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子どもの好き嫌いとそのメカニズム

好き嫌い

近頃の子どもたちは好き嫌いが激しいであるとか、偏食が著しいといった話を耳にすることがあります。本当のところはどうなのか、少し探ってみたいと思います。

 

味覚は世代間でそんなに変わらない

昔の世代に比べて、現在の子どもは好き嫌いが激しかったり偏食がひどいといったような話を耳にします。もしそうであれば、最近の子どもは味覚面で親世代と何か違いが生じているのかもしれません。

 

この点について栄養学の専門家は、現在の子どもと親世代の間に、味覚面での差はほとんど存在しないという見解です。

 

人間の味覚は、甘味、塩味、酸味、苦味、そしてうま味の5種類の味を感じ取ることができます。これらはいずれも舌の上にある味蕾細胞という細胞によって識別されます。

 

栄養の不足、特に亜鉛の不足などによってこうした味覚に障がいが発生することが知られています。また、遺伝によって特定の苦味物質を敏感に感じてしまうような体質の人も中にはいます。しかし、こうした障がいや体質が好き嫌いを助長するようなことは基本的にはないとされています。

 

「お子様味覚」などと言うことがあるように、子どもは甘いものが大好きですが、これにもれっきとした理由があります。甘いものを好み酸っぱいものや苦いものを避けるのは人間の本能に根ざしており、こうした嗜好は人間誰しも時代や世代によらず共通で持っているものなのです。

 

甘いもの、すなわち糖分は人間が体を動かす際のエネルギーになります。このため、生きていくためには糖分の摂取は不可欠です。人間の体はこうした必要不可欠な栄養となる糖分を確保するため、甘いものを本能的に好むようにできているとされています。

 

一方で、苦いものや酸っぱいものというのは、食べると体に毒になるものであったり腐って悪くなっているものに多い味です。このためそうしたものを食べないようにと、苦味や酸味を避けるようにできているのです。

 

こうした傾向が後からの学習でなく本能的であるというのは、赤ちゃんの行動から分かるといいます。生まれたばかりのころ、赤ちゃんの口に砂糖水を含ませると本能的に飲み込もうとしますが、酸っぱいものは嫌がります。また子宮の中に甘味を感じる液体を入れると、お腹の中の赤ちゃんが羊水を飲む回数が増えることも分かっています。かなり早い段階からこうした味覚があるということが分かります。

 

こうしたことから、近頃の子どもたちが好き嫌いが激しくなるのは、味覚そのものの変化ではなく、子どもたちの食生活の変化によるものではないかとされています。親の世代が子どものころとは異なり、各地にコンビニや外食産業が増えたり家庭で料理をしない親が増えたと行ったようなことにより、小さいころに食や味覚に関する体験が乏しい子どもたちが増えてきていることが原因ではないかと考えられています。

 

好き嫌いはどうしてできる?

食べ物の好き嫌いは味覚によるものではなく、むしろ食事に関する経験から学習することによって起きてくるという研究があります。食事に関する経験が少ない子どもほど好き嫌いが激しく、食べられるものや味が制限されるということが分かっているのです。

 

大学生について食べ物について好き嫌いがあるかどうかを調べた調査では、女子の間では89%、男子で86%の人が嫌いな食べ物があると回答しています。そして、その食べ物を嫌いになった時期を尋ねると、幼稚園から小学校の低学年の時期という回答が最多であったという結果が出ています。

 

調査を進めていくと、家の食事に何度も出てきたような食べ物やメニュー、あるいはなにか特別な思い出とリンクしていたり楽しい雰囲気の中で食べたような料理などが好きな食べ物であるとして記憶されていくことが分かってきました。こうした学習のことを味覚嗜好学習といいます。

 

逆に、無理に食べさせられたり、食べた後に吐き気を覚えたり気分が悪い思いをしたなど、ネガティヴな体験とセットになった食べ物については嫌いな食べ物として記憶されていきます。こちらは味覚嫌悪学習といいます。

 

このように、食べ物の好き嫌いは学習による成果であって、例えば親から遺伝するような性質のものではありません。子どもは本能的に新しい食物を避けようとしますが、食べ物を好きになるための味覚嗜好学習は何度も何度も反復することによって確立するたぐいのものです。つまり、親が嫌いなものは子どもも苦手、といったことになりやすいのは、親が嫌いな食材は家の食事に出てくる頻度が少ないからだと考えられます。

 

このため、子どもを好き嫌いなく育てたいのであれば、小さなうちからさまざまな食べ物を食べさせることで、おいしいと感じる食材の幅を広げてやるようにすることが大事だということになってきます。よほど極端なものでない限り、好き嫌いも個性だと割り切り、たのしく家族みんなでご飯を食べるほうが子どもにとっては意義があるようです。

 

食の分野でも影響を受けやすい子どもたち

子どもの時期は他の人や子どもからの影響を大きく受けるものですが、これは食事に関しても同じことが言えます。例えば、アメリカで行われた実験に、ピーマンが苦手な子どもをピーマンを好む子どもたちの集団に入れ、その中で食事をさせたり遊ばせたりすると、6週間後にはピーマンがそんなに嫌いではなくなり、食べる量が増加したというものがあります。

 

こうした傾向があるため、いわゆる「食育」はかなり重要な意味を持ってきます。食育は平成17年に施工された食育基本法によって取り組みが推進されることになったもので、バランスの取れた食事が大事であることを子どもたちに教えたり、食事に関する知識を教えたりしていくものです。学校や地域による取り組みが重要になってくると考えられます。

 

こうした食育の一環として、その日のお昼に食べるお魚や野菜などを、調理される前の形を毎朝調理師が子どもたちに見せるといった取り組みをしている保育園があります。この保育園では3歳以降に子どもが自分でおやつを作ってみるなど料理の体験をさせるといった取り組みも行っています。

 

このようにして実際に食べ物を見たり触れたりし、そして自分で食事を作ってみるという体験をすると、子どもたちの間に食事に対する興味が生まれ、それが新しい食べ物やメニューを受け入れる余地を生みます。

 

このようにして食育を行っていると、子どもたちはちゃんとした素材を使っていると自分の味覚でそれに気づけることが分かると言います。これも、子どもたちの味覚が変わったというわけではないことの証左かと思います。

 

突き詰めて言えば、子どもたちが食べるものは周囲の大人から与えられたものです。家庭や地域、学校や生産者など、子どもの食に関係している周囲の大人たちが自分の意識を変え、子どもたちが食べ物を食べて美味しいと感じ、楽しい体験をしてなんでも好きだと感じることができるようにしてあげたいものです。

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