不況や少子化の中で、塾が生き残るための戦略
日本における塾は、公教育を支える民間教育という、教育界における立ち位置だけでなく、経済界においても目を引く存在です。しかし日本は今、少子化や不況などの問題を抱え、塾はその煽りを大きく受けています。
塾を運営する会社は、そうした難しい環境をあらゆる工夫で切り抜けようとし、同時に日本の教育をより良いものにしようと模索を続けています。塾の経済界における動きを中心に、塾が行う様々な工夫について考えてみましょう。
大手塾は提携に活路を見出す
塾業界は今、少子化に加えて不況という経営が難しい環境の中にあります。そうした状況の中で、塾同士は互いに生き残りをかけて争うのではなく、互いに手を取る事で困難な状況を乗り越えようとしています。安定した経営を目指し、業務提携や資本提携などの手段によって互いの経営の土台を固めています。
そうした動きの発端ともいえるのが、2006年に東進ハイスクールや東進衛星予備校を経営するナガセが、大手中学受験塾の四谷大塚を買収した事でした。さらに3年後には代々木ゼミナールが、こちらも大手塾のサピックスを買収します。この2つの大手塾による大手塾の買収という衝撃的な動きは、東進と代ゼミの中学受験戦争として注目を集めました。
これらの買収劇の裏にあったそれぞれの思惑は、東進ハイスクールや代々木ゼミナールという大手予備校にとっては、中学受験生を対象とした塾を擁する事で生徒の囲い込みを目指す事、四谷大塚やサピックスという中学受験塾にとっては、経営基盤の安定を目指す事でした。
他にも日能研と河合塾は合弁会社を設立し、また動きの無かった駿台予備学校も、2013年に関西の大手中学受験塾である浜学園と連携し、駿台・浜学園を設立するに至りました。
こうして大手予備校と大手中学受験塾がうまく組み合わさり、塾経営が困難な環境を乗り越える準備が整いました。予備校と中学受験塾とでは生徒の学年が違っているため、協力関係を結ぶには最適な組み合わせなのです。
塾と教育出版企業が次々に一体化している
近年の塾業界に関連する業務提携には、予備校と中学受験塾の他に、もうひとつ大きな組み合わせがあります。塾と教育出版企業との提携です。
教育出版企業最大手のベネッセコーポレーションは、東京個別指導学院やお茶の水ゼミナールをはじめとして、関西で大学受験の研伸館と高校受験の開進館と中学受験の進学館を展開しているアップや、その研伸館にとって一番のライバルである鉄緑会までもグループ傘下においています。
教育出版企業二番手の学研も提携戦略を展開していますが、その戦略は個性的で、全国の地方の有力塾である中堅塾7つと家庭教師派遣業者1つをグループに加える事で、勢力の拡大を狙っています。その他、市進や早稲田アカデミー、明光ネットワークジャパンとも株の持ち合いをするなどしています。
Z会も、栄光と市進に加え、第一ゼミナールを運営するウィザスの株を所有していて、その他にも塾業界は目まぐるしく再編が進んでおり、業務提携や資本提携の相関図は、戦国時代の同盟関係を思わせるほどです。
しかし塾と教育出版企業との関係性は、戦国時代の同盟関係とは違い、互いに共存のために歩み寄り手を取り合う姿勢の、友好的な関係が基本になっています。
民間教育はいくつかの大きなグループになる
塾コンサルタントの小林弘典氏は、教育関連の企業や塾の提携について、それが被教育者である子供や保護者に与える影響について、以下のように述べています。
「子供が通っている塾が業務提携騒動に巻き込まれたとしても、心配する事はない。むしろ経営基盤が強化され、塾の倒産のリスクが減り、安心して塾に通えるようになる。さらには高品質化したサービスをより安価で受けられる可能性もある。」
しかし、ベネッセ、学研、Z会という3つの大手教育企業が、すでに根深く塾業界に関わってきている事から、いまや塾業界は「塾」というそれだけでは説明できないものになっています。今後も広い範囲での「民間教育産業」として、教室での指導から通信教育での指導、また教育出版事業までも含めた、様々な要素が絡んだ事業展開が進むと予想されます。
現段階では提携しては解消しを繰り返す、暗中模索のような状況にありますが、次第にこの動きが収まって、ベネッセ、学研、Z会、代ゼミ、河合塾、東進、駿台などの各グループがそれぞれに巨大な教育産業グループとして確立されれば、おのおのの特徴のようなものがはっきりと出てくるでしょう。
そうして生徒の囲い込みが進んでいけば、Z会の通信教育からそのまま同グループ系列の塾に入り、参考書も系列のものを使うなど、1人の子供の学校外での教育のほとんどが、1つのグループの教育システムの中で完結するという事になるかもしれません。
付属の学校を進学していく事を「エスカレーター式」といいますが、塾などの学校外の教育に関しても「エスカレーター式」が一般的になる時代が来るかもしれないのです。
そうなれば、学校の選択に公立、私立、進学校、大学付属学校などがあるように、民間教育のシステムについても、どのグループのものを選ぶのかという選択が必要になるでしょう。
中小塾は信頼とサービスで生き残る
経営が困難な状況にあるのは大手の塾や予備校だけではなく、むしろ不況や少子化の影響を強く受けているのは、中小塾の方です。
経済産業省によると、日本には現在約5万もの塾があり、そのうち約8割が従業員数9人以下、さらに従業員数が4人以下の事業所も約6割にのぼり、全体の平均でも、1事業所あたりの従業員数は7人です。
塾というと、まず思い浮かぶのは駅の前などに大きな看板のある大手塾かもしれませんが、実際のところは、塾の大半はごく小さな規模のものなのです。
中小塾を中心にサポートしている全国学習塾共同組合の理事長である森貞孝氏は、「一時期に比べればだいぶましになったものの、依然保護者の一流志向が強いので、一流の学校に多数の合格者を出している大手の塾にさらに生徒が集まる傾向にある」といいます。
そのように少子化や不況だけでなく塾業界内での力の偏りもあって、中小塾の経営環境は一際厳しいものとなっていますが、1990年代から続く不況にあっても、中小塾や個人塾の数それ自体はさほど減少してはいません。
地域に根付いた塾は、その地域の受験について詳しかったり、付近の学校の定期試験の対策に強かったりして、そういう中小塾ならではの指導には安定した信頼がおかれ、生徒や保護者から評判が広まる事で、生徒を増やしていきます。
大手の塾や予備校、教育出版企業などが系列化などを進めるのとは別のところで、こうした地域に密着した中小塾、個人塾は、その特徴を活かして存在感を保っていくでしょう。塾を選ぶに際しても、一流志向にとらわれて大手塾ばかりに気を取られるより、こうした地域の情報に詳しく優れた指導力のある塾を活用した方が賢明な場合も多々あるのです。
個別指導塾が増加している理由とは
塾の授業のやり方も多様化してきています。矢野経済研究所「教育産業白書」によれば、2016年度の個別指導塾の売上げは、塾業界全体の売上げの約45.1%を占めます。塾コンサルタントの小林氏は個別指導塾が選ばれる理由には、「夫婦の共働きの増加」「手軽さ」「意識の多様化」の3つがあるといいます。
今の社会では「夫婦の共働きの増加」によって、両親が不在の時間が増え、親が家庭で子供の勉強に関わる機会が減っています。これまでは、集団指導を受ける中で子供が分からない部分については、家族が教える事ができました。しかし、そういう時間を取る事が難しくなり、塾で個別に見てもらう事で補おうとしているのです。
こうした授業の「手軽さ」は、任意のタイミングで希望する時間だけ授業を受け、それだけの分の料金を支払えば良いというシステムにあります。とりあえず入塾だけという気持ちで始めて、後から必要なだけ受講の回数や時間を希望する事ができるのは、子供としても親としてもやりやすいシステムです。
また「意識の多様化」は、他の子供と画一的である事よりも、個性や自分らしさがある事が重要視されるようになり、学校という集団生活に加えて塾も集団指導を選ぶよりも、塾は個別に指導してもらう事で、子供の個性や特徴を伸ばそうという考えです。
他にも、子供たち自身の学習への態度や意欲の変化にも原因があるという声もあります。大人が子供を常時監視するような子育てのやり方が目立つようになり、あらゆる物事の判断に関して大人が介入する場面が増えました。大人からの指示が無くては、自分がやるべき事やその優先順位を自分で判断できない子供が増えているのです。
子供の1人1人が逐一細かく塾で指導を受ければ、テストの点数は伸びるかもしれません。ですが、果たしてそのやり方で子供自身の能力が上がるでしょうか。自分の課題を見つけ、それを解決する術を考え出すという、あらゆる学習が行きつくべき最も大切な部分が磨かれないのでは、意味がなくなってしまいます。
個別指導にも、一から十まで何もかも教えてくれるものと、子供が自身で問題発見できるようになれるよう根気強く支えてくれるものとで、大きく2つに分ける事ができます。
すぐに成績に影響してくるのは前者の指導方法でしょう。子供も自分が理解したつもりになれますし、実際テストの点数も良くなります。しかし、長い目で見ればそれでは子供のためになりません。
後者の指導方法だと、成績が上がるまでには時間がかかるかもしれません。しかし、自分で問題を見つけて解決するという根本的かつ総合的な、あらゆる場面で役立つ能力が磨かれる事で、先々の子供の自立にも役立ってきます。
個別指導というものは、本来は後者の「1人1人が理解するまで待つ指導」を突き詰めるためのものです。ですから、個別指導の塾を選ぼうと思った時には、そういう指導をしてくれる塾を選び、また事前に授業のやり方や方針について講師とよく相談しておくのが良いでしょう。
デジタル教材が個別指導塾の人気を後押しする
近年の塾の授業には、映像やパソコンなど、いわゆるデジタル教材を導入したものが増えています。
映像を使用した授業とは、東進衛星予備校や代ゼミサテライン予備校などで行われている、有名であったり人気があったりする講師の授業を録画したものを生徒に教材として渡し、生徒が好きな時に見る事ができるものです。
パソコンを使った学習は、学研CAIスクールやセルモなどで行われています。専門的には「CAI(Computer Assisted Instruction)」と呼ばれ、パソコンのモニターに表示される指導に沿って、ゲーム感覚で学習する事ができるという点が特徴です。映像授業と違うのは、受け身になりがちな映像学習に比べ、CAI学習は生徒の行動が必要になる部分です。
どちらも生徒がそれぞれの学習進度や生活に合わせて学習できて、塾としても人件費にかけるコストが減るので安価です。
これらのデジタル教材を使用した授業も個別指導の一形態なので、先に述べたような個人指導タイプの塾の売上げの一助となっています。塾の指導の仕方の中でも、こうしたデジタル教材を使ったタイプの個人指導が、今の塾業界における流行といえるでしょう。
ですがだからといって、これからの塾の指導はデジタル教材ばかりになり、人間のやるべき事は無くなっていくというわけではありません。
それぞれの生徒にどの教材を与えるべきかを判断するのは人間でなくてはなりませんし、また生徒が真面目に取り組む様子を見た時や良い成績を収めた時に褒めたり、難しい問題につまずいている生徒に寄り添ってサポートし励ましたりする事も、人間にしかできないからです。
特に志望校や将来についての相談や、学習の目標設定などについては、きちんとした塾講師にしかできません。デジタル教材を使うにあたってはプロの指導がある事が前提条件であり、教材がいかに有効に活きてくるかどうかには、「担任」や「チューター」などと呼ばれる、サポート役の講師の能力の高さも問われてくるのです。
そしてこれから映像授業やパソコン学習がどれだけ便利で効果があるものになったとしても、集団の生徒で直接講師の授業を受け、他の生徒たちや講師の熱意や誠意を感じながら学習する事の果たす役割が、デジタル教材に奪われる事はないでしょう。
ただそれでも、塾の講師や指導者の役割が「ただ教える」事から、「見守り、支える」事へと変化してきている事は間違いありません。
パッケージングされた教育がビジネスとしての塾を育てる
担任やチューターなどと呼ばれる指導役が、生徒それぞれのペースや学習進度に見合ったデジタル教材を与えたうえで行われる個人指導が近年の塾の流行であると述べましたが、このやり方の良いところは、全国どこでも質の変わらない教育を提供する事ができる点で、これは「教育のパッケージ化」と呼ぶ事ができるでしょう。
パッケージングされた教育素材があれば、あとは数人の担任やチューターと、生徒がそれぞれに座って学習できるパソコンなどが設置されたスペースを用意するだけで、教室や黒板が無くとも塾を開く事が可能になったのです。時間割を組む必要もありません。
このように、個別指導の塾は集団指導の塾と比較すると、開塾が容易かつ拡大も迅速に進みます。割合手軽に始める事ができるフランチャイズビジネスとしても扱われ、個別指導塾の開塾については、開業や独立に関する情報誌にも掲載されていますが、数十年も前にそのようなやり方で開業して大成功した塾が、公文です。
公文のやり方は、生徒が各自好きな時間に教室に通い、それぞれが自分のペースで、自分の学習進度に合った教材を使用して学習するというものです。教室に配置された指導員が採点、指導し、進み具合や理解度に合わせて次の段階の教材に移行させるという、今の個別指導塾のやり方と同じ、パッケージングされた教育を使用した指導方法なのです。
ただ個別指導塾の開塾が容易であるという理由から、塾を選ぶ側としては危惧すべき点もあります。比較的気軽に参入できるビジネスには、それだけ多くの人が手を出しますから、その人々の間には質に差が生まれますし、教育には詳しくない人物がオーナーになる事もありえるという点です。
そのビジネスや取り扱う商品に関してオーナーがあまり詳しくなくとも、コンビニや飲食店ならば、客側が買う商品を選ぶので、そこまで問題にはなりません。
ですが塾となると、商品である指導や教材を選ぶのは基本的に店である塾側で、客である生徒は商品を選ぶ事はできません。店の見立てが悪ければ客は支払った金額に相当する結果を得られず、店側の不手際で損をする事になります。
開塾をするにおいて、教育に関してそこまで知識がなくとも、まずはしっかりとした気持ちがあればかまいません。ですが、教育を金儲けの手段としか考えていない人に、塾の経営はできません。教育の質は落ちますし、そうした姿勢は次第に生徒や保護者に伝わって、経営を続けられなくなるでしょう。
日本の教育は学校と塾が影響し合って発展する
デジタル教材によって塾の講師の役割が「見守り、支える」事へと移り変わった事には、講師が教壇から多くの生徒に向かって一方向的に与えるという教育のやり方から、個々の生徒の横に立って指導するというやり方に変化したという意味合いもあります。
今の教育の世界で話題なのは、生徒が与えられたデジタル教材を使って予習したうえで教室での授業に参加し、予習で得た知識を活かしてより難しい課題に取り組んだり、予習の際に分からなかった部分を講師が個別に教えたりする、「反転授業」というやり方です。
これまでは学校でも塾でも、まずは授業で習い、復習して理解を深めたり疑問点を探したりするという流れが一般的でしたが、「反転授業」は言葉の通りそれを逆に行うやり方で、これまでの教育に捉われない新しい方法として評価され、公立の学校もそのやり方を研究しています。
塾の世界においては、それぞれの生徒の教育進度や都合に合わせて教育を行いたいという考えのもと、映像授業やパソコン学習などのデジタル教材が作られるなど、生徒の事を中心に考えたやり方が広まっていました。東進衛星予備校などは、20年も前からこうしたやり方を実践しているのです。
また文部科学省も2013年の12月に、ICT(情報通信技術)を利用した遠隔授業を高校での正式な授業として認める考えを発表し、2016年からは文部科学省が推進し、実際にそうした授業が始まっています。
この事象は、日本における教育の発展に、民間教育が欠かせないものであるという事を改めて示したものといえます。
民間教育は、公教育だけではまかないきれない部分を補うためのものです。学校の指導方針や社会の風潮の変化の中で、子供や保護者が民間教育に求めるものも、自然と変化していきます。民間教育はそうしたニーズに対応しようと形を変え発展し、そこで生まれ変化、発展したやり方は次第に一般的なものとなり、ついには公教育にまで影響が回帰します。
このように日本の教育は、公教育と民間教育の2つの教育機関が互いに影響し合い、進化を続けているのです。
これからは有料教育が公教育に密接に関わる
公教育と塾が手を組むという事例もあります。2008年に東京都杉並区立和田中学校が始めた「夜スペシャル」、通称「夜スペ」という、学校と塾が提携した夜間授業は大きな話題になりました。
夜スペは、初めての東京都公立中学校の民間人校長として立和田中で校長をしていた藤原和博氏が、より成績が良い生徒をサポートするための試みとして考案しました。放課後の学校の教室に提携した塾の講師を招いて、一定以上の成績を収めている生徒を対象とした有料授業を行うという、学校の校舎を利用した有料民間塾のようなものでした。
その当時は賛否両論、特に批判の声も多く聞かれましたが、こうした民間塾の講師を招いた補習授業は、現在では多くの中学校や高校で実施されるようになり、学校内で塾の映像授業教材を見られるようにした学校もあります。
またリソー教育グループのスクールTOMASは学校の空き教室を借りて、そこに講師を配置して指導したり、設置したパソコンを使ってテレビ電話で個別指導を行えるようにしたりした学校内個別指導塾を、私立中高一貫を中心に全国約30校で展開しています。
運営会社のリソー教育代表の岩佐実次氏は「これは学校革命だ。日本の教育の底上げのために、個別指導に国家予算がつくようになることが、今の夢」といいます。
塾はすでに、公立私立問わず学校の中にもそのサービスの範囲を広げており、こうした学校と塾が手を組んだやり方は、これから一層増えていく事が予想されます。
塾の海外展開から見えてくる日本社会の問題
塾が拡大する先の1つには、海外もあります。パッケージングした教育を商品として扱う個別指導塾としては、海外に展開する事も難しい事ではありません。明光義塾の明光ネットワークジャパンは韓国や台湾で、スクールIEのやる気スイッチグループは台湾から中国、韓国で海外展開しています。
不況や少子化などの影響を受けて縮小を続けている日本国内の教育市場よりも、成長のめざましいアジアに事業を広めた方がやりやすく、将来性がある事は確かです。日本の教育がアジアの教育をより良いものにし、その中で成長した優れた人材がいずれ日本にくるという流れも起こりえるでしょう。
しかし、日本の塾の進出した先の国が、その教育を活用して優秀な人材を育てて国力を増強する一方で、日本の国力が衰えていくのでは、皮肉ですが仕方ないとも言えます。
世界のグローバル人材に詳しく、ハーバード大学で数回ベストティーチャーに選ばれた経験もあり、現在は開成で校長を勤める柳沢幸雄氏は、日本国外の大学に進学する生徒たちに以下のようにアドバイスするといいます。
「現地で求人をしていない日本の会社に就職するな。同期入社の入社式で一列に並ばされるような会社に入ると、出る杭とされ、大きな軋轢が生じるだろう。日本に帰ってくるときは、ヘッドハントされて落下傘で下りてこい。」
つまり、海外にある日本企業でも、体質が日本企業のそれそのものである企業に就職すると、養った才能と国際感覚が活かされるどころか、それによりむしろ苦しむ事になるのです。
内閣の教育再生会議では、経済界からの要望もあり、議題の1つに「グローバル人材の育成」を掲げていますが、柳沢氏の指摘のように、優秀なグローバル人材が日本企業に身を置いて苦しい思いをするのであれば、彼らは海外企業に就くでしょう。そうなれば日本社会の優秀な人材は余計に減っていきます。
経済界が望んでいたグローバル人材の育成それ自体が、日本の経済界にとって打撃になる可能性もあるのです。
今の日本社会は、日本が持つ国際的に見ても質の高い民間教育によって優秀な人材が育っても、国内で活用しきれないという問題を抱えています。日本の塾の海外進出によって他国が国力を伸ばす事が、日本の国力が伸び悩むのは、そうした日本社会の体質にも由来しているのではないかという疑問を浮き彫りにするのです。
塾は公教育の手の回らない部分を補い、また公教育に対して子供や保護者が抱く不満や不安を解消するために存在していますが、いまや塾の役割はそれだけではなく、これまで以上に積極的に教育に関わる大きな存在になっています。
更新日:2019/11/29|公開日:2017/11/27|タグ:塾