉は、「群衆」を意味するCrowdと「資金調達」を意味するFundingが合わさって出来ています。

 

「こんなものを作りたい」「こんな方法で世の中の問題を解決したい」という考えやプロジェクトを持っている人が、主にインターネットの専用サイトを通じて、世の中の人に訴えかけ、それに共感した人から資金を集めるやり方です。

 

現在、クラウドファンディングサイトは大手企業が運営するものや分野に特化したものなど、非常に数多く存在しています。例えば、Readyforは日本初のクラウドファンディングサイト(readyfor.jp)で、最大規模のサイトはCAMPFIRE(camp-fire.jp)です。それぞれキーワード検索が出来るので、「子供の貧困」と入力して、色々な団体や活動を見つけることができます。

 

もし空いた時間があれば、ボランティアとして活動してみるのも一案です。様々なジャンルのボランティア活動を検索できるサイトもインターネット上で簡単に見つけることができますが、現在アクセス数が最大なのはactivo(activo.jp)というサイトです。各自治体のNPOセンターや社会福祉協議会に問い合わせてもいいでしょう。

 

近年増加している学習支援のボランティアや子ども食堂での調理のボランティアなど、自分のできることを生かした活動を始めてみてもよいでしょう。子ども食堂のボランティア募集状況は、「こども食堂ネットワーク」のウェブサイト(kodomoshokudou-network.com)からチェックできます。

 

「こんな趣味程度のものでは役に立たない」なんて、自分で決めつけないで下さい。あなたにとって当たり前のことも、貧困家庭の子供にとっては新鮮で、その出会いが将来の自立への扉を開くかもしれません。

 

寄付もボランティアもできないと、お嘆きのあなたにも、もちろんできることはあります。身近な人と話をする時に、子供の貧困を話題に出すことです。面と向かって話しづらい話題だと感じたら、TwitterやFacebookなどのSNSで、子供の貧困に関する話題をシェアするだけでもかまいません。これならスマホがあれば簡単です。

 

一人ひとりの関わり方は少なくても、たくさん集まることで社会に大きなうねりを起こすことができます。そのうねりを絶やさないようにすれば、子供の貧困問題が注目され、支援が広がることに繋がっていくはずです。

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