子どものコミュニケーション能力を伸ばす方法!
「会話は言葉のキャッチボール」などと言うことがあります。相手が受けやすいようにボール(言葉)を投げれば、相手も同じように受けやすいように投げ返してくれるため、キャッチボール(会話)が長続きします。逆に、よくないボールを投げた場合、相手もそれに応じた反応をします。自分の子どもをコミュニケーション上手に育てるためにはどんなことが重要なのでしょうか。
親子間のコミュニケーションではものの尋ね方が重要
キャッチボールにたとえられるように、親子の間の会話であっても親がよいボールを投げれば子どももよい反応を返してくれますが、叱りつけたり怒鳴ったりといったようなよくないボールを投げた場合、子どもの方からも反抗的な態度が返ってきます。ではどういった言葉が「よいボール」で、何が「悪いボール」なのでしょうか。
親と子ども間のコミュニケーションでは、指示・命令といったような形での親から子どもへの一方通行的な関係が多くなりがちです。しかしこういった場面では二者の会話が長く続くことはありません。親が指示や命令を口にし、子どもがそれに従うか、あるいは反抗するかのどちらかになります。
会話はキャッチボールにたとえたように、参加している双方が言葉を交わし合うことで長続きするようになります。片方の人が話し、もう片方がただ聞いている、という形ではなかなか続かないのです。このため、親が子どもとのコミュニケーションを図りたければ、子どもが答えを返せるような形式になるように配慮して質問することが大事になってきます。
子どもが答えやすいような質問をするには、子どもに投げかける質問の表現方法に気をつける必要があります。大きく分けて、質問には2種類があります。1つは「Yes/No」で答えることができるたぐいのものです。例えば、「ご飯食べた?」であるとか、「遊びに行くの?」といった質問です。こういうたぐいの質問は「閉じた質問」と呼ばれ、聞かれた側が「Yes/No」と答えてしまうと会話がそこで続かなくなってしまいます。
反対に、「Yes/No」では答えることのできない質問があります。例えば、「今朝のご飯、何を食べた?」であるとか、「どこに遊びに行くの?」といった質問です。こういうたぐいの質問は「開かれた質問」と呼ばれ、「Yes/No」だけでは答えることができないため会話の糸口が開かれます。つまり、子どもに対して話をする場合、この「開かれた」質問を使うようにすれば、子どもとのコミュニケーションをより図ることができるわけです。
このような形で「開かれた」質問で子どもに話をする際には、まずは「何があったの?」といった具合にあらましについて問いかけます。続けて、それによって子どもがどのように感じたのか、どんなふうに思ったのか、どうしたいと思ったか、という方向性の問いを発します。そのようにすれば、あとは子どもの答えに合わせて「その後どのようになったらいいと感じるか」であるとか、「実際にそのような行動を取ったらどうなったと思うか」といったような形の会話に繋げることができるようになります。
幼いころから、子どもと話す時にこういった形のコミュニケーションを取るように気をつけていれば、子どもは自然にものごとを論理的に考え、話すことができるようになっていきます。自分の体験や感じたことを誰かに伝えようとする時にはどのように話せばいいのか、という考え方が自然と身についていくわけです。
相手に伝わる話し方、相手の話を理解する能力が大事
国民性というのか、とかく日本人は議論が苦手です。さまざまな民族が入り交じって生活していないためである、などその理由についてはいろいろと言われていますが、議論する能力、つまり相手に通じるように話をし、そして相手の言いたいことを積極的に聞き取る能力が低いと、日常生活や職場でのやりとりに支障を来しかねません。
例えば代表的な多民族国家としてのアメリカを例に挙げると、話す能力や聞く能力を上げるための教育として「show and tell」という教育科目が存在します。主に小学校の低学年の授業で実施されるもので、小さな子どもにパブリック・スピーキングの技術を教えるために行います。この授業では、たとえば子どもたちは順番になにか家からひとつ道具を持って行き、学級のみなに「なぜその道具を選んだのか、どこで手に入れたのか」といったようなことを説明します。子どもたちは順番が来ると何日も前から話し方を考え、話題に使う道具はどれにするか、どのように話せばより伝わりやすいかということを考えて過ごすことになります。
例えば、自宅で飼っているペットを話題にしようと決めたのであれば、そのペットについて友だちにきちんと伝わるようにいろいろと工夫しようとします。例えば写真や絵を用意するなどするわけです。その上で、ペットの名前は何というか、飼うようになったいきさつ、いつ頃から飼っているのか、毎日の世話をしているのは誰か、どんな世話が必要なのか、どんなところが気に入っているのか、といったようなことを説明することになります。
どんな表現を使い、どんな順番で話せばそのペットについての言いたいことがみなに伝わるかといったことを考えて、発達段階に応じた発表をするわけです。逆に聞く側の子どもたちも、話をする子どもに質問をしたりして、どういったところに注意を払って聞いていれば相手の話をより深く理解することができるのか、という点について学習していきます。
日本でも、小学校ぐらいの子どもを対象にした民間教育の現場では似たようなカリキュラムを取り入れているところがあります。子どもの言語力を向上させるための話し方や聞き方のトレーニングをおこなっているのです。
どんなトレーニングであるのかというと、まず小さな仕切りを挟んで2人の子どもが座ります。両方の子どもにはいくつかのブロックが渡されます。このブロックの色や形はどちらも同じもので、数も同じになっています。その状態で一方の子どもが何か好きな形を作り、できあがったら相手の子どもに自分が何を作ったのか、ということを口頭のみで説明します。その説明を聞いたもう一方の子どもは、説明されたものをブロックで作るのです。
聞き手の側の子どものブロックができあがったら間の仕切りを取り払い、双方の側で同じものを作ることができていれば、話す方の説明がきちんとしていて、さらには聞く側も相手の説明をきちんとくみ取れていたということになります。だいたいの場合、最初から同じものを作れる組はほとんどありません。そういった場合には、どのへんが伝わりにくかったのか、どう伝えればわかりやすかったのか、ということを話し合うことになります。
このトレーニングでは、話し手側はどのように話せば聞き手に伝わりやすいのか、ということに注意を払うことになります。一方で聞き手の側も、相手が言わんとすることを理解するためのポイントはどこか、ということを常に考えながら話を聞くことになります。日常生活でも職場のシーンでもこれら両方の能力が非常に大事であることは論を待ちません。
ふだんからついつい勘違いしてしまいがちなのですが、家族や親しい友人であっても、自分の思いや考えというものはきちんと相手に伝わる形で表現しない限り相手には伝わりません。これは夫婦という間柄であったり、親子という間柄であっても言えることなのです。
子どもの自己表現力を伸ばしたければ相づち上手になろう
アメリカの教育カリキュラムとは異なり、日本の公教育のカリキュラムの中には話し方や話の聞き方について学ぶ授業はほとんどありません。このため、相手に伝わる話し方や相手の話を理解する能力を子どもにつけさせたいと思う場合には、学校ではなく家庭のしつけなどを通して親が子どもに教えていかねばなりません。
子どもの話し方やものの伝え方を磨いていく際に重要なのは、親が子どもの話に上手に相づちをうつことです。それによって、子どもは自分の伝えたいと思うことを表現する能力を伸ばすことができます。
保育園や幼稚園、小学校に通うようになると、子どもはそこでさまざまな目新しい体験をします。そしてそうした体験やそれで感じたことを、母親や父親に話したいと思いながら家に帰ってきます。そのため、このころの子どもは家に帰るなり「ねえねえお母さん、今日こんなことがあってね……」とやり始めるのです。
子どもは話をしたいという思いが強いあまり、親が何かしている途中であるかどうかといったようなことも考慮に入れずにいきなり話し始めるものです。こういうときにはけしてうるさがらず、今やっていることをいったん中断し、子どもの方を向いてその話を聞くようにして下さい。
最初のうちは、子どもは自分の話をうまくすることができなかったりするかもしれませんし、話の流れも要領を得ないものになるかもしれません。それに対して、「もっと分かるように話して」であるとか、「いま忙しいんだから、早くしなさい」などとやってしまってはいけません。「それからどうなったの?」であるとか、「それは、あそこの交差点の角のお店?」といったように、子どもの話に適切な相づちを入れたり質問を挟んだりしながら、子どもが話をしやすいように促してあげるようにすることが大事です。
そういった形で上手な相づちを入れてもらった子どもは、他人に何かを伝えるために話をするときのコツを少しずつ見いだしていくことができます。どんなふうな順番で、どんな話し方で話すとより伝わりやすいのか、ということをだんだんと理解するようになっていくためです。親との日々の会話でこうした点について学ぶことができた子どもは、将来に向けて豊かな自己表現力を身につけていくことができます。
子どもが「素直」であることは果たしていいことなのか
理想的な子どもやいい子というのはどんな子どもだと思いますか、といった内容の質問をすると、きまって上位に来るのが「素直な子ども」というものです。しかし、この「素直」というのには大きな落とし穴が潜んでいることがある、ということは認識しておくべきです。
親の中には、子どもが言いつけ通りのことをしなかったり、反抗心を見せたりすると、「子どものくせに~」などと頭ごなしに叱りつけるような人が案外たくさんいます。どうして子どもが言いつけに背いたり反抗心を見せたりするのかと言えば、その根底には自分というものを主張したいという思いがあります。思い通りに子どもに言うことを聞かせたいという親の意志に対し、自分は親とは別個の人間であり、自分なりの考え方を持っていて、好みやしたいこともちゃんともっている、ということを主張しようとしているのです。だからこそ、親の言うとおりにするわけには行かないということで、言いつけを守らなかったり反抗心をのぞかせたりするわけです。そして、それができる子どもはすごいと言っていいでしょう。
子どもが起こす問題について相談できる電話相談などが各地に設けられていますが、そこに寄せられる相談の中に最近目立って増えてきているのが、金品を他の人に脅し取られた、といったようなものがあります。同級生や友だちに持ち物や金券、お金を貸せと言われて貸したが返してもらえない、といったようなケースです。脅し取られている金額や状況、手口は千差万別ですが、どのケースにも共通しているのが、相手の言いなりになってしまっているという点です。
当然ながら、他人のお金やものを脅して取るほうが悪いのですが、被害者のほうが唯々諾々と言いなりになってしまっているという点も問題視する必要があるかと思われます。子どもだけでなく、親の方もPTAの会合などで相手の子どもの親に会ったときに何も言えないというケースもあるといいます。子どもも親も加害者側の報復を恐れて何も言えなくなっているケースが多いのです。
中高生になってから非行に走ったような子どもの保護者に、その子どもが幼いころにどんな性格の子どもだったのかを聞いてみると、多くの場合、小さなころは素直でいい子だった、というような答えが返ってきます。これももしかしたら悪い仲間の言いなりになって非行行為に荷担しているということがあるのかもしれません。
「素直」な性格というのは悪い性格ではありませんが、いつでもどんなことについても他人の言うことに従ってしまう、ということであればこういった問題がおきかねません。幼いころからきちんと健全な自立心を育て、嫌なことには嫌だとはっきり口にできるように子どもを育てるということがたいへん大事だと言えるのではないでしょうか。
自分の考えをはっきり言える子どもに育てるには
子どもが嫌なことには嫌だとはっきり口にできるように育てるために一番大事なのは、子どもの自己主張に親がきちんと耳を傾けることです。
子どもの自己主張と言っても、子どもがまだ小さなころにはたいしたものではないかもしれません。筋も通っておらず、また身勝手なものだったりわがままなものだったりするだけのこともあるでしょう。しかし、それを頭ごなしに否定してしまってはいけません。まずは自分の子どもが自分なりの意見を持ち、それをどう主張すれば相手に伝わるのかを考え、そしてそれを親に表明したということそのものは評価・尊重すべきなのです。その点を評価した上で、子どもの主張のどんな点が問題だから受け容れることができないのか、という親の立場について話をするようにします。
これに対し、子どもの方も親の立場を聞かされただけで素直に納得することはないでしょう。そういった場合は、どのあたりが親の考え方と異なっているのかについて尋ねてみて下さい。そのようにして互いに考え方や思いについて話し合ううちに、相手が何を考えており、どう思ったり感じたりしているのか、ということについてだんだんと見えてくるようになります。
人間というものは社会を築き上げ、そこで他の人間と関係し合いながら生きています。このため、自分の意志や感情を他の人間にしっかりと伝達すること、嫌なときにはきっぱりと断ること、困ったときには周囲に助けを求めること、自分が感じていることを率直に周囲に表すこと、といったことができる能力が必要になってきます。またそれとは反対に、他の人間の考え方や感情といったものを適切な形で受容する能力も必要になります。こうした対人関係の能力を伸ばすためには、親子の間で自己主張をして、相手と意見を交わすということが一番のトレーニングになるのです。
更新日:2019/11/29|公開日:2015/07/15|タグ:コミュニケーション能力