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赤ちゃんは生まれてすぐから顔を見ている!?

新生児

生まれたばかりの赤ちゃんは小さくてかわいいですよね。一見眠っているばかりに見える赤ちゃんですが、毎日少しずつ、着実に成長しています。赤ちゃんを育てているお母さんは「この子は私の顔をいつから認識できるようになるのかしら?」と思ったこともあるのではないでしょうか。

 

発達心理などの側面から、赤ちゃんの見る力を調べた様々な実験があります。実験の内容に触れながら、赤ちゃんの顔を見る能力について見ていきたいと思います。

 

赤ちゃんは生後間もない頃から顔を見ている!?

子育て場面を観察してきた心理学者たちの共通認識に、「赤ちゃんはヒトの顔に注目しているらしい」ということがあります。アメリカ心理学者メルツォフがムーアと共に行った模倣に注目した実験からもそのことが分かります。

 

その実験というのは、赤ちゃんの目の前で舌を出す動作を繰り返し行います。何度も何度も繰り返し同じ動作を赤ちゃんに見せるのです。すると、ほんの少し唇を突き出すような行動を赤ちゃんは見せるのです。

 

通常、赤ちゃんの真似行動というのは、生後6ヶ月頃に生じるものなのですが、メルツォフたちはこの実験で、生後数時間の赤ちゃんに真似させることに成功し、生後すぐから真似行動は生じることを発見しました。

 

ただしこれは、成長した赤ちゃんに見られる、誰が見ても分かるような真似行動とは異なり、その場で判断することは難しく、ビデオで動作を撮影しての確認が必要となります。つまり、辛抱強く実験を行ったからこそ発見できたのです。

 

とはいえ、生まれたばかりの赤ちゃんが顔に注目していることを示すのに十分な証拠の一つになるのは間違いありません。

 

真似をするためには、どの筋肉をどのように動かせば良いのかを把握している必要があるのですが、生まれたばかりの赤ちゃんにそのような知識があるとは到底考えられないため、どうして真似が出来るのかは謎なのです。

 

メルツォフたちの実験には、赤ちゃんの性質を利用したコツが隠されています。その性質というのは、赤ちゃんは動いているものに注目しやすいということです。動いているものに注視しやすい性質を有効利用するために、動かした顔を見せるという顔に注目しやすい実験方法を用いたのです。

 

赤ちゃんは顔の「何」に注目するの?

赤ちゃんに関する実験というのは、赤ちゃんと直接意思の疎通を図ることが出来ないため、非常に難しいものだと言えます。そこで、アメリカのファンツという心理学者は赤ちゃんの行動に着目した実験方法を開発しました。

 

赤ちゃんが「顔」に注目している行動を元に、赤ちゃんにとっての「顔」とはどのようなものなのかの境界を調べるために、顔を少しずつ作り替えて見せることで、赤ちゃんが顔の「何」に注目をして顔を認識しているのかを調べたのです。

 

最初の実験では、輪郭の中に目鼻口だけを描いた顔の絵に赤ちゃんが注目するのかを調べました。絵なので勿論、表情の変化はありませんし声を出すこともありません。

 

実験の結果、赤ちゃんは顔の絵に注目したのです。つまり、赤ちゃんは表情の変化や、髪型、現実の顔かどうかに関係なく、「顔の形」そのものに注目しているということが、この実験で分かったのです。

 

次に、同じ輪郭ののっぺらぼうの絵を用意し、先ほどの絵と交互に見せてどちらにより注目するのかを調べる実験を行いました。

 

この実験の結果、赤ちゃんがのっぺらぼうの絵に注目することはなく、赤ちゃんが目の前にあるものを何でも見ているわけでなく、「顔」に注目しているということが証明されたのです。

 

ですが、この実験では、赤ちゃんが「顔」を判断する境界がまだ判明したとは言えないため、赤ちゃんが顔の「何」に注目しているのかを調べる必要があります。

 

たとえば顔の中で、目は黒目と白目に分かれているので、顔の中でも目立ちます。鳥はその目立つ目を手がかりに天敵の認識をしています。ですから「目だけの鳥よけ」でもかかし同様十分な効果を発揮できるのです。

 

しかし、私たち人間の大人は違います。私たちは目鼻口の位置関係で顔の認識をしています。だから、壁や天井のシミ、森の木などにヒトの顔が見え、心霊写真などの現象が起きます。

 

車のヘッドライトなどが顔に見えるのもそのためです。私たち大人は目鼻口の形そのものは重要ではなく、目鼻口の並びで「顔」の認識をしているのです。

 

では、赤ちゃんはどのように顔を認識しているのでしょうか。それを調べるために、福笑いのような絵を2種類用意し、最初の顔の絵も含めて順番に赤ちゃんに見せる実験を行いました。

 

福笑いのような絵は、

①目鼻口の形はそのままで位置をバラバラにしたもの

②目鼻口の形も崩してバラバラにしたもの

の2種類です。これによって、赤ちゃんは鳥のように「目」で顔を認識しているのか、それとも大人と同じように「目鼻口の配置」で顔の認識をしているのかを調べるのです。

 

赤ちゃんは視力が弱く、生後間もない頃はほとんど見えていないため、「目」を手がかりにしている可能性が十分に考えられるため、このような実験が行われたのです。

 

実験の結果、赤ちゃんは①、②の絵は見ず、普通の顔の絵にのみ注目したため、生まれたばかりの赤ちゃんも大人と同じように、顔の配置で顔を認識していることが分かったのです。

 

赤ちゃんの顔の判断基準

生まれたばかりの赤ちゃんでも、大人と同じ顔の見方をするけれども、顔の区別はまだ出来ていません。顔か顔でないかの判断のみで、注目するのは誰の顔でもいいのです。

 

では、どうして赤ちゃんが顔を見る基準は目鼻口の配置なのでしょうか。鳥のように目だけで判断した方が楽だし、視力が弱い中ではその方が注目しやすいように思われます。

 

ですが、判断する基準が簡単になればなるほど、日常生活の中において、誤判断が多くなってしまうのです。先ほどの心霊現象と同じです。目だけで判断した場合、私たち周りには目のように見えるものが意外と多く存在するため、それら全部を顔と判断しかねません。

 

反対に判断基準を難しくしすぎると、めがねやひげ、しわによって、赤ちゃんが顔と判断しない顔が出てきてしまいます。だから、赤ちゃんの顔の判断基準は「目鼻口の配置が正しいこと」だと考えられています。

 

顔の複雑さを赤ちゃんは好む?

赤ちゃんは、複雑な図形を好む傾向にあります。シンプルな模様よりも複雑かつ派手なものほど注目して見ているのです。

 

その傾向から、赤ちゃんは顔を見ているのではなく、顔の複雑さを見ていると主張する研究者もいるほどです。顔を平面に描くと、その絵は目鼻口がきれいに並び、輪郭内の背景と縞模様のようにも見えるこのコントラストに注目しているのだというのです。

 

そこで、クライナーという心理学者が、赤ちゃんは複雑さと顔そのもののどちらに注目しているのかを調べる実験を行いました。

 

まず、クライナーは顔の絵を元に2つの異なるタイプの図を作成しました。1つは、顔にモザイクをかけることによって、白黒のコントラストは残して目鼻立ちをなくすことによって顔らしさをなくしたものです。

 

もう1つは、白黒のコントラストの強弱をなくして目鼻立ちは残し、顔の縞模様感をなくしたものです。

 

これら2つの図のうちのどちらを、通常の顔の絵と同じくらい注目するのかで、赤ちゃんが何に注目しているのかを調べるのです。

 

1つめの顔らしさをなくした図に長く注目していれば、赤ちゃんは顔の複雑さに注目しているということになります。2つめのコントラストをなくして顔らしさの残した図に注目していれば、顔に注目しているということになるのです。

 

実験の結果、赤ちゃんはどちらの図にも同じくらい注目するという結果に終わり、赤ちゃんが顔の複雑さと顔の目鼻立ちのどちらに注目しているのかは分からずじまいでしたが、赤ちゃんが複雑なものを好むのは間違いないというのは確実と言えるでしょう。

 

赤ちゃんは育てて貰うために顔を見ている

地球上のあらゆる生き物の中でヒトの赤ちゃんだけが未成熟な状態で生まれ、発達に膨大な期間がかかります。これは、進化の過程で、脳が高度に進化した結果、脳が肥大化し、出産時に産道を通ることが出来なくなってしまうため、未成熟な状態で生まれるしかなくなってしまってからです。

 

勿論、生まれる際に未成熟なのは体だけではなく、脳も未熟なまま生まれてきます。そんな未成熟なまま生まれてくる赤ちゃんが顔を見るのは、脳の発達と関係があると考えられています。

 

赤ちゃんは生後、周りの環境から様々な刺激を受けることによって、その環境に適合できるよう変化しながら、発達していきます。ただし、受ける刺激が少なければ、その分発達具合も不十分になってしまうというリスクがあります。

 

顔を見るという行動には、脳を刺激する効果があります。顔を見ようとすることによって、自然と顔を見る機会は増えていきます。顔に注目することによって、顔に関する学習が促されるのです。

 

それは、実物の顔でなくてもいいのです。顔写真を見るだけでも顔の見方に対する変化が生まれることが分かっています。この際重要となるのは、「集中して見る」ということです。

 

生まれたばかりの赤ちゃんは脳同様、視力も未発達でほとんど見えていません。そして、集中力も散漫なため、髪型などに目がいきがちで、目鼻立ちに注目することが難しいことも知られています。

 

それにも関わらず、なぜ赤ちゃんは「顔」を見るのでしょうか。赤ちゃんにとって「顔」が特別で、顔に注目するのは、赤ちゃんの発育期間が長いことに関係があります。

 

赤ちゃんは歩けるようになるまでに1年、言語で意思を伝えられるようになるまでに2年前後の期間を要します。そして、自立するまでとなると更に膨大な期間が必要となります。

 

赤ちゃんは、一人では何も出来ず、放っておいたら生きることさえままなりません。様々な機能を発達させ、自立できるようになるまでの期間、親に養育して貰い、守って貰う必要があります。

 

赤ちゃんが、顔を見るのはこの長い期間、親の養育意欲を高めるためだと考えられます。たとえ顔らしきものを見つけると、反射的にそちらを向いているだけで、赤ちゃんにその意図はないとしても、その効果は絶大です。

 

私たちは顔を見られていると思うと、赤ちゃんがコミュニケーションを取ろうとしているように見え、その様子から「かわいい」「いとおしい」といった感情を抱きます。その感情が子供への愛情に繋がり、養育意欲を高めると考えられるのです。

 

新生児の生理的微笑が親の関心をひいて、育てて貰うための親への愛嬌だと考えられているのと同じです。赤ちゃんは、様々な愛されるためのすべを持って生まれてくるのです。

 

育児の課程で、「赤ちゃんが自分を見ている」、「自分にほほえんでいる」と思うと、親はそのうち「自分だけを見て欲しい」と自分と赤ちゃんとの繋がりの強さを欲するようになります。

 

それに応えるかのように、赤ちゃんは早い段階から、親の顔を認識できるようになります。私たちが思うよりも早く、赤ちゃんはヒトの顔の区別がつくようになり、その成長の過程で、人見知りが起こるようになります。

 

鳥類はインプリンティング(刷り込み)で親を覚える

赤ちゃんには、新しいものを好み、見慣れたものはあまり好まないという性質があります。それなのにも関わらず、赤ちゃんは見慣れたはずのお母さんの顔を好んで見ます。これは、赤ちゃんの性質から考えると非常に不思議なことなのです。

 

お母さんを好むといえば、鳥類の「生まれて最初に見た動くもの」を親だと認識するインプリンティング(刷り込み)が有名です。これは、ウズラやニワトリなどの離巣性の鳥類に見られる現象です。

 

離巣性の鳥類は巣を作らず、親にエサを運んで貰うこともありません。生まれてすぐから、母親について歩き自分でエサをついばむのです。生まれてすぐから自立しているとはいえ、まだまだ生まれたばかりの小さなヒナなので、母親の姿を見失ったりしては大変なので、母親の姿を認識している必要があるのです。

 

では、ヒナはどうやって親を認識、識別しているのでしょうか。インプリンティングが成立したヒナが親を見かけると追いかける、後追い行動を利用した実験があります。

 

イギリスを代表する発達心理学者となったマーク・ジョンソン達は、目玉やくちばしといった親鳥の特徴的なパーツを1つ1つ順番にヒナに見せ、ヒナが親鳥のどこを見て識別しているのかを調べる実験を行いました。その結果、ヒナは親鳥の「首のカーブ」を見て後追いしていることが分かりました。

 

生まれて最初に見た動く物体を親と認識するインプリンティングでは、親がすり替わってしまうリスクが非常に大きいと考えられます。実際に、インプリンティングを発見したオーストラリアの動物行動学者のコンラート・ローレンツはカモに自分を親として認識させることに成功しています。

 

しかし、最近の研究では、インプリンティングについてもう少し分かるようになってきました。マーク・ジョンソンたちの実験で、インプリンティングの修正が出来ることが分かったのです。

 

おもちゃの自動車を親として学習させられたヒナに、後から本当の親の姿を見せると、後から見た本当の親を親と認識して、後追いをするようになったのです。

 

ただし、これには期限があり、本当の親を見せるタイミングが遅れると、修正は不可能となってしまうのです。インプリンティングでは、親を見るタイミングと、親が自分の姿形に合っているかどうかが重要となるのです。

 

育ての環境が与える影響

インプリンティングの実験から、生物にとって生まれた時の環境がいかに重要かということが分かります。では、全く違う種類の母親の姿を見るだけではなく、実際に別種の代理母に育てられ、本来の種とは違う経験を積んだ場合、どのように成長するのでしょうか。

 

しかし、種を超えた母子交換は、実際に起こることはほとんどありません。そこで、動物心理学者の藤田和生達が人為的に母子交換を行い、成長にどのような影響が出るのかを調べる実験を行いました。

 

交配も可能なくらい近い種である、ニホンザルとアカゲザルに、それぞれお互いの種の赤ちゃんを育てさせることにし、育てられた赤ちゃんザルは、育ての親と産みの親のどちらの顔を好むかを調べたのです。

 

本来は、自分と同じ種の母親の顔を好むはずですが、他種の代理母に育てられた場合、インプリンティングのように、育ての親の顔を好むようになるのでしょうか。実験の結果、なんとニホンザルとアカゲザルでは異なる結果となったのです。

 

ニホンザルは育ての親のアカゲザルの顔を好んで見ていたのに対し、アカゲザルは見たことのない産みの親であるアカゲザルの顔を好んで見ていたのです。

 

つまり、ニホンザルとアカゲザルでは育ての親による影響の大きさが異なっていたのです。これは、本来の生育環境による種の違いが原因と考えられています。

 

ニホンザルの場合、日本という島国に生息することにより、他種との接触が少ないため、多少親への認識が曖昧でも、親を間違えたり、違う種と誤って交配してしまったりする危険はありません。だから、育ての親の影響を受けやすいと考えられています。

 

反対にアカゲザルは他種と接触する地域に生息するため、自種への認識が曖昧だと、他種と交配してしまう危険性があります。そのため、育ての親の影響を受けにくかったと考えられます。

 

しかし、このサルの実験と、先ほどのインプリンティングの実験では、自種への認識などは分かるものの、肝心の「赤ちゃんが『お母さん』を特別な個体として好むか」ということは分かりません。

 

赤ちゃんは生後どのくらいで、お母さんの顔を好きになるの?

では、赤ちゃんはいったいいつからお母さんの顔を好むようになるのでしょうか。発達心理学者のブッシュネルが新生児を対象にそれを調べる実験を行いました。

 

新生児の実験では、衣服やにおいなど顔以外のものが手がかりにならないように、細心の注意を払わなければなりません。服を隠すために白衣を着て、においの届かない距離にお母さんとお母さんによく似た女性に並んで貰い、赤ちゃんがどちらの顔を長く見つめるかの実験を行いました。

 

その結果、生後数日の赤ちゃんでも、お母さんの顔を好んで見ていることが分かったのです。赤ちゃんは、生後数日という短い期間にも関わらず、どのようにして、お母さんの顔を覚えたのでしょうか。

 

そこで、ブッシュネルは赤ちゃんが生まれてから2日間、赤ちゃんとお母さんの接触行動を丁寧に観察することにしました。その間、赤ちゃんがお母さんの顔をどのくらいの時間見ているかの記録を行うと共に、4時間おきに、赤ちゃんがお母さんの顔を好むかどうかを調べる実験を平行して行ったのです。

 

すると、実験が11時間から12時間を超えた頃から、赤ちゃんがお母さんの顔を好むようになることが分かりました。

 

では、この11時間から12時間というのは、はたして長いのでしょうか?それとも短いのでしょうか?相対化するために、ニホンザルに同じ実験を行い、お母さんの顔を好きになるまでの発達速度を比較することにしたのです。

 

実験には、ヒトに育てられているニホンザルが選ばれました。これは、お母さんザルが育てている場合、数時間おきにお母さんザルと赤ちゃんザルを引き離すことが難しいためです。

 

出産を確認し、人工保育が開始された時点から2日間、赤ちゃんザルのすべての行動をビデオに記録し、代理母との接触時間も記録しました。そして、6時間おきにお母さん顔の好みを調べました。

 

ニホンザルとアカゲザルの実験から、ニホンザルは育ての親の種を好むようになることが分かっていましたが、この実験の結果、育ての親である代理母の顔を好むことが分かったのです。

 

さらに、ニホンザルの場合、お母さんの顔を見る時間が、ヒトの4倍の早さの3時間弱でお母さんの顔を好むようになったのです。サルは生まれてすぐからハイハイし、忙しなく動き回るようになります。そのため、ヒトに見られるような、赤ちゃんとお母さんがゆっくりと見つめ合う時間はほとんどありません。

 

ヒトとサルの身体機能の発達にかかる期間の差が大きいため、この実験の結果が果たして本当に行動発達速度の差なのか、それとも、種の違いによる差なのかは分からないのがこの実験の難点です。

 

ヒトの顔の見方には、自身の中のサンプルモデルが影響している

ヒトの赤ちゃんは見慣れているものは好まず、目新しいものを好むという性質があります。けれども、見慣れているはずの「顔」そのものや「お母さんの顔」を好んで見るのは何故なのでしょうか?

 

私たち大人は、千を越えるといわれるほど多くの顔を認識して識別することが出来ます。こんなに多くのものを認識・識別できるのは顔以外にはありません。

 

大人は顔を自身の中でデータ化して識別しています。今までに自分が見てきた顔を頻度や形状を元に効率よく判断できるようにデータの蓄積を行っています。

 

そして、よく見る顔を中心に、あまり見たことのない顔をその周りに位置する「顔の見方のモデル」の図が自身の中に作られます。このモデルが基準となって、顔の判断をしていると心理学者達は考えています。

 

たとえば、私たち日本人の場合、見慣れている日本人顔が中心に、見る機会の少ない白人や黒人はその周辺に配置されます。中心にある日本人顔というのは、よく見ている顔な為、サンプルを豊富に持っているため、多くの顔を認識し、識別することが出来ます。

 

しかし、あまり見慣れておらず、サンプル数の少ない白人や黒人になると、認識・識別することが苦手になってしまうのです。

 

研究者の間では、このような「顔の見方のモデル」を用いて顔の区別を行えるようになるのは10歳前後だと考えられています。しかし、赤ちゃんにも、このモデルが適用出来るのではないでしょうか。

 

赤ちゃんがお母さん顔を好むのは、このモデルが関係していると考えられます。しかし、赤ちゃんは接する人間の数が少ないため、このモデルの元になるサンプル数が少なく、また、接する人が増える度にモデルの中心となる顔は、めまぐるしく変化していると考えられます。

 

生まれたばかりの赤ちゃんというのは、顔に対する経験値はなく、当然モデルもなく、顔の判断基準としてあるのは、最低条件となる「目鼻口」が正しい位置にあることのみとなります。

 

しかし、お母さんをはじめとする家族と接する中で、顔のモデルの中心ができはじめます。中心となる顔を好んで見るようになる働きを元に、新生児は顔の最低条件である「目鼻口が正しい位置にある顔」から、やがて「お母さんに似た顔」を好むようになると考えられるのです。

 

フランスの発達心理学者のパスカリス達は、6ヶ月の赤ちゃんと大人に、それぞれ複数のヒトの顔とアカゲザルの顔を見せて、それぞれの種の個体の識別ができるかどうかの実験を行いました。

 

すると、大人はヒトの顔は区別できたもののアカゲザルの顔の区別がつかなかったのに対し、6ヶ月の赤ちゃんはヒトの顔もアカゲザルの顔も同様に区別が出来たのです。

 

6ヶ月頃の赤ちゃんはヒトもサルも分け隔てなく区別できるが、成長の過程でヒトの顔の認識に専門化していくことでやがて、ヒト以外の見分けがつきにくくなっていくのです。

 

実験の結果、10ヶ月頃になると大人と同じように、ヒトの顔は区別できても、アカゲザルの顔の区別が出来なくなることから、ヒトの顔に特殊化するのがだいたい生後10ヶ月頃だというのが分かっています。

 

音声も同じく、新生児の頃は、あらゆる国の言語や母音子音を区別できるのですが、生後10ヶ月頃から母国語しか区別できなくなっていきます。これは、赤ちゃんが生後10ヶ月頃で生まれ育った環境に適応してきた証拠だと言えるのです。

 

赤ちゃんがお母さんの顔を好むのはヒト固有の現象なの?

「ヒトの顔の見方のモデル」や「中心となる顔」といっても、コンピューターで顔の平均値を割り出して作ったような具体的な顔が頭の中にあるわけではありません。あくまでも、様々な顔の形状を識別するための定規のような役割として存在するものなのです。

 

では、このような中心となる顔の性質というのはどのようにして調べるのでしょうか。お母さん顔の好みを調べる実験では、お母さんの顔と見知らぬ女性の顔のどちらを好むのか調べるため、お母さんの顔の方が中心となる顔に似ていることになります。

 

そのため、お母さんの顔と中心になる顔のどちらを赤ちゃんが本当に好んでいるのかが分かりません。

 

そこで、CG技術を用いて、お母さん顔よりも中心となる顔に近い顔を作りだして、お母さんの顔とCGで作られた中心顔のどちらの顔を好むのかを調べる実験が行われました。

 

用意されたのは、赤ちゃんがよく見る家族の顔を集めた「平均顔」お母さんの特徴を際立たせた「お母さんの強調顔」、お父さんの特徴を際立たせた「お父さんの強調顔」、平均顔をお母さんに似せた「お母さんの非強調顔」、平均顔をお父さんに似せた「お父さんの非強調顔」です。

 

これらのCG顔にさらに実際のお母さんとお父さんの顔を混ぜて、赤ちゃんに見せて、赤ちゃんがどの顔を1番好んで見ているのかを調べました。

 

平均顔は家族の顔を単純に平均化したもののため、日常の赤ちゃんの経験からいえば赤ちゃんの中の顔の見方のモデルは「お母さんの非強調顔」が中心顔に1番近いと考えられるため、お母さんの非強調顔を1番好むのではないかと予想されました。

 

勿論、家族が変われば顔も変わるため、赤ちゃんごとに顔のモデルを作り、生後1ヶ月から7ヶ月までの毎月、好みを調べる実験が行われました。

 

この実験の結果、赤ちゃんはお母さんの顔よりも平均顔を好むことが分かりました。また、予想されたお母さんの非強調顔への好みはなかったのです。しかし、赤ちゃんがお母さんの顔よりも顔のモデルの中心に近い平均顔を好んだことにより、「赤ちゃんは中心顔を好む」という仮説が実証されたのです。

 

この「赤ちゃんは中心顔を好む」というのは私たちヒト固有のものなのでしょうか?それを調べるために、ニホンザルを対象に同じように実験を行いました。

 

ニホンザルの実験の場合は、育った環境による違いも調べるために、親サルに育てられた場合と、ヒトに育てられた場合の両方を対象として行われました。

 

ヒトに育てられたニホンザルの場合は、担当の獣医や実験・養育スタッフなど、赤ちゃんザルが見る可能性のあるヒトの顔を集めて平均顔を作り、代理母の顔・代理母の強調顔と見せて好みを調べました。

 

親サルに育てられたニホンザルの場合は、赤ちゃんザルが見る可能性のある、ケージから見えるサルの顔を集めて、平均顔を作り、お母さん顔と見せて好みを調べました。

 

この実験では、サルはヒトほど集中して沢山の顔を見ることが出来ないため、平均顔を中心顔として考え、お母さんの非強調顔は省いての実験となりました。

 

この結果、ヒトに育てられたサルと、母親に育てられたサルでは、好みが分かれました。ヒトに育てられたサルは、中心顔と母親顔を同じくらい好みましたが、母親に育てられたサルは、母親顔を好み、中心顔は好まなかったのです。

 

これは、ヒトとサルの養育スタイルの違いによるものではないかと考えられます。ヒトの場合、子供と接する際、子供の顔をのぞき込みます。これはヒト特有の行為です。

 

それ故に、ヒトに育てられたサルは必然的に、代理母をはじめとする沢山のヒトの顔を見て育つことになるため、顔経験を沢山積むことになるので中心顔も母親顔と同じくらい好むようになったと考えられます。

 

そして、もう1つヒトに育てられたサルが中心顔を好んだ理由として考えられるのは、サルの顔とヒトの顔の形態上の違いです。赤ちゃんザルにとってヒトの顔というのは自種の顔とは異なるため、積極的に観察し記憶する必要があったため、学習した結果、中心顔を好むようになったのではないかと考えられるのです。

 

いずれにしても、普通の環境で育ったニホンザルは中心顔を好まないことが分かりました。しかし、この実験結果だけでは、まだ、中心顔を好むのがヒト固有のものなのか判断することは出来ません。

 

なぜなら、ヒトとニホンザルでは種が遺伝子的にも離れているからです。そこで、ヒトにもう少し近い種であるチンパンジーを対象とした実験が、京都大学霊長類研究所で行われました。

 

この実験では、実の母親に育てられた3頭の赤ちゃんチンパンジーを対象に、母親チンパンジーと同じ施設にいるチンパンジーの顔を元に平均顔を作り、平均顔とお母さん顔、お母さんの強調顔のどれを赤ちゃんチンパンジーが好んで見るかを調べました。

 

実験の結果、赤ちゃんチンパンジーたちは平均顔を好みました。しかし、平均顔を好むようになるまでには、ニホンザルよりも、さらに発達速度がチンパンジーよりも遅い人よりも遅くなることが分かったのです。

 

これには、理由があります。このチンパンジーたちは出産後しばらくの期間、他のチンパンジーたちと離れて親子だけで暮らしていたため、飼育員や実験スタッフのことは見ても、他のチンパンジーを見る機会がほとんどなかったのです。

 

他のチンパンジーと共に生活するようになった頃から、平均顔への好みが現れたことから、平均顔を好むようになるには、母親以外の同じ種の顔経験を積む必要があることがこのことから分かりました。

 

このことから、チンパンジーと同等程度の知能を持つ動物であれば中心顔を好むようになることが予測されるため、中心顔を好む仕組みは、ヒト固有のものとは断言できないのです。

 

顔の認識には生後まもなくからの経験と環境が大切!

ヒトの赤ちゃんがお母さん顔を好むようになるには、鳥類のインプリンティングと同じでタイイングが重要となります。その一方で、顔の識別をするという高度な能力を持っています。

 

小さな赤ちゃんの頃から顔に関する学習が始まっていて、後の顔の認識能力に大きな影響を与えるというのは、実験の結果のみならず、白内障患者の例からも分かっています。

 

その白内障患者の例というのは、カナダの発達心理学者のマウラ達が、生まれつきの白内障を手術で克服した患者に関する報告です。

 

白内障というのは、眼球のレンズが曇っているために、はっきりした画像が見えなくなる病気で、明暗は分かるものの、映像そのものをはっきりと見ることが出来ません。外科手術では、人工レンズを装着することで、目の見えを正常します。

 

ただし、この手術は、生後すぐに出来るものではなく、通常生後6ヶ月頃に行われます。そのため、患者達は、生まれてからの6ヶ月間はものをはっきりと見ることなく育ちます。そして、手術後、10年以上たってから行われた実験によって、顔の認識に関してわずかな障害があることが分かったのです。

 

その実験とは、髪型を隠して、顔だけを元患者達に見せて、視線の変化や表情の変化などのわずかな違いを認識できるかを調べたものです。その結果、元患者達は、表情や顔の向きといったわずかな変化でも別人のように見えてしまうことが分かったのです。

 

正常な視覚経験を受けた人であれば、沢山の人の顔を認識・識別できるようになるための大前提として、その人が同一人物かどうかの判断を出来る必要があるため、多少髪型や表情が変わったところで、人物の判断が出来なくなることはありません。

 

しかし、元白内障患者達のように生後6ヶ月まで、顔を見る経験がないと、この能力は失われ、たとえ後に見えるようになったところで、この能力を取り戻すことはできないのです。

 

赤ちゃんの見る力というのは、生後まもなくから発達していきます。しかし、生後4ヶ月頃までは、まだ顔の認識能力は低く、髪型を隠してもお母さんの顔を判断して好むようになるのはだいたい生後4ヶ月頃からだというのが先の実験でも分かっています。

 

髪型を変えたり、めがねをかけたりしたことによって、赤ちゃんに泣かれてしまったというお母さんも少なくないのはそのためなのです。

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