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他人と関わるために必要な「感情」の力

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喜怒哀楽

どちらかというと、知識や知性といった側面よりも一段下に見られる傾向がある感情ですが、脳科学の発展に伴ってそんな考え方が改められつつあります。ここでは感情とその重要性についてチェックしていきましょう。

 

見直され始めている「感情」

「あの人は感情的な人だ」という言い方を聞いたときにどんなふうに感じるでしょうか。どちらかというと負のイメージを持って捉える人が多いのではないかと思います。これは、社会が知識や知性といったものを重視し、学校などでもそちらのほうに重きを置いて教育をしてきたためだと思われます。

 

しかし最近になって、脳科学の分野が進歩したことにより、他人の気持ちを忖度するといったような人間関係構築のおおもととなる部分には好きや嫌いといった感情があるということが明らかになり始め、こうした傾向を考え直そうという議論が出始めています。

 

兵庫県にある兵庫教育大学附属小学校には、日本で唯一人間発達科という科目があります。この科目は、子どもたちが自分について深く考え、他の人と上手に関係を作っていくことができるような「こころの知能」とでもいうべき能力を身につけさせるために行われています。

 

例えば、人間の表情を見てその人がどんな感情を持っているかを学ぶような授業や、本物の赤ちゃんとふれ合うことによって人間がどんなふうに発達するのかについての知識を身につけたりしているのです。

 

こういった教育方法で3年間指導を受けてきたことで、子どもたちの中にも変化が出てきており、共感性や社会性が身につきつつあります。一年生と六年生が合同で動物園に行った際に六年生がきちんと一年生の面倒を見るようになるなど、自分のことばかり考えるのではなく他人の立場から見たものの考え方をするというやり方を身につけつつあるというのです。

 

情動が価値判断の基礎を形作っている

自分以外の人の表情を見分け、相手が怒っているようであれば少し距離を置く、といったような判断は誰もが常日頃自然に行っていることだと思いますが、脳においてどのようなメカニズムでこういった判断が行われているのかについては詳しく分かっていないのが現状です。

 

こうしたメカニズムについてはいろいろな研究が行われていますが、富山医科薬科大学がニホンザルを使って行った実験がいくばくかのヒントを投げかけてくれます。

 

その実験では、いつもサルを世話している世話係をはじめとする6人の参加者に6種類の表情を浮かべてもらい、それを撮影したものをモニターを使ってサルに見せるというやり方が取られました。

 

6人の人物が浮かべた表情というのは、口を開いて怒った顔、口を閉じて怒った顔、口を開いてほほえんだ顔、口を閉じてほほえんだ顔、泣いた顔、驚いた顔の6種類です。

 

これらの映像をサルに見せる間隔はそれぞれ2秒ずつで、すぐ前に出た表情と違う表情だと感じたときにボタンを押させるというやり方が取られました。答えが合っていればサルはご褒美にジュースをもらうことができます。そしてそれを毎日テストし、1年以上の期間についてどれだけ正解できたかの記録を取ったのです。

 

さらに、この実験に際しては、脳の扁桃体という箇所の電気的な活動も調査しました。扁桃体は大脳の奥の方に位置し、およそ2センチ程度のアーモンド型をしています。

 

実験の結果は、いつもサルを世話している世話係に関しては95%で表情を見分けることができ、他の5人に関しては平均で88%で表情を見分けることができたというものでした。

 

こうした差異は扁桃体の電気活動を見るとさらに顕著で、サルにとって身近である世話係の表情の動きにだけ反応を示すような神経細胞がみつかったのです。

 

この実験により、扁桃体が表情を見分けて相手の心理状態を推し測るといった社会的な認知を行うのに必要な働きをしていることが裏付けられたほか、そうした能力は自分にとって身近な人との関連によって発達するのではないかという推測が成り立ちます。

 

扁桃体は大脳の奥の方にある部位ですが、この周辺にある脳の部位は「大脳辺縁系」と呼ばれています。大脳辺縁系は扁桃体、海馬、海馬傍回、帯状回などを含む部位であり、感情が生まれる回路であるとされています。

 

また、大脳辺縁系は冷や汗や心拍数の上昇のような生理的な反応がいっしょに表れるような感情の動き、すなわち情動をもつかさどっているとされ、このため「情動脳」といわれることもあります。

大脳辺縁系

 

情動は生命を保つために大事なしくみの1つで、危険そうなものを見たときに恐れを感じて逃げ出したり、欲しいと感じるものに近づくといったような行動につながるものです。

 

表情を見分けるための機能を持つ扁桃体は、視床下部、中脳などとも強いつながりを有しています。こうした部位は食欲、性欲などのほか、自律神経や歩くための運動に関わっています。

 

また扁桃体は脳の知的な働きに指令を下していると言われる前頭連合野とも密につながっています。情動の機能が価値を判断するための基礎をなしているとみてよいでしょう。

 

集団で活動することが子どもの脳の発達を促す

平成17年に、文部科学省は「情動の科学的解明と教育などへの応用に関する検討会」を開きました。この検討会では、「キレる」子どもなどのいわゆる問題行動の見られる子どもについてその原因を見いだし、成果を学校教育に反映させることが目的に置かれました。

 

技術の進歩により、MRI(磁気共鳴画像装置)などで脳の働きを可視化できるようになったことも踏まえ、教育学や心理学、社会学や精神医学といった分野の研究者以外にも、脳科学分野からも参加者がいたのが特徴的でした。

 

この検討会において、感情の発達をうまく進めるには子どもが小さい間の時期が重要になるということや、体を使ったり集団行動で他人とのやりとりを密にするといったことにより学習能力や作業の効率が上がるといった事例が報告されています。

 

そうした点から見ると、近ごろの子どもは母親からの過度な干渉を受けて育っていることが多いため幼い頃に集団に入って遊ぶような経験が減っているのは問題だと言えます。きちんとした教育をしないと脳の機能もきちんと発達しないということは気に留めておくべきでしょう。

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