ストレスは子どもの成長にどのくらい影響を与えるか?
身長や体重といった子どもの成長の記録をつけることで、その子どもが精神的なストレスを抱えていないかが分かるという研究があります。どういった内容なのかを少し掘り下げてみたいと思います。
発育グラフによって肥満の兆しを見つける
身長は一日の間で変動します。一番高いのは起床直後になり、その後は頭部の重みなどによってだんだんと縮んでいきます。身長150cmの子どもであれば、眠る直前には起床時からおよそ2cmほど低くなります。このように一日の中で変動するほか、週の中や季節によっても変化します。
特に子どもについて見る場合、このような毎日の変動や週・季節の変動を考慮した上で、身長や体重に異常な変化が起きていないかをチェックしていくことが大事になってきます。
子どもの身長や体重を定期的に計測し、それを分析してみると、1年生の時点では標準的な肥満度だった児童が学年が上がるにつれて肥満度が大きく進んでしまったというケースがあることが分かりました。
こういったケースについて身長や体重の変化をプロットして発育グラフを作成し、それを解析していったところ、夏場に体重が増加するという特徴が現れていることが判明しました。普通大まかな傾向として、夏場に身長が伸び、秋冬に体重が増える傾向があるものですが、それとは違った変動を示したのです。
こういった研究結果から、夏場に体重が増加している子どもを見つけることができれば、その子どもが肥満しやすいということに気づくことができます。そうした特徴に早めに気づくことができれば、その子どもが将来肥満になってしまうのを防止することができるかもしれないのです。
ストレスは子どもの成長にも影響する
子どもの身長や体重がどんなふうに増えるかについては、従来ある程度一定のペースで増加するものだと考えられてきました。しかし実際に20数年にわたって研究調査を行ってみたところ、身長と体重の増加には波があり、また個人ごとにその波に違いがあることが分かってきました。
子どもの成長の波は、大きなストレスを受けることによって影響を受けることも分かってきました。1995年に阪神・淡路大震災が発生しましたが、被災地の小学校に通っていた生徒の身長や体重の統計を使ってグラフを描いたところ、児童の中に地震後に体重の変化の幅が大きくなっているケースが見つかったのです。
例えば、被災前には毎月+1.5kg~-0.5kgの間で体重が変動していたある児童の場合、被災後に+2.5kg~-3.2kgといったように変動幅が大きくなったのです。このような傾向が見られた児童について学校に照会したところ、被災したことで家族を亡くしているような児童や、もともと自閉症などを患っていて環境が変わることによる影響を強く受けてしまうような児童であることが分かりました。
こうした傾向は中学校や高校になってからも見受けられました。いじめに遭っていた生徒について身長・体重の変動を調べてみたところ、身長のほうは中学・高校を通してほとんど伸びず、また体重の変動幅も+5.6kg~-3.9kgの間で大きく変動していたことが分かったのです。
成長の変動には個人差もありますので一概には言えませんが、いじめであったり虐待といったような理由で精神的に強いストレスを受けている子どもを、身長や体重を調べて成長曲線に異常が出ていないかを調べることで発見することができる可能性があるわけです。
発育グラフを簡単に作れるソフトウェア
児童生徒の成長の度合いを定期的に調べ、成長曲線に異常がないかを調べるには、身長や体重を一定期間定期的に測る必要があります。しかし、こうした測定を学校で実際に行うには難しい側面があるのもまた事実です。特に女子は体重を測定することに抵抗を覚えることもあり、必要だからといって無理強いすることもできないわけです。
さらに、仮に発育グラフの成長度合いに異常が見られたとして、それを本人に伝えたり指導に活かしていくという部分でも難しい問題があるといわざるを得ません。それでも、なかなか表面に浮かび上がってこない児童生徒の精神的な問題をつかもためのきっかけになるかもしれないわけですから、教育現場でうまく活用することが求められてくると思われます。
このように有効に使えるかもしれない発育グラフの簡単に作成できるようにするため、子どもの生年月日、測定した日付、測定した身長や体重を読み込ませるだけですぐに発育グラフを描画できるソフトウェアも開発されています。
このソフトウェアには基準となる標準的なグラフも含まれているので、そのグラフと比較すればその子どもの発育が正常であるかどうかを簡単に見ることができ、もし異常があるような場合には即座に分かるようになっています。
こうしたソフトウェアがあれば、児童生徒の数が多い学校であってもグラフを上手に活かしていくことができると思われます。ただし、正確なデータ算出のためには3ヶ月に1回程度の身長・体重測定が必要となってきます。
こうした発育グラフから児童生徒本人さえ気がついていないような問題が発見できることもありますから、学校教育の現場にこういったものも導入し、いじめや虐待を早期に発見する手がかりの1つとして広がっていけばと思います。