facebook Twitter Google+ はてなブログ feedly

子供の貧困、脱出の鍵は非認知能力

Pocket
LINEで送る

子供の貧困からの脱出

子供の貧困は、放っておくと日本の経済基盤を危うくしかねない問題であることが、近年の調査から明らかになってきました。

 

連鎖構造を持つ子供の貧困問題を解決するために必要なのは学力向上だけではありません。IQに関係なく個人に備わった「非認知能力」こそ貧困脱出の鍵と考えられています。子供が自立していく過程で必要とする「力」、その要素を整理して考えてみたいと思います。

 

子供の貧困問題を解決するために必要な要素は学力のみにあらず

子供の貧困問題に注目が集まり始めています。昔ながらのいわゆる「貧乏な家の子」と呼べるレベルまでは困窮していない子供も多く含まれているので、私たちのすぐ身近にも知らず知らずのうちに増えてきています。国際的な指標である「相対的貧困率」で言うなら、日本の供6人に1人が貧困状態にあります。

 

子供の貧困の原因になるのは、その家庭の経済状況です。つまり貧困状態の子供たちは、望むと望まざるとに関わらず、生まれつき貧困であるとも言えます。貧困家庭に生まれると、教育的投資を受けられるチャンスに恵まれず、その多くは、一般家庭の子供と比べて低い学歴に終わります。

 

最終学歴の低さは、その後の仕事の内容にも影響します。非正規雇用やアルバイトなど、不安定な立場で働く人の割合が高く、その結果生涯で得られる賃金も低くなってしまいます。さらに言えば、そういった環境で大人になった場合、自分の子供達にも同じような環境しか与えることができずに、貧困を繰り返させてしまいます。

 

この負のスパイラルから抜け出すのは容易ではありませんが、日本社会においてはまず子供の進学率を上げ、そして中退率を下げることが貧困脱出のきっかけになり得ると考えられています。貧困家庭に生まれた「持たざる子」にとっては、学歴は大きな武器なのです。

 

では、学歴さえあれば、人は満足いく所得を得て、社会の役に立つ人間として自立することができるのでしょうか?

 

これまで数々の調査や研究を通して、貧困の当事者だけでなく支援の現場の声も蓄積されてきましたが、問題の全体像を捉えきれているとは言えないのが実際のところです。長年の問題ではあるものの、ほとんどの研究は具体的な解決策提示にまで至らなかったからです。

 

現場で関わっている当事者ほど、問題解決の難しさを語る傾向があります。これは、子供の貧困とその連鎖という問題がいかに複雑な構造であるかを示しています。自分の見ている部分は問題のほんの一部分にすぎず、手に負えないという実感がそうさせているのです。

 

そこから見えてきたのは、子供が一人前の社会人になるために必要な要素は、学力以外にもあるということです。その内容を明らかにすることで、より効果的な貧困対策を行うことができるはずです。

 

子供は自立に必要な要素を「社会的相続」している

もし自分の親が、生活費をパチンコや競馬などのギャンブルで稼いでくるのを見て育ったとしたら、その子供は日々真面目に働いて収入を得ることの意味を理解できないかもしれません。食事や身の回りの世話をせず、昼夜逆転生活を送る親と暮らしていたら、早寝早起きの大切さは分からないままで、次の世代に伝えることもできません。

 

また、もしあなたが児童養護施設で育ち、まわりに大学に進んだ先輩が1人もいなかったらどうでしょうか?そもそも大学に進学しようとすら考えなかったかもしれません。

 

このように、将来独り立ちするために必要な「人間力」を、親と共に暮らす中で伝えられていくことを「社会的相続」と呼びます。社会的相続には、上の例にあげたような親の生活習慣や価値観の他にも、子供を養育するために費やしたお金と時間や、親を取りまく人間関係・コミュニティなどが含まれています。

 

子供が身近に接する人であれば、親でなくても社会的相続を行う可能性があります。例えば学校の先生や地域の大人、祖父母など親戚もそうでしょう。児童養護施設で暮らしている子供にとっては施設の職員が社会的相続を担うことになります。

 

このように、子供は成長する過程で親やまわりの大人から影響を受けながら、一人前の大人になる準備をしていきます。正しく受け継ぐ場合もそうでない場合も考えられますが、それはその子供を取りまく環境、とりわけ家庭の経済状況に左右されると考えられます。

 

スペインのポンペウ・ファブラ大学政治社会学部のエスピン=アンデルセン教授は「社会的相続は、所得と同等かそれ以上に重要である」と述べています。それが家庭の経済状況、つまり貧困により歪められて引き継がれているとしたら、その子供たちは、独り立ちするための「人間力」が足りないまま大人になっているということです。ここに貧困が繰り返す原因があるのかもしれません。

 

もちろん、正しい社会的相続に修正するチャンスは皆無ではありません。施設などで支援にあたるスタッフだけでなく、アルバイト等で出会う大人の助けがあれば、子供たちの社会的相続で不足している部分を埋め合わせ、一歩前に進むことができます。

 

相続とは、財産のことだけではないのです。使い切ってしまえば終わりであるお金とは違い、社会的相続は一生ものです。だからこそ、必要な子供に必要な支援を行うことが求められています。

 

自立に必要な3つの武器

社会的相続とは、子供が将来独り立ちするにあたって必要な人としての力、つまり「人間力」を伝えていくことです。その人間力は、3つの要素で構成されています。

 

自立に必要な3つの武器①:お金

一つ目は「お金」です。お金で解決できる問題もあるし、叶えられる夢もありますが、同時にお金というものは、使い方を知らなければ、自立どころか貧困からの脱却もかないません。

 

それでも貧困状態にある子供達は、十分なお金を持っていないことにより、様々な不自由な思いを味わっています。それは、欲しいものが買えないといった単純な制約だけではありません。

 

勉学の意欲があっても学費がまかなえずに進学を断念したり、進学が叶っても学費・生活費のためのアルバイトが優先になってしまうこともあるでしょう。金銭的に困窮している女子学生が水商売や風俗で働くケースも珍しい話ではありません。

 

日本では生活保護費や児童給付手当など、貧困世帯に対する社会保障給付を現金で行っています。これは実際に、資金不足が原因で進学を断念するなど、将来の自立や貧困からの脱出を諦めるケースが多いからです。

 

しかし、社会的相続の負の部分が、貧困世帯の子供の「お金と自立」との関係を歪める場合もあります。例えば、親が国や自治体からの金銭的サポートに頼って生活している姿を見て育った子供の職業観はどのように形成されるでしょうか?お金は役所でもらうものだと考える子供がいても不思議ではありません。

 

義務教育が終わってから成人するまでの間、家族と暮らせない青少年が自立を目指す家である「自立援助ホーム」という施設があります。本来は、ホームで暮らす期間を利用して給与から貯蓄をするなど自立の準備を進めるための場所ですが、もらったお給料をあっという間に使い果たしてしまう人も少なくありません。

 

将来を見据えて「これから必要になるお金を貯める」ということよりも、「いま欲しいものややりたいことにお金を使う」ことだけを優先してしまうのです。このように、月々のお給料の正しい使い方がわからないのは、歪んだ社会的相続の結果です。

 

自立に必要な3つの武器②:学力

日本は久しく「学歴社会」と呼ばれてきました。将来の安定した雇用と収入のためには、学力を身につけて学歴を残すことが必要不可欠です。

 

経済状況と子供の最終学歴には相関関係が認められます。貧困状態にある子供の暮らしの代表的な3つのパターンである「生活保護世帯」「児童養護施設」そして「ひとり親家庭」それぞれの進学状況を調査したデータを見てみると、貧困家庭出身の子供の大学進学率が低いことと、特に生活保護世帯の子供の高校中退率が高いことが分かります。

【生活状況別の進学率、中退率、就職率】
全世帯 生活保
護世帯
児童養
護施設
ひとり
親家庭
中学卒業後就職率 0.3% 2.5% 2.1% 0.8%
高等学校等進学率 98.6% 90.8% 96.6% 93.9%
高等学校等中退率 1.7% 5.3%
高校卒業後就職率 17.3% 46.1% 69.8% 33.0%
大学等進学率
(専修学校、短大含む)
73.3% 32.9% 22.6% 41.6%

(出典:内閣府「子供の貧困対策に関する大綱」)

 

最終学歴の差は収入の差に直結する部分でもあるので、行政による貧困家庭の子供の支援においても学力の向上を目指しています。具体的には生活困窮者向けの施策として、学校生活で必要な学用品費のほか給食や修学旅行にかかる費用を援助する就学援助や、学習支援事業があります。

 

学習支援事業は、自治体が生活保護の一歩手前にある生活困窮者支援のセーフティネットの1つとして行っています。主に高校進学ができる学力の確保を目的としており、個別指導、集団指導など様々な学習指導を無料で行います。

 

子供の学習のサポートだけでなく、その親の相談を受けたり助言をする場でもあります。ネグレクト家庭の子供にとっては大切な居場所ともなります。

 

平成27年4月から施行された「生活困窮者自立支援法」が支援事業の拡大に追い風となっており、モデル事業として平成26年度に184自治体が実施していた学習支援事業は、平成28年度では全体の47%にあたる423自治体が取り組むなど、順調に拡大しています。

 

とは言え、学習支援を行ったから貧困家庭の子供がきちんと自立するという保障はありません。自治体の無料塾などの主な対象は中学生であり、支援事業が目指すところは高校進学率の改善だと分かりますが、同時に中退率も改善しなければ本当の意味での「子供の貧困」問題の解決には至りません。

 

先ほど紹介した、経済状況別の学歴データを改めて見てみましょう。確かに高校卒業が雇用の安定と一定の所得に必要ではあるものの、データ上は経済状況ごとの高校進学率にあまり違いはなく、むしろ中退率に大きな差があります。

 

政府は大きな財源を投入して2010年から高校授業料を無償化しました。2014年の4月からは所得制限を設けて低所得者をより優遇する内容に改正、私立高校に通う貧困家庭に対する学費補助が増額されています。この改正により、高校進学を希望する貧困家庭の子供の選択肢が増えることにもつながっています。

 

国からのサポート体制も充実していく中、なぜ貧困家庭の子供の中退率は改善されていないのでしょうか?中退の理由が「家庭の経済的な事情」以外にあるということではないでしょうか?支援によって学力レベルを上げ、学費補助を行ってもなお中退の道を選ばざるを得ないのはいったい何故なのかを考えてみたいと思います。

 

自立に必要な3つの武器③:非認知能力

文部科学省は2017年3月に、次期学習指導要領を発表しました。小学校では2020年度、中学校では2021年度からそれぞれ実施される予定ですが、テーマに掲げられているのは「生きる力」です。

 

「生きる力」とは、産業や社会の構造が大きく変わる可能性をはらみ、予測が難しい将来を生きる子供たちが、変化に柔軟に対応していける生き抜く力のことを言います。

 

この「生きる力」に必要な能力は、

①働くために必要な知識やスキル

②変化に柔軟に対応できる思考力や判断力、コミュニケーションスキル

③人生を豊かにし、また社会に還元するための知識欲

であり、3つの要素をバランスよく身に付けることがポイントだとされています。お金と学力だけでは実現できない子供の自立のヒントがここにありそうです。

 

「生きる力」を理解する上で参考となる「ぺリー就学前プロジェクト」と呼ばれる有名な研究があります。

 

1962年から67年にかけアメリカのハイスコープ教育財団は、所得が低く、満足な教育機会に恵まれないと思われるアフリカ系アメリカ人家庭から集めた3~4歳の子供123人を、2年間の幼児教育プログラムを受けるグループと受けないグループの2つに分け、その後の効果測定を行いました。効果測定は、約50年の長期にわたり現在も継続して行われています。

 

この研究で明らかになったのは、幼児教育はその人の生涯にわたり大きな影響を与えるということでした。

 

教育プログラム期間中である5歳時点でのIQ(知能指数)が90以上だった子供の割合、また成長過程である14歳時点の学業達成度にも差が生まれましたが、40歳時点での雇用者比率や年間所得にも大きな差がつくなど、大人になってからの経済状況にも影響を持ち続けていることが分かります。

ペリー就学前プロジェクトにおける40歳時点での主な調査結果

 

ここで注目したいのが、ペリー就学前プロジェクトで教育プログラムを受けたグループ、受けなかったグループそれぞれのIQの推移です。

 

プログラム開始後2つのグループのIQスコアは乖離を始め、差が広がっていきますが、5歳をすぎるとその差が縮まり始め、8歳の時点ではスコアの差はほとんどなくなっていることが分かります。これは、幼児教育プログラムを受けたからといって、長期にわたり知能指数を高めることはできない、ということです。

ペリー就学前プロジェクトにおけるIQの推移(男性)ペリー就学前プロジェクトにおけるIQの推移(女性)

 

つまり、IQに大差がないにも関わらず高校卒業に至った要因は、学力ではない「何か」ということになります。これこそが「非認知能力」です。

 

非認知能力とは、目標達成に向けた「意欲」や「計画性」、他者と協力するため必要な「協調性」や「共感力」、そして自分をコントロールできる「忍耐力」や「粘り強さ」など、IQとは関係なく個人に身についた特性のことを言います。算数や国語など教科の勉強を理解する力である「認知能力」の対極にある言葉でもあります。

 

文部科学省が発表した次期学習指導要領の骨子でもある「生きる力」と非常に近い考え方であり、この言葉に注目が集まる中、ペリー就学前プロジェクトから導き出された非認知能力の大切さにも改めてスポットライトが当たっています。

 

非認知能力が注目されているのは、もちろん日本だけではありません。ペンシルベニア大学心理学部教授のアンジェラ・リー・ダックワース氏は、人生の成功を決定づける究極の能力は、IQ、身体能力、容姿などではなく「Grit(グリット:やり抜く力)」であると結論づけました。

 

彼女の著書「やり抜く力」は全米でベストセラーを記録し、TED Talksで見ることができるプレゼンテーションの視聴回数は1000万回以上となっており、非認知能力が人間の自立や成功に及ぼす影響についての関心の高さが伺えます。(※動画再生はデータ通信量が大きいため、スマホ等での視聴はWi-Fi接続をおすすめします)

※TED:Technology Entertainment Designの略で、非営利団体によって運営されているスピーチフォーラム(WEBサイト:https://www.ted.com/)。スピーチや会合を通じて優秀なアイデアを世界に広め、人々を繋げるのが目的で、TED Talksはネットで配信する無料動画プロジェクト。

 

日本の子供の貧困問題に話を戻しましょう。貧困と定義される家庭の子供の中で、高校進学をしても卒業に至らずに中退してしまう子の割合が高いというデータを先ほど紹介しました。学習支援や金銭的援助を充実させてなお高いままの中退率の背景には、この「やり抜く力」が足りていないと考えられています。

 

所得が低い家庭で子供が育つ中では、親や周りの大人から「やり抜く力」を教わる機会が乏しく、したがって自分の身にもつかないのではないか、と考えられています。社会的相続を通じて、成功の鍵ともいえる「やり抜く力」が正しく伝わっていないということは、貧困家庭の子供にとって自立を妨げる大きな要因となります。

 

例えば、職を転々としたり、欲望に負けてギャンブルで散財する親の背中を見て「やり抜く力」を身につけられる子供はほとんどいません。また、子供自身が学校をさぼりがちになったとしても、学校に行くよう声をかけるなどしっかり向き合ってくれる大人が身近にいなければ、状況は改善しません。

 

家庭環境に恵まれず、必要な社会的相続が行われないと、子供の健全な成長と自立が望めなくなってしまいます。

 

貧困家庭の子供の高校中退率が高いのも「やり抜く力」の不足が根底にあるのではないでしょうか。「やり抜く力」の社会的相続がうまく行かなかった結果、多くの子供がせっかく入学した高校を卒業するために努力してやりとげる、ということができない現状があると専門家は考えています。

 

とは言え、家庭環境に問題があっても、社会的相続を代わりに行ってくれる大人との出会いがあれば、自立への道を修復することができます。たとえ一度足を踏み外したとしても、その先に出会う支援者の影響を受けることで、人生に夢や目標を持ち、そこに向かってやり抜くことを学び、人生を変えることも可能です。

 

「やり抜く力」は社会的な成功の鍵でもあります。困難があっても諦めず、最後までやり遂げ成果に結びつけることは周りの人の信頼も勝ち取ります。その積み上げは自分の評価をアップさせ、そして給与に跳ね返ってくるはずです。この「やり抜く力」に代表される非認知能力が、子供の自立と貧困からの脱出に必要なのです。

 

エリクソンのライフサイクル論で子供の自立を整理する

子育てに関わっている人なら、子供が生まれてから自立するまでにはいくつものステップがあることを理解していると思います。

 

首も座らない状態で生まれてきて、自分で食事ができるようになるまで数年かかります。その後も周りの大人から様々な助けを受けながら、徐々に一人前の大人へと成長していきます。子育て経験がなくても、自分の子供の頃を振り返れば思い当たる点があるでしょう。

 

この成長の諸段階を、時間軸である「発達段階」と「周りの環境・関わる大人」という要素で整理したのが、アメリカの発達心理学者で精神分析家のエリク・H・エリクソンです。「アイデンティティ」という概念を生み出したことでも世界的に知られるエリクソンが定義した「ライフサイクル論」は、現在でも人の発達を考える上で重視される理論です。

 

社会的相続がどのように行われ、子供は自立に至るのかを、エリクソンのライフサイクル論に当てはめて考えていきたいと思います。なお、ここでは目安として年齢を記載していますがあくまで参考です。大切なのは年齢ではなく、それぞれの要素を段階ごとに身につけて成長することです。

 

① 乳児期(0〜1歳):基本的信頼を身に付ける時期

この時期、赤ちゃんは主に母親との一対一の関係を通して、一体感と絶対的な信頼感を経験します。ミルクを与えられ、おむつを替えてもらうなど身の回りのお世話をしてもらい、他人からありのまま受け入れてもらう安心感は、周囲の人との信頼関係を築く基礎になります。

 

この段階で十分に基本的信頼を身につけられないと、基本的不信が芽生え、他人をなかなか信頼できない大人になってしまいます。

 

乳児院にいる子供と里親とのマッチングが不調に終わる原因は、その子供が乳児期に虐待を受けたり、世話をしてくれる大人との濃密な関係が得られなかったなど、基本的信頼が持てなかったケースが考えられます。

 

もちろん親以外の他人であっても、社会的相続は補うことができます。一度道から外れたとしても、信頼できる誰かとの出会いによって自立への道を再び歩むことは可能です。ですが、この基本的信頼を持っていない子供は容易に他人を信用できません。そのことが障害になり、コミュニケーション能力や社会性を持てないままの子供は数多くいます。

 

つまり、乳児期に基本的信頼を身につけておけば、その後の成長段階で親の愛情を受けられないことがあっても、第三者の助けで自立に向かいやすいということになります。

 

② 幼児前期(1〜3歳):自律性を身に付ける時期

この時期の子供は全身の運動機能が発達し、歩けるようになるなど、自分の意思で行動するようになります。母親などこれまでお世話をしてくれた大人から離れて行動することが徐々に増え、自分と他者との区別がつくようにもなります。

 

手先が器用になってくるので、紙をちぎったりクレヨンで殴り書きをするなどの一人遊びも、この時期の子供には楽しい経験です。また食事面では遊び食べといって、わざと食べ物を床に落としたりコップに手を突っ込んだりする頃でもあります。これらは、自分の行動の結果や、周りの大人の反応を確かめるためにやっているとも言われます。

 

またこの段階の子供にとっての最大の試練とも言えるのが、トイレトレーニングでしょう。排泄の感覚を覚え、自律的にコントロールすることで子供はおむつを卒業します。トイレトレーニング中は成功と失敗を繰り返すものですが、その中でうまくいけば褒められ、失敗したら少し恥ずかしい思いをしながら子供は少しずつ前に進んでいくのです。

 

いずれのケースでも、親としては、なんでも試したいこの時期の子供を見守り、たとえ失敗に終わったとしても頭ごなしに叱らないことが大変重要です。

 

親が過干渉になったり、失敗をあまりに厳しく叱ってしまうと、自分に自信が持てなくなるだけでなく、「失敗してしまうのではないか」「馬鹿にされるのではないか」と周囲に対する疑いの気持ちも芽生えさせてしまいます。

 

些細なことで親が暴力を振るう家庭に育った子供であれば、「失敗したらまた殴られる」との思いが強くなり、夢に挑戦する気持ちを育てることはできないでしょう。それどころか、親の暴力を恐れるあまり正しい判断ができなくなることすら考えられます。

 

③ 幼児後期(3〜6歳):積極性・自主性を身に付ける時期

この時期の子供は、様々な遊びを通して多くのことを学びます。おしゃべりが達者になってくるこの頃、一般的には幼稚園や保育園に通い始めます。したがって行動範囲が広がり、集団遊びにより他者との関わりが増えてきます。

 

例えば鬼ごっこやかくれんぼなど、ルールを守ってみんなと遊ぶこと、順番を守ってブランコ遊びをすること、そして役を割り当てておままごとをすることなど、この時期の遊びを通して、子供は社会生活に不可欠なルールやきまりを守ることを学んでいきます。

 

友達と一緒に楽しく遊ぶためにはルールを守るべきだと理解し、また、自分のわがままを押し通すと友達はどんな気持ちになるかを想像できるようになり、自分で自分の行動に責任を持つようになるのです。

 

この段階で正しい社会的相続が行われないと、社会のルールを守るのが当然だという良心が持てないだけでなく、犯罪を犯したらどんな影響があるのかという想像力も働かないので、犯罪へのハードルが下がってしまいます。

 

④ 学童期(6〜11歳):勤勉性を身に付ける時期

この時期の子供の生活の中心は徐々に、家庭から小学校へと移っていきます。小学校では、様々な教科の勉強だけでなく、スポーツや芸術、学校の活動などを通して多くのことを学びます。その中から自分の好きなもの、得意なものを見つけていきますが、同時に苦手なものや不得意なことにも出会いながら自分の能力を高めていきます。

 

学んだことにより成果をあげたい、評価され認められたいという思いが育つのもこの時期です。やってみたいと思ったことだけが尊重される時期は終わり、能力の向上のために努力することを身につけていきます。それぞれが興味のあることを見つけ、目標に向かって挑戦する経験が不可欠となります。

 

その経験を通して自分自身が頑張ったという思いを持ち、同時に努力を評価されることで自己肯定感を育むことができないと、劣等感ばかりが大きくなってしまいます。自分のやりたいという気持ちよりも「どうせ自分には無理」という思いが大きくなってしまうかもしれません。

 

それぞれの段階で身につけるべき要素がすべて、非認知能力とされるものである点に注目するべきでしょう。

 

子供の貧困問題解決のための客観的データと効果検証が不足している日本

子供の貧困問題を解決するためには、お金や学力といった目に見える力を与えるだけではうまくいきません。親世代から子供の世代に受け継がれる価値観など、中でも「非認知能力」という学力で測れない個人の「生きる力」を伝えていくこと(社会的相続)が必要になります。

 

そして社会的相続は、成長の途中段階で親以外の第三者との正しい関わりを通して補うこともできることが分かってきました。

 

ただし、このことを実証する研究はまだなく、あくまで推論の域を出ません。第三者の力を借りても、正しい社会的相続を行うことで、貧困家庭の子供の自立への道は開けてくる「だろう」ということに過ぎません。

 

では、現在政府が行っている子供の貧困対策はデータの裏付けがあるのでしょうか?答えはNOです。支援の中心は生活保護や児童扶養手当となっており、現金支給に重点を置いていますが、客観的な研究データに基づいた施策ではなく、また現行の貧困対策に関して効果測定も行われていません。

 

日本ではまだ、子供の貧困問題の構造を体系化して解決策を講じることが十分にできていません。さらに今実施されている貧困対策のコスト対効果の測定など、検証もなされていないのが実情です。他国の研究事例などを基に、子供の貧困問題解決に本腰を入れる段階にきているのではないでしょうか。

Pocket
LINEで送る

このページの先頭へ