外国語教育は早い方が良いのか?
幼児教育で、英語などの外国語教育を熱心にされる親御さんを見かけることがあります。言語の教育は小さい頃からした方が効果が上がりやすいとも言われますが、実際のところはどうなのでしょうか。
5歳~6歳までが外国語教育のピーク?!
一般に、日本語や外国語など言葉を身につけるためには6歳ごろに学習の山があり、そこまでに習得を始めると効果が上がりやすく、時期としてはなるべく早い方が良いとする考え方があります。
例えば難聴の患者さんの場合、5歳~6歳までを境として、手術をしたことによって発音や話し方が自然にできるようになるかで差が生まれます。さらにはこうした手術を4歳ごろにした場合と1歳半ごろにした場合を比べると、1歳半ごろに手術をした患者さんの方が良い結果が出ています。
こうしたことを考えれば、0歳から2歳ぐらいの間に子供の聴覚の発達がすごい速さで進展するとされています。
また、最近では保育園や幼稚園で子供たちが英語に接する機会が増えてきていますが、2歳ごろまでに英語の習得を始めた子供の方が、より英語を自然に使いこなせるようになると言います。こうしたことを見る限り、幼児教育として英語を学ばせることには確かに一定の意味があるようです。
一方で、確かに英語は国際的にも広く使われるなど、小さいうちから習得する意義のある言語かもしれませんが、母国語である日本語がきちんと身についていないうちから学習をはじめることで、悪影響があるとする考え方もあります。
こういった疑問に対しては、いくつかの公用語があるような国の状況が参考になります。もし日本語以外の言葉をネイティヴレベルで使いこなせるようにしたいのであれば、そうした言語が利用されている中になるべく早く行き、学習を初めたほうが良いでしょう。そこまでの語学レベルを必要としていないのなら、母国語の読み書きや会話といったものに重きを置いて言語を学んでいくことの方が大事です。
外国語教育を早く始めた方が良いのはなぜなのか?
言葉を身につけるには、その言語を学び始める時期が早いほど効果が上がるとする考えがあるわけですが、脳の仕組み的にはどういった理由付けが可能なのでしょうか。
脳の中にある神経同士のネットワークが情報を伝える場合、ある神経細胞から次の神経細胞へと刺激が伝達されることによって情報伝達が行われます。
各神経細胞からは「軸索」と呼ばれる樹木の枝のようなものが伸びていて、「シナプス」と呼ばれる部分で次の神経細胞に接続しています。このシナプスでは化学物質によって神経同士の情報のやりとりがなされる仕組みです。
言語の学習のピークである5歳~6歳ぐらいまでの時期、子供のシナプスはフレキシブルで、神経同士のネットワークが組み直しやすい状態になっているのではないかとする「シナプス可塑性」という考え方があります。
つまり、この時期にある言語による刺激をたくさん浴びると、それに関連する神経ネットワークが形成されるわけですが、何度も反復して信号が通るネットワークは強化され、あまり使われないネットワークは脱落して組み直されてしまうということになります。
つまり、言語を身につけやすい幼い時期に、身につけさせたい言語による刺激をたくさん与えてやることが大事になってくるというわけです。
理化学研究所の研究によれば、こうした時期に言語による刺激を受けることで、神経の細胞内で作成された神経栄養因子が軸索越しに次の神経細胞に移っていき、それがもとで情報の受け取り口(樹状突起)が数多く作られて、ネットワークが構築されやすくなるということが分かっています。
外国語を学ぶときに使っている脳の部位はどこか
言語を学習している人の脳に対して画像検査を行い、脳のどういった部位を使っているのかを明らかにしようとした研究があります。
対象となったのは日本語を母国語としていて右利きである13歳(中学1年生)の子供たちです。この子供たちに対し、英語と日本語において動詞を過去形に直すといった文法を判断するような問題を出し、それを解く際の脳の状態を調べたのです。
調査の結果、日本語よりも難しい英語の解答時にやはり脳の多くの場所が反応していました。そして、最も活発に反応が見られたのは、脳の左半球にある「ブローカ野」と呼ばれる部分でした。
※ブローカ野というのは、左脳の前頭葉に位置する部位です。1861年、フランスのブローカという外科医が死亡した運動性失語症(言葉を聞き取れるが話せない病気)の患者の脳を解剖し、この部分に問題があるためにこうした症状が起きているということを明らかにしました。ブローカの発表は、現代脳科学の最初の一歩であり、そのために脳のこの部位をブローカ野と呼ぶようになりました。
また、中学生だけでなく大学生を対象に同じ調査をしたところ、英語により熟練している学生のブローカ野はそれほど顕著な反応を示さなかったのに対し、英語の熟練度が低い学生のブローカ野は強い反応を示し、また中学生が見せた反応にも似通ったものでした。
こうした調査結果から、人間が言語を使う際に文法を考える場合にはこのブローカ野がその機能を担っていることが分かるほか、熟練度合いが上昇するに従って反応が収まっていくことから見て、母国語と同じように使えるようになっていくのではないかということが分かります。
この調査結果でも見えたように、ブローカ野の反応を調べることで外国語に対する習熟度合いが分かることがはっきりすれば、それを利用して効果的な言語学習方法が発見・開発できるかもしれないのです。
更新日:2019/11/29|公開日:2017/02/03|タグ:外国語教育