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中学受験における親の役割

中学受験を控えた親子

中学受験において、親は子に大きな影響を与えます。しかし、その影響は、関わり方によっては良くも悪くもなりえます。中学受験において、親はどのような役割を担うべきなのでしょうか。親の考え方や心構えについて見ていきましょう。

 

中学受験を良い経験にする方法

中学受験はやり方を間違えると、親子を破壊する凶器になります。中学受験において、最も悪い事態は、受験校全てに不合格になること、つまり全滅することではありません。最も悪いのは、「途中で親子が壊れてしまうこと」です。どれだけ中高一貫校が魅力的で、中学受験自体に教育的効果があるとしても、途中で壊れてしまっては意味がありません。

 

最悪の結果を招く原因の1つが、ゼロか百か思考です。「第一志望に合格しないと意味がない」「全滅したら全てが水の泡だ」といった考えです。親がゼロか百かで考え、事あるごとに子供に言い聞かせているうちに、親子共々追い込まれていきます。不安になり、冷静な判断ができなくなり、気づいたらボロボロになっていたという具合です。

 

世間の「中学受験は悪だ」というイメージは、中学受験を通して崩壊していく親子の姿が反映されているのでしょう。中学受験自体は取り組み方次第では、親子の絆を深める良い経験にすることができます。決して中学受験自体が悪いのではありません。

 

例え全滅してもやってよかったと思えることが、真の意味で中学受験を良い経験にできたことになるのです。第1志望ではなくてもどこかには合格する、自分たちにとって一番いいところに行き着くと、親がどっしり構えていることが大切です。親の心構え次第で中学受験を良い経験にすることが可能です。

 

中学受験における親の覚悟

中学受験を志す子の親には、どんな覚悟が必要なのでしょうか。2つの家族の例から考えてみましょう。

 

合格発表当日、A君は自信満々でした。塾の先生に「絶対受かってるから、一緒に見に来て」と言うほどでした。塾の先生は、A君の両親と本人と一緒に合格発表の会場に向かいました。掲示板の前で立ち尽くすA君。「なんで?なんで僕の番号がないの?」涙を流すA君を父親はぎゅっと抱きしめ「よく頑張った」と言いました。

 

父親はA君の努力を認め、大きな心で温かく包み込んでくれたのです。第1志望だったその学校を堂々と去っていく父親の姿に、A君はどれだけ慰められ、励まされたでしょう。A君は、第2志望校で思う存分中学校生活を謳歌しました。A君にとって中学受験が「良い経験」になったのは間違いありません。

 

B君は第1志望校を不合格になり、第2志望だった中堅私立中学校に入学しました。B君の母親は第2志望校に満足しておらず、入学当初から学校に文句を言ったり不満を漏らしたりしていました。B君も母親と同様に学校に不満を持つようになり、5月には地元の公立中学校に転校していきました。

 

B君も、第1志望に不合格になったという点ではA君と同じです。しかし、親はB君の努力を認めたのでしょうか。もし、認めていれば第2志望校であっても文句を言ったりはしないはずです。

 

B君の気持ちに寄り添うことなく、親の見栄を押し付けた結果が、悪口を散々言った末の転校だったのでしょう。B君の気持ちを察すると、居たたまれない気持ちになります。

 

中学受験を良い経験にするには、親の覚悟が必要です。どんな結果も受け入れるという覚悟です。その覚悟がなければ、B君の母親のように、第2志望でも満足できない病にかかってしまうのです。

 

中学受験で自己肯定感を下げない方法

中堅私立中学校では、中1の1学期に生徒の自己肯定感を上げることに力を注ぎます。入学してくる生徒には第1志望ではなかった生徒も多く存在し、彼らの多くは自己肯定感が低いまま入学してきているからです。

 

思春期前の中学校入学時は、親の価値観が子供の価値観に大きな影響を与えます。自己肯定感の低いままの子供は、親が本人以上に第1志望校に行けなかったことを引きずっていることが多くあります。自分の努力の結果が親を落ち込ませたことに罪悪感を覚え、自信を持てない子供が多いのです。

 

一方、親がどんな結果でも評価し、努力を認めている子供は、自己肯定感が下がることはありません。自分は頑張った、努力してよかったと思うことができます。子供の健全な成長のために、親が努力を認めてあげることが重要です。

 

中学受験では、第2志望にも価値を見出す

中学受験を、つらかったけれど良い経験にできるか、つらかっただけの残酷な経験にしてしまうかは、親の心構えに左右されます。中学受験において、第1志望に合格できるのは3割未満の子供だと言われています。

 

親は「第1志望校は子供のやる気を引き出し、能力を伸ばしてくれた。でも我が子にとって一番いい学校は、これから行く学校なのだ。努力したから最善の結果が得られたのだ。」と柔軟な考えを持たなければなりません。

 

イソップ童話に「狐と葡萄」という話があります。狐は、木の枝にはっているツルから、熟した葡萄がひと房垂れているのを見つけました。跳びはねて取ろうとしても届きません。少し離れたところから助走して跳んでも届きません。何回も何回もチャレンジしますが、葡萄を取ることはできません。

 

すっかり疲れた狐は、座り込んで葡萄を取ることを諦めました。「おいしそうに見えたけれど、どうせ酸っぱい葡萄だったのさ」と考え直しました。手の届かないものを蔑み、けなそうとする人はたくさんいるという教訓を示す童話ですが、手の届かないものに執着するよりも、近くにある手の届くものに価値を見出す方がよいと考えることもできます。

 

狐が葡萄を諦められたのは、周りに森があって、他にもおいしい食べ物があったからかもしれません。もし、砂漠の中で命からがら見つけたひと房の葡萄だったら、諦めることができたでしょうか。手の届かない葡萄を恨めしく思いながら、息絶えたかもしれません。

 

中学受験において、第1志望にしか価値を見出さず、第2志望では納得できないのは、砂漠の中のひと房の葡萄に命をかける行為に他なりません。視野を広げれば、すぐ近くに森があり、林檎や蜜柑もたくさん成っているのに気づかないだけなのです。

 

第1志望に手が届きそうに思えているうちは構いません。しかし、近づいてみると想像以上の高さに驚いたり、他にもカラスやサルが狙っていることに気づいたりすると焦ります。焦ると頑張りすぎてしまい、葡萄に手をかける前に力尽きてしまうかもしれません。

 

中学受験においては、第1志望を持ちながら、第2希望以下にも価値を見出し、広い視野を保つことが大事です。健全な心の持ち方においては、「狐と葡萄」の狐のように、考え方を柔軟に変えることも必要だと言えます。

 

中学受験で親の心構えが子に与える影響

受験勉強をしている我が子を見ていると、不安に駆られる親がいます。子供の成績が伸びなくて心配だ、授業の内容が分かっていないようだ、どうしていいか分からない、子供に怒鳴ってしまうなどと、子供のことを心配しすぎるあまり、親が必死になって不安を訴えることがあります。

 

親の必死な様子に子供が追い詰められて成績が伸びないのか、子供の成績が伸びないから親が必死になるのか、どちらが先かは鶏が先か卵が先かの議論のようです。いずれにせよ、親の切迫した態度が子供を萎縮させていることは間違いありません。

 

ある母親は、子供の偏差値が下がるたびに不安になり、焦り、怒鳴ってしまっていたと言います。あの参考書がいいと聞けばすぐに購入し、「これもしなさい」と子供に負荷をかけていました。追い詰められた子供は、力を発揮できるはずもなく成績は上がらないままでした。

 

母親自身もどうしていいのか分からず、結果的に子供に不安を押し付ける形になってしまっていたのでしょう。幸いこの母親はプロの受験カウンセラーに相談し、悪循環から抜け出すことができました。母親に心の余裕が生まれたことで子供も本来の力を発揮し、少しずつ成績も上昇していきました。

 

不安に振り回される親は、第1志望しか見ておらず、子供の偏差値や模試の結果に一喜一憂してしまいます。第1志望は、憧れとして捉え、モチベーションを上げる対象と考えるべきです。第1志望しかないと考えると不安に振り回され、親子共に自滅してしまうことになりかねません。

 

第1志望不合格でも、中学受験に成功したと言える子供達は多く存在します。彼らは、親の心構えや声かけ、接し方によって成功を勝ち取っています。親に必要な心構えとは何でしょうか。ある母親を例に考えてみましょう。

 

ある起業家の母親は、「中学受験ができるなんてうらやましい。自分には公立中学に進んで進学校に行くしか選択肢がなかった。自分で自分の道を選べる人なんてそう多くはない。中学受験は自分の努力次第で選択肢を広げられるチャンスだ。」と娘に言い聞かせていました。

 

娘もその気になり、一生懸命受験勉強に励みました。自分の努力次第で選択肢を広げられると考えれば、どの学校も魅力的に感じられました。結果は、第1志望には合格できませんでしたが、見事第2志望合格を勝ち取りました。中学受験は良い経験になったと親子共々感じています。

 

母親は起業家の経験から「物事は何でもうまくいくものではない。ましてや自分ではなく子供の受験。思い通りにはいかない。」と考えていました。それと同時に、起業家の経験から、どんな結果であれ、なるようになるということも知っていました。だからこそ、余裕を持って子供の頑張りを見守ることができたのです。

 

親が一歩引いて客観的に子供を見守るという余裕が中学受験の成功の鍵と言えます。一緒になって不安になったり、焦ったりすることは子供にとっていいことではありません。親に余裕があると、子供は余計なプレッシャーを感じず、伸び伸びと勉強し、本来持っている力を発揮できるのです。

 

中学受験では、子供は夢を、親は現実を見る

中学受験自体に意味があると考えることが、第2志望でも満足できない病を予防する一番の方法です。第1志望合格という結果だけを目標にしてしまうと、視野が狭まってしまい、親子共に追い込まれてしまうだけでなく、子供にとっては結果でしか努力が評価されず、自己肯定感が著しく下がってしまう可能性があります。

 

受験が近づくと誰しも不安になります。ある母親は、小6の冬、誰に言われるでもなく、自ら机に向かって頑張る我が子の姿に、大きな成長を感じたといいます。そのとき心から、中学受験をしてよかったと思えたそうです。それと同時に、合否が怖くなくなったといいます。合否に関係なく、やってよかったと思えれば、中学受験はもう成功です。

 

子供には、どれだけでも高望みさせても構いません。憧れを抱き、心底行きたいと思える学校を第1志望校にするべきです。しかし、親は現実を見ていなければなりません。子供と一緒になって合格という未来だけを見ていると、足元の子供の成長に気づくことができません。

 

親が合格という結果だけでしか子供を認められなければ、子供は自分の成長を認めることは決してありません。親は現実をしっかりと見据えて、子供の努力や成長に気づき、励ますことが必要です。そうすれば、中学受験自体に感謝し、子供のありのままの姿を受け入れられるようになります。

 

中学受験で親が練る併願戦略のポイント

中学受験をするとき、親は綿密に併願戦略を練らなければなりません。第1志望がダメだったとき、第2志望に合格できればまだしも、第3志望もダメ、第4志望もダメとなったらどうしようと頭を抱える人がいます。

 

併願戦略にはコツがあります。第1志望は、子供のモチベーションを高められる憧れの学校にすること、それ以外は全て、第2志望とするのです。第2志望は、3つでも4つでも構いません。模試では第1志望から順番をつけて記入しますが、偏差値順に書かなければならないという決まりはありません。第1志望以外は、全て第2志望でいいのです。

 

併願校を決めるときには、子供の学力で志望校に合格できるのか、偏差値表を見比べて綿密に計画を立てます。しかし、子供には受験する全ての学校に行きたいと思わせることが大切です。文化祭やオープンキャンパスなどに一緒に行き、子供の気持ちを盛り上げます。子供に偏差値表を見せる必要はありません。

 

学校選びの観点には、建学の精神や校風、新しい教育への取組み、大学進学実績、入学時と卒業時の偏差値の伸びなどがあります。これら観点を参考にしながら、現実的には、地図と学力をもとに志望校を絞り込みます。地図を見ながら、入学後に無理なく通学できるかを考え、それぞれの学校が求める学力に、我が子が達するかどうかを見極めます。

 

第1志望は子供が憧れられる学校ですので、偏差値の高低は気にする必要はありません。「入学したい」と子供自身が強く思える学校であることが最も大切です。第1志望が決まれば、似たような学校を第2志望にします。似たような学校を1つでも多く見つけ出すのが、親の役目です。

 

その後、偏差値表を使います。偏差値はいい学校か悪い学校を決めるための基準ではありません。我が子にとって、良い学校への合否の可能性を示す基準が偏差値です。偏差値に惑わされて第1志望は自由な校風の学校なのに、第2志望は管理型の学校となってしまってはいけません。

 

偏差値表の上下において、第1志望より少し上、同じくらい、少し下、もう少し下の学校を選ぶと良いでしょう。合格確率を参考にし、全滅のリスクを最小限にすることが、併願戦略のポイントです。

 

このようにして志望校の目星をつけらたら、子供と一緒に説明会やオープンキャンパスに参加します。可能なら、在校生や卒業生に会って話をしてみてください。親子共に、良いと思えた学校を全て第2志望にします。

 

最終的には、塾の先生からアドバイスをもらい、入試日程や入試問題との相性を考慮して、受験校を決定します。偏差値のバランスを見て、4~6校を併願すれば、全滅のリスクは最小限に抑えることができます。

 

このように、志望校が偏差値表の上下にバランスよくあれば、模試の結果に一喜一憂することもありません。模試の結果は入試ギリギリまで上下します。結果に釣られて、上下するたびに志望校を変更しているようでは、目標を失い、精神的に疲弊してしまいます。

 

模試の結果が下って不安なときは、もう少し下の層から志望校を多く選べばいいのです。上がったときには慎重さが必要です。上を目指したくなりますが、たまたま問題との相性がよかったり、得意な分野が出たりしただけかもしれません。プロのアドバイスを聞いて、慎重に対応しましょう。

 

偏差値表の上下にバランスよく志望校を配置しておくことで、模試の結果に一喜一憂する必要がなくなります。模試の結果を冷静に受け止め、自分のすべきことに集中することができるのです。

 

中学受験でスランプの子供に親ができること

低学年の頃は本気で勉強をしている子供が少ないため、塾に通ったり勉強時間が多かったりする子供は、成績上位にいます。しかし、高学年になる勉強に力を入れる子供が増え、低学年から成績のよかった子供達の中には追い越されていく子供がいます。

 

追い抜いていく方は勢いがあり、どんどん伸びていきます。一方、追い越される側が気持ちを保つのは容易ではありません。焦って自信を失ってしまい、スランプに陥る子供もいます。

 

子供がスランプに陥ってしまったときこそ、親の出番です。落ち着いて励まし、支えになってあげなければなりません。しかし、想定外のことが起きると親も焦ります。焦ると冷静さを失い、正しい判断ができなくなります。受験においては何が起きるかわかりません。想定の範囲を広くしておかなければなりません。

 

スランプに陥った子供に絶対にやってはいけないことは、負荷をかけることです。スランプ中の子供は、大海原の中で目的を見失い溺れかかっている状態です。そこに負荷をかけることは、溺れかかっている子供に、もっと手足を動かせと言っているようなものです。そうすれば、体が沈んでいくことは間違いありません。

 

スランプの最中は、全身の力を抜いて流れに身を任せることです。そうすれば、自然に冷静さを取り戻し、体を浮かせることができます。つまり、親の役目は、やらなくていいことを仕分けてやることです。決して、新しい問題集を買ってきて押し付けたり、子供の隣に座って勉強を見張ったりしてはいけないのです。

 

中学受験では親がコーチになる

親が中学受験の経験があり、腕に覚えがあるほど我が子に勉強を教えたくなります。しかし、そんな親ほど自重しなければなりません。自分が問題を解けることと上手に教えられることは全くの別物です。

 

親子だからこそ、親は理解できない我が子にイライラしてしまったり、子は親の期待に応えられないことに傷ついたりしてしまいます。プロでさえ、我が子を教えるのは難しいと言います。

 

勉強を教えることはプロに任せるのが最善の策です。親は教える先生ではなく、導き支えるコーチになるべきです。自信を失い、弱気になっているときには励まし、逆に調子に乗りすぎて油断しそうなときにはブレーキをかけるのです。我が子をよく観察し、よき理解者になることで、子供は安定して力を発揮することができます。

 

コーチングについて書かれた本も多く出版されているので、一冊手にとって読んでみるといいでしょう。書かれている通りにはいきませんが、理論を知っていれば子供への接し方が変わってくるはずです。

 

親はコーチとして、精神面のサポートだけでなく、健康面にも気を遣わなければなりません。食事に気を配ることはもちろん、睡眠時間をしっかり確保させ、規則正しい生活をさせることです。特に試験が近くなると夜遅くまで頑張りすぎて体調を崩してしまう子供がいます。家庭で見守る親だからこそ、体調管理はしっかりさせたいものです。

 

親が自分はコーチだと自覚し、その役職に見合った役割を果たすことで、子供は本来持っている力を発揮することができます。役割を理解せずに教師同様にやらせすぎてしまってはいけません。一歩下がって見守るくらいの姿勢が子供にとってはちょうどいいのです。

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