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母乳育児の先駆けと広がり

母乳育児

近年、自分の母乳で赤ちゃんを育てる母乳育児が広く行われるようになってきています。こうした動きは最近でこそ広く見られますが、いまから40年以上前に時代に先駆けて母乳育児の取り組みを行おうとした病院があります。どんな取り組みだったのかチェックしてみましょう。

 

母乳育児の現状

赤ちゃんを母乳でなく粉ミルクで育てるようになったのは、太平洋戦争終結後にさかのぼります。それまで自宅での分娩が多かったものが病院での分娩が増えていったこと、日本を占領したGHQが赤ちゃんの感染症対策として母子異室にするよう指導したこと、栄養の面から母乳よりもミルクを使って育てる方がいいという考え方が普及したこと、などによるものです。

 

ところが近年、母親と子供の間の関係などに着目し、粉ミルクではなく母乳で子育てをするという母乳育児がふたたび広がりを見せ始めています。厚労省が十年ごとに行っている乳幼児身体発育調査によれば、1~2ヶ月未満の赤ちゃんに母乳を飲ませていると解答した母親の率は、昭和45年時点では31.7%しかなかったのに対し、一番最近の平成22年時点では51.6%に達しているのです。

 

もっとも、この調査については専門家の間から厳密な調査方法をとっていないとする意見が出ています。例えば、外出先で一時的にミルクを与えるような場合でも母乳による育児にカウントするなどしているためです。これをまったく粉ミルクを使わないで育児をしているかどうかに限定すると、おおよそ3割程度の比率になると言います。

 

一方、出産前の女性に意識調査を行うと、母乳のみで子育てをしたいという意向を持っている女性は全体の2/3弱に及ぶとする調査があります。これになるべく母乳を使いたいという層を加えると、この比率は実に9割にも達するのです。

 

このように理想と現実とのギャップがあったり、少子化にともなって子育てを重視する傾向が高まっていることなどを受けて、全国各地で母乳育児を応援する取り組みをしている病院が増えてきています。

 

ミルクを中止――国立岡山病院での取り組み

母乳による育児をしている比率がまだ3割強しかなかった昭和45年、国立岡山病院では病院の赤ちゃんに粉ミルクを与えることをやめるという試みを始めました。数字を見ても分かるとおり、このころは赤ちゃんといえば粉ミルクを与えた方がいいという考え方が広がっていた時代ですから、病院の方針に対しては助産婦などから不満や反発、不安が多く出たといいます。

 

最初のうちは、そんなことをしたら次々と問題が起きるに違いないとスタッフも気が気ではなかった取り組みでしたが、粉ミルクの使用をやめても特段のトラブルは起きなかったといいます。このため国立岡山病院では、昭和52年にはもらい乳(赤ちゃんに別の女性の母乳を与えること)もやめるなど、段階的にこの方向性を進めていったということです。

 

専門家によれば、母乳による育児を行うためには、赤ちゃんが生まれた後しばらくして深い眠りに入ってしまう前(生まれてからおおよそ30分以内)に授乳してお母さんのおっぱいを覚えさせることが大切だといいます。こうすることにより授乳がすんなりとできるようになるというのです。

 

また、赤ちゃんを産んだ後24時間以内に7回以上の頻度で授乳をする(これを頻回授乳と言います)ことで、今度はお母さんの身体に変化が現れ、何もしなくても母乳の出かたがよくなるともされています。

 

ところが、それまでの病院のあり方では、感染症対策としての母子異室が当たり前に行われており、頻回授乳をしようとしてもなかなか難しいということがあったといいます。母子異室では、お母さんの母乳の出がよいときでも赤ちゃんが側にいなかったり、逆に赤ちゃんがおっぱいを欲しがったときでもお母さんが側にいなかったりするためです。

 

こうした問題を解決するため、国立岡山病院では昭和59年には母子異室をやめ、出生後4日目から母子同室を始めたといいます。こちらも、始める前は赤ちゃんの窒息などトラブルを心配する声や、出産後すぐに同室にすることでお母さんに負担がかかるという心配の声、また病院側の手間が増加するといった声があがったといいます。

 

しかし実際にスタートして見たところ、赤ちゃんがあまり泣かなかったり、顔をひっかいてしまうケースが減ったといった思わぬいい結果が現れたといいます。

 

専門家によれば、生後間もない赤ちゃんが大声で泣くのは元気がいいからでも空腹だからでもなく、居心地のいいお母さんのお腹の中からいきなり外界に放り出された恐怖や不安、あるいは出産の際に感じた痛みなどによって泣いているのだといいます。このため、できるだけ早くお母さんの手元に戻してスキンシップを図ったり、何度も母乳をあげたりすることによって安心感を得ると、精神的にも肉体的にも安心感を感じあまり泣かなくなるのだといいます。

 

こうしたことを考えれば、出産後になるべく早く母子のスキンシップを図ったり、母乳をあげるということには単に栄養的な側面以上に大きな意味があることになります。しかし、赤ちゃんが生まれてから24時間以内にお母さんと同室にするという施策を取っている病院はまだまだすくなく、平成14年の段階でもわずか数パーセントにしか満たないという調査結果もあります。

 

それ以外の病院では、抵抗力のない赤ちゃんを感染症などから守るために生まれた赤ちゃんはすぐに新生児室に入れられ、授乳は時間を決めて行われるというやり方を取っています。こうした対応をしてらえる方がいいのか、あるいは産後すぐに母子同室にできる方がいいのか、病院を選ぶ際にはきちんと考えてから選ぶことも必要になってくるでしょう。

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