子どもの身長がどこまで伸びるか計算で分かる!?最終身長を予測する方法と注意点
近年、子どもの将来の身長(最終身長)に関する研究が進み、ある程度の精度で予測ができるようになっています。どのような方法で将来の身長予測ができるのか、また、予測する際の注意点などについて、詳しく見ていきましょう。
高身長になりうる子どもを選び出す
平成17年、日本バレーボール協会では、全国から将来身長が175cm以上になりそうな中学生の女子十数人を選抜し、将来の全日本女子チームのセッター候補として養成を始めました。
全日本女子バレーボールのセッターと言えば、159cmの小柄な身長ながらそのポジションで頑張っていた竹下佳江選手などが思い浮かびますが、身長の低い選手が、高身長の外国人選手のスパイクをブロックするのは困難なのが現状です。
また、アメリカや中国といったライバル国が、将来身長が高くなる可能性のある子どもを集めて、集中的に育成を行っているといった状況に危機感を抱き、身長の高いセッターとなりうる選手を養成しようと考えたのです。
日本バレーボール協会では、身長が2m近い相手をブロックすることもできるようにと、180cm以上あるセッターを養成したい意向で、選抜の時点で身長が170cm以上、足の大きさは26cm~27cm、そして父親も母親も身長が高いことを基準に選手を選抜しました。
アメリカや中国などでこうした選抜を行う際には、選手の手の骨をレントゲンで撮影し、そこから将来の身長を予測するという技術が使われています。日本バレーボール協会では、この技術による将来の身長予測は使われていません。
中国のように、将来身長が高くなると思われる子どもたちを幼い頃から選んで、ずっと練習を重ねられたら、今の日本のやり方ではとうてい追いつけないというのが、こうした危機感の背景にあるようで、将来的には中学生ではなく小学生の頃から選抜を行う必要があるのではないかという意見もあるようです。
最終身長を予測する方法は主に3種類ある
成長期が終わり、これ以上身長が伸びなくなった時の身長を「最終身長」と言います。医学的には、1年間の身長の伸びが1cm未満になった時の身長と定義されています。
最終身長となる平均年齢は、男子で17歳、女子で15歳というのが、文部科学省「学校保健統計調査」などから分かります。
最終身長は、思春期のタイミングなどに影響され、思春期が早く始まる人もいれば、遅く始まる人もいるため、上記はあくまで平均年齢で、実際は最終身長となる年齢は個人差が大きいのが現状です。
従って、最終身長を正確に予測するのは困難ですが、ある程度の目安を把握する方法は存在し、以下の3種類が代表的な方法です。
①標準身長曲線から最終身長を予測する方法
②両親の身長から最終身長を予測する方法
③手のレントゲン写真から最終身長を予測する方法
最終身長を予測する方法①:標準身長曲線から予測する
同年齢の人をたくさん集めて身長を測定すると、その測定値は正規分布となることが分かっています。従って、身長の平均値と標準偏差の間に「68%、95%の定理」が成立します。
やや数学的な話になりましたが、自分の身長はどの程度高い(もしくは低い)グループに属し、全体の何パーセントぐらいが同じグループなのかというのが分かります。
※正規分布、標準偏差については、中学の数学で習いますので、忘れた方は中学の数学の教科書を再確認いただければと思います。説明すると長くなりますので、ここでは割愛します。
この統計的事実を年齢毎にグラフ化したものが「標準身長曲線(身長の横断的標準成長曲線)」で、これを使うと将来の最終身長が予測できます。
標準身長曲線を用いて最終身長を予測する方法を、具体例で見ていきましょう。例えば、「現在5歳6ヵ月で、身長113cmの男子」の最終身長を予測するとします。男子の標準身長曲線に、「5歳6ヵ月、113cm」の所に印を付けます。
すると、「平均~+1.0SD」のグループに属する(平均の線と+1.0SDの線の間に位置する)ということが分かります。
前述の通り、男子の最終身長となる平均年齢は17歳ですので、「17歳の平均~+1.0SDのグループ」を確認すると、最終身長は「170.5cm~176.5cm」になると予測できます。
最終身長を予測する方法②:両親の身長から予測する
身長は遺伝が影響する部分もあります。必ずしも遺伝で最終身長が決まるわけではありませんが、遺伝的要因が全く関係ないわけでもありません。
一般的に、両親の身長が高いと子どもの身長も高くなる傾向があり、両親の身長が低いと子どもの身長も低くなる傾向にあります。
この事実を基に、両親の身長から子どもの最終身長を予測する計算式が存在し、それが以下になります。
・男子の最終身長=(父親の身長(cm)+母親の身長(cm)+13)÷2
・女子の最終身長=(父親の身長(cm)+母親の身長(cm)-13)÷2
例えば、「父親180cm、母親164cmの男子」の最終身長を予測するとします。上記計算式に値を代入すると、(180+164+13)÷2=178.5cmとなり、最終身長は178.5cmになると予測できます。
最終身長を予測する方法③:手のレントゲン写真から予測する
手のレントゲン写真から将来の最終身長を予測する方法は、1962年にイギリスで確立されたものです。もともとは、イギリスのプリマドンナが、自分の娘をバレリーナにしたいと思い、身長がきちんと伸びるのかを知りたいと考えたことが発端です。
手のレントゲン写真から最終身長を予測するには、骨が成長するポテンシャルを確認することによって行います。
子どもの骨は、骨の端が成長層(軟骨層)になっており、それが成長するにしたがって大人と同じ骨になっていきます。
そのため、子どもの手の成長層(軟骨層)の状態がどのようになっているかというデータをたくさん集めることにより、骨があとどれぐらい伸びることができるかを統計学的に算出することができます。
この研究によって、手の軟骨から骨の成長が止まるまでの予測を行える「TW2法」という手法が確立し、手のレントゲン写真からおおよそ±3cm弱の誤差で、将来の最終身長が予測できるようになりました。
この時集められた子どもの骨のデータは、すべて欧米人のデータであったため、人種が違う日本人に適用するために修正する試みが行われました。
この試みは、最初は矯正歯科で撮影された顎の骨の画像データを利用して行われましたが、事例が少なかったため精度が低いものでした。
その後も研究は続けられ、2001年に日本人にマッチした精度の高い「TW3法」という予測方法が開発されます。これにより、日本人にあった最終身長の予測ができるようになりました。
例として、男子4歳~9歳、女子4歳~6歳での最終身長の予測式が以下になります。
・男子の最終身長=現在の身長(cm)+97-6×年齢
・女子の最終身長=現在の身長(cm)+85-6×年齢
この式では、誤差±4cm程度の範囲で将来の最終身長を予測することができます。年齢の部分には、例えば年齢が5歳6ヶ月であれば、「5.5」のように数字を当てはめます。
年齢が低い段階では、レントゲン写真を使った精密な予測とそれほど変わらない結果が得られることが分かっています。
子どもの最終身長を予測する際の注意点
最終身長を予測する際の年齢の目安は4歳~9歳
最終身長の予測精度を上げるには、予測する時の子どもの年齢がキーとなります。具体的には、4歳~9歳あたりの身長から、最終身長を予測するのが妥当です。
これよりも時期が早いと、栄養状態など様々な要素が影響してくるため、最終身長を予測する時期としては適していません。逆にこれよりも時期が遅いと、思春期が始まっている場合もあるため、こちらも予測時期としては適していません。
実際、小学校入学・低学年の頃に身長が高い子どもは、成人しても身長が高く、逆に小学校入学・低学年の頃に身長が低い子どもは、成人しても身長が低い傾向にあります。
最終身長は思春期のタイミングに大きく影響する
前述の通り、最終身長は思春期のタイミングに影響します。思春期には性ホルモンの働きにより、身長が急激に伸びますが、骨が成熟し骨の成長を止めるメカニズムも働くため、ある程度期間が過ぎると身長の伸びは次第に止まってきます。
従って、思春期が早く始まると、身長が大きく伸びる時期が周りの子どもよりも早く訪れますが、身長の伸びは早い段階で止まってしまい、最終身長は高くならない傾向にあります。
逆に、思春期が遅く始まると、身長が大きく伸びる時期が周りの子どもよりも遅く訪れますが、その分身長の伸びが止まるのも遅くなるため、最終身長が高くなる傾向にあります。
思春期に入らなくても、身長はある程度伸びていますので、思春期に入る前にどのくらいの身長であったかが、最終身長には影響するのです。身長が十分伸びる前に、思春期に入ってしまうと、最終身長が低くなる傾向があるのは否めません。
思春期のタイミングは、個人差が大きいですが、一般的には両親に似る傾向があります。
1つの予測方法で判断しない
予測は、あくまで予測で、1つの目安です。予測で得られた最終身長と実際の最終身長が、それほど差が無い場合もありますが、逆に大きく異なる場合もあります。
具体的に、予測身長と実際の最終身長が大きく異なったケースを見てみましょう。現時点で予測身長も実際の最終身長も分かる必要がありますので、「両親の身長から最終身長を予測する方法」を使用します。
益子直美氏(元全日本女子バレーボール選手)の予測身長と実際の最終身長
本人:175cm、父親:170cm、母親:164cm
予測身長=(170+164-13)÷2=160.5cm
益子直美氏の予測身長は160.5cmに対して、実際の最終身長は175cmと+14.5cmも差があります。他にも、中田久美氏(元全日本女子バレーボール選手)は+17.5cm、中迫剛氏(空手家)は+17.5cm、藤波辰爾氏(プロレスラー)は+16cmなど、予測身長と大きく異なります。
このような場合も起こりえますので、予測する場合には、1つの予測方法の結果を信じるのではなく、いくつかの予測方法を組み合わせて活用する方が、精度も高くなりますし無難かと思います。
子どもが低身長で心配な場合は、専門医に一度相談してみる
まず、繰り返しになりますが、最終身長の予測は、あくまで1つの目安です。それを踏まえた上で、いくつかの予測方法で算出した予測身長が低すぎる場合や、現在の身長が平均よりも明らかに低すぎる場合などは、病気の可能性も考えられます。
心配な場合は、専門医(小児科、内分泌内科、低身長専門医院)に一度相談してみるのが無難です。治療が必要な場合、骨が大人の骨になってしまうと手遅れですので、早い段階で相談するのがベターです。
ただし、低身長の子どもの7~8割は病気ではありません。身長が低いから病気と、思い込んだり慌てるのではなく、冷静な判断が必要です。
将来の身長予測の是非
現在では、子どもの現在の身長やレントゲン画像などから、成人した後の身長を予測できるようになりました。しかし、それを告知したり利用することに問題はないのでしょうか。
まず、健康に問題のない子どもにレントゲンを照射するのはどうなのか、といった問題があげられます。レントゲンといえど放射線ですので、わずかとはいえ被曝することになるからです。
また、子どもに自分の身長が将来的にどこまで伸びるのかを、不用意に教えることで問題が起きるかもしれません。
例えばバレーボールのようなスポーツが好きで頑張っている子どもに、「将来身長が伸びないからバレーボールはやめたほうがいいよ」などということを告げることが果たして正しいと言えるのでしょうか。
そういった倫理面での問題を脇に置いても、日本では個人情報の保護といった壁があるため、身長に関する多くの事例を集めることが難しいという実際的な問題もあります。
日本においては、医師がこの技術を使うのは低身長症の患者を治療する場合に限られています。患者のレントゲン写真をスキャニングすると、将来の身長の予測値をはじき出してくれるような医療用ソフトも開発されていますが、販売元はあくまで治療目的のものだとしています。
ちなみに低身長症の患者の場合、一般的には成長ホルモンを投与することで症状の治療が行われます。しかし、この治療法にも問題はあり、身長は伸ばせる一方で糖尿病になりかねないなどといった副作用もあります。
従って、ホルモンを適切な量だけ投与することが重要になってきますが、将来の身長予測ができれば投与の際に調節がしやすくなるため意味があるのです。
こういった治療の目的以外にも、例えば自衛官や警察官といったような身長に制限がある職業を目指す子どもに、それが可能かどうかを教えるといった意義のある使い方はできるかもしれません。
また、スポーツの分野に適切に応用すれば、まだ若い選手の中から将来伸びることのできそうな選手を見いだすことにも使えるでしょう。
例えば、中学生の選手の骨の成長度合いを測り、成績が良いにも関わらずまだ骨の成長度合いが若いような選手を選別するのに使うのです。こうした特徴を持つ選手は、まだまだ伸びしろがありますので、有為な人材を発見できるというわけです。
このように応用が利くこともあり、スポーツの分野で倫理的な方向にはきちんと配慮をした上で、有望な選手の育成などにこうした技術を使えないかといった声も上がり始めています。
その他にも、子どもたちの骨の成長度合いをレントゲンで撮影して蓄積することは、日本人の子どもが健康に発育しているかを分析するデータになると主張する研究者もいます。
将来の身長の伸びを予測するという技術について、今後子どもたちのためにどのように活かしていくかを論じ合っていく段階に差し掛かっているのかもしれません。
更新日:2019/11/29|公開日:2015/04/20|タグ:身長