子供が上手にテレビやネットと付き合うためには
テレビやネットは、子供にとって良くないものだと思いますか?どちらも現代社会を生きていくには、欠かせないものです。しかし上手に付き合わないと危険であることも確かです。子供はテレビが大好きですし、今や子供も携帯やスマホ、パソコンを操る時代です。子供が安全にこれらを使っていくにはどうしたらよいのか考えてみましょう。
子供部屋にテレビを置くのはOK?
今は、テレビがないお宅というのはほぼないでしょうが、子供部屋にはどうでしょうか。少年教育振興機構が2016年に発表した「青少年の体験活動等に関する実態調査」(対象者は小学生及び中学2年生、高校2年生とその保護者)の報告書によると、時代を追うごとに自分専用のテレビをもっている子供の数はどんどん減っていることが分かりました。
1998年度は自分だけのテレビがある子供は全体の17.7%でしたが、2014年度では9.0%と、大幅に減少していました。
しかしその一方で、子供部屋にテレビを置いてもよしとする親が少なくないということを表すデータもあります。2013年にセルコホームが発表した「子供の成長と住宅選びに関する調査」によれば、「子供部屋にテレビを与えても良いと思うか」という問いに対して「何歳からでも良い」と答えた人は21.7%、「時期がきたら良い」とする人が45.9%という結果が出ていました。
1つの家庭に複数台のテレビがあれば、家族の観たいテレビ番組がそれぞれ違っていても、それが原因となって喧嘩が起こることがなくなります。それぞれが好きなテレビを別室で観ながら、リラックスするひと時をもてるわけです。時間の無駄もなく、自分に必要な情報を得ることができます。
でも、各自が別室でテレビを観ることが習慣化すれば、同じ時間に同じ番組を観ているのに、1つの場所に集うことなく、バラバラに観ているというおかしな現象も生まれてきます。
強い刺激を与えるテレビの映像を、たった一人で観るというのが家族の在り方として当たり前になってしまったら、テレビを観ることで家族のコミュニケーションが生まれることも、心の触れ合いをもつこともできません。こういった形のテレビ視聴は、子供の心が育まれる場にはなりません。
子供の心を豊かに育てるというと、音楽を聞かせたり絵画を見せたりという情操教育を思い浮かべるかもしれませんが、それだけが子供に豊かな心を育ませてくれるわけではありません。
ありふれた毎日の生活には、実はいろいろなことが起こっていて、複雑に絡まり合って進んでいますし、いろいろな人との様々な感情の交わしあいも起こっています。それこそが、子供の心を豊かに育んでくれるのです。学校の道徳の授業の時だけ話を聞けば心が育つわけではありません。子供の心を成長させるのは、そんなにも簡単なことではないのです。
テレビ視聴を通して子供の心を育てるには
テレビ視聴が子供に与える悪影響についてはいろいろ語られていますが、テレビを観ることで良いこともあります。ただし、テレビは一家に一台、家族で同じ番組を観るという条件になります。そんな条件下であれば、テレビ視聴がもたらすメリットを得ることができます。
家族で一つのテレビを観ていれば、チャンネル争いが起こるものです。このチャンネル争いが、2つのメリットを生み出します。
1つ目は、争いを解決するための力を得ることができ、それに伴う感情を体験することができるということです。テレビが一つしかないのに観たい番組が違うとなれば、話し合いが必要になります。自分の意見を主張したり、相手に譲ったりすることになります。いくら小さくても、いつでも自分の思い通りになるわけではありません。我慢しなければならないこともあります。
でも、我慢した経験があるからこそ、自分の願いが叶った時の喜びもひとしおです。いつも思い通りになっていては味わえない感情です。なんでも望みが叶えられていた子供は、我慢しなければならない状況になった時、激しく腹を立てたりイライラしたりするようになる傾向があります。
2つ目は、自分以外の人が見たがっていた番組にしぶしぶでも付き合って観ることで、新たな発見をするかもしれないということです。まず、自分の価値観が広がります。祖父母が見ている時代劇、子供たちは興味が持てないものです。しかし何となく一緒に観ているうちに、勧善懲悪のすがすがしさを知り、「なかなかいいものだな」と感じるようになるかもしれません。
逆もまたしかりで、若者たちが夢中になっている流行の曲は、親世代にはとっつきにくく感じるかもしれませんが、音楽番組を一緒に観ているうちに、耳に心地よく響いてくるようになることも多いものです。
それから、テレビに夢中になっている家族を客観的に見ることで、同じシーンでも観る人によって感じ方が違うのだということを知り、人間に対する価値観が広がります。男性である父親にとっては感動モノのシーンなのに、女性である母親にはその良さが分からず冷静に観ている様子を見ると、男女間の価値観の違いを感じることができます。年代によっても育った環境によっても、反応の仕方が違ってくるものです。
こういったことによって、子供は家族をより深く知ることになりますし、人はそれぞれ違うものだ、家族ですらそうなのだから、友達ならなおさら違うだろうと知るのです。
家族で一つのテレビの前に座り、同じ番組を観ることで、このように子供の感性が磨かれていき、心が豊かに育っていきます。子供の心を育てるには、優れた美術作品や音楽に触れさせなければならないというものではありません。こんな何気ない家族の毎日からも、確実に心が育っていくのです。
家庭に複数のテレビがあれば確かに便利かもしれません。しかしそのためにこのようなメリットを得られないのですから、その便利さは本当に必要なのかを、今一度しっかりと考えてみてはいかがでしょうか。
ネットを禁止するよりも上手に付き合わせて
テレビ視聴が子供に与える悪影響について論じられていた時代もありますが、今はむしろ、IT機器やネット世界が与える影響の方が心配です。携帯電話やスマートフォン、ネット世界は今、子供たちの生活に大きく入り込んでいます。子供たちが携帯電話やスマートフォンに依存してしまう問題は、ずいぶん前から挙げられています。にもかかわらず、いまだその問題はちっとも解決していません。
携帯電話やスマートフォン、ネット世界とのかかわりが子供に危険をもたらす可能性があることは、言うまでもありません。そんな危険性からどうやって子供たちを守っていけばよいのかについて述べた書籍やサイトはたくさんあります。しかし、出会い系サイトや裏サイト、ワンクリック詐欺などネットを通した犯罪の数が減ったかというと、そんなことはありません。より一層手口が巧妙になってさえいます。
では、これらのIT機器やネットの使用を、子供たちに禁止すればよいのでしょうか。いいえ、それはかえって難しいことかもしれません。なぜなら今の時代、これらがないと生活が成り立たない面もあるからです。
言うまでもなく、携帯電話もスマートフォンもパソコンも、非常に便利なものです。今これらがなくなってしまったら仕事ができないというのが現実でしょう。仕事だけではありません。友達との交流も、学校の勉強ですら滞ってしまうのではないでしょうか。
IT機器を使ってネット世界とつながれば、より多くの人と友達になることができますし、ブログやホームページを作成することで自分を知ってもらう場所もできます。これはとても楽しく、自分の価値観も広がります。
ただし、会ったことのない人ともつながることができる便利さは、先ほども述べた悪の世界とのつながりも容易にしてしまいます。便利さには危険が伴うというわけです。
LINEや学校裏サイトなどを通したいじめも、いまだなくなっていません。こういった場で中傷を受けたために不登校になったり、ひどくなれば自殺してしまったりという事件が起こり続けています。書き込みをされた人だけが悲しい目に合うだけでなく、書き込んだ人が恨まれて逆に被害を受けることもあります。
携帯電話もスマートフォンも、いつでも誰とでもすぐにつながることができます。知りたいことを一瞬にして知ることもできます。とても便利で楽しいツールです。だからこそ、子供たちはこれらとの上手な付き合い方を知らなければなりません。そしてこれらをうまく使って、これからのグローバル社会を引っ張っていく存在が、現代の子供たちなのです。
私たち親は「携帯電話やスマートフォン、ネットは危険だから使わせない」と考えるのではなく、子供たちにどうやって上手な使い方を教えればよいかを考えるべきでしょう。
携帯・スマホ依存は悪いことばかりか?
いつでもどこでも携帯やスマートフォンを持ち歩き、これがないと生きていけない状態になる、いわゆる携帯依存・スマホ依存についての問題が語られ始めたのは、ずいぶん前のことです。
メールやLINEのやり取りに心をとられ、生活リズムが狂ったり、勉強時間が減って成績が下がったり、コミュニケーション能力が未発達になったりすると言われています。また、友達を中傷するような書き込みをしたことによってトラブルが発生することも多くあります。デメリットは挙げ始めたらきりがないほどです。
しかし、デメリットばかりではありません。面と向かったコミュニケーションではないために、自分の本当の気持ちをさらけ出せると考えている子供もたくさんいます。学校や自分の家で孤独感を感じている子供が、ネットの世界で他者とつながることで自分を保つことができるケースもあります。日頃のストレスに対する感情を、自分のブログ内やSNSの場で吐き出して、発散できているというのもよくあるケースです。
こう考えてみると、私たち親は「悪いことばかりだから」と言って子供たちから勝手に携帯電話やスマートフォンを取り上げてはいけないということになります。そんなことをすれば子供たちの居場所やストレス発散の場を奪うこととなり、かえって子供たちを苦しめることになってしまうからです。
メディア利用法は子供主体で考える
便利で楽しい半面、闇の世界とも簡単につながってしまうのがIT機器の恐ろしさです。しかし危険だからといって、一切の使用を子供たちに禁止することもできません。ではどうするべきか。答えは「使い方を子供主導で一緒に考えていく」、これに尽きます。
以前から、ネット上に個人情報を流出させないとか他者が嫌がることはしないといった、ネット上のマナーについては子供たちも聞かされてきました。今はこれにとどまらず、情報社会の中で正しく活動するための基礎となる考え方を学ぶ、いわゆる「情報モラル教育」が、学校教育の中でも行われるようになっています。
しかし、他国のメディアリテラシー教育と比べれば、日本はかなり遅れているのが現状です。ITの最先端を行くインドにおいては、コンピューターの歴史をしっかりと学び、コンピューターの進化は今どのくらいのところにあるかを知り、これから先もっと発展させるためにはどうすべきかを考える力を育てようとしています。
コンピューターやインターネットの本質を理解させる教育が行われているのですが、その中にはもちろん、メディアリテラシー教育もしっかりと含まれています。ですから、インドの子供たちには、メディアリテラシーというものがきちんと身に付いていきます。
インドに比べれば日本はまだまだということにはなりますが、それでも今は学校教育の一環として情報モラル教育が位置付けられていますから、以前と比べれば子供たちのネットに対する姿勢は良くなってきていると言えるでしょう。
子供たちを取り囲んでいるIT環境の問題は、すでに私たち大人だけの力で解決できるものではなくなってきていると考えられます。携帯電話はスマートフォンにしても、パソコンにしても、IT環境については子供たちの方がすっかり詳しくなっているのではないでしょうか。
それならば、子供たちと一緒になって、これからのIT機器の使い方やネットとの付き合い方などを考え、利用の仕方を作っていくのが良い方法だと考えられます。大人主導で決めたことを子供たちに押し付けるやり方は、もはや非現実的だと言わざるを得ません。
実際、生徒会で学校での携帯電話やスマートフォンなどの使い方を決め、きちんとそれが守られているという学校もあります。今の子供たちには、様々な便利な機器の危険性についても理解し、その利用法について自ら考える力をすでに持っているのです。
言うまでもなく、子供にどう参加させるかは、子供の年齢や発達によって変えていかなければなりませんが、今のIT機器やネット環境についての問題は、子供と一緒に考えていくことで、解決法が見いだせると言えるでしょう。