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増える子どもたちの肥満

肥満児

子どもたちが肥満になってしまうケースが増加しています。以前とは生活習慣が大きく変わり、糖尿病、高血圧、動脈硬化といったいわゆる生活習慣病になる一歩手前のような子どもたちが増えてきているのです。肥満が子どもたちにどんな影響を与えているのかについてみていきましょう。

 

カロリー摂取過剰と運動不足が肥満を招く

生活習慣の変化によって、子どもたちの実に10%が健康に影響するほどの肥満を抱えてきています。昭和30年代と比較すると、肥満を抱える子どもたちの数は約2倍から3に達しています。(日本の子どもの肥満は、ここ10年は横ばいもしくは減少傾向ですが、中長期的に見ると増加傾向にあります)

 

手軽に食べることができるファーストフードの広がりや、コンビニの拡大などでペットボトルやお菓子などが手に入りやすくなったため、最近の子どもたちは昔に比べてカロリーを取り過ぎている傾向があります。

 

また、最近の子どもたちは外で遊ぶことが少なくなり、屋内でTVゲームなどをして過ごすことが多くなっており、そうしたことから運動不足になってきている点も見逃せません。こうしたさまざまな要因が相まって、子どもたちの肥満が増えていっているのです。

 

こうした子どもたちの現状をつかむべく、兵庫県尼崎市では平成15年以降子どもたちの生活習慣病に関する調査を行っています。調査の対象となるのは、年度初めの身体測定において肥満度が30%を超えていた公立の小中学校の子どもたちです。

 

こうした子どもたちに夏休み中に医療機関を受診してもらい、血液や尿などについての検査を行っています。受診の割合としては、約35000人の小学生・中学生に対し、肥満度が30%を超える者は約2000人、そのうち検査をした者は約350人という感じになっています。(肥満度については後述)

 

こうした調査によって、肥満度が30%を超えている子どもたちのうち、およそ70%ほどに何がしかの健康上の問題が発生しているということが分かってきました。問題があった例をいくつかあげれば次のようになります。

・高血圧:6%~7%

・過栄養による脂肪肝:22%~23%

・高コレステロール血症(脂質異常症の一種):10%~11%

・低HDLコレステロール血症(脂質異常症の一種):14%~15%

・高中性脂肪血症(高脂血症の一種):28%~30%

・高インスリン血症(糖尿病に進展することがある):45%~48%

・高尿酸血症(痛風や腎障害を起こすことがある):22%~23%

 

こうした問題のうち、特にインスリンに関する数値や尿酸値には注意が必要です。急な肥満によってインスリンが過剰に分泌されるようになってしまうことがあり、これが悪化すると糖尿病になってしまう恐れもあるからです。また尿酸の値もインスリンと連動し、糖尿病かどうかを見るための指針となります。

 

こうした調査に協力している医療機関では、受診した子どもたちに歩数計を配布していますが、中には1日に700歩程度しか歩かないような子どももいるといいます。

 

肥満度のはかり方

肥満度については、BMIと呼ばれる国際的な尺度が存在しますが、子どもの場合には身長が短い期間で大きく伸びるため適用するのが難しいといわれています。そこで子どもの肥満度を計算する際には、次の数式が使われます。

 

・肥満度(%)=(子どもの現在の体重-身長別標準体重)÷身長別標準体重×100

 

身長別標準体重については、日本学校保健会が出している健康診断マニュアルから割り出します。12歳の平均身長(平成26年度調査)で例をあげると、

・12歳・男子で身長152.5cmである場合、標準体重は43.8kg

・12歳・女子で身長151.8cmである場合、標準体重は43.9kg

といった具合です。

 

文科省では、肥満度が20%以上である場合その子どもに肥満の傾向があるとみなしています。こうした子どもは11歳~12歳の年齢層で一番多く、子ども全体の1割に達していると言われていますので、30人~40人学級であればクラスに3人~4人はそうした子どもがいることになります。

 

なお、肥満度が20%~30%の場合は軽度、30%~50%の場合は中等度、そして50%以上の場合には高度肥満という形に分類されます。

 

世界の子どもたちの肥満の現状

日本の内外における研究結果から、子どもの頃に肥満になっていた場合、幼児期、学童期、思春期を経て成人になってもそのまま肥満が続くことがままあり、子どもの頃から肥満を持ち越してきた場合、成人してから肥満になったケースよりも虚血性心疾患によって死亡する割合が高いということが分かってきています。また、10代の子どもたちのほとんどに、大動脈内部に脂肪の沈着が見られ、将来の動脈硬化が懸念される状態だといいます。

 

日本においては、メタボリックシンドロームを防ごうといったような運動がしきりに行われています。厚労省や関連する業界などが中心になって進められているものですが、この中で6歳~15歳の子どもについては男子・女子問わず、

・ウエストの周囲の長さが、中学生で80cm以上、小学生で75cm以上

・もしくは、「ウエスト周囲の長さ÷身長」が0.5以上

というのがメタボリックシンドロームの基準であると定められています。

 

世界の子どもたちについての現状を見ると、先進国の子どもたちの間では肥満が増加しています。ユニセフの2013年の調査によると、肥満の子どもの割合は、EUで例を挙げるとイタリアで17.3%、スペインで16.9%、またアメリカでは29.4%という具合になっています。

 

こうした傾向を考えると、世界の中でも特に飽食の傾向がある日本で肥満の子どもの割合を減らすのはおそらくかなり難しいのではないかと考えられています

 

肥満は体だけでなく心もむしばむ

肥満に陥っている子どもは高血圧症や糖尿病の患者予備軍と言うことができますが、それ以外にもさまざまな疾患を抱える危険性が高くなります。例えば睡眠時無呼吸症候群であったり、関節の障害といったものです。

 

またそうした肉体面でのリスクのみならず、精神的な悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。肥満によって、運動が下手、いじめの対象となりやすい、学校に通いたくない、好きなファッションが楽しめないといったネガティブな考え方に陥りやすく、自信をなくして不登校になってしまったりする危険があるのです。また、そこから受けるストレスによって過食に陥ったり生活習慣が崩れたりと、より肥満を悪化させるような状況も招きかねません。

 

こうした子どもの肥満を改善するための取り組みを行っている病院もあります。京都府の国立病院機構南京都病院には肥満外来が開設されていますが、この病院には肥満問題を抱える子どもが入院して治療を行える養護学校が併設されています。

 

入院している子どもたちは病室で生活し、昼間は養護学校に通って勉強をします。学校が終わった後はトレーニング器具を使って運動を行い、その後は学習室で他の子どもたちと生活するといったように、寮のような生活を送る中で肥満の解消を図ります。

 

入院生活を送る中できちんと体重が落ちてくると、それが子どもたちの自信になってくるといいます。この時期は将来どんな危険があるのかといったことをきちんと分からせるのが難しい時期でもあるのですが、一方で成長期で身長が伸びる時期でもあり、肥満解消のための治療に素直に専念してくれる絶好の機会でもあるといいます。

 

こうした取り組みから見えてくるのは、医学的な側面ばかりではなく精神的な面にもサポートを入れたり生活習慣構築のための手助けをするなど、いろいろな側面から早めの治療を行うことが大事だということです。

 

睡眠時間の短い幼児は将来太る!?

平成18年、日本睡眠学会において、幼児期の睡眠時間とその後の肥満の間に関連性があるといった研究報告がなされました。

 

この研究は、平成元年生まれの子ども1万人を3歳から14歳までの間調べ、アンケート形式で家族構成、家族の体格、食事や運動について、そして睡眠時間などの生活習慣について回答してもらう形で行われました。このうち、3歳の時にもう肥満児になっていた670人の子どもを除く、5520人の子どもについて14歳まで調査できています。

 

これらの子どもたちについて3歳期の睡眠時間の長さと14歳の時の肥満度を見ると、3歳期に10時間以上の睡眠を取っていた子どもでは、14歳の時に肥満になっていた割合はおよそ12%でした。以下、9時間台の睡眠を取っていた子どもはおよそ15%、9時間未満ではおよそ20%といったように、幼少期の睡眠時間が短いほど14歳時に肥満となる確率が上がることが分かったのです。

 

11時間睡眠を取っていた子どもが将来肥満になる危険性を1とすると、9時間台の睡眠を取っていた子どもは1.24、9時間未満の場合には1.59といった度合いになります。

 

この報告では、子どもの肥満については、遺伝要因以外にも生活環境からの影響が大きいと結論づけています。食事だけでなく幼い頃の睡眠習慣は成長してからも長続きしやすい傾向があり、それが肥満に影響するため、幼少期から子どもの肥満予防対策が必要なのではないか、というのです。

 

睡眠が短いとノンレム睡眠の時間が減ることが分かっていますが、ノンレム睡眠の時間中体からは脂肪を分解する作用のある成長ホルモンが盛んに分泌されています。このため、睡眠時間が短くなるとホルモンの分泌が減り、脂肪があまり分解されなくなって肥満が進行してしまうとみられています。

 

それに加えて、自律神経のうち交感神経の働きが乱れて血糖値が上がり、血液の中で過剰になった糖分が脂肪に変えられて体に蓄積されると考えられています。

 

生活習慣の夜型化と食事の高カロリー化が進んでいる

日本小児保健協会が10年毎に実施している「幼児健康度調査」の平成22年度版によると、夜10時より遅い時間に就寝する幼児の割合は、1歳半が30%、2歳が35%、3歳が31%、4歳が26%という結果になっています。

 

このような夜型の生活への移行とともに、子どもの肥満に大きな影響を与えているのが食事の変化です。動物性脂質が豊富で食物繊維の少ない食事を摂ると肥満になりやすくなりますが、最近になるに従って食事にそうした特徴が現れるのは論を待たないかと思われます。

 

幼い子どもが摂取したカロリー全体に対する脂質の比率を見ると、1950年代はおよそ13%程度だったのに対し、1980年代にはすでに30%を超えて、以降も30%以上になっています。

 

昨今、夜遅いファミレスやファーストフードチェーン店などで親子連れが高カロリーのメニューを食べているといった姿をよく見かけます。こうした食習慣や生活習慣によって子どもたちの間に肥満が増加していると考えられます。

 

食材に含まれる栄養をもう一度考える

自治体によっては、学童保育などの場で食事やおやつに関する指導を始めているようなところもあります。ある食品にはどういった栄養素が含まれているのかといったことをゲーム形式で啓蒙したり、肥満の原因になりがちな脂質と糖質について、例えばスナック菓子や清涼飲料水にそれらがどのぐらい含まれているのかということを目で見て分かるように教えたりするのです。

 

こういった現場で、スナック菓子一袋に含まれている油脂の量(小びん1本)や、清涼飲料水一本に含まれる砂糖の量(角砂糖12個)をわかりやすく見せると、当事者である子どももびっくりしますし大人も驚くといいます。どういったものに何が入っているのか、あまり考えずに子どもに与えている親が多いというわけです。

 

子どもが生活習慣病になってしまうのを防ぐため、肥満がちな幼児がいる家庭について、親子で受ける講座を開いているような自治体もあります。そうしたところに参加してくる親に話を聞くと、子どもがほしがるとついお菓子を与えてしまうが、実際に何が入っているのかよく分からないし、与えている量が適量なのかがよく分からないという声がよく聞かれます。

 

コンビニエンスストアやファーストフードなどが発達したことでいろいろと便利になり、それと共に生活スタイルの幅も広がり選択肢も増えたわけですが、そういう今こそ親は食事の栄養バランスを考え、子どもに与えるようにするという当たり前の考え方をもう一度改めて意識しなければならないといえるでしょう。

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