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ストレスをためる子どもたち

ストレス

近ごろ、ストレスが引き金となって病気を発症したり、あるいはストレスで病気を悪化させてしまう子どもたちが増えています。こうした症状はまとめて心身症といわれますが、中には1年間でのべ1500人もの心身症の子どもが受診する病院もあるというから驚きです。そうした子どもはどんなことがストレスとなって心身症を起こしてしまっているのか少し見ていきましょう。

 

少しのストレスでも積もり積もれば害になる

ストレスで体の調子を崩し病院を受診する子どもが増えていると言っても、子どもが受けるストレスの性質が昔と変わったということはありません。子どもたちが家族や友だちとの関係、先生との関係、学校での成績についてなどについて悩み、それをストレスに感じているのは前とは変わらないのです。

 

精神的な不調を抱えて病院にやってくる子どもや親に話を聞いていっても、この子どものストレス源はこれだ、といったようにはっきりと不調の原因が分かるのはおおよそ半分ぐらいで、残り半分はそういった原因がなんなのか判然としないといいます。

 

子どもたちを長年診察してきた医師などは、日々少しずつ感じているストレスが積もり積もって最終的に体の不調として出てきているのではないかと考えているようです。

 

とはいえ、最近になるに従って、子どもたちが対人関係で悩み、それをうまく処理できずにストレスを抱えるケースが増えてきているということがさまざまな専門家の間から指摘されるようになってきています。

 

今の子どもたちは生まれたときからTVゲームや携帯ゲーム、インターネットが身近にある中で育ってきています。こうしたものは自分が利用したいときに電源を入れ、自分の都合に合わせて利用することができるものです。一方で友だちと接する場合にはそうはいきません。相手も人間ですから、相手のことを考慮しなければならないからです。

 

今の子どもたちは自分の都合に合わせて遊ぶ機会が増え、友だちと遊ぶような機会が減っています。自然、相手に配慮するやり方を学習する機会も減り、対人関係をうまく処理できなくなっていくわけです。

 

そうした形でストレスをためているところに加えて、今の子どもたちは親との関係でもストレスをためやすくなっています。最近の親世代は、何についても早くしなさい、と子どもを忙しくせかすことが多くなっているといいます。もともと子どもはゆっくりとしたスピードの中で生きている存在ですから、そのようにしてせかされて生活することでも少しずつストレスを蓄積していってしまうのです。

 

発散できないとストレスの影響は大きくなる

人間の体は常にいろいろな種類の刺激やストレスを受けています。人間の脳はこうした刺激やストレスに対して対応し、肉体の恒常性をどうにかして保とうとさまざまな活動を行うことになります。

 

そのようにして活動する中で一番大事な役割を果たしているのが大脳辺縁系です。大脳辺縁系は、生命を保つために大事なしくみの1つである情動(危険そうなものを見たときに恐れを感じて逃げ出したり、欲しいと感じるものに近づくといったような行動につながるもの)をつかさどっているからです。

 

例えばある子どもが学校できつく叱られたとします。これはその子どもにとってはストレスになります。しかしその子どもがストレスを感じるのはなにも叱られたその場面のみではなく、自宅に帰ってから叱られたことを思い返した時にも感じるのです。これは子どもに限ったことではありませんが、人間がストレスを感じる時にはどんな場合でもこの情動が働いているのです。

 

精神的にストレスを受けると体にどんな影響が出るのかについては、ネズミを使ったある実験を参考に考えることができます。

 

その実験はネズミを2匹別々にテープで拘束するというやり方で行います。こうすることによってネズミに身体的なストレスを与えるわけです。拘束する時間はいずれも10分間ですが、片方のネズミだけは拘束中に不快に感じたときに箸を噛めるようになっています。

 

テープで拘束される前と10分間の拘束の後に、両方のネズミの血液中にある副腎皮質ホルモンの濃度と脳の中に見られるノルアドレナリンという神経伝達物質の量とを計測します。これらはストレスを受けると体の中に放出される物質です。

 

このようにして実験を行ってみると、テープの拘束が解かれて体が自由になった後、箸を噛んでそのストレスを発散できたネズミの方は副腎皮質ホルモンとノルアドレナリンの量が拘束前の状態まで戻ることが確認されました。

 

しかしもう一方のネズミ、すなわちストレスを発散できなかったネズミの方では拘束前の状態まで戻ることがなく、さらにノルアドレナリンの方は拘束が解かれても増加するといった現象が見られたのです。

 

この実験から分かるのは、身体的なストレスを受けた際にそれを発散できない場合、さらに精神的にもストレスを受けてしまうということです。ストレスを適切に発散することがいかに大事かがこの実験からも見えてきます。

 

母親との関係でストレスをためる子どもも

子どもがストレスをためるというと幼稚園児や小学生ぐらいの子どもを連想しがちですが、なんと1歳にもなっていない乳児であってもストレスをため、さらには心身症さえ起こしてしまうということが分かっています。

 

ある事例では、生まれてからまだ8ヶ月にならない赤ちゃんが円形脱毛症になったというものがあります。母親が姑との人間関係からストレスを感じるようになり、いつもいらだった気分でその赤ちゃんの相手をしていたのが原因でした。このケースでは母親が自分のいらだった態度を自覚した上で気をつけて赤ちゃんの相手をするようにしたところほどなく症状がなくなったといいます。

 

また他の事例では、平成7年に起きた阪神淡路大震災で被災し自宅が倒壊した家族が、2歳になる子どもを父方の祖父母の家に預けたところ、以前は元気だった子どもが預けられてから何度も熱を出すようになったというケースがあります。このケースでは子どもを両親の元に戻したところ熱を出さなくなったと言います。

 

このように、乳児や幼児といった時期にはほんのわずかなことがストレスとなります。こうしたストレスの引き金になるのは親子関係、それも母親と子どもの間の関係に関するものが多くなっています。逆にこうした時期に母親と子どもとの関係がきちんと確立されていた子どもは、その時期を過ぎてからのストレスに比較的強いという傾向があります。

 

心身症は遺伝するか

子どもが思春期になると、心身症の中でも起立性調節障害、過敏性腸症候群、摂食障害などの心身症が大きなウェイトを占めるようになってきます。

 

起立性調節障害とは、体をコントロールする自律神経に異常が起き、座っていたり寝ている姿勢から起き上がったときに血圧が下がり、それによってめまいなどの症状をおこす症状のことです。親がこの症状を起こしたことがある場合に、子どもにも症状が出るということが確認されています。

 

過敏性腸症候群は突然腹痛を覚えるような症状がありますが、こちらは男子に多く見られます。摂食障害はやせたいと思うあまり拒食になったり食べ過ぎて吐いたりするような症状ですが、こちらは逆に女子に多く見られるという特徴があります。

 

こうした特徴を見る限り、心身症にも何らかの遺伝的な要素が絡んでいると考えられています。

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