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数学力を再評価する

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数学

「数学」というと公式を暗記し、そこに数字を当てはめて答えをだすものというイメージがあるかと思いますが、そのようないわば受験勉強的なものではない数学の力について脳科学の分野との関連を調べる研究調査がなされています。どんなものか紹介してみましょう。

 

変わる評価方法

二十一世紀COEプログラムと呼ばれる調査研究があります。その中で、子どもたちの数学や算数の力を調査する試みが行われました。それまで行われていたやり方とは違い、子どもたちの数学の力を新たな評価のやり方でつかむのが目的の調査です。

 

この調査は平成15年と16年に行われ、小学校では3年生と6年生、それに中学校3年生と高校3年生に対して行われました。対象となったのはおよそ1万人で、今まで通りの普通の評価方法と、パフォーマンス・アセスメント(PA)と呼ばれる新しい評価方法の二本立てで調査が行われました。

 

PAでは回答の正しさのみならず、その問題をどんなふうに解いたのか、ということを評価します。解答の方法は自由記述形式で、どのように考えたのかを数式や文章、図や絵などを使って説明することが求められます。解答が正しかったとしても、どんなふうに考えてそれを導き出したかを説明していない場合には正解にならないのです。

 

子どもたちが書いた解答のやり方は多岐にわたりました。問題にある数字や式を駆使して作った答案や、絵や図を使って説明をした答案や、文章でびっしりと説明を書いたものなど、子どもたちが一人一人考え、工夫を凝らして書いた答案が多く、それぞれ回答者の個性が表れた独特な解答ばかりだったといいます。

 

こうした解答を、例えば速さに関する問題であれば速さという概念が理解できているか、計算の流れは正しいか、考え方の道筋を説明できているかといった点などを考慮して採点することになります。

 

近年子どもたちの学力が下がっていると言われていますが、子どもたちの計算の力はどちらかと言えば上がっているぐらいです。一方で、子どもたちの思考力はまだまだ弱いとみられます。学力が下がっているという批判があることで計算力を見直そうとする機運が出てきていますが、このPAの調査はそうした考え方を変えるきっかけとなるかもしれません。

 

「わかった」時には何が起きているのか

数学の問題を解いているときに人間の脳の中ではどのような現象が発生しているのかを脳科学的に調べる研究が進められようとしています。ものを考える過程と、それによって起きる脳内の変化の関連性を調べようというものです。

 

佛教大学では、光計測装置(NIRS)という測定装置を使ってこうした研究を進めようとしています。このNIRSは赤外線を用いるもので、脳の中のヘモグロビンがどのように分布しているかを見ることができるものです。これにより、脳にどれぐらいの負担がかかっているのかを知ることができます。

 

ある問題が分からない状態でものを考えているときには脳に負担がかかり、ヘモグロビンの濃度の変わり方を表す測定値が高くなります。逆にある問題が分かった後や、あるいは問題そのものが簡単であるような場合には測定値は低くなります。

 

実験を行う人たちはNIRSの装置を頭に身につけ、その状態で特定の問題を解くことになります。例えば、実物のモデルをみながらブロックで同じ形をくみ上げるというものと、画面上でモデルを見ながらくみ上げる二通りの問題に挑戦したりするわけです。そうした問題を解いている間、NIRSの装置で脳の中の変化を測定します。

 

例にあげた実験では、例えばある人は画面上でモデルを見ながらくみ上げるのが難しく、問題がわからないという状況が長時間続きました。一方で実物のモデルを見ながら行った時には簡単に組み立てを行えました。脳の中のヘモグロビンは前者の時に大きく濃度が変わり、後者ではそんなに変わらないという結果が出ています。

 

また、このほかにも計算問題を行う形での実験も行っています。こうした実験結果をもとにすれば、問題の解き方や理解の仕方といったことを種類別に分けて整理することができます。こうした研究が進めば、学習する人の思考のパターンにあった内容の教育や学習のための手法といったものを開発していくための指針となるかもしれません。

 

数学で養われる力とは

数学を解くことによってどんな能力が身につくかと言われたらどんなことを思い浮かべるでしょうか。数学というと公式をたくさん丸暗記して、そこに数字を当てはめて正解を出すこと、といったイメージがないでしょうか。

 

本来、数学とはものごとを推測する能力や、イメージを正確に作り上げる能力をつけるためのものだという考えがあります。公式の丸暗記というのは数学嫌いの子どもをつくる元凶ですが、こうした受験勉強用の数学には問題があるという指摘をする専門家は後を絶ちません。

 

二十一世紀COEプログラムで行った子どもたちの数学や算数の力を調査する試みは、そうしたもともとの側面にもスポットを当てたもので、評価方法によって数学や算数のできるできないが変わるということが分かりました。

 

人それぞれ脳の大きさや形が違うように、数学などの問題を解くときのやり方、考え方の過程もまた人それぞれです。このような考え方の過程といった側面に焦点を当て、個人による違いを踏まえた上での教育を行うことができるようになれば、子どもたちが数学を理解する度合いはもっと上がってくる可能性があります。

 

数を認識する際の脳の状態

2000年のOECDの「脳メカニズムと幼年期学習」というフォーラムにおいて、フランスのドゥアーン博士によって子どもが数を認識するときの脳の状態に関する発表が行われました。

 

目で数字を認識するときと、数のことを聞いたり読んだりするときと、数が量であることを理解したときのそれぞれの場面で、いずれも脳の違う部位を使ってそうした認識をおこなっているということがわかったというのです。そうした調査結果に基づき、ドゥアーン博士は乳児であっても生まれつき数というものの考え方を持っているのではないか、とする見解を発表しました。

 

このフォーラムにおいて、認知神経科学が計算という基本的な分野では教育を支援することができるとして、より研究を行っていくということに意見の一致を見ています。

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