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進学実績を大きく伸ばす注目校が行なった学校改革と入試戦略

進学校

東大至上主義の時代は終焉を迎えつつあると言われる現在もなお、進学校の価値を測るものさしとして「東大合格者ランキング」は重要視されています。東大を筆頭とする難関大学に送り込んだ人数は、その学校の評価となり、少子化時代に優秀な生徒を集める原動力となります。

 

進学実績を上げるために躍進校が行なった様々な改革の事例について見ていきましょう。また、学校を評価する際に忘れてはならない偏差値を上昇させるテクニックについても見ていきたいと思います。

 

東大を目指すなら知っておきたい!最近伸びているこの学校

東大合格者ランキングはここ30年で大きく変動している

日本中に数多ある高校を評価する基準として、その学校の「東大合格者数」は、長年非常に信頼されるデータでした。

 

というのも東京大学は、1877年(明治10年)に日本で初めて創設された近代的な大学であり、当時の日本で高等教育を受けようと思ったら、まずは東大を目指すことになるという仕組みが出来上がっていたことも影響しています。

 

長い年月を経た現在、国立の総合大学は東大以外にも多くあり、私立にも卓越した教育内容を誇る名門大学がありますが、東大はいまだに我が国の学歴ピラミッドの頂点と考えられていると言えます。

 

毎年受験シーズンが終了するやいなや、「東大合格者数ランキング」が雑誌やインターネット記事で発表されるのは、その表れです。

 

とはいえ、学校の評価軸には変化の兆しも見られます。勉強を極めた先にあるのは東大だけという「東大至上主義」の時代は、終わりを迎えようとしています。海外の名門大学を目指す高校生が増加しているのも、グローバル時代の到来を象徴する事象だと言えるでしょう。

 

また東大自身も、2016年に後期試験を廃止し、その代わりに推薦入試制度をスタートさせました。推薦枠は全国の高校に男女1つずつとなっており、灘や開成、筑駒といったいわゆる「常連校」も他校と同じ条件です。

 

その結果、推薦入試の合格者は様々な地方出身者や女子の割合が高くなり、東大に新鮮な風を吹き込むことが期待されています。

 

さて、東大合格者数ランキングを見てみると、ここ30年の間でランキングの上位校の多くが入れ替わっていることに気づきます。

2018年東大合格者数ランキング   1988年東大合格者数ランキング
順位 高校名 合格者数 区分 都道府県   順位 高校名 合格者数 区分 都道府県
1 開成 175 私立 東京   1 開成 162 私立 東京
2 筑波大附属駒場 109 国立 東京   2 130 私立 兵庫
3 麻布 98 私立 東京   3 東京学芸大附属 115 国立 東京
4 91 私立 兵庫   4 ラ・サール 96 私立 鹿児島
5 栄光学園 77 私立 神奈川   5 栄光学園 78 私立 神奈川
5 桜蔭 77 私立 東京   6 武蔵 77 私立 東京
7 聖光学院 72 私立 神奈川   7 筑波大附属駒場 73 国立 東京
8 東京学芸大附属 49 国立 東京   8 麻布 72 私立 東京
9 渋谷教育学園幕張 48 私立 千葉   9 洛星 66 私立 京都
9 日比谷 48 公立 東京   10 東大寺学園 63 奈良 私立
9 海城 48 私立 東京   11 千葉県立 62 公立 千葉
12 駒場東邦 47 私立 東京   12 浦和県立 60 公立 埼玉
13 浅野 42 私立 神奈川   13 甲陽学院 56 私立 兵庫
13 ラ・サール 42 私立 鹿児島   14 筑波大附属 55 国立 東京
15 筑波大附属 38 国立 東京   15 久留米大附設 54 私立 福岡
15 早稲田 38 私立 東京   16 桐蔭学園 52 私立 神奈川
17 女子学院 33 私立 東京   17 桐朋 48 私立 東京
18 東海 30 私立 愛知   18 駒場東邦 36 私立 東京
18 西大和学園 30 私立 奈良   19 広島学院 35 私立 広島
20 武蔵 27 私立 東京   20 洛南 34 私立 京都
20 甲陽学院 27 私立 兵庫   20 愛光 34 私立 愛媛
22 国立 26 公立 東京   22 湘南 32 公立 神奈川
22 岡崎 26 公立 愛知   22 旭丘 32 公立 愛知
24 渋谷教育学園渋谷 25 私立 東京   24 戸山 31 公立 東京
24 湘南 25 公立 神奈川   24 厚木 31 公立 神奈川
24 旭丘 25 公立 愛知   24 広島大附属 31 国立 広島
27 久留米大附設 23 私立 福岡   27 千種 30 公立 愛知
28 浦和県立 22 公立 埼玉   28 髙岡 29 公立 戸山
28 千葉県立 22 公立 千葉   28 岐阜 29 公立 岐阜
30 豊島岡女子学園 21 私立 東京   28 大阪星光学院 29 私立 大阪
30 金沢泉丘 21 公立 石川            

(出典:大学通信)

 

1988年の入試は、東大と京大を併願することができたレアケースだった点、また、前年に現役合格者が多いとその分翌年の東大合格者数が減ってしまう「隔年現象」などを除いて考えたとしても、趨勢が変化していることが見て取れます。

 

ちなみに、東大合格者数の増減の要因は「隔年現象」だけではなく、ある年の合格者数が多かった場合、翌年の入試に優秀な受験生が集まることから、その学年が大学を受験する7年後にも同様に高い合格実績が見られる「7年後現象」という好循環も存在します。

 

中でも、1988年のランキングでは圏外だった「渋谷教育学園幕張」や「日比谷」がそれぞれトップ10にランクインしており目を引きます。両校とも、東大進学実績を伸ばし、進学校としての地位を確立させるために戦略的な改革を行なってきました。

 

カリキュラムを見直し、受験指導を強化した結果、東大合格者が増えた公立高校

東大をはじめとする超難関大学受験界では長らく私立高校全盛の時代が続いていました。それがここに来て、公立高校の躍進が目立ち始めています。

 

躍進公立高校①:神奈川県立横浜翠嵐高校

横浜翠嵐高校は、1914年(大正3年)に男子校として創設された旧制中学を前身としています。横浜駅から地下鉄・東急東横線でそれぞれ1駅の閑静な住宅街に位置しており、伝統ある進学校として知られています。

 

横浜翠嵐が一躍その名を知らしめたのは、2017年の大学入試において34名もの東大合格者を輩出したことです。

 

同校の東大合格者数は、1998年から2008年までは二桁に届くことはありませんでしたが、その後毎年少しずつ合格者数を増やし、2017年ついに前年の20名から大きく伸ばす結果となりました。

 

そのきっかけは、2010年に神奈川県の「学力向上進学重点校18校」のうちの1つに指定されたことでした。

 

横浜翠嵐では、基本の授業時間は1コマ95分としながら、科目特性に合わせて45分授業も柔軟に組み込むカリキュラム設計に加え、土曜日や長期休暇中には様々な講習を行うなど学習環境を整えてきました。

 

また、入学後間もなく行われる学習オリエンテーションでは、3年間の学習の進め方を確認し、高校生としての学習のやり方を教え込みます。これにより「自学自習」の姿勢を身につけ、大学受験に対応できる学力を確保する狙いがあります。

 

横浜翠嵐のライバルは、神奈川県の伝統的な公立進学校である湘南高校です。湘南高校は自由な校風で知られ、部活動や行事が盛んな学校で、その教育方針は対照的であるとも言えます。

 

2017年には横浜翠嵐の東大合格者34名に対し、湘南高校は18名と、成果が目に見える形となって現れたと思われました。

 

ところが2018年の入試結果を見ると、横浜翠嵐の東大合格者数は14名と、前年の半分以下にとどまっています。一方の湘南高校は25名の東大合格者を輩出し、一気に逆転を遂げました。

 

2017年の春、インターネットを中心に話題になった1枚のプリントがあります。それは横浜翠嵐が新入生向けに配ったものですが、そこに書かれていたのは、どんなに部活で疲れていても、平日は「学年+2時間」、休日には「学年+4時間」の家庭学習を行わなければならないという「掟」です。

 

レベルの高い努力をするために、全員が高い目標を持つようにとハッパをかけ、「私立大推薦受験を目指すことは勧めていない」と逃げ道を塞ぎ、「スマホやゲームは1日30分だけ・・・。本当にそんな暇はありますか?」と、勉強漬けの3年間を予感させる言葉が並びます。

 

楽しい学生生活についての言及はなく、学校というよりも塾のようです。

 

管理型スパルタ式の受験道場のような教育により、横浜翠嵐の東大合格者数は今後どのように推移するのかについては、これからも注視する必要がありそうです。

 

躍進公立高校②:都立日比谷高校

日比谷高校は、1878年(明治11年)に最初の東京府立中学として開校した、歴史ある公立進学校です。戦前・戦後の長い間、「日比谷→東大」はエリートコースの王道であり、政財界を担う人材を多数送り出してきました。また、ノーベル賞受賞者の利根川進氏も日比谷の卒業生です。

 

日比谷高校の東大合格者数が最も多かったのは1964年の193名ですが、その後1967年からは入試制度が変わり、学校群制度が導入されました。

 

これは、同一学区内で2〜3校をまとめ「学校群」とし、各校の学力が均等になるように生徒を割り振る仕組みで、その結果日比谷からの東大合格者数は激減、長期の低迷期に入りました。

 

その流れが再び変わったのは2000年代に入ってからです。当時の石原慎太郎都知事は東京都の学区制度を廃止し、どの地域であっても希望する高校を受験することができるようにしました。

 

また、進学実績を向上させ「都立高校の復権」を果たすことを目的に、進学指導重点校を設け、日比谷高校はその中の1校として指定されました。

 

学区制度廃止以降は年々東大合格者数を増やし、ついに2018年の入試で48名を東大に送り込み、東大合格者数ランキングトップ10に返り咲きました。およそ半世紀ぶりの快挙です。

 

この大躍進を支えたのは、徹底的な学校改革です。日比谷は、45分の7時間授業ですが、教科によっては2コマを繋げた100分授業も行います。

 

また、8・9時間目に「特別講座演習」が設けられたり、土曜日には「土曜講習」、夏休みにはおよそ100の夏期講習が開講されるなど、様々な学習の機会が用意されています。

 

3年生になると午後の授業は全て自由選択科目になります。年間3回の校内模試だけでなく、外部模試も積極的に活用するなど、難関大学の現役合格を目指すことができる環境が整えられました。その結果、着実に進学実績の数値目標を達成していきました。

 

2015年の入試に掲げた目標は、難関4国立大学(東大・一橋・京大・東工大)と国公立大医学部医学科で合わせて60名以上の現役合格、早慶上智の現役合格は200名以上、その他国立大の現役合格は100名以上というものでしたが、全ての項目で達成しています。

 

それぞれの目標を上方修正して臨んだ2017年の入試では、難関4国立大・国公立大医学部医学科現役合格66名(目標70名)、早慶上智の現役合格197名(目標230名)、そして国公立大現役合格136名(目標100名)という結果となりました。

 

なお、センター試験の得点率にも目標値を設定しており、160名以上が5教科の平均得点率80%以上を達成するという目標に対して、2017年度は193名がクリアしました。そして現役での大学進学率は63.5%と、目標の60%を超える結果となるなど、改革の成果は着実に上がっています。

 

現在の日比谷高校は、改革の第二段階に入っています。高度な理数教育を行うSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定校となっているほか、東京都の「グローバル10」にも指定され、先進的な外国語教育の実践と国際理解教育を積極的に進めており、海外研修の機会を増やし、グローバルリーダーの育成を目指しています。

 

リニューアル戦略で進学校化を遂げた共学の私立中学・高校

躍進共学私立①:渋谷教育学園幕張中学校・高等学校

渋谷教育学園幕張(通称「渋幕」)は、1983年に千葉県の要請により、渋谷教育学園が創立しました。渋谷教育学園は、1924年から渋谷女子高校を運営している学校法人で、理事長の田村哲夫氏が現在、渋幕の校長でもあります。

 

渋幕がある幕張新都心は、1970年代に東京湾を埋め立てて開発されたエリアで、コンセプトは「職・住・学・遊」が融合した未来型国際都市です。

 

中でも文教地区の整備はいち早く進められ、複数の大学、中・高、幼稚園や小学校の他、研究施設なども誘致され、高度な教育地域を構築する狙いがありました。

 

これまで千葉県はいわゆる「公立王国」と呼ばれ、東大合格者数ランキング1位の座は長らく県立千葉高校が独占してきました。ところが渋幕は、開校以来着実に進学実績を伸ばし続け、とうとう2002年には県立千葉を抑えて1位に躍り出ました。これが有名な「渋幕の奇跡」です。

 

その秘密は他校に先がけ、様々な先進的取り組みを行ったことにあります。

 

例えば、渋幕は日本の中・高で初めてシラバスを発行・活用したことで知られています。シラバスとは学習計画書のことで、中高6年間で学ぶ内容を教科ごとに詳しくまとめたものです。これを元に生徒自身が自分の学習計画を考えられるようになっています。

 

また、外国語教育を充実させ、留学生や帰国生を積極的に受け入れることで、国際理解教育の土台作りも行っています。そして、アメリカの大学への進学指導を専門とする外国人教員を置き、自ら海外で学びたい生徒を手助けする環境も整えました。これらの手法は大変話題となり、また成果を上げてきました。

 

渋幕はその後も東大合格者数を増やし、2012年以降は東大合格者数ランキングのトップ10の常連メンバーとなっています。2017年には御三家・麻布と同じ78名を東大に送り込んだ渋幕ですが、その翌年である2018年には48名にとどまっています。

 

これは、この学年が中学受験をした2012年は東日本大震災の翌年にあたり、埋立地で液状化現象が起こった記憶も新しかったことなどが影響し、立地条件を理由に渋幕が避けられてしまったと考えられています。

 

躍進共学私立②:渋谷教育学園渋谷中学校・高等学校

渋谷教育学園渋谷は、渋幕と同じ経営母体を持ち、姉妹校の関係にある完全中高一貫校です。1996年までは渋谷女子高校(通称渋女)という女子校で、良妻賢母を育てる教育を行っており、決して進学校と呼ばれる存在ではありませんでした。

 

その渋女を、開校したその年から東大合格者を出すなど、目覚ましい躍進を遂げていた渋幕と同じ教育理念を持つ姉妹校として、「リニューアルオープン」させました。

 

渋幕効果で中学受験界の話題をさらい、多くの優秀な受験生が集まった結果、開校してまだ20年余りであるにも関わらず、現在では都内の共学校の最難関校と位置付けられています。

 

渋渋の東大合格者数は、2015年に33名と大躍進を遂げ、前年の2倍以上を記録しました。ここ4年は常に25名〜30名と安定した結果を残しており、都内にある共学の最難関進学校としての地位を不動のものとしています。

 

今後は中学受験における難易度が上がってからの優秀な生徒が続々卒業を迎えるため、この流れはしばらく続くものと思われます。

 

東大の入学定員は例年3000名程度となっています。大学受験の中でも東大合格者数を競い合うことは、この限られたパイを奪い合う戦いと言い換えることができます。同時に、中学入試の時点では、優秀な生徒の奪い合いが起こっています。

 

都内の名門進学校と入試日がずれている渋幕とは違い、渋渋はこの戦いに真正面から挑まなければなりません。また、渋谷駅の近くという恵まれた立地は、他の名門私立中・高というライバルに囲まれていることも意味しますが、渋渋は難関校としての立ち位置を確保できています。

 

躍進共学私立③:広尾学園中学校・高等学校

広尾学園は渋渋と同様に、非進学校だった女子高の校名を変更して共学化、同時に教育システムを刷新するというリニューアル型の改革で成功を収めました。

 

広尾学園は、元は順心女子学園という中高一貫の女子校でした。1918年に板垣退助の妻・板垣絹子によって創設された伝統ある学校でしたが、徐々に生徒数を減らし、2003年には生徒数が400人台となるなど、廃校の危機に瀕しました。

 

そこで2007年に「共学化」「進学校化」の二枚看板を掲げてリニューアルに打って出ました。

 

インターナショナルコースを中学・高校に設置すると同時に、化学・生物・物理科それぞれにサイエンスラボを作りました。研究室レベルの設備を揃え、教育環境の充実度をアピールしました。

 

その後2011年に「医進・サイエンスコース」を設置したところ、医学部合格者が飛躍的に増加し始めています。

 

これらの改革を主導したのが、2005年に学園長に就任した大橋清貫氏です。大橋氏は元々、学習塾の経営に携わっていた人物で、その経験から得た受験指導についての知識を、学校改革にも生かした訳です。

 

広尾学園に改称するにあたり、難関大学合格者数の目標をマニフェストとして発表するなど、大橋氏の強い発信力が奏功し、結果が出る前から優秀な生徒が集まり始めました。

 

これが、同じ頃に「共学化」「進学校化」を打ち出した他校(東京都市大付属等々力や宝仙理数インター)の追随を許さない要因となりました。

 

大橋理事長は、2013年3月に任期満了で広尾学園を退任しました。その後の広尾学園は、東大合格者数こそ数を減らしており、2017年度は6名(うち2名は推薦)、そして2018年には1名という結果となりましたが、2018年の医学部医学科合格者は38名、海外大学合格者は82名と大きく伸張しています。これは学校改革の成果だと言えるでしょう。

 

なお、大橋理事長はその後、戸板中学・戸板女子高校のリニューアルプロジェクトの準備のために同学園の理事長に就任しました。校名改称と共学化という手法は広尾学園のケースと同様で、戸板女子は2015年4月に「三田国際学園中学校・高等学校」としてリニューアルオープンしました。

 

本科の他に、医師や研究者を目指す「メディカルサイエンステクノロジーコース」や「インターナショナルコース」が設けられている点も、広尾学園の踏襲型だと言えます。

 

リニューアルしてまもなく4年を迎える三田国際ですが、人気とともに、受験偏差値もうなぎのぼりとなっています。

 

カリキュラムの見直しや入試戦略で進学校化を遂げた私立女子中学・高校

躍進私立女子①:豊島岡女子学園中学校・高等学校

豊島岡は、いまや首都圏の中学受験界において、女子御三家(桜蔭・雙葉・女子学院)に迫る勢いの進学校ですが、その成り立ちは1892年に設立された女子裁縫学校が始まりでした。偏差値は50台の半ば程度であり、現在のように優秀な受験生が集まる要素は多く見られませんでした。

 

豊島岡の立ち位置が大きく変わったのは1989年のことです。それまで豊島岡の入試は2月1日に行われていました。この日は御三家の試験が行われるなど、「中学受験の天王山」とも言える日程ですが、これを1日ずらして2月2日に変更したのです。

 

それにより1日に御三家を受けた優秀な受験生が、併願校として豊島岡を選ぶようになりました。

 

また、都内有数のターミナル・池袋という立地の良さも豊島岡に味方しました。乗り入れ路線の拡大により、以前より広範囲から優秀な生徒を集めることができるようになりました。

 

2003年からは学校改革も行い、大学受験を見据え、英語や数学といった主要な教科の時間配分を増やすなど、中学のうちに基礎学力を身につけるカリキュラムとしました。

 

また、英単語や漢字、計算の小テストをほぼ毎週行い、合格点が取れるまで再テストを繰り返すことで、学力の定着を図っています。

 

豊島岡の東大合格者数は2016年に41名を記録、女子校では桜蔭に次ぐ2位となりました。翌2017年と2018年はそれぞれ21名にとどまっていますが、基本を大切にコツコツと学習に取り組ませる豊島岡のこれからの実績にも、注目が集まっています。

 

躍進私立女子②:洗足学園中学高等学校

洗足学園は、川崎市にある中高一貫の女子校です。音大の付属校というイメージがあり、進学校という位置付けではなかった洗足学園も、2000年から国公立大受験を目指す進学校として、カリキュラムの見直しを行なっています。

 

その成果は徐々に現れ、東大合格者数は2017年に9名を数え、翌2018年にも7名を送り込んでいます。

 

また、理系学部や医学系への進学者が増加、海外大学へ進む生徒も増加の兆しがあります。改革前の中学受験偏差値が32であったことを考えれば、大躍進を遂げたと言えます。

 

なお洗足学園は、併設の小学校も中学受験指導を強化することで人気校となっており、2018年の中学受験において、男女とも御三家を始めとする難関中学に軒並み合格しています。

 

外部大学の受験指導を強化することで人気が高まる大学付属・系属校

早稲田中学校・高等学校は、校名から早稲田大学に内部進学ができる付属校のイメージを持たれがちですが、早稲田中・高は、大学とは別の学校法人により運営されており、早稲田大学への進学にあたっては、希望すれば推薦が受けられるなど、一般の受験生よりは優先的に入学ができますが、いわゆるエスカレーター式ではありません。

 

早稲田大学の付属校は、早稲田大学高等学院と、早稲田大学本庄高等学院の2校のみで、有名な早稲田実業を始め、大阪や佐賀、シンガポールにある中・高は早稲田中高と同様に系属校の位置付けとなっています。

 

早稲田から早大に進学するのはおよそ半数程度です。つまり、その他の生徒は外部大学を受験しているのですが、その進学実績の素晴らしさが同校の特徴でもあります。

 

2018年の東大合格者数は38名を数えます。1990年代にも10名程度が東大に合格していましたが、その実績がさらに伸びていることが分かります。

 

中学受験では一般的に、付属校を受験して大学まで進むか、中高一貫校を受験してその先の大学受験に挑むのかを、あらかじめ選択してから学校選びを行なってきました。

 

ですが、早稲田のように中高在籍中に自分の進路を考えることができる学校という選択肢が登場し、「お得感」のある学校として受験生の人気を集めています。

 

推薦制度があっても外部大学への進学指導を熱心に行う学校もあります。

 

例えば、帝京大学中学・高等学校などは、外部受験を前提としたカリキュラムを組んでおり、国公立や私立の難関大学を目指した指導が行われています。

 

また、学習院高等科は内部進学制度もありますが、理系学部がないこともあり、例年学年の半数程度が外部大学へ進学しています。

 

大学受験を回避できるという、これまで語られてきたメリットではなく、高校卒業後の進路の選択肢が多いという点で、今後大学の付属校や系属校の人気はさらに高まることが予想されています。それに対応して、カリキュラムの見直しを図り、受験指導を強化する学校も増加するものとみられます。

 

戦略的に作られた「偏差値マジック」に翻弄されてはいけない!

ここまで、様々な中高一貫校が学校改革やリニューアルによって高い人気を獲得した例を見てきましたが、その際人気度を測る指標として用いられるのは偏差値です。

 

新興勢力の場合、偏差値が急上昇したというニュースがきっかけで注目されるというパターンがほとんどですが、この「偏差値」は、決して鵜呑みにできないことをご存知でしょうか。

 

入試をいつ、何回行い、そしてそれぞれの入試回で定員を何名にするかによって、偏差値は大きく変動します。偏差値操作にはテクニックがあります。つまり、戦略的に入試を行えば、偏差値を簡単に上げることができるのです。

 

偏差値を上げる方法①:入試回数を増やす

1つの学校が複数回入試を行うと、当然1回ごとの募集定員は少なくなります。狭き門になるので倍率が上がり、それぞれの回で「持ち偏差値(模試での偏差値)」が高い、優秀な生徒が合格を勝ち取ることになります。これにより「結果偏差値」が上昇する仕組みです。

 

結果偏差値とは、ある学校の入試において、持ち偏差値がいくつの生徒が合格し、また不合格だったのか、それぞれのデータを積み重ねて算出したものですので、その学校に進学したかどうかは考慮されません。

 

したがって、併願校として受験したものの、結局入学しなかった生徒の持ち偏差値もカウントされています。

 

最近は、入試回数を複数回設定する学校の数が増えていますが、そのうちの1回分を「特選コース」「アドバンスト」などと名付けて、募集定員をぐっと絞っているケースが目立つのは、こういったカラクリがあるからです。

 

偏差値を上げる方法②:入試日を移動する

特に首都圏で有効な方法として、入試日を遅らせるというテクニックがあります。東京と神奈川の私立中学入試は、例年2月1日が解禁日で、それ以前には実施できない取り決めがあります。

 

そのため、2月1日午前中には御三家を含む難関中学の入試が集中しています。そこで、1日ずらして2月2日に入試を行うことで、2月1日に最難関校を受験していた優秀な生徒の併願先として選択してもらえるようになります。

 

優秀な受験生が集まることにより、結果偏差値が上昇する仕組みであり、先に述べた豊島岡もこの方法で進学校化への道筋をつけました。

 

日にちを変更することに加え、近年盛んなのは「午後入試」です。従来型の午前入試は朝9時〜12時過ぎまで行われます。そこで2月1日と2日は、試験終了後すぐに移動し、午後3時頃から別の学校を受験するという1日2校受験が主流になりつつあります。

 

2月2日と同様に、1日午前に難関校を受けた生徒たちが参戦するので、1日午後の結果偏差値は各校とも高く出る傾向にあります。この場合、入学辞退者が大量に出ることを事前に見越し、定員をはるかに上回る数の合格を出すのが通例です。

 

そして実際に入学するのは、合格した生徒たちのうちの下位層になることが多いため、結果偏差値と入学者の偏差値との乖離という問題が常につきまといます。

 

また、東京・神奈川に先立って1月から入試シーズンに突入する埼玉・千葉の私立中学も、2月1日の本命受験の「前受け」として多くの受験生を集めています。

 

中には模試のように得点を開示してくれる学校もあるなど、学校側も東京神奈川組にとって使い勝手がいい試験を心がけているようです。

 

毎年多くの受験生が殺到することで有名な埼玉の栄東では、2018年の入試出願者は男女合わせて11000名を超えました。また、試験を複数回行えば、偏差値をさらに上げることもできるため、学校側にとっても大きなメリットがあると言えます。

 

偏差値を上げる方法③:合格発表をスピーディに行う

以前は合格発表と言えば、寒い中受験校の掲示板に番号が貼り出されるのを待っていたものですが、現在の合格発表はインターネットで行われるのが当たり前になりました。

 

また、午前受験であればその日のうちに合否が分かるなど、即日で結果を確認できる時代です。中には、午後受験の結果も当日の深夜に公開する学校まで現れています。

 

午前・午後受験が可能になったことで、受験生は、これまでよりも幅広いレベルの学校を併願できるようになりました。

 

あらかじめ、同じ日に複数の学校に出願をしておき、直前に受けた学校で合格が取れていればチャレンジ校を受け、不合格だったなら安全圏の学校を受けるなど、リアルタイムの結果をもとに受験プランの軌道修正を行います。

 

この作戦を可能にするのが、インターネットによる「即日発表」です。すなわち、試験から合格発表までのタイムラグが小さい学校ほど、受験生の人気を集めることになります。

 

ライバルとかぶらない入試日程を組み、受験生親子の興味を引く広報戦略を行い、即日発表など受験生の併願プランが組みやすくなるような工夫をすると、学校側の狙い通りに志願者数が増え、偏差値が上がります。

 

複数ある入試日のうち1つでも偏差値が上がれば、学校そのものが注目され、その結果全日程での偏差値上昇に繋がってきます。

 

なお、中学受験の新興勢力は、このような「戦略的入試」を行うにあたり、明確なターゲットを定めています。それは、東京の難関大学を出た地方出身者の夫婦共働き世帯です。

 

東京出身だと、いくらカリキュラムや校名を変えたとしても、元々あったイメージが払拭できない人も多いものですが、地方出身者は東京の私立中学の固定化したイメージを持ち合わせていません。

 

そもそも自分自身が偏差値をほぼ唯一の手がかりに大学受験をしていたため、偏差値が急上昇した学校に対しポジティブな印象を持ってくれます。

 

また、地方から上京して東京の大学を卒業した人は、地元の高校で成績優秀だった人が多く、我が子の教育にも力を入れるケースが広く見られます。習い事や塾、家庭学習にエネルギーとお金をつぎ込むため、子供も優秀になり、その多くが中学受験に参戦することになります。

 

戦略的に急上昇させた偏差値は、いわば実態のない見せかけの数字でしかありません。我が子の中学受験の際には、このようなテクニックに騙されずに、学校の中身を吟味して選ぶようにしたいものです。

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