子供の成長に必要な遊び、おもちゃ
昨今、人気のキャラクターに関連したおもちゃが子供たちの間で流行しています。仮面ライダー、ベイブレード、プリキュアに、ポケットモンスター、アンパンマンなど。また、ニンテンドースイッチやプレイステーションなどのゲーム機器に、子供同士で夢中になって遊んでいる姿もよく見かけるのではないでしょうか。
でも、「果たして子供の教育に良いのだろうか」「どのようなおもちゃや遊びが今後の成長に最適なのか」「何歳くらいから本格的に教育につながる遊びを教えたらいいのか」と悩んでおられる方もいらっしゃるかと思います。では、その不安を解消するためにも、いつからどのような遊びを子供と一緒に行っていけばいいのかを見ていきましょう。
急成長する時期に五感を使って遊ぶ
「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」ことを五感と言います。成長にはこの五感が肝心です。大人の場合でも一般的に、五感を磨くことで感性が研ぎ澄まされると言いますが、まだ脳内がまっさらな状態の赤ちゃんの場合ならなおさらのことです。
赤ちゃんから成長していく過程でどのように五感が使われていくのかというと、まずは「母乳を飲む」という行為から始まります。おっぱいを「触り」、母親の香りを「嗅ぎ」、ミルクを「飲み(味わう)」ます。
次第に周りの物に興味を持ち、例えばぬいぐるみを握ってみたり、噛んでみたり、ペットなどの動くものをじっと見つめたり、ガラガラなどの音の出る物に反応したりします。生後2か月を過ぎてから、興味があちらこちらへと広がり始めます。
脳が急成長するのはその後3歳くらいまでであり、その間に子供の五感をフルに活かしてあげることが子供の脳の活性化につながります。ですから、この時期に「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」行為を沢山させてあげましょう。
例えば、「触ると痛い」「味わうと苦い」「嗅ぐと臭い」など、いわゆる人間にとって不快なことを沢山覚えるのもこの時期です。不快だと感じることは危険を察知することでもあるので、人間として生きていくうえで重要なことを学ぶ時期でもあります。
この時期に、五感を使う・使わないということは、脳の活性化や後々の成長にも深く関わってきます。ですから子供を持つ親御さん方は、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」ことを積極的に子供に経験させることが大切です。
子供が「面白い」と感じる遊びをする
赤ちゃんが産まれる前から教育をする「胎教」というものがありますが、それと同じように、赤ちゃんが産まれて少し成長すると、早々に「何かを教えないと」と、焦ってしまい、いわゆる英才教育に走ってしまう親御さんがいらっしゃいます。
主に多いのが「英語」です。確かに海外からの観光客の方も増えましたし、昔に比べて海外に行く機会も増えました。ましてや、英語を社内公用語とする企業、英語を入社や昇進試験になどに課す企業も現れてきた昨今、英語を早く習得させたいという気持ちもおありかと思います。
親御さんが海外勤務の場合や、親御さんのどちらかが英語圏出身の方の場合、日常で英語を使う必要性があるわけですから、自然と慣れ親しみますし、英語を話す環境にいるので自然と英語を覚えることでしょう。
しかし、親御さんが日本在住で、かつ日本人の場合、英語を話す必要性がない場合、子供は果たして英語をすんなりと覚えることができるでしょうか。子供が英語に興味を持った場合は良いですが、興味を持たなかった場合、それは親御さんのエゴにすぎなくなってしまいます。
これは遊びやおもちゃにおいても同じことが言えます。大人が良かろうと思って提案した遊びでも、子供は興味を持たないかもしれません。あくまでここにおける主人公は「子供」なので、子供が主体性を持って動きたくなる「遊び」につきあったり、「遊べる」環境作りをしたりすることが大切です。
要は子供が能動的に遊べるか=楽しんで遊んでいるかどうかが、脳への刺激になり、脳の成長につながります。ですから、普段の生活で子供とコミュニケーションをする中で、子供が楽しそうにしていることが何かを気づいてあげましょう。
それは食事や買い物、旅行や散歩を一緒にしている中でも見つけられるはずです。子供が「興味をもった」「楽しい」「面白い」と思うことをさせることは、能力の成長の糧にもなりますので、すすんで一緒に取り組んであげるようにしましょう。
全身を使って遊び、色々な経験をさせる
TwitterやLINE、FacebookやInstagramなどのSNSが流行しています。昔は直接会って話をしたり、電話をしたり、日記や手紙を書いたり、写真を現像したりしていたことが、スマートフォンの出現や情報ネットワークの急速な発展により、一気に簡単で便利になりました。
また、交通手段の発達、自動車の普及、電化製品の高機能化も進み、ますます私たちの生活は暮らしやすいようになってきました。さらには、交通の要所として便利な駅付近には高層マンションやショッピングモールが建ち、住まいも快適になっています。
しかし生活が便利になりすぎたために、その弊害が私たちの体に現れてきています。
例えば、あまり歩かなくなったこと・どこでも仕事ができるようになったこと・体を動かす場面が減ったこと、などにより運動不足を引き起こし、男性では「メタボリックシンドローム」になっている方が増え、女性では筋力が減少する「ロコモティブシンドローム」になっている方が増えています。
これは大人だけの話ではありません。子供にも同様のことが言えます。学校が終わるとすぐ習い事に行き夜遅くまで帰られないので、体を動かす時間がない。自由に遊べる公園などの場所が減ってしまったので遊べない。高層マンションに住んでいるので、外に出るのがおっくうになってしまった。
このようなことにより子供も体を動かす機会が減り、身体能力の低下が危惧されています。昔は広い公園もあり、毎日習い事に行くこともなく、基本的に1戸建ての家が多かったので、家の階段を何回も上り下りしたり、家に帰ったらすぐ外に出て走り回って、夜には疲れてぐっすり眠ってしまうくらい遊んだものです。
しかし現在の、体を動かすことの少ない子供の体の様子を見てみると、少し驚いてしまうようなことが起こっています。
例えば、かがむ・座ることができても、足首の筋肉が固くなってしまっているので、つま先からかかとまで、足の裏全部を地面につけてかがむことができない。スマートフォンやゲームを使いすぎる・姿勢が悪いまま勉強を続けてしまうことで猫背になったり、そもそも背筋や腹筋が鍛えられる機会がないので、まっすぐな姿勢を維持できないでいたりします。
また、鉄棒・うんてい・ジャングルジムで遊ぶ、ボールを掴んで遊ぶ運動も減ったからなのか、握力が低下している子供も増えています。ですから、鉛筆も芯が柔らかい物でないと字が書けない、ペットボトルのキャップや缶詰・瓶物のフタが開けられない、など日常生活において支障をきたすような状況になっています。
これでは親御さんは、子供が今後どのように育っていくのか、何をすればいいのか、大人になった時、普通に暮らしていけるのか、色々と不安になられることだと思います。しかし、大丈夫です。不安に思われることはありません。今からでも、身体能力をアップさせることは十分にできます。
身体能力を上げるコツは、ただ一つだけ。全身を目いっぱい使って子供に遊ばせればいいのです。手足をしっかり使って遊ばせる。これが当たり前のように見えて大切なことです。
年配の方の老化防止対策として、「手」を使うと痴呆になりにくいとよく言われますが、まさにその通りで、「手」を動かすことは脳を活性化させます。「手は外部の脳」といわれるほどです。手を動かせば動かすほど脳に直接刺激がたくさん伝わります。
また、足も然りです。ヒトは進化の過程で二足歩行になり、「人間」になりました。そして足も発達するに従い、脳も発達していきました。つまり、足と脳にも密接な関係があるのです。
一般的に、しばらく寝たきりになってしまうと、体の色々な部分が衰えてしまうように、足を動かすことは手を動かすこと同様にとても大切です。特に足は体の根幹を支える重要な器官ですから、鍛えることによって体の動きも強化されます。
手も足も五感のうち「触れる」ことをする器官です。「肌感覚」という言葉があるように、直接肌で「触れて」その感覚を感じることで覚えることも多々あります。手足をたくさん使って体を動かすことは、身体能力の向上、そして脳の成長にも大変効果的です。
実際に体感することの大切さ
「肌感覚」はまさに直接肌で感じる「体感」ですが、この「体感」能力が全体的に下がってきていることを危惧している方がいます。それは、国内外問わず多くの熱狂的なファンを生み出し、今でも愛され続けている「機動戦士ガンダム」」の作者である富野由悠季氏です。
富野氏曰く、アニメーションの世界においても「体感」を感じられるアニメーションが少なくなってきているとのこと。それはなぜかと言いますと、現在アニメーターとして働いている方が、実際に体を目いっぱい使って遊んだことがないことが理由であると考えられています。
肉体的感覚がわからないまま「動き」を表現すると、アニメーションがどうしても二次元的になってしまい、「肉感的な厚み」がないものになってしまうと話されています。同様のことを「となりのトトロ」などの作者である宮崎駿氏もおっしゃっています。
自身が「走ったり」「転んだり」「飛んだり」「よじ登ったり」「こけたり」した経験がなくても、それらの動作はパターン化されたものが既にあり、かつ想像で描けるわけです。いわば、私たちが難しい漢字を書けなくても、パソコンやスマートフォンが勝手に変換して書いてくれることと同じです。
つまり、経験がなくてもうまくこなせてしまう。しかし、実際に自分で経験したことではないので、リアリティに欠けたアニメーションになりつつあることを両氏は嘆いておられるのです。
日本のアニメ文化は「クールジャパン」として、多くの作品が海外で高い評価を得ています。それは、人間的であり、リアリティを伴ったアニメーションであることに魅力があるからです。私たちはこの素晴らしい文化を伝え続けるためにも、実際に「体感」する能力を大切にしていくべきでしょう。
おもちゃは時に子供の成長を阻害する
冒頭でお話ししましたが、人気のキャラクターに関連したおもちゃが子供たちの間で流行していますし、最新のゲーム機器に夢中になっている子供もいます。大人でさえ夢中になるものもあるほどですから、子供ならばなおさらです。
企業も子供に興味を持ってもらえるよう、マーケティングや戦略を立て、新しく・性能が高く・デザイン性が高いおもちゃを次々と市場に投入してきます。子供は新しいものに興味を持ちますし、それは悪いことではありません。
では、おもちゃが高度な進化をし続けている中、子供の体はどのような変化を遂げているのでしょうか。
例えば、ゲームに夢中になっている子供は外で遊ぼうとはしませんし、人気のキャラクターのおもちゃで遊んだとしても、すでにストーリーが出来上がっており完成度も高いので、それ以上何かを付け加えたり、イチから自らおもちゃを作って遊んだりということにはならないでしょう。
昔は、ままごとや人形、怪獣のフィギュア、ミニカーなどのおもちゃがありましたが、自分たちでルールやストーリーを色々と考えて遊んだものです。自分は「○○役」になりたいのに、友達も同じ役になりたくてケンカをした、ということもあったのではないでしょうか。
しかし現在は、子供たち自身が想像するまでもなく、ほぼ完ぺきにおもちゃにはストーリーが作りこまれており、何も手を加える必要がない「完成形」のおもちゃが多く存在します。
つまり、おもちゃに全てを委ねてしまっているので、子供が自ら体を動かして遊ぶ機会も減り、そもそもの「想像・創造して遊ぶ」という力が落ちているのではないかと考えられます。
手足を使うことが脳を大きく刺激すること、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」の五感が脳を活性化し、成長にもつながるとお伝えしました。上記のような現状の子供の遊びと照らし合わせてみますと、脳が大きく刺激を受けて活性化する機会が少なくなっているように見受けられます。
このままですと子供は、受け身で・体を動かさない「遊び」に慣れてしまい、考えたり・動いたりすることが嫌いになりかねない状況になってしまいます。子供をそのようにさせないためにも、自ら考え・自ら動く「遊び」をさせることが必要です。
これは何も難しいことではなく、例えば「色鬼」のようにルールを作って鬼ごっこをしたり、縄跳びで新しい飛び方に挑戦したり、サッカー・草野球・ドッチボールをしたり。川遊びで魚を捕ったり、昆虫を捕まえて観察したりと、とても簡単なことです。
子供が体と五感を自由に働かせ、楽しく遊ばせることが子供の成長には不可欠なのです。