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脳の分析をスポーツに活かす

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脳の分析

スポーツといえど、人間の行う活動ですから脳で考えて行っているわけですが、それを脳科学の分野から分析して成果をスポーツにフィードバックするという試みが進んでいます。そうした試みについていくつか見ていきましょう。

 

脳科学に基づいた練習の効果

大分県別府市の明豊中学校が、平成16年の卓球の全国大会で全国優勝を果たし話題になりました。というのも、全くの無名校がいきなり優勝したためです。

 

明豊中学校の卓球部はわずか2年前に設立されたばかりで、部員も地元出身の子どもたちが十数人しかいないという小規模なものでした。それが幾多の強豪チームを破って全国優勝したのですから無理もありません。

 

明豊中学校が優勝に至った背景には、卓球部のチームドクターの存在がありました。このチームドクターは脳科学が専門の医師で、部員たちが小学校に通っているころから脳科学の研究結果に基づく具体的なトレーニング法を助言してきていたのです。

 

例えば、小学生ぐらいの児童は無呼吸でエネルギー代謝をする力が少ないので、100m走は無理であるとか、心臓が血液を送り出す量も少ないので持久走をしても意味が無い、といった具合です。

 

その上で、7歳~9歳の時期には脳や神経組織が形成されるので、すばやさを鍛えるようなトレーニングや卓球のラケットをどう扱うかといった運動技術面でのトレーニングに力を入れたのです。

 

その根底にあった発想は、あらゆる運動を司っているのは脳であるという考え方です。たとえば脳に届く栄養がスポーツ中でも不足しないように、練習前や練習中、そして練習の後に200kcal程度のおにぎりを食べさせたり、試合に負けても気に病まないようにと指導してメンタルの分野でも負担軽減をはかったりしたのです。

 

子どものうちは持久力を重視するよりも、むしろ走る、跳ぶ、つかむ、引っ張る、転ぶ、泳ぐ、といった運動技術を身につけ、場合場合に反射的に体が動くようにトレーニングする方が重要だとしたのです。こうしたトレーニングであれば、卓球の福原愛選手のように3歳から開始しても問題ないばかりか、早く始めるほど効果が上がると言います。

 

こうしたことは前から脳科学の分野では言われていたわけですが、目に見える成績という形で結果が出たわけで、脳科学に基づいたトレーニングが合理的であるということが明らかになったといえます。

 

こうした取り組みが注目され、この医師が院長を務める病院には高校生を中心に多くのスポーツ選手が受診するようになったとのことです。中には空手、ホッケー、重量挙げなどの県の国体選手もいるといいます。

 

運動は脳の全体を使う活動である

人間は脳で考えてさまざまな行動を行います。これはスポーツについても例外ではないはずです。こうした視点から、スポーツを行っているときに脳のどの部分を使っているのかを調べようという研究が行われています。

 

こうした研究は、たとえばfMRI(機能的磁気共鳴画像装置)といった機械を用いてスポーツ中の脳を撮影し、それを分析することなどによって行います。

 

例をあげれば、ゴルフクラブを振るという動作についてfMRIを撮影し、これまで運動に関連すると考えられていた脳の部位の活動を見ると、ゴルフがうまい人ではそんなに変化が見られなかったといいます。

 

一方でゴルフがあまり上手でない人の場合は脳の中のいろんな部位が活性化していることが分かりました。こうした結果から、あまり上手ではない人はいろいろと考えすぎてしまっていて、振る動作に集中できていないのではないかということが分かってきたと言います。

 

またランニングを行っているときの脳を分析すると、視覚を司っている脳の部位が活性化し、周囲の景色などについて映像的な情報に重きを置いて脳が判断しているということが見えてきました。

 

さらに、安静にしているときよりも歩き始めたときの方が脳が消費する糖分の量が減ることも分かりました。つまり、運動を始めると脳は少ないエネルギーで働くようになり、運動でエネルギーが必要な体の部位にそれを回すような動きをしているわけです。

 

こうやって調査していくにつれ、運動を行うときには運動に関わる脳の部位以外にも知識や経験に関する部位も利用されていることが分かってきました。そういった点から見ると、運動は脳の全体を使う活動であるということが言えるかと思います。

 

脳の研究成果を子どものスポーツに活かす

成績のいいスポーツ選手の脳の働きを調べることにより、さまざなまスポーツについてそれがどんな特性を持っているのかを分析することができれば、ある年齢ではこのスポーツ、といったように、発育の段階に最も適したスポーツは何なのかということを見つけていくことができるかもしれません。

 

スポーツ選手に競技をする場面の映像を見せながら脳の血流を調べると、体を動かしていなくてもその動きに関わる脳の部分が機能するということが分かっています。また、トップアスリートが他の選手よりも秀でているのは、脳で行われる状況判断が他の選手よりも勝っているからだと考えられています。

 

このようなスポーツ医科学における研究の成果を活かすことで、将来的には効率的な選手育成のやり方を探っていけるようになるかもしれません。

 

最近、日本の子どもたちはスポーツをしなくなってきており、半数の子どもがスポーツをしていないという調査もあるほどです。それに加え、都市部に住む子どもたちは体を動かして遊ぶという機会すら減ってきています。

 

こうした状況が進むようであれば、子どもに体を動かさせるという点からみてもスポーツをするということが子どもにとって重要性を増してくると言ってもいいでしょう。将来的には、脳科学分野の成果を下敷きにして子どもに体を動かすためのスポーツを奨励するようになっていくのかもしれません。

 

(参考)脳はどうやって運動を命じるのか

ある行動を取ろうという時、どんな形で行動するかを決めるのは大脳にある大脳皮質連合野という部位です。この部位では、視覚や聴覚といった自分の外部からの刺激に加え、自分の体の内部からの欲求、たとえば喉が渇いたという感覚などをもとに行動の具体的な内容を決定しています。

 

大脳皮質連合野で決めた行動は運動前野や大脳基底核などに伝達され、そういった部位でどの運動のためにどういった動きをするか、といったものが決定されます。そしてそれが一次運動野を通過し、実際にどう体を動かすかの命令となって脊髄や脳幹に伝達され、体が動くといった経路をたどります。

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