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赤ちゃんの顔はどうしてかわいいのか?

赤ちゃん

町で赤ちゃんを見かけるとかわいらしい姿に癒やされますよね。赤ちゃんといえばまるまるとした顔にムチムチの手足を想像します。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんは脂肪が少なく、しわしわで、赤ちゃんの姿のイメージとはほど遠い姿をしています。

 

赤ちゃんの顔をかわいらしいと感じるのはどうしてなのでしょうか。そして、赤ちゃんの顔から受ける印象は、子育てにどのように関わってくるのでしょうか。赤ちゃんと大人の顔の違いなども踏まえながら見ていきましょう。

 

子供顔と大人顔

社会を構成する生物にとって、相手が敵か味方か、守るべき子供か性成熟に達したパートナーかなど、その姿形から年齢を把握することは非常に重要です。

 

では、ヒトの大人と子供の顔の違いはどこにあるのでしょうか。一般的には、第二次性徴期の前後で顔つきが変わるといわれているため、中央大学文学部心理学研究室の山口教授たちは、その前後である7歳の子供と20代の大人合計100名の顔を収集し、子供の顔と大人の顔を分ける明確な特徴を探すため分析を行いました。

 

すべての顔の、眉・目・鼻・口・輪郭の長さや角度を測り、コンピュータに入力して、これらの特徴から、大人の顔と子供の顔が出来るかどうかをまず調べました。その結果、大人と子供の顔はほぼ100%の確率で識別できることが分かりました。

 

同じ方法で男女の識別が出来るか調べた実験で、男女の顔区別は85%程度しか正しく識別することが出来なかった事を踏まえると、大人と子供の顔区別は、男女の顔区別に比べて遥かに容易であることが分かります。

 

子供と大人を分ける顔の特徴を分析すると、子供の顔を特徴づけるポイントとして「顔の幅に対する目の横幅や顔の部分間の距離」と「目と目の間の距離」が挙げられることが分かりました。つまり、子供の顔というのは、顔幅の割に目が小さく、目と目の距離が大きいのです。

 

さらに、子供の顔には子供の顔特有の脂肪のふくらみと、頭蓋骨の成長の度合いという大きな特徴があることが分かりました。

 

子供特有の脂肪のふくらみと頭蓋骨の形状によって、ふっくらとした頬と大きな額が形作られます。これは、アニメーションのキャラクターなどに典型的な子供の顔としてよく見られ、子供特有の顔のシルエットを構成する大きな特徴です。

 

この頬のふくらみと頭蓋骨の成長度が子供の顔のより細かい特徴を決定します。ふっくらした頬によって輪郭は広がって見え、広がった輪郭との対比の効果で子供の顔は目などの特徴が実際よりも小さく見えるのです。

 

目の大きさの見え方は、実は実際の大きさよりもこの対比の方が重要で、この対比の効果を使っているのが化粧です。特徴そのものの大きさは変えなくても、アイラインやアイシャドウによって目を大きく見せることが出来るのです。

 

頭蓋骨の成長は、成長する毎に顔のパーツの配置を変化させていきます。特に目と目の間の距離の変化は大きく、小さいときは広く、成長するに従って狭くなっていきます。

 

大人と子供の顔の違いは、成長によるものだということが分かりましたが、この顔の成長を予測する試みも行われています。例えば、行方不明となって月日が経った事件などでは、経年による成長した姿かたちで捜査する必要があるため、成長した子供の顔を作る試みがなされています。

 

成長の予測は主に頭蓋骨を中心として行われています。子供の顔の特徴である脂肪のふくらみは、皮下脂肪そのものが筋繊維1つ1つに絡みついており、その組織自体が曖昧で範囲を特定しにくいため変化の予想が困難なためです。

 

さらに、脂肪というのは年齢を重ねることによって、今度は重力の重みによって弛んでくることも予想がしにくい原因です。

 

頭蓋骨を中心とした成長は、カージオイド変換という関数で表現することが出来ます。カージオイド変換を施すことにとって、大人の顔を子供の顔に、子供の顔を大人の顔に変形させることが出来ます。

 

カージオイド変換が顔の成長変化に適応できることは、1970年代後半にエレノア・ギブソンの夫ジェームズ・ギブソンの弟子であるアレイたちが発見しました。当時はCGが発達していなかったため、手書きの線画で変換は行われていました。

 

単純なシルエットでも、カージオイド変換によって幼く見えるようになるだけでも驚きですが、おもしろいことに、その効果はヒトに限らず、鳥や犬、サルの顔も幼く見せることが出来たのです。さらに、カージオイド変換は車にも施すことが出来、この処理によって「子供らしい車」が出来上がりました。

 

実際にある車でも、フォルクスワ-ゲン・ビートルのような「子供っぽく」見える車種はあります。しかし、生物と違い無生物である車は成長しません。

 

車にカージオイド変換が出来て、子供らしさを感じることが出来るのは不思議なことだと言えるでしょう。子供っぽい印象と骨格の特徴は生物を超えた「子供っぽさのシンボル」となっているのかもしれません。

 

1980年代に入り、アレイたちは彫像の顔にカージオイド変換を施して年齢を変化させることに成功しましたが、この時点ではまだ現実の顔と同じ目鼻口の特徴を持った顔に対するカージオイド変換の実現にはほど遠いものでした。

 

1990年代に入って、山口教授らはCG技術を用いて、写真の顔にカージオイド変換を施すことを試みました。様々な20代男女の正面を向いた顔に、様々なレベルのカージオイド変換を行いました。

 

実物写真の顔でも、カージオイド変換を施すことによって、年齢は変化して見えるのかを検証するため、カージオイド変換前後の顔を大学生に見せて何歳に見えるかを調べました。その結果、カージオイド変換によって年齢が変わって見える顔もあれば、変わらない顔もあることが分かりました。

 

年齢が変わって見える顔と変わらない顔の違いはどこにあるのか、結果を詳しく検証するため、結果を縦軸が推定年齢、横軸がカージオイド変換のグラフに表して見てみました。

顔のカージオイド変換による年齢の変化

 

すると、男性顔のグラフはほとんど水平なのとは対象に女性顔のグラフはカージオイド変換の値とともに傾きがあるのが見られました。これは、女性顔ではカージオイド変換で予想されたとおりに推定年齢が変化していることを表しています。

 

また、このグラフからもう一つ読み取れることがあります。男性顔のグラフにおいて、変形させる前の顔(横軸の0の位置)の推定年齢が25歳を超えると、傾きは水平になり、反対に25歳以下では傾きのあるグラフになっています。

 

つまり、25歳以上に見える顔を変形しても変化は見られなかったということです。25歳以上に見えるかどうかで何が違うのか、何がカージオイド変換を阻害しているのかは、今の段階でははっきりしたことは分かっていません。

 

大人特有のきめの粗い肌が骨格変換を邪魔しているようにも見えます。写真の顔では肌の特徴までクリアに表現できるため、線画ほど単純に年齢が変わることはないのです。

 

顔の特徴のイメージと現実の顔

子供の顔の特徴は明確なため、その特徴から大人顔と容易に区別出来ることが分かりました。それでは、実際に私たちは子供の顔をどれくらい具体的にイメージできるのでしょうか?

 

山口教授らは眉・目・鼻・口といった顔の特徴と顔の輪郭を、コンピュータ画面上のバーを操作して変形させることで、顔を自由に作り替えることが出来るコンピューターソフトを作成しました。

 

このソフトを用いて、一般の大学生に、大人・子供・男性・女性の顔を作ってもらって実験を行いました。そのための下準備として、ソフトが使いこなせるよう、まず、様々な顔を作る練習を行い、ソフトの操作に慣れてから本実験に入りました。

 

本番では、すべての特徴の値が中間の値である顔から、見本や参考なしでそれぞれイメージする顔に作り替えて行います。勿論、実験の行う大学生たちは、特別に絵の勉強をしているわけではない一般の大学生が参加しています。

 

顔を作り替える過程で行ったすべての操作は、コンピュータに記録され、その記録から、顔が作り変わるまでにどの特徴がどれくらい変化したのかを調べました。作り替えられた顔の平均値を割り出し、それぞれの平均顔を作りました。

コンピューターソフトで作り替えられた顔の平均

 

それぞれの特徴を平均化することによって目立った特徴も平均化してしまうため、一見顔は描き分けられていないようにも見えます。しかし、実際に分析した結果、大人顔と子供顔はよく描き分けられていることが分かりました。その反面、男性顔と女性顔の描き分けは大人顔と子供顔の描き分け程上手く描き分けられてはいないことも分かりました。

 

山口教授らは、それぞれの顔の特徴を更に詳しく分析をしました。顔の類似性を調べるために、それぞれの特徴から似ている顔をグループに分類しました。すると、女性顔と子供顔、男性顔と大人顔の2グループに分類することが出来ました。

 

それぞれの平均顔から見てみると、女性顔と子供顔のグループの方が元の顔から作り替えた部分が多いように見えたことから、作り替えた部分が多いのは鮮明なイメージがあるからではないかと推測されるため、これらの顔が元の顔からどれくらい離れた特徴を持つか調べました。

 

女性顔と子供顔の類似点は、どちらも元の顔より目と目の間の距離が広いことと、目と眉の距離が広いことにありました。女性顔と子供顔の違いは、女性顔の唇は元の顔よりも厚く、子供顔の目の幅と顔幅は元の顔よりも大きいところにありました。

 

では、女性顔と子供顔のどちらの顔が現実の顔により近いのでしょうか。今度はどのくらい現実の顔と似ているかというイメージの再現性を調べました。

 

描かれた顔の特徴と現実の顔の特徴がどの程度類似しているのかを比べた結果、子供顔の方が顔の特徴を再現していることが分かりました。「目と目の距離が広いこと」という子供顔の特徴が、現実の子供顔と一致したからです。

 

赤ちゃんの顔をかわいいと感じるわけ

動物行動学者ローレンツが、大きな頭、頬が丸く、目と目の間が離れ、目鼻口といったパーツが低い位置にある顔と、丸くてずんぐりとした体型といった形態的特徴をベビーシェマと名付けています。これらは、先ほどの大人と子供の違いを調べた実験に出てきた特徴とも類似しています。

 

このような特徴はキャラクターグッズやアニメーションキャラクターの顔にもよく見られる特徴です。しかし、こうしたキャラクターに観察されるベビーシェマの特徴というのは、一種の転用で、本来のベビーシェマはヒトや鳥、犬などの生物の顔に観察されるものです。

 

ベビーシェマとは、子供の姿形の総称ですが、不思議なことにベビーシェマはその形と形に対する反応が分かち難く結びついているのです。この反応は「生得的解発機構」と呼ばれるもので、特定の形態的特徴を見ると、誰もが生まれつき同じ反応をすることを示したものです。

 

たとえば、ベビーシェマを見ると、ほとんどのヒトに自動的に「弱いものを助けよう」とする反応が生じるというもので、このような「生得的解発機構」の成立にはヒトの子孫を残す行動が関係しています。

 

生物には、昆虫や魚のように一度に沢山の子供を産む種と、鳥類や哺乳類のように一度に産む子供の数が少ない種があり、ヒトは後者の生まれる子供の数が少ない種に当たります。

 

生まれる個体数の少ない種は、子供にとって環境に適応するための学習期間ともなる子育てにコストをかけて、長い時間をかけて子育てを行います。ヒトは、この期間がとても長く、地球環境の変貌に適応する余裕を残しているといえる反面、自立歩行に1年もかかるなど、生き残りの鍵を養育者の手に委ねることとなり、親の負担ともなります。

 

反対に、子供を沢山産む種は、産んだ後、基本的に子育てをすることはありません。あらかじめ特定の環境に合わせて育つように設計されており、学習の余地は少ない為です。子育てをしないことにより、親の負担は少なくなるものの、環境が激変した場合、環境の変化に適応出来ず、子供が絶滅する危険性もあります。

 

ヒトの場合、親が途中で育児を放棄する危険と背中合わせの状態です。子育ては自分の遺伝子を残すという点で生物としての意義がある一方、育児を継続する親の負担も大きくなるからです。

 

そのため、子供は親の興味を引きつける必要があり、「生得的解発機構」によって、何も出来ない赤ちゃんの状態でも、可愛らしい見た目という形態的特徴によって親を引きつけるようになったのです。

 

「生得的解発機構」によって、子供顔は全人類に通用する強力な魅力を持っているため、顔の魅力一般に転用されるようになり、子供顔がキャラクター顔に多用されるようになったのです。

 

子供顔と女性顔は、似たような特徴を持っています。子供っぽいことを魅力に売り出すモデルやアイドルがいるように子供っぽさは保護欲求を喚起させる女性の魅力となり得るのです。

 

赤ちゃんが一番かわいらしいのはどの時期なの?

ベビーシェマは、無力で受動的な子供を保護するための「生得的解発機構」と考えられてきましたが、研究が進み、最近の研究では、ベビーシェマと子供の受動性には複雑な関係があることが分かりました。

 

ベビーシェマはローレンツの説では、一番無力である状態の時、つまり、生まれた直後が赤ちゃんは一番かわいいことになります。しかし、現実には、生まれたばかりの赤ちゃんを見てかわいいと思えずショックを受けるお母さんが少なからずいると聞きます。

 

では、赤ちゃんが一番かわいい時期はいつなのでしょうか。子育ての研究をしている発達心理学者の根ヶ山光一氏が赤ちゃんのかわいらしさの発達変化を調べた研究があります。

 

根ヶ山氏は生後0~2ヶ月、3~5ヶ月、6~8ヶ月、9~11ヶ月、12~17ヶ月、18~23ヶ月、24~29ヶ月の乳児の顔写真を用意し、子供を持つ母親と女子学生にかわいらしさの判定をしてもらいました。

 

子供を持つ母親と女学生に判定をして貰ったのは、ベビーシェマの魅力は一般的といわれているものの、実際の子供のかわいらしさ判断に、子育ての経験が影響を与えるかもしれないという可能性を踏まえたためです。

 

実際に、実験の結果で、母親と女子学生の判定は異なるという結果が出ました。子育て経験のある母親はかわいらしさの評価にばらつきはなく、一貫していたのに対し、女子学生の判定にはばらつきが大きく出たのです。

 

どんな子供の顔を可愛らしいと感じるかは、生まれついて決定されるわけではなく、子育ての経験も影響を与えるということが分かりました。

 

実験の結果、ローレンツの説とは異なり、生まれたばかりが一番かわいくないと評価され、自立の始まりかけた1歳前後の乳児が一番かわいらしいと評価されました。赤ちゃんは1歳前後になるとハイハイや自立歩行など、自立行動を行うようになります。どうしてこの時期が一番かわいらしいと評価されたのでしょうか。

 

実は、この時期は離乳も始まり、自立行動もできるようになることから、親の負担は少なくなります。それに伴い、親が赤ちゃんから目を離す機会も増えるのですが、自立行動ができるようになったことにより、転倒や誤飲などの赤ちゃんの事故は増加するため、赤ちゃんにとっては、この時期は危険が増す時期だと言えます。

 

その一方で、親からすると自立行動ができるようになり、自我が発達したことで生意気にも見える赤ちゃんを、積極的に保護しようという気持ちが薄れていく時期でもあります。そのため、赤ちゃんは容貌のかわいらしさで親を引きつけることによって、子育て継続の意欲を高めようとしているのです。

 

そういう観点で考えると、一見自立したように見えて実は一番危険が増える時期に赤ちゃんの見た目のかわいらしさで保護するという「生得的解発機構」は役目を果たしていると考えられます。

 

赤ちゃんのかわいらしいまるまるムチムチとした体型を形作る体脂肪の変化がこの結果を裏付けしています。体脂肪の発達変化は、出生時は12%、生後6ヶ月で25%、1歳で30%が最大となり、その後は減少していきます。

 

出生直後の赤ちゃんがかわいらしく見えないのは、体脂肪の少なさからも証明されます。体脂肪がピークになる1歳児はまるまるとして赤ちゃんらしい姿がかわいらしく見える上に、体脂肪が衝撃を吸収するため、赤ちゃんを事故から守る役割も果たしています。

 

子供の顔はどうしてベビーシェマに定義されるような骨格形状になるのでしょうか。これは、形態上の制約と、産道を通る制約が関わっていると考えられます。

 

一般的に、ヒトは進化の過程で二足歩行になった結果、産道が狭くなり、その結果難産になったといわれています。狭い産道を通り抜けるためには、脳や眼球など大きさを劇的には変えられない部分はそのままに、他の小さく出来るところは、最小限まで小さくしておく必要があります。

 

ヒトの頭蓋骨が出生時分かれており、産道を通る際に重なり合い、生後数ヶ月かけてくっつき合い1つの大きな骨になるのも狭い産道を通り抜けるための工夫の1つです。そうした試行錯誤の結果、ベビーシェマと呼ばれる、現在の赤ちゃんの姿形になったと考えられます。

 

実際に、赤ちゃんの脳は体格に対して大きく、体重に対する脳の容量比は大人になると2~3%なのに対して、出生時は15%もあります。

 

必要性から生じた子供の姿形ですが、それがその後の生存に大きく関わる「生得的解発機構」を発動させるシンボルとなったのは上手く出来た仕組みだと言えます。

 

私たちヒトは積極的に顔を見る特性があり、赤ちゃんの顔からも、積極的に何かを読み取ろうとします。この特性行動が赤ちゃんの顔にシンボルを見つけ出したと言えます。赤ちゃんの姿形と、大人の顔を見る能力が有効的に結びつき、親の子育てに対する意欲を引き出しているのです。

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