子どもには嘘を見抜く力をつけさせよう!
多くの子どもは、幼いころから嘘はよくないと教わって大きくなってきています。しかし、それだけを教えていると、子どもは嘘を見抜く力を磨けずに大きくなってしまいます。そうならないようにするためにどうすればいいのか見ていきましょう。
「嘘をつくのはよくないこと」とだけ教えていると騙される人に育つ?
世の中は嘘だらけです。例えば、以前に世間を賑わせたマンション偽装疑惑を例にあげるなら、下請けに不正を指示して工事を行わせたにも関わらず、指示は一切していないと言い切る建設会社や、不正工事を行っておきながらうちだけが悪いわけではないと居直る業者、そして、不正がないかどうか調べる立場にあるにも関わらず、不正に気がつきませんでしたとだけ言ってあとは知らないふりの検査機関など、嘘や居直りや言い訳が次から次へと出てきたものでした。
嘘をついてはいけないと言われつけて育つ子どもは多いようです。これは、ほとんどの親が何のてらいもなく嘘をつけるような人間にはなって欲しくないと考えているからではないかと思います。
しかし一方で、世間を渡っていくときには時折嘘も必要であるということを大人としての親は知っているはずです。思いやりからの嘘や方便としての嘘などはこうしたついていい嘘としてあげられるものではないでしょうか。
例えば、年を取ったことで少し元気がなくなったり、活力も気力も少し失ってきたような人に、「あなたがいると周りも元気になりますね」などと言ってみることは、確かに嘘かもしれませんが相手を発憤させようとした思いやりのある嘘ですから、ついていい嘘に入るのではないかと思います。
また、自分としてはあまりいいなと思わないようなブランドアイテムを得意そうに見せられたときに、相手の気を悪くさせないようにそれを褒めておく、というのも人間関係をスムースにするために必要な嘘でしょう。
このように、思いやりからの嘘、方便としての嘘というのは世の中をうまく渡っていくためにはどうしても必要な技術です。従って、こうした嘘と、ついてはいけない嘘については分けて子どもに教えるべきだと思われます。「嘘はよくない」と一面的に教えるよりも子どもは嘘の多様性というものを学ぶことができるだけでなく、あらゆるシーンにおいて、他人がもしかしたら何らかの嘘をついているかもしれないということをも教えることができるからです。
他人が嘘をついている可能性について学ぶことができなかった子どもは、相手を騙そうとする嘘に対して弱くなってしまいます。世の中には、最近よく聞くオレオレ詐欺や振り込め詐欺、住宅のリフォーム詐欺、「決して損はしない」とうたう投資商品、これさえ持っておけば幸せになれるだとか悪い霊がつかないだとかいう怪しげな商品など、嘘を嘘と見抜けない人を騙すためのさまざまな手口がコロゴロしています。こういったものに騙されやすくなってしまうかもしれません。
こんな話をすると、正直者が馬鹿を見る、という言葉を引き合いに出す人がよくいますが、「嘘を嘘と見抜けない人」と「正直者」は同じではありません。
「嘘を嘘と見抜けない」というのは「疑わない」ということです。「疑う」と言うとあまりいい印象を受けないかもしれませんが、どんな「いい話」を持ちかけられたとしてもいったん立ち止まって冷静に考えることができ、なにかがおかしい、矛盾がある、ということに鋭く気づくことができるスキルは、世の中を渡っていくためには必須のスキルであると言えます。特に都市圏など、人と人の関係性が薄くなりがちなところに住んでいる場合にはなおさらです。
例えば、とんでもない価格の浄水器を販売する悪徳商法があるといいます。はじめに、「浄水器を無料で進呈します。まずはご連絡下さい」などという内容のビラを配ります。連絡してきた人がいると家に上がり込み、100円ショップで販売しているような簡易浄水器を設置し、塩素の濃度を測定できる試薬を使って「完全には塩素は取りきれないんですよね」と不安をあおるのだそうです。
それから本来売ろうと思っているほうの浄水器を取り出して売り込みを始めます。塩素を完全に取り除けるだけでなく、トリハロメタンのような危険物質も除去できる云々と話を続け、どうしようか迷っているようなら毎月五千円の5年ローンが使えるからお得であるとか、毎日ミネラルウォーターを買って使うよりも割安になるとか言いつのり、ついには契約させてしまうのだといいます。
何かがおかしいのではないか、と冷静に考える力さえあれば、浄水器が無料でもらえるというのがまずは怪しい、と気づくことができ、自分から連絡をすることはしないでしょう。仮に家に売り込みに来たとしても、毎月五千円の5年ローンなら最終的には30万円ほどになる、であるとか、浄水器をつけて得られるのは不純物のない水なので、ミネラル分がたくさん入っているミネラルウォーターと比べるのはそもそもおかしい、といったようにおかしい点にちゃんと気がつくことができます。
こうした例を見ても分かるとおり、「嘘を嘘と見抜けない人」は「正直者」ではなく、冷静さに欠け客観的なものの見方ができない人にすぎないのです。
子どもの嘘を見抜く力を育むには
子どもは大人よりも経験の量が絶対的に少ないため、冷静さや客観的なものの見方を持ち合わせていません。であるからこそ、そのまま大人になってしまう前に自然な形で「なにごとにも裏がある」といった考え方や、「人を騙す嘘はよくないものだが世の中にはそれがごろごろしている」という事実を身につけてもらう必要があります。
では、そうしたことを子どもにどうやって教えればいいかですが、これはある身近なものを使えば簡単に教えることができます。それはTVなどで日々目にするCMです。
例えば、すらっとした女性がおいしそうなチョコレートをぱくぱく食べているようなCMが流れたとしましょう。それを子どもと見たときに、「あんなにたくさんチョコレートを毎日食べてるんなら、あの人はもっと太ってなきゃ変だよね。それと、虫歯だらけになっちゃうはずよ」と教えるのです。
また、高級エステのCMで、今なら3割引で体験できます、などと宣伝している時には、「こういうのは、体験コースの後に何万円もするコースを勧められることになるのよ」などと教えます。CMの内容を子どもが理解できる必要がありますので、子どもの理解力に応じてにする必要はありますが、要はCMに「つっこみ」を入れるのです。
こういった形でものごとの裏に隠されたものや嘘を見抜く力を鍛えることは、そうしたものに騙されなくなるという効果の他に、テストで選択問題を正しく解く力を磨くことにもつながります。選択問題というのは、いかにも正しそうに見えるが実は正しくない選択肢と、正解の選択肢を見比べるものだからです。嘘を見抜く力があればもっともそうな選択肢が並んでいても騙されなくなります。
例えば、「走れメロス」で主人公のメロスが走りに走った理由を聞かれたとき、文章をきちんと読んだ上でその裏にある意味をちゃんと読み取ることができなければ、約束を果たすために走っているのだ、という選択肢を選ぶことはできないでしょう。
子どもに「嘘をつくのはよくないこと」と教えるのは構いませんが、そればかり教えていたのでは、選択問題でいつも引っかかり、成長してから詐欺や嘘を見抜くことができないような人間になってしまう可能性も無いとは言えません。
嘘をつくのはよくないことだが、それでも世の中には嘘がたくさんあふれていること。そして、そうした嘘を見抜けるだけの力を持つことが大事であることも、ぜひ同時に教えてあげたいものです。