赤ちゃんは、どのように身体の使い方や人との関係を学んでいくのか
赤ちゃんと一緒にいると驚かされることがたくさんあります。赤ちゃんには、生まれる前から備わっていた能力もあれば、この世に生を受けた後に次々吸収することで身に着けていく能力もあります。赤ちゃんの成長と能力の関係に注目して見ていきましょう。
赤ちゃんがお腹の中でやっていること
生まれる前の赤ちゃんがお腹の中でどんなことをしているのか想像したことはありますか。妊婦さんは、胎動を感じるようになると今は起きているのかな、今日は元気だなぁと、赤ちゃんの動きを目に浮かべたり、検診ではエコーを使って確認したりします。以前は赤ちゃんがお腹の中で何をしているかを明確に知ることは不可能でした。
医療技術が進んだことで、最近ではお腹の中で赤ちゃんが一体どんな動きを取っているかを立体的に見ることが出来る病院が増えています。それにより、私たちはよりリアルに赤ちゃんがどのような行動をお腹の中でとっているかを知ることが出来るようになりました。
京都大学が、赤ちゃんが立体的に映る四次元エコーを使用し、赤ちゃんがお腹の中でどんなことをしているかを調べたところ、妊娠20週を超える頃の赤ちゃんは自分の手を口に運ぶようになり、更にその2か月後には指先を口の中まで入れるような行動が見られました。
また面白いことに、口を開けるのは手が口元に来た時だけで、手が目や頭の方にいくときには口が開かないことも分かりました。目が見えないのに、赤ちゃんは自分の身体がどこの近くにあるのかを理解し、それに合わせた行動が取れるのです。
生まれたばかりの赤ちゃんの驚くべき真似っこ能力
生まれたあとの赤ちゃんは、一体どのように自分の身体の使い方を知っていくのでしょうか?
生まれたばかりの赤ちゃんは、自分の口を自分で見たことがありません。そんな生まれたばかりの赤ちゃんと向かい合って、口を閉じたり突き出したりしてみたら、赤ちゃんはどんな反応をするでしょうか。
1970年代にアメリカの学者が、「生後12~17日という生まれたばかりの赤ちゃんは大人の表情を顔真似することが出来る」と発表しました。この発表がされる前は、生後8~12か月頃にならないと、向かい合っている大人の表情を真似することはできないだろうと思われていましたので、驚くべき発表でした。
この実験では、赤ちゃん6名に対して口を「あ」の形にしたり、「む」の形にしたり、舌を出す姿を見せ、その時の赤ちゃんの反応を第三者に見てもらって判定するというものでしたが、実験に参加した第三者の判定は「同じ表情をした」が多かったのです。こうして生まれたばかりの赤ちゃんが大人の顔真似をすることが明らかになりました。
この現象は「新生児模倣」と言います。生まれたばかりの赤ちゃんにしか見られず、生まれてから2か月が経過する頃には新生児模倣は無くなります。再び大人の顔真似をするようになるにはもう少し時間が必要です。
また、新生児摸倣は、目で見たものだけではなく、耳で聞いたものでも見られることが分かっています。
2004年のアメリカの報告で「声を聞いただけで赤ちゃんはその発音と同じ口の形をする」というものがあります。生後1週間以内の赤ちゃん25人を集めて向かい合い、「あー」と4秒、「むー」と4秒、それぞれの発声を聞かせたところ、半数以上の赤ちゃんが「あー」では口を開け、「むー」では口を閉じました。
生まれたばかりの赤ちゃんには、目の前の人と同じような表情をする能力が備わっていますが、この時の赤ちゃんは目を開けている赤ちゃんだけでなく閉じている赤ちゃんもいたので、目視ではなく声に反応したということが分かりました。
生まれて間もない赤ちゃんは、五感をフル活用しています。大人より敏感だとも言われており、その五感を使って、見たり聞いたりしたことを自分の身体に置き換え、同じように表現できる能力がこの頃の赤ちゃんにすでに備わっているのです。
赤ちゃんの口にタッチ!~自分の指と親の指の違いが分かる?~
赤ちゃんには自分の口元に触れたものを何でも吸おうとする能力が備わっています。この能力のおかげで生まれたばかりの目が見えない状態でもお乳や哺乳瓶に吸いつき、生きていくことが出来ます。
生まれたばかりの赤ちゃんの口元に触わると、赤ちゃんはたくさん口を動かして吸い付きます。しかし、赤ちゃん自身の指が口に触れたときは、先ほどよりも動きません。何度試しても、結果は一緒です。
これは、赤ちゃんが「自分の身体が自分に触った時と、他の人が自分に触った時とで感覚が違う」ことを示しています。赤ちゃんは自分の指を吸っているとき「自分の指が吸われている」感覚を同時に感じています。これは他の人の指を吸っているときにはなかった感覚です。
この感覚の違いが分かるから、自分の身体が動いていることを意識できます。身体がどこに触れているのか、どのくらい手を伸ばすと触りたい物に触れることが出来るのか等、感覚を頼りに、身体の使い方を少しずつ覚えていくことが出来ると考えられています。
2か月を過ぎた赤ちゃんは周りに興味津々!
生後2か月程の赤ちゃんは、起きている時間が増え、表情も豊かになります。生まれてすぐはぼんやりしていた視力も、近くのものが段々見えるようになってきて、目が合うと「ニコッ」とたまらない笑顔を見せてくれるようになります。
周りに意識が向くようになった赤ちゃんは、様々な経験を通して多くのことを吸収します。ベッドに寝ている赤ちゃんの手に紐を巻いて、その先に鈴の鳴るおもちゃが繋がっているとき、赤ちゃんは最初、鈴が鳴るたびにビックリした表情をしますが、段々激しく手を動かすようになります。
赤ちゃんは「自分がある行動をしたら、何かが変化する」ということをすぐに学習します。赤ちゃんの代表的なおもちゃの1つにガラガラがありますが、ガラガラも赤ちゃんの周りへの興味や関心をうまく遊びに結び付けたおもちゃと言えます。
またお母さんが抱っこして、歌ったり話しかけたりしていたのを、突然無表情になり無口になると、赤ちゃんはソワソワし、手足をバタバタ動かして落ち着かない様子になります。けれども、お母さんが再び話しかけると、少しずつ落ち着きを取り戻し、元通り笑顔を見せてくれるようになります。
赤ちゃんは非常に敏感です。自分のしたことで物事に変化があった場合はすぐに学習し、その環境に順応する能力を身につけますが、反対に自分が何もしていないのに変化した時は非常に不安を感じます。
4か月を過ぎると話し方のパターンが分かってくる
2か月を過ぎる頃には、周りへの興味が出てくる赤ちゃんですが、4か月頃になると、周りの人が話し掛ける時の「パターン」を段々と分かるようになってきます。
赤ちゃんが大好きな「いないいないばぁ」も、2か月頃の赤ちゃんはじっと見るだけですが、4か月以降になると「いないいない」のあとに「ばぁ」が来ることを理解し、それを期待したしぐさや反応が見られるようになります。
赤ちゃんは、生まれてからずっと一緒にいるお母さんの話し方や間の取り方に、特に親しみを覚えます。お母さんとのやり取りがコミュニケーションの基本になるので、他の人とのやり取りのときよりも、お母さんとのやり取りの時の方が反応は早いこともわかっています。
遊びの中でもすぐにパターンを覚え、タイミングを合わせることができます。赤ちゃんの脇の下に手を入れて、「いち、にの、さーん」と声を掛けながら身体をひょいと持ち上げる動作を何度か試した後、「いち、にの…」と、少し間を取ると赤ちゃんは身体に力を入れて次の動作を待つ様子が見られます。
このように4か月を過ぎる頃の赤ちゃんは周りの人との関わり方を学習し「この次は、こうなる」という「パターン」をすぐに獲得します。この能力を生かすことで日常生活の様々な動作を覚えていくことが出来るのです。
生後半年、赤ちゃんは相手の気持ちを気にし始める
生まれてから半年が経つと離乳食も始まり、寝返りをする子も出てきます。このように生活の中での変化が増えるこの頃は、目の前のことばかりではなく、視線(注意)が遠くに向けられるようになります。
例えば、動物園でゆっくり園内を回っているときに、進行方向ではない方向に、赤ちゃんに見せたいと思っていたキリンやゾウがいたとします。この時「キリンだよ」「ゾウがいたよ」と、指を差して教えてあげることができるようになるのが、生後半年以降と考えられています。
生後半年に満たない赤ちゃんの場合は、「キリンだよ」と指を差しても、お母さんの指先を見てしまうかもしれません。「キリン」が何かわからない赤ちゃんは、お母さんが動かした指に注意を向けるので当然のことです。それが段々と、お母さんの指の先にいる「キリン」に目線を向けられるようになってきます。
このように、他の人と同じものに注意を向けられることを「共同注意」と言います。共同注意は、生後半年以降から成長に伴って徐々に発達します。
そのため、赤ちゃんが大きくなるにつれて、先ほどの「キリン」が木に隠れて見えなくても、頭を動かしたり背伸びして見ようとしたり、木の近くまで走り寄ってキリンを探しにいくようになったりと行動が大きくなっていきます。
この能力が育つことで「相手の気持ち」に気付けるようになりますし、注意を向けたものと名前が一致することで、物の名前を覚え、言語発達にもなります。
また、受け身だった周りの人との関わり方にも変化が出てきます。例えば、赤ちゃんとお母さんが「いないいないばぁ」で遊んでいる最中に、お母さんが顔を隠したまま止まります。生後2か月の赤ちゃんはジーッと見たまま待っていますが、生後半年を過ぎるようになると、隠している手をどかそうとしたり、ツンツンと突いたりする行動が出てくるのです。
このように、自分自身の身体を自分の意思で動かせることに気が付くのもこの時期の行動です。自分の気持ちを行動に表す能力を9か月頃までは段階的に獲得し、更に伸びていくと考えられています。
9か月の赤ちゃんは相手の表情で行動を決める
すくすくと成長していく赤ちゃんが、もう一つの大事な能力を獲得する時期があります。それは9か月頃です。この頃になると、自分の気持ちだけで行動するのではなく、周りの人の表情や声色などに影響を受けるようになります。このことを「社会的参照」と言います。
ご飯を食べているときの食卓の雰囲気などが良い例です。お母さんが怖い顔で座っているか、ニコニコしながら座っているかで、食事の進み方も(おそらく感じている味も)随分と変わってくることでしょう。
有名な実験に「社会的断崖」というものがあり、その実験では1歳前後の赤ちゃんを透明の強化ガラスの上に載せ、お母さんを少しだけ離れた場所に待たせます。強化ガラスの下は、途中から階段がガクンと下がったようになっており、ガラスが無ければお母さんの方に進むと落ちてしまいそうな見た目になっています。
離れているお母さんは2つのパターンの表情をし、赤ちゃんの行動を観察します。ニコニコ笑いかけて楽しそうな時と、不安そうな表情の時です。
不安そうな表情の時、お母さんの所には一人も赤ちゃんはやってきません。一方、楽しそうな表情をしたお母さんのところには7割の赤ちゃんがやってきました。赤ちゃんは、お母さんの表情によって自分の行動を変えたということです。
社会的参照は、「相手の表情を読み取り、自分の行動を決める」という、人以外の動物には見られない、人が社会の中で生きていく為に必要な能力です。共同注意の発達の次に見られるようになり、多くの赤ちゃんは9か月を過ぎると、こういった行動が見られるようになります。
1歳の赤ちゃんは何でも真似する?
赤ちゃんの成長は早く、1歳を迎えると歩く子も出てきます。この頃の赤ちゃんはお母さんのように腕にバッグを引っ掛けたり、ごみ箱に物を入れたりと、身近な大人がやっていることをよく見て、同じように真似をする姿が増えてきます。
しかし、ごみ箱に入れるものは、積み木などの玩具です。ごみ箱にどのような目的があるのかということは置いておいて、赤ちゃんはごみ箱に物を入れるという行動だけを真似します。
行動を見たままに真似をするため、赤ちゃんの前に押すとブザーの鳴るボタンを置き、そのボタンを顎で押したら、多くの赤ちゃんは同じように顎でボタンを押します。また、一度このやり方を覚えた半分以上の赤ちゃんが、数日後にボタンを見たとしても、やはり手ではなく顎を使います。
このことに興味を持ったハンガリーの研究者が、どのような行動を見せても同じように真似をするのかと疑問を持ちました。そこで、タッチすると光るボタンを用意し、操作する様子を1歳2か月の赤ちゃんに2回見せて、どんな風に真似をするかを比べました。
操作方法は1回目と2回目では違うやり方にしました。1回目は、ボタンの横に両手を置いて、手は傍に置いてあるけれど使わずにおでこでタッチする方法です。2回目の方法は、大きなタオルを身体全体に巻きつけて首から上しか出さず、手が使いたくても使えない状態のためにおでこでボタンをタッチする方法です。
どちらもおでこを使ってボタンを押しているにもかかわらず、赤ちゃんたちがとった行動は同じではありませんでした。手をあえて使わないときにはおでこを使ったのに、手が使えない様子を見せた時にはおでこではなく、手を使う赤ちゃんが圧倒的に増えたのです。
赤ちゃんは手が見えていた1回目は「手でボタンを押したほうが正しいけれど、理由があっておでこで押している」と読み取り、手が出せなかった2回目は「手で押したいけれど、押せなくておでこで押している」と判断したのだと思われます。
このように、1歳2か月の赤ちゃんは、状況の違いを読み取り、おでこでボタンを押す理由があるのだろうと予測したり、手が隠れているから代わりにおでこを使ったのだから、使えるなら手を使おうと考えたりと、目的に見合った行動を選択できることが分かりました。
わずか1歳2か月の赤ちゃんは、ただ真似をするだけではなく、今がどんな状況なのかを敏感に読み取り、その時々に合わせてベストな選択が出来る柔軟性を持ち合わせていることが分かりましたが、目的がわかりにくい場合にはどのような行動を取るでしょうか。
赤ちゃんの好きな遊びの1つに積み木があります。この積み木を2つ重ね合わせる様子を赤ちゃんに見せようとします。ですが、あとちょっとのところで、積み木はバランスを崩して落ちてしまいます。
この様子を見ていた赤ちゃんに積み木を渡しました。赤ちゃんは積み木が重なる様子は見ていませんでしたが、上手に積み木を2つ重ねました。一度も成功していなかったのに、なぜ赤ちゃんは積み木を重ねることが出来たのでしょうか。
それは、大人が「何をしようとしていたのか」を読み取ることが出来たからです。この、最後まで見ることが出来なくても、大人がどういう目的に向かって行動しているのかを予想立てて真似をすることが出来る能力を「完遂模倣」と言います。
相手の真似をすることによるメリットは、単に成長発達を促すだけではありません。周りの人との関係性をも構築する手段にもなりえます。この真似を利用したコミュニケーションが人と人との関係性構築に役立つという報告もあります。
発達障害の1つである自閉症は、周りの人とのコミュニケーションが得意ではありません。しかし、自閉症児の表現していることを真似したところ、関係性に変化が現れました。自閉症児の行動を真似すると、自閉症児から相手に対するアプローチが意識的に多く見られたのです。更にこのような関わりを継続したところ、脳の発達が確認されました。
「真似」と一言で表現できる行動ですが、赤ちゃんの成長発達には欠かせない発達過程なのです。
赤ちゃんにとって鏡や映像の中の「わたし」は私?
鏡に映った自分のことを「わたし」と認識するのはいつ頃なのでしょうか。赤ちゃんのおもちゃに鏡のついたものはたくさん発売されており、キラキラと反射する面や何かが映っている様子に赤ちゃんは釘付けです。しかし、映り込んでいるものが「自分」と分かってくるのは、生後9か月を過ぎてからと考えられています。
鏡に関する研究では、同じ類人猿であるチンパンジーに対して行った研究が有名です。今から約45年前、チンパンジーに鏡を見せた時の行動を観察していた時のことです。研究員は最初何もない状態で鏡を見せ、その後こっそりチンパンジーの顔に印をつけました。再び鏡を見せたとき、チンパンジーは印のついている顔の部分に手を伸ばしました。
この行動は、鏡に映っているのが「自分である」と認識していることを証明しました。
人間の赤ちゃんの場合、9か月頃からようやく鏡に映った赤ちゃんが「自分」であることを確認する行動を取るようになります。鏡の中の自分を自分であると意識するということは、自分自身を周りの人が見ている視点に気付くことであり、自分自身への意識が変わることを示しますので、鏡を使用した実験に注目する研究者は少なくありません。
先ほどの「顔の印」の研究を人間で行った場合ですが、1歳半~2歳頃になると、チンパンジーと同じように鏡に映った自分の顔に印があることに気付ける子供が増えてきます。では、自分の身体が「自分の一部である」ことに気付くのはいつ頃なのでしょうか。
アメリカでは、3か月と5か月の赤ちゃんを比較した実験を行っています。それぞれの赤ちゃんをリクライニングチェアーに座らせ、お腹から下を布で覆います。赤ちゃんの目線の先にはモニター画面が2つ並んでおり、1つは自分の足の映像、もう1つは全く違う赤ちゃんの足の映像が流れています。足から先は布で覆われているので確認することが出来ません。その状態でどちらのモニター画面に目を向けるかを観察しました。
その結果、3か月の赤ちゃんはどちらかだけを気にするということはありませんでしたが、5か月の赤ちゃんは「自分ではない赤ちゃんの足の映像」を気にする割合が多かったことが分かりました。
5か月の赤ちゃんでも自分が動かしている足と同じ動きをしているか、していないかに気付けるのです。しかし、この実験では5か月の赤ちゃんが「自分の足」ということを分かっているのかまでは判断できませんでした。
2、3歳の「さっき」と4歳の「さっき」は違う
今度は時間についての理解です。2歳に到達すると発語が一気に増え、言葉でのやり取りが多くなります。言葉のやり取りが増えると一気にコミュニケーションが拡がり賑やかになります。その一方で2歳児の言葉に惑わされる経験をされた方も少なくはないでしょう。例えば「昨日」や「さっき」という言葉を使ったやり取りです。
1か月前におじいちゃんの家に遊びに行ったことも、3日前にカレーを食べたことも、過去のことは「昨日、おじいちゃんの家に行ったよね」とか「さっきカレー食べたよね」と表現を使うでしょう。2歳ではまだ時間間隔が曖昧なのです。
成長に伴って「昨日」や「さっき」と表現した時間が段々「ずっと前」や「少し前のこと」と変化していくのですが、子供が時間を捉えていく過程は大変興味深いものがあります。では「さっき」と「今」の違いはいつ頃から分かるのでしょうか。
宝探しゲームを2歳から4歳の子を集めて行うと、子供たちの様子の違いに気付くことが出来ます。ゲームの前に大人はこっそりと子供たちの靴のかかとにキラキラしたシールを貼ります。ですが、そんなことを知らない子供たちは自分の靴には見向きもせずに、夢中になってビーズや消しゴムなどを探して袋に集めました。
しばらくして宝探しゲームが終わり、誰が一番の宝をたくさん見つけたかをみんなで発表しました。その時、大人たちが「宝探しゲームをしていた時のビデオだよ」と映像を子供たちに見せるのです。宝探しに夢中になっている自分の足元にキラキラ光っているものがあることを子供たちは初めて知りました。
面白いことに2歳と3歳の子供たちはその映像を見ても映像の自分が「今」の自分とは重ならなかったのか、靴に張り付けてあるシールを取ろうとはしませんでした。一方4歳の子供たちは映像を見ながら自分の靴のシールを発見し、シールを剥がしました。4歳になれば、「今」の自分が「さっき」の自分とつながっている、ということを理解できることが、この結果から見えてきました。
研究者は、宝探しゲームから更に1週間後、再び4歳の子供たちを集め、宝探しゲーム中の映像を見せました。今度は誰一人として靴のシールを気にする子供はいませんでした。4歳児にとって1週間前のことはすでに「過去」なのです。このように、4歳になれば「今」と「過去」を分けて考えることが出来ることが明らかになりました。
2歳は時間感覚が曖昧でしたが、4歳は時間の概念が出来ていました。2歳から4歳の間では時間についての捉え方が大きく異なりますので、その間の3歳は、まさに時間感覚が著しく発達する時期だと考えられます。
このことを確認するために、約100名の子供たちを集めてビデオ見せます。使用するビデオは、①今の自分が映っている映像と、②3秒前の自分が映っている映像の2つです。この映像を見てもらった子供たちの反応は以下の通りでした。
4歳児は「今の自分の映像」も「3秒後の自分の映像」も共に「自分」だということに気付きました。しかし3歳児は「今の自分の映像」に対しては「自分」だということに気が付きましたが、「3秒後の自分の映像」に対しては半数以上が気付きませんでした。
そこで、気付かなかった3歳児に対して「手を5回叩いて、頭の上に手をのせてごらん」と指示しました。すると「3秒後の自分の映像」に映る自分が、少し遅れて同じ行動をとっていることに気付き、「自分だ!」と気付く子供が増えました。
この実験により、3歳児は映像に映る自分が鏡のように同じ行動をしているから「今の自分」だと思うのであって、少しでも時間差が生じる場合には「自分」だと判断することに戸惑うという興味深い反応が見られました。
この方法を一卵性の双子の兄弟(Aくん、Bくん)でも試しました。Aくんには別室で待っていてもらい、Bくんに「3秒後の自分の映像」を見せました。Bくんは映像を見ると「おっAだ」ともう一人の双子の兄弟の名前を口にしました。
実験が終了したあと、Bくんに映像に映っていたのは誰だった?と尋ねてみました。するとBくんは「Aがいた」と即答したのです。映像に映っている「自分」が鏡のように全く同じ動き方をしなかったために映っているのは「自分」とは思わず、「そっくりな双子の兄弟」と脳が錯覚して思い込んだようです。
赤ちゃんがどんな風に自分の身体のことを意識していくのか、そして周りの人と関わることでどんな成長が見られるのかを見てきましたが、そこには驚きと発見が沢山あり、小さな身体の中は宇宙のように謎が多く、魅力にあふれています。
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更新日:2019/11/29|公開日:2017/10/08|タグ:赤ちゃん