イライラや怒りを我慢できない時にすべきこと
「短気は損気」ということは昔からよく言われています。しかし、どんなに怒りやイライラが心や体に悪いと分かっていても、怒らずにいられない状況は日常の中に必ずあります。そこで重要になってくるのは、その後の身の振り方です。正しい対処法を身につけることで、イライラを素早く解消していきましょう。
意識すれば、イライラは消えていく
誰だって、出来ればイライラしたくないでしょう。そんな思いから、ついついイライラから目を背けてしまうこともあるかもしれません。
しかし、イライラを早く忘れようとすればするほど、心のうちではイライラや怒りが沸々と燃え上がってしまいます。対象が定まらないまま、イライラや怒りがあらゆるものに向けられて、次から次へと新しいイライラや怒りが生まれてしまうからです。
このようにイライラや怒りを感じている間、私たちの体には大変な負荷がかかっています。イライラすると、心拍や血圧が上昇し、血液の粘度が上がり、筋肉が硬直して血流が悪くなります。そうなると、細胞の至るところに酸素や栄養が行きわたらず、あらゆる細胞が傷ついて、最悪の場合は死滅していくこともあります。
このような体内の変化は、主に自律神経の乱れが原因で引き起こされます。自律神経とは体の様々な機能を調整する役割をもつ神経であり、私たちが生命活動を送るうえで欠かすことのできないものです。呼吸や心肺機能、消化、さらには汗の分泌なども自律神経によって制御されているのです。
自律神経にはさらに、その役割によって二つに分けることができます。昼の時間帯に活発化する「交感神経」と、夜の時間帯に活発化する「副交感神経」の二つです。
交感神経が活発化したままの状態でいると、体がより活動的になれるように血圧や心拍が上昇し、怪我をしても問題がないように血の粘着度が上がります。そして常にやる気に満ち溢れ、好戦的な気持ちになります。また活動中に不要な消化機能や睡眠に関わる機能は、働きづらくなります。
副交感神経が活発化したままの状態でいると、体は休息モードになり、強い眠気や倦怠感に襲われることがあります。また、やる気がでにくくなることがあるかもしれません。一方で消化機能や気持ちの浄化機能はより働きやすくなり、心身共にリフレッシュした気持ちになれます。
二つの自律神経は時間帯や外的環境にあわせて、交互に活発化していきます。自律神経の理想的なバランスは二つの神経が双方適度に活発であり、頻繁に入れ替わる状態です。しかし残念ながら近年の人の多くは、ストレスや生活習慣の乱れのせいで、どちらかの神経がずっと活発化したままの状態が続いています。
普段から疲れやすかったり、異常なほどやる気に満ち溢れていたりする人は、自律神経が乱れを疑う必要があるかもしれません。
イライラや怒りを感じると、交感神経が活発化していき、自律神経は乱れていきます。さらに悪いことに交感神経が活発化している間は、些細なことでも怒りっぽくなってしまいます。怒っている時間が長ければ長いほど、怒りは増していき、体にも負担をかけてしまうのです。
さて、ここまでの説明で、イライラや怒りがどれほど体に悪いものかはご理解いただけたかと思います。では、実際にイライラや怒りをなるべく早く鎮火するには、どうすればいいのでしょうか。まずは自分が怒っていることを意識して、自覚することが大切です。この自覚があればイライラや怒りは、すでに半分は抑制されていきます。
「怒りを感じているのか」「どんな状況なのか」「何に対して怒っているのか」「原因は何か」と、これらの問いを心の中で自分に投げかけてみてください。これらの問いを考えることで、次第に自分には今、怒り続ける必要や理由がないことに気づけるはずです。
この時なるべく自分の感想や気持ちを排し、事実だけを整理するのが上手くイライラを解消していくコツです。
イライラや怒りがピークに達すると、頭が真っ白になって、冷静に怒りの原因を分析などしていられない、と考える方もいるかもしれません。そんなときは強制的にでも、イライラや怒りのある現場から離れましょう。気持ちが少しでも落ち着けば、考える余裕は生まれるはずです。
自分がイライラしていることを認める。それだけで交感神経の急激な活発化がおさまり、自律神経の乱れは小さくなるはずです。
イライラは百害あって一利もない
そもそもイライラしたり、怒ったりすることで何かメリットは得られるのでしょうか。答えはノーです。怒る側にも怒られる側にも残るのはデメリットばかりです。
例えばあなたの部下が仕事で何か失敗したとします。部下を信頼して任せた仕事が失敗に終わったことに、あなたはイライラを隠し切れません。こんな時に大声で怒鳴り散らしてしまうと、交感神経は急激に活発化して自律神経は大きく乱れてしまいます。
一度乱れた自律神経はなかなか元に戻らず、あなたは怒ることを止められないまま、疲れるまで怒り続けるでしょう。怒り疲れてやめてみたものの、気持ちは晴れず、いつまでも嫌な気持ちを引きずってしまうかもしれません。
怒られた部下の自律神経も、乱れてしまいます。さらに失敗の解決策がわからないまま、怒られたという嫌な記憶が残ってしまい、次の仕事にも支障をきたすでしょう。さらに最悪の場合はあなたのことを恨む気持ちも、生まれてしまうかもしれません。
イライラや怒りの原因を、今一度よく考えましょう。部下の仕事が上手く行っていれば、何の問題もなかったはずです。そう考えれば、あなたのするべきことは怒ることではなく、部下が失敗しないようにサポート・アドバイスすることだった、と気づくはずです。
育児でも同様のことが言えるでしょう。子供が中々言うことを聞かず、つい強い口調で怒ってしまうこともあるかと思います。しかし、そんな時に感情に任せて怒鳴り散らしてしまうと、余計に疲れがたまり、育児に嫌気がさしてしまうかもしれません。
更に子供は、大人よりも上手く気持ちをコントロールすることができません。自分の気持ちを主張することも、相手の気持ちから自分のことを守ることもまだ難しいのです。そんな時に親からの怒りをぶつけられてしまうと、委縮してしまったり、ストレスを感じて便秘など、身体的な不調さえも抱えてしまったりするかもしれません。
怒る前に一度、「自分は子供にどうしてほしかったのだろう」と考えてみてください。冷静になって考えてみると、実は親であるあなたのちょっとした手助けがあるだけで、子供の戸惑いもなくなるかもしれません。子供だけの力でなし得ることも増えるかもしれません。
そのような経験は、子供にとっても自信になります。自信に満ち溢れた子供を見ているだけで、育児のストレスや疲れなど吹き飛んでしまうでしょう。
このようにイライラや怒りを相手にぶつけることは、その一時は気持ちのいいものでも、その代償となるものが大きいのです。体への負担ばかりでなく、大事な社会的地位や人間関係まで失いかねません。そんなことになる前に、「本当に今、怒る必要があるのか」と自分に問いかけ、その原因を分析する癖を身につけておきましょう。
不安や緊張もイライラの一部である
イライラや怒りと同じメカニズムで、不安や緊張も解消することができます。不安や緊張もまた、交感神経の急激な活発化と関係しているからです。
大事な商談や試験、試合の前にどうしようもない不安や緊張に襲われることもあるでしょう。そんな不安や緊張にのまれたままでは決してベストなパフォーマンスをすることはできません。
不安や緊張を抑制するためには、イライラや怒りと同じように、状況や原因を分析することが大切になってきます。不安や緊張の正体さえつかめれば、あとはその対処法を考えるだけです。
自身のなさが不安や緊張の原因なら、今まで自分がかけてきた時間や努力を思い出してみるといいでしょう。繰り返し思いだすことで自分のことを信じられるようになるはずです。温度や騒音が不安や緊張の原因なら、衣服で調整したり、その場から離れたりするなどの対策をこうじられるはずです。
解決策のないイライラは一度保留にする
電話で仕事のやり取りをしている時、話がややこしくなってくると、一旦「保留」ボタンを押して、周りに相談したりしますね。イライラや怒りも同じです。どんなに万策を練っても解決できないような感情に直面したら、心の中でそっと「保留」ボタンを押しましょう。
冷静に分析できるようになるまで、イライラや怒りから離れるのです。想像の中だけで上手くできない時は、紙にその時の感情を書き起こすといいでしょう。そしてその紙を、どこか見えないところへしまっておくのです。
イライラや怒りから離れることが出来たら、ゆっくりと呼吸をします。おすすめは吸った時間の倍の長さで、息を吐くようなペースです。だいたい三秒で吸って、六秒で吐ききるのがベストでしょう。
ゆっくりと呼吸をすることで、イライラで急激に活発化した交感神経が静まり、代わりに副交感神経がゆっくりと活発化していきます。体がリラックスすることで全身の血の巡りが良くなり、冷静な思考ができるようになります。
そのような状態になった時、改めて保留にしておいたイライラや怒りに向き合ってみましょう。きっと解決策が見えてくるはずです。
保留にしたまま、忘れてしまえるような怒りならば、それは忘れてしまっても問題のない怒りです。何度でも言うように自律神経の観点から考えれば、本来イライラや怒りは感じないことが一番なのです。
ただし、時間を置いても一向に静まらない怒りならば、それを無視してはいけません。人類の歴史を振り返ってみましょう。革命や大きな政治的変化がおきる時には、必ずその時代の社会に対する怒りが存在しています。悪や不条理を許せないという怒り、負けてしまった悔しさ、といった感情はのちの大成につながっていくからです。
火事場のバカ力という言葉があるように、怒りのエネルギーは時にすさまじい威力を発揮します。これは怒りによって交感神経が急激に活発化した結果、脳の中の防衛本能が上手く作用しなくなるからです。
脳は普段、私たちの体の骨や筋肉を守るために、その力を抑止する指令を出し続けています。しかし交感神経が活発化することで、脳内でアドレナリンが大量に分泌されると、この抑止の指令は取り下げられてしまいます。より好戦的に、最大限の力を出すためです。
このように怒りのパワーとは、時に私たちの想像をはるかに超えるようなものになり得るのです。
正当な怒りは人を守る
「日本人は勧善懲悪のストーリーを好む」という映画評論を聞いたことがあります。確かに悪者が正義のヒーローに懲らしめられるのを見ていると、スッキリとした気持ちになりますね。
これは実はただ単に事件が解決したからではなく、不当なものに怒りをぶつけたことで、その怒りを解消できたから生まれる結果です。
イライラや怒りは吐き出してしまうと、交感神経が急激に活発化するため、あなたやあなたの周りの人の体にはよくありません。しかし、正当な理由のある怒りを吐き出すことは必ずしもデメリットばかりではないのです。
正当な怒りを公の場に吐き出すことで、社会は正されていきます。これはあなたやあなたの周りの人にとって、とても良いことになるでしょう。そして何より社会を正したという自負が、あなたの心を強くします。そして、一度大きな怒りに対峙すれば、日々の小さな怒りなどどうでもよくなります。
後悔や嫉妬で泣いてもいい
「なんで私がこんなめに…」と、思わずにはいられない出来事が、世の中ではたくさん起こります。そんな時あなたはどうしますか?イライラしたり怒ったりしますか?それとも自分の行いを悔やむでしょうか?いずれにせよ、嫌な気持ちでいっぱいのはずです。
後悔や嫉妬も、イライラと同様、怒りの一種です。これらは交感神経を急激に活発化させて、自律神経を乱し、あなたの体を傷つけます。
後悔や嫉妬にも向き合うことが大切です。しかし時にはイライラや怒り以上に、向き合うことがつらい時があるかもしれません。
そんな時は、思いっきり泣いて、気持ちをリセットしましょう。自分の力だけで難しければ、音楽や映画などの力を借りても問題ありません。
涙には、自律神経の乱れを抑制する効果があります。たくさん泣いて、冷静な思考が出来るようになった時、後悔や嫉妬はあなたの活力になるでしょう。