記憶力!経験により発達する脳のネットワーク
がんばって時間をかけて覚えたつもりなのにどうしても出てこないとか、もう忘れていると思っていたようなことをひょんなことから思い出したりした経験はないでしょうか。こうした例は誰しも経験したことがあることかと思います。ここでは、記憶力がどのように発達するかについて見ていきましょう。
年齢とともに覚え方も変わる
人間の記憶には3つのプロセスがあります。1つ目は何かを覚えるということ、2つ目は覚えたものごとを維持するということ、そして3つ目は覚えたものごとを思い出すということです。こうした能力は子どもの頃から大人になっていく過程で成長していくとされています。
「犬・猫」「バット・ボール」「本・カエル」「洋服・家」……記憶しやすい組み合わせはどれで、記憶しにくい組み合わせはどれでしょうか。記憶しやすさとしにくいものがあるとき、人間はどのように覚えようとするのでしょうか。
アメリカにおいて、こうした組み合わせをいくつか提示し、6歳、8歳、10歳、12歳の子どもたちがどんなふうにして記憶しようとするかを調べた心理学の調査研究があります。それによると、6歳や8歳の子どもと10歳や12歳の子どもの間では覚え方に大きな違いが出てくることが分かってきました。
それによると、6歳や8歳の場合には記憶しやすいかしにくいかに関わらず、どちらの組もほとんど同じ時間をかけて記憶しようとします。一方で10歳や12歳の場合には、記憶しにくい組み合わせのほうにより多くの時間をかけるという行動が見られました。
このことから、年齢が上の子どもたちの方が下の子どもたちよりも経験を積んでおり、それによって効率の高いものの覚え方ができるようになっていることが分かります。
たとえば自分なりの記憶のやり方やコツを編み出していたり、どれぐらい時間を割くべきか分かっていたり、ものを記憶する自分の能力について把握できていたりするわけです。
つまり、子どもから大人になるに従ってものごとを記憶する能力が高まるというのは、ものを覚えたり思い出したりするするための方法やコツがつかめてくるであるとか、ものを記憶する自分の能力について認識が高まるであるとか、知識面が充実してくるといったように、ものを記憶するための手法が高まってくるためと考えられます。
こうした変化は主に小学校に上がると著しく高まる傾向が見られます。それまでと違い、ものを学ぶ過程やテストなどのために記憶に関する重要性が上がるためではないかと考えられています。
記憶はどこにしまわれているのか
人間の脳には数多くの神経細胞があり、これがシナプス結合によって接続されることによって複雑な神経回路網を構成します。刺激は神経細胞内の電気的な信号として伝わり、細胞の末端のシナプス結合で神経伝達物質によって伝えられ、次の神経細胞の中に電気信号が発生します。その連続によって数多くの刺激、すなわち情報を処理するわけです。
では、「記憶」は脳の中にどのように蓄えられているのでしょうか。
実はこの点に関してはまだはっきりとしたことが解明されていません。ただ、記憶は「脳のどこかの部位」にまとまって格納されているのではなく、断片的な情報として脳のさまざまなところに点在し、きっかけを受けることによって海馬という部位でつなぎ合わせられて記憶としての形を取るのではないかと考えられています。このため、この「海馬」という部分は脳の記憶に関わる中枢部分と見なされています。
記憶が発達を見せるという現象については、神経回路網がはじめ割合に大ざっぱに作られており、これが成長とともに次第に整理されてくると考えられているのですが、そういったことと関連性があるのかもしれません。
シナプスや神経回路網が構築されていくためには、その人の置かれた環境やその人がした経験などが大事な役割を果たしています。迷路を使った学習体験をしたことのあるネズミとそうでないネズミを比べると、記憶の中枢をなすと考えられている海馬でできているシナプスの数は前者の方が多いというような実験例からもそういったことが分かります。
記憶力を強くしたいときには
子どものころの記憶を探ってみてください。どれぐらい前のことを思い出すことができるでしょうか。こういった質問をすると、概して3歳~4歳ぐらいと答える人が多いとされています。
専門家は、3歳~4歳になると子どもが言語を急に使えるようになり始め、それとともに自分の得た経験を言語の形で記憶しておくことが可能になってくるからではないかとしています。
一方で、脳の神経回路網が構築されていれば記憶そのものはできあがると考えられるため、言語に依存しないような記憶、例えば光景やにおいといったようなものであればさらに前の年齢のものを持っている人がいるかもしれません。
記憶力を強くするための方法についても見てみましょう。記憶力がずば抜けてすごいと言われるような人と一般的な記憶力しか持たない人の違いは何なのでしょうか。
記憶力がすごい人というと、例えば円周率を小数点以下何万桁も言えるような人などを思い浮かべるかと思いますが、こうした人たちに共通の特徴として、憶えようとする対象に対して高い関心を払っていることがあります。
つまり、円周率を何万桁も言える人であっても一朝一夕にそうしたことができるわけではなく、数字というものに興味や関心を向けつつ長い時間をかけて努力をしているということです。
こうした傾向はサルなどでも見られます。例えば若いサルは年寄りのサルよりも優れた記憶力を持っています。そして、新しい体験に対して興味や関心をより向けるのも若いサルなのです。
従って、記憶力を強くしたいと思うのならばまずはそのテーマに興味や関心を持つこと、と言えるでしょう。
ところで、記憶を分類してみると
一口に「記憶」と言っても範囲が広いため、いくつかに分類することができます。
憶えている時間という視点で分類した場合、感覚記憶、短期記憶、長期記憶に分けることができます。感覚記憶とは1~2秒程度のもので残像や残響といった感覚の記憶を指します。短期記憶というのは例えば電話をかけるときだけ一時的にナンバーを記憶するようなもの、長期記憶というのは数年から生きている間ずっと記憶しているようなもののことです。
また、言語で表現することができるか、それとも体で覚えているのかといったような分け方もあり、それぞれ宣言的記憶、手続き的記憶と呼ばれます。このうち宣言的記憶の中には自分自身で体験したことの記憶であるエピソード記憶と、知識としての記憶である意味記憶とがあります。
さらに、後で思い出すことを念頭に置きながら覚える顕在記憶と、そうではない潜在記憶といった分類方法もあります。
更新日:2019/11/29|公開日:2015/05/22|タグ:記憶