出産で会社を辞める場合の社会保険と税金
出産に際して会社を辞める場合、社会保険や税金などの状況も変わります。それまで会社にお任せしてきた各種申請なども次からは自分でしなければならなくなります。ここでは、そうした社会保険や税金などについて何がどう変わるのかについて大まかに見てみたいと思います。
社会保険・雇用保険と出産
出産しても仕事を継続する場合
出産しても仕事を継続するお母さんの場合、産休・育休を取っている間は健康保険や年金といった社会保険料が免除されます。また、雇用保険料については、給料が出ていなければ支払う必要がありません。
なお、育児休業は通常の場合子どもが1歳に達する日の前日まで取得することができるものです。しかし、例えば保育の預け先が見つからないといったようなやむを得ない理由がある際にはもう6ヶ月間延長することができます。いずれにしても職場に育休取得を認めてもらった場合、社会保険料が免除され、これは子どもが3歳に達するまで受けることができます。
ただし、この免除は自動的に受けられるものではなく、職場からの申請を行う必要があります。申請は1歳になるまでの期間のぶんと、1歳6ヶ月までの期間のぶんと、3歳までの期間のぶんといったように最大3回行う必要があるので、職場が忘れずに申請を行ってくれるように確認をしておきましょう。
出産により仕事を退職する場合
お母さんが出産によって仕事を辞める場合、お父さんも職場に勤めていてそこの健康保険に加入している場合にはお父さんの健康保険の扶養に入ることができます。一方、お父さんが自営業であるような場合には国民健康保険に加入することになります。
お父さんの健康保険の扶養に入ることができる場合、お母さん本人は第三号被保険者となり、保険料を納める必要はありません。お母さんが国民健康保険に加入する場合には、通常通り保険料を納めることになります。
お父さんの健康保険の扶養となるには、お母さんがその年に得た収入が130万円以上あったとしても関係ありませんが、お母さん本人が失業給付や出産手当金をもらっているような場合にはその間だけ扶養になることができない場合があります(月あたりにもらう金額が10万円を超えるような場合です)。
そういった場合には、扶養に入れない期間についてはいったんお母さんは国民健康保険に加入せねばなりません。このように状況によって違いが出るため、退職した後でお父さんの保健の扶養に入れるかどうかについては前もって確認を取るようにしておいた方がいいでしょう。
雇用保険料については、職場を辞めて給料がなくなればそもそも支払う必要がなくなります。これは、雇用保険という制度が仕事をしていた人が失業し収入がなくなることに備えてかける性質のものだからです。
所得税・住民税と出産
出産しても仕事を継続する場合
職場に勤めて毎月給料をもらっている場合、所得税は毎月の給与から源泉所得税という形で天引きされていたはずです。この額は、1年間にもらえるはずの給料の額を見積もり、それを元に計算されているもので、出産により年の途中で休業に入ったりして給料が減ることについては考慮されていません。
このため、状況によってはその年にもらえる給料が目減りするため、所得税もそれに応じて減額される可能性があります。所得税が減って納め過ぎとなった部分については、年末に行う年末調整で調整されて手元に戻ってくることになります。
住民税は、前の年度のぶんを今年納付する形になりますので、休業していてその間給料がない場合であっても納付せねばなりません。ほとんどの場合は、お母さん本人が自分で手続きをしなくても職場の方で手続きをしてくれるのが普通ですが、それでも納付自体はしなければなりませんので、どういうふうに支払いをするかを職場と詰めておく必要があります。
休業中に給料が出ない職場の場合、産休に入る前に全額を預かるようなケースもありますのでよく確認をしてください。休業中でも給料が出るケースではその給料から差し引いて納付が行われるのが一般的です。
出産により仕事を退職する場合
所得税が発生するのは、1月から12月までの収入が103万円を超えた場合です。会社勤めをしているような場合、毎月の給与から源泉所得税という形で前もって差し引かれています。この金額については、1年間を通しての見積もり額として計算されたものとなっているため、出産により年の途中で退職し給料がなくなるといったことは想定されていません。
つまり、職場を辞めるまでにその年得た収入が103万円以下であった場合にはその年の所得税は0となりますし、103万円を超えた場合であっても1年間の収入で見積もった税金の額よりは間違いなく少なくなるはずです。
このため、納め過ぎになっているぶんを確定申告すればそのぶんが戻ってくることになります。なお、出産や育児に関して給付してもらえる各種の給付金や失業給付などは税金がかからない仕組みになっていますので、収入を考えるときには含めなくても構いません。
住民税は、前の年度に得た所得に対して発生し、それを今年の6月~翌5月に納付する仕組みになっています。つまり、今年の1月~5月に納付した住民税は2年度前の所得から計算された税ということになります。
つまり、たとえ出産で退職し収入がなくなったとしてもその納付が遅れてやってくることになります。このため、退職して収入がなくなる来年やその次の年まで住民税を納付しなくてはならなくなる可能性があるので、思わぬ出費になってしまったというようなことがないように注意が必要です。
出産で職場を辞める場合、社会保険の手続きは?
職場を辞めたら健康保険はどうなる?
出産に際して職場を辞める場合、その後の健康保険をどうするのかを選択する必要があります。選べる方法には3種類あります。
・1つ目は、それまで入っていた健康保険を任意継続するやり方
・2つ目は、お父さんないし家族が入っている職場の健康保険の扶養に入るというやり方
・3つ目は、国民健康保険に入るというやり方
今の職場を辞めるときには健康保険証を職場に返却しなくてはなりません。つまり、健康保険の資格は職場を辞めた時点で失われてしまうということです(事業主は従業員が退職した翌日から5日以内に年金事務所に対して「被保険者資格喪失届」を提出し、資格喪失の手続きをする義務があるためです)。
また、任意継続をするとしても辞めてから20日以内に申請をしなければなりません。このため、健康保険でどの選択肢を選ぶかについては前もって決めておくようにした方がいいでしょう。退職した後にパートやアルバイトを含めてまた働いて収入を得るのか、それてもそれ以降は働かないのかによってどの健康保険に入るのかが変わってきます。
職場で働いている時に入っていた健康保険を任意継続する場合、申請に当たってどんな書類が必要かは自分の職場に問い合わせることになります。ただしこの選択肢を選ぶ場合、これからは今まで事業主側が負担していた保険料の半額ぶんも自分で支払う必要が出てきます。つまり、支払額としては今まで健康保険料として給与天引きされていた額が単純に2倍になると考えると簡単です。
任意継続は2年間することができるのですが、保険料はこの間変わりませんので、仕事を辞めた後にパートをする程度で所得が少なくなる場合、任意継続するよりも国民健康保険の選択肢を選ぶ方が保険料負担が安く済む可能性があります(国保は所得の額に応じて保険料が変わるためです)。なお、任意継続をしていると出産手当金を受け取ることができません。こうしたことを考えても任意継続をする利点はあまりないと言えるかもしれません。
なお、どういう雇用形態かはともかく、職場を辞めた後にまた働くとして、年間の収入が130万円に満たない程度となる場合であれば、お父さんや家族が職場で入っている健康保険の扶養になるのがおすすめです。なぜなら、その場合には社会保険料については負担額がなくなるからです。
職場を辞めたら年金はどうなる?
国民年金は、20歳以上60歳未満の日本国内に住む人は全員が加入する義務があります。国民年金は65歳以降の世代の生活を老齢基礎年金という形で支え、将来は自分たちの子どもの世代に生活を保障してもらうための世代間扶養の仕組みとなっています。
年金の枠組みとしては、すべての国民に共通している国民年金部分があり、そこから老齢基礎年金や障害基礎年金、遺族基礎年金が支給されます。そして、一般企業の従業員が加入する厚生年金や公務員や教職員が加入する共済年金については、そこに上乗せされる形になっています。
このため、俗に国民年金を「1階部分」、厚生年金や共済年金を「2階建て部分」と言ったりします。つまり、職場で給料をもらっているような人であっても全員国民年金にも加入しているわけで、別の制度に入っているわけではないのです。
年金の加入者は、その加入の仕方によって第一号被保険者か第二号被保険者か第三号被保険者に分類されます。自営業を営んでいたり、学生の期間などは第一号被保険者にあたります。職場で働き厚生年金や共済年金に加入している人は第二号被保険者です。そして、第二号被保険者の配偶者の年収が130万円に満たない場合には扶養とすることができ、そうした被扶養配偶者が第三号被保険者となります。
例として、大学生でまだ働いていない女性が20歳になった場合、その時点で国民年金に加入する義務が発生します。この時彼女は第一号被保険者として年金に加入することになります。この女性が就職して厚生年金や共済年金に加入したならば、その時点で第二号被保険者となります。そして結婚や出産などによって職場を辞め、夫に扶養される形になった場合には第三号被保険者へと変わりますし、その後に自分で何か仕事を始め自営業者になった場合には再び第一号被保険者になることになります。
この例のように、退職した際には年金の種別が変わるため、そのたびに種別変更手続きをする必要があります。
例えば第一号被保険者となる場合には、「国民年金被保険者資格取得・種別変更・種別確認届」という書類が必要になります。これにお母さん本人の年金手帳をつけ、居住地の役所・役場の国民年金の窓口で退職から14日以内に種別変更手続きを行います。また、お父さんの扶養となって第三号被保険者となる場合、健康保険についての申請書類とあわせて、年金手帳などの書類をお父さんの職場に提出し、種別変更手続きを行ってもらうことになります。
関連して注意しておきたいのは、お父さんの扶養となり第三号被保険者となっている場合に、お父さん本人が退職するなどしたケースについてです。
お父さんが退職後すぐに別の職場に就職した場合はいいのですが、すぐには就職しない場合には、まずお父さん本人の種別が第二号被保険者から第一号被保険者へと変わります。そうすると、お父さんの扶養になっていたお母さんもまた、第三号被保険者から第一号被保険者へと種別変更を行わねばならなくなります。この手続きを忘れているとその間は年金に未加入の状態になってしまいますので、忘れずに手続きをするようにしましょう。
社会保険や税金に関する良くある疑問
■妊娠して仕事を辞め、夫の年金の扶養となり第三号被保険者になると、夫の保険料は上がりますか?
第三号被保険者は保険料を直接納付する必要はありませんし、それを扶養にした配偶者の保険料が上がることもありません。これは、第三号被保険者の保険料については、配偶者が入っている厚生年金保険や共済が負担をするという制度になっているためです。
■複数の子どもがいる場合、夫婦別々の扶養に入れても大丈夫でしょうか?
まず、健康保険のほうについてですが、被扶養者となる条件は、(1)被扶養者の年間収入が130万円未満であること、および、(2)被扶養者の年間収入が被保険者の年収の1/2未満であること、の2点となります。
両親とも収入があるときに子どもを被扶養者とする場合、年収が多い方の扶養にすることが普通ですが、両親どちらの被扶養者としても問題はありません。職場で健康保険を担当する担当者に確認の上、どちらの扶養としてもよいということが確認できたら、より給付の条件がいい方の被扶養者にするといいでしょう。というのも、被扶養者が何人いても健康保険に納付する保険料の額は変化しないためです。
一方、所得税・住民税に関しては、職場に提出する「扶養控除等申告書」に記入することによって夫婦どちらの扶養にするかは自由に決めることができますし、修正するのもいつでもできます。もっとも、平成22年度の税制改正により、15歳以下の子どもについては年少扶養控除の制度がなくなりましたので、新しく子どもが生まれたとしても税金が安くなることはなくなりました。このため、子どもが高校に入るぐらいまではどちらの扶養にしても同じということになります。