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高齢出産について誤解していませんか?高齢出産の基本を学ぶ!

高齢出産

近年、有名人が高齢での出産に成功したといったニュースを始め、高齢出産について耳にすることが多くなってきたように思います。これは実際に年齢が上がってから結婚、妊娠、出産を試みる人の数が増加してきたからという面があるかと思いますが、まだまだ高齢での出産に対して正しい知識がはぐくまれていないようにも感じられます。今回は高齢出産の基本中の基本を説明していきたいと思います。

 

「高齢出産」とは何を指すのか

「高齢出産」という言葉がありますが、これは具体的にどんな出産のことを指すのかご存じでしょうか。

 

少し前までは、母親が30歳以上で妊娠した場合、母子手帳にマル高という形でハンコを押印する制度がありました。このいわゆる「マル高」制度は、厚生省からの使用停止要請に基づき、平成3年には利用されなくなっています。

 

昭和45年~55年ごろにはこのいわゆる「マル高」が妊婦全体の20%程度だったのに対し、昭和55年~平成2年ごろには30%を超えてきたというのがこの利用停止のバックグラウンドにあったと言われています。

 

そして平成5年になって、日本産科婦人科学会により、35歳以上の女性が初産する場合をもって高齢初産婦と定義することになりました。

 

これは、各種データに基づいて見えてきた事実を元に、科学的・医学的な見地から、35歳以降の女性の妊娠や出産の場合いろいろな危険――早産や難産といったもの――にあいやすい、ということが分かってきたためです。

 

こうした傾向は、厚生労働省が行った人口動態調査の上にも現れてきています。いわゆる第二次ベビーブームのころ、昭和45年と、最新の平成25年のデータを比べると、第一子を何歳ぐらいの時に産むようになってきたかの傾向をある程度つかむことができます。

 

まず、昭和45年に第一子を産んだ年齢群を見ると、20歳~24歳が全体の45%ほど、25~29歳が全体の43%ほどで、90%近くが20代での出産になっています。

 

一方、平成25年に第一子を産んだ年齢群を見ると、25歳~29歳が全体の33%ほど、30~34歳が全体の32%ほどとなっており、出産する時の中心的な群が5年ほど後ろにずれていることが分かるかと思います。

 

そして、35歳以降に第一子を設ける女性の数も増えてきています。昭和45年の調査では全体の約2%しかいなかったものが、平成25年には全体の約20%といった具合に明らかに増えているのです。

 

つまり、日本産婦人科学会の定義を適用するならば、全体の2割程度の出産が高齢出産によるものになってきているといえることになります。

 

ここで注意しなければならないのは、高齢出産の件数が増加したからといって高齢出産にまつわる危険性が減ったということにはならないということです。

 

つまり、現代日本は危険度の高い高齢での妊娠や出産がだんだん普通になってきている、と言うことができるのです。

 

結婚の遅れが高齢出産を助長している

高齢出産が増加してきた原因として一番に考えられるのは、女性が社会に出てくるようになったということだと思われます。現在では女性の多くが仕事につくようになっており、男性顔負けで忙しく働く方も増えてきています。

 

就職して仕事をがんばって仕事をこなしているうちにいわゆる高齢出産といわれる年齢に達していた、といった状況が普通になっています。そうやって結婚が遅くなっていくわけです。

 

昭和45年時点での初婚年齢の平均を見ると、男性26.9歳、女性24.2歳になっています。一方平成25年のデータを見ると、男性30.9歳、女性29.3歳となってきており、初めて結婚する年齢も上がっているのが分かります。

 

さらに、日本では結婚せずに子どもを作るということが少なく、このために他の先進国と比較してもいわゆるシングルマザーの率が少ないということも影響していると思われます。

 

内閣府による調査によると、シングルマザーの率が3割から5割に達する先進国もある一方で、日本はなんと1.93%しかありません。こうしたことが起こってくるのは、結婚しない親から産まれた子どもに対する不利な扱いがあることがあげられるかと思われます。法律の上で、結婚していない親から産まれた子どもが「非嫡出子」と呼ばれる制度があるためです。

 

制度上の問題の他にも、結婚していない男女が子どもを産むということに対して社会があまりいい見方をしていないということもあげられます。こうした見方はほとんどの年代の人たちの間に根付いており、特に子どもを産む女性の側にそうした考え方をする方が多いという調査結果もあります。

 

こうしたことを総合すると、日本では結婚が遅れることがダイレクトに高齢出産の増加につながってきている、ということが見えてきます。

 

生殖年齢は平均寿命のようには伸びない

昭和45年の時点に比べて、平成25年の時点では初婚年齢の平均も第一子を何歳ぐらいに産むかも後ろの方にずれ込んできているわけですが、ここで注意しなければならない事実として30年前と今で生殖年齢はそんなに変化していない、というものがあげられます。

 

日本が世界の中でトップクラスの長寿国であることは論を待たないかと思います。統計的に見ても、70年前の終戦直後と比較すると平均寿命が30年伸びていますし、50年前と比較しても10年ほど伸びています。この原因にもさまざまありますが、一番は医療技術の進歩と生活環境がよくなったことがあげられるかと思います。

 

平均寿命はここまではっきりと変化しているのですが、生殖年齢は実はまったく変化していないのです。この点、多くの人の間に誤解がはびこっているように思えます。

 

女性に子どもを産むことができるようになる年齢、つまり初潮が来る年齢は、明治時代には16歳前後だったといわれています。現在ではこれが3.5歳も前倒しされ、12.6歳ぐらいになっています。

 

たった100年でこんなにも違いが出てきた理由は、日本人の栄養状態の改善にあります。

 

月経が始まる時期というのは女性の体に脂肪がついてくることと密接に関係していて、体重がおおよそ43キログラムぐらいになると初潮が起きるということがわかってきています。明治・大正から戦前にかけてと比べて現在はかなり栄養状態がよいため、それだけ初潮を迎える時期も早くなっているというわけです。

 

一方で、月経が終わる時期は昔とそんなに変化していません。健康状態がどれだけよい場合でも、50歳ぐらいで閉経を迎えるのが普通です。結婚する年齢や初産の年齢が後ろにずれ込んでも、生殖年齢が同時にずれ込んでくれるわけではないのです。

 

ほ乳類の場合、生殖年齢と寿命が同じぐらいになる傾向があります。例えばニホンザルは20~25年、ゴリラは50~60年といった具合です。人間の場合は、医療技術の進歩と生活環境の改善によって寿命を延ばすことができるようになったと言えるかと思います。

 

卵子はどんどん減っていく

生殖年齢がどうして変わらないのかについて見ていくために、そもそも女性の体がどういったメカニズムで排卵を行っているのかをチェックしてみましょう。女性の体にある生殖器は、真ん中に子宮があり、その脇に卵管でつながった卵巣が1つずつついています。

 

この卵巣の中には原始卵胞と呼ばれる形で卵子がキープされています。原始卵胞というのは、卵子が卵胞とよばれる入れ物に入った状態のものです。女性の肉体が成長して初潮を迎えると、この原始卵胞が成長を始めます。そして発育卵胞から成熟卵胞を経て、最終的には卵子が出てきて排卵ということになるわけです。

 

卵胞が成長しているのと同時に、子宮では子宮内膜が肥大化してきます。これは、卵子と精子が出会って受精した際に受精卵が着床するためのベッドを作り、妊娠のための準備をしているわけです。そして排卵した後に妊娠が起きなかった場合にはこの熱くなった子宮内膜がはがれ落ちて、血と一緒になって子宮の外に出てきます。月経はこのようにして起きています。

 

原始卵胞は女性が赤ちゃんとしてお母さんの胎内にいるころからどんどん減っていき、増えることがありません。

 

原始卵胞の数はお母さんの胎内にいるときに一生のうちで最大数となっており、およそ600万あるとされています。その後この世に産声を上げるころには100万~200万まで数を減らします。初潮を迎える頃になると50万~60万となっているのですが、月経のサイクルに応じて毎月千個ぐらいずつなくなっていきます。1日あたりに換算すれば約30~40個ずつなくなっていく、といった感じでしょうか。

 

原始卵胞はそうやって数を減らしていき、人によって差はありますが、25歳あたりで20万~30ほどになります。35歳をまわると一気に数を減らし、2.5ほどになってしまいます。それからは数が減るペースが上がり、50歳あたりで千個以下になってきます。そうすると女性の体は排卵をやめ、閉経に至る、というわけです。閉経した時点で、女性は自前の卵子で妊娠することはできなくなります。

 

卵子の質は低下していく

女性の卵子は赤ちゃんとしてお母さんの胎内にいるころから卵巣の中にしまい込まれており、どんどん減っていく一方で新しく増えることがありません。そればかりか、しまい込まれた状態の卵子は変化しないわけではなく、体と同じように年を取って変化していきます。

 

このことを称して「卵子が老化する」などと言ったりしますが、こうした現象は女性が35歳ぐらいになると顕著になってきます。そのころから卵巣内の卵子の質が下がってくるのです。卵子の質が下がるというのは、卵子の中で行われる染色体の減数分裂に異常が生じるようになってくるということです。

 

一般の細胞の中で行われる細胞分裂においては、46本ある染色体がまず2倍に増え、その状態で細胞が2つに分裂することでもう一度46本の染色体を持った状態に戻ります。

 

一方、卵子の中で行われる染色体の減数分裂では46本ある染色体が2回の分裂を通して半分の23本になり、同じく23本の染色体を持った精子と結合することでまた46本の染色体を持った受精卵になるという過程を経ます。

 

このように正常に染色体の減数分裂が起きれば問題ありませんが、それがうまくいかなかった場合には受精がうまくできなかったり、受精しても着床に失敗したり、後の流産の原因となってしまったりします。妊娠・出産がしにくくなるわけです。

 

髪の毛や爪、皮膚など、人間の体はすべて細胞から構成されていて、しかもこうした細胞はみな死滅しては再生してを繰り返しているということはよく知られているかと思いますが、卵子だけはこの死滅と再生の繰り返しが起きません。男性の精子さえ通常の細胞と同じく作り直されるのに、卵子だけは産まれる時点からただ数を減らし、老化するだけなのです。

 

卵子のこうした性質について、なぜそうなっているかの理由は今のところ解明されていません。人間や生物になぜ寿命が存在するのかが分からないのと同じで、ただそうなっているから、としか現段階では言えない状況なのです。

 

妊娠率の低い種族、ヒト

もともと、ヒトという種族はなかなか妊娠しにくい生き物です。

 

たとえば他のほ乳類を見ると、猫やネズミが性行為を行った場合、1ヶ月あたりの妊娠率はほぼ100%です。ヒトに近い動物、たとえばチンパンジーを見ても70%程度だと言われています。これに対してヒトという種族ではなんと25%程度しか妊娠率がないのです。

 

ではどうしてこれほどヒトの妊娠率が低いのでしょうか。それは妊娠がどのように進むか、という点に秘密が隠されています。

 

月経が終わると、女性の体は次の排卵のための準備を開始します。排卵の際に排出される卵子は通常は1つで、まれに2個以上排出されることもあります。卵巣から排出された卵子は卵管を通り、卵管膨大部というところに留まって精子がくるのを待つことになります。

 

性行為が行われて女性の膣内に精子が射精されると、個人差はありますが一億~三億もの数の精子が子宮に向かって泳ぎ出します。しかし、このうち99%はこの過程で死んでしまうことになります。

 

まず、女性の膣内は酸性に保たれているため、精子にとって楽な環境ではありません。というのも、精子はその多くがタンパク質からできているからです。そればかりか、女性の体にある白血球などが精子を攻撃して殺してしまうといったことも起こります。体に害を与える異物と認識されてしまうわけです。

 

排卵期になると、女性の膣内は分泌物によって弱アルカリ性に保たれるようになって精子が入りやすくはなるのですが、卵子が待っている卵管膨大部までなんとか行き着くことのできる精子はやっと数百個程度しかありません。

 

さらに、精子たちはここまででものすごい淘汰にあってくるわけですが、最後に卵子を受精させることができるのはたった一匹だけなのです。こうした過程を経て受精卵ができると、受精卵は卵管の中で細胞分裂を開始し、胚と言われる状態になっていきます。

 

そして、胚は子宮の方に移動しはじめ、最後は子宮内膜にたどり着いて着床します。着床後の胚がきちんと問題なく成長していけば胎児となり、やがて元気よく産まれてくるわけです。

 

妊娠して出産に至るまでにはこうした流れを通り抜ける必要があります。このようなたいへんな過程のどこか一カ所でもトラブルが起きると妊娠は継続できません。仮に男性と女性がどちらも健康で問題がなかったとしても、受精や着床といった過程のどこかでトラブルが生じて妊娠できないというのは決して珍しくはありません

 

逆に言えば、受精や着床が滞りなく済んで赤ちゃんが成長し、問題もなく生まれてくるということそのものが奇跡的だと言ってもいいほどです。

 

日本産科婦人科学会は、生殖年齢にある男女が妊娠を望み、一定の期間避妊せずに性生活をしているにも関わらず妊娠が成立しない場合をもって「不妊」というと定義しています。この定義からすると、むしろヒトという種族は不妊の状態が普通である、とすら言えるかもしれません。

 

年代別の妊娠率には差がある

妊娠を目的に性行為を行った場合の1ヶ月あたりの妊娠率を見ると、人間は他の動物よりも低くておよそ25%程度となっています。しかしこれはあくまで1ヶ月単位での話ですので、毎月きっちり性行為を継続していれば、当たり前ですが妊娠確率は上がることになります。

 

1ヶ月ではなく1年という期間で見た場合、妊娠を目的に性行為を続けて行っていれば、男性も女性も健康であるならば妊娠率は8割を超えるとされています。また、2年間継続したならばこれはおよそ9割となります。

 

とはいえ、こうした妊娠率というのはどの年代でも等しいものではありません。あくまで女性全体の平均となる数字で、年代が違えば妊娠率も違ってくるのです。1ヶ月辺りの妊娠率が25%なのは女性が20代前半である場合で、これが20代後半の場合は15~20%ほどになります。

 

その後の妊娠率の推移を見ると、30代前半で10%、30代後半で8.3%となり、いわゆる高齢出産と言われるようになる年代になると妊娠率は1割以下になってしまうのです。それに伴って、妊娠までにかかる時間の方も、20代前半が4ヶ月なのに対し、20代後半で5ヶ月、30代前半で10ヶ月、30代後半になると12ヶ月と次第に伸びていきます。

 

また、一生を通してある女性が子どもを作ることができる確率という点から見ても、20代の場合でおよそ70%が妊娠から出産を迎えることができるのに対し、高齢出産に当たる35歳以降では不妊治療を行った場合であってもおよそ40%、40歳以降になると30%台まで下がってしまうことが分かっています。

 

20代前半の女性の妊娠能力を仮に100とした場合、30歳は90、35歳は80、40歳になると10まで落ちてしまうのです。

 

不妊の原因はどこにあるのか――男性の場合

不妊といってもさまざまな原因があります。大きく見た場合でも、男性側に原因がある場合と、女性側に原因がある場合とがあるわけですが、このうち男性側に原因がある場合について少し見ていきましょう。

 

まず、男性側に原因があって妊娠がうまくいかないケースというのは、不妊全体のうちおよそ30%~40%程度に上ると言われています。

 

男性側に原因があって妊娠がうまくいかないケースで最も多くを占める原因は造精機能障害です。造精機能障害とは精子を作り出す体の機能に問題があるというもので、男性側に原因がある不妊のおよそ7~9割ほどを占めます。

 

世界保健機関(WHO)によれば、1回の射精によって2ml以上の量の精液があること、精液の濃度は1mlにつき精子が二千万以上あること、かつ精子の運動率が5割以上に達することをもって、精液検査において正常と判断する、という基準を設けています。

 

もし精液の中に精子がいなければ無精子症になりますし、濃度が低い場合は乏精子症となります。精子がいたとしても運動率が低い場合は精子無力症と診断されます。またこの他にも、精子自体に奇形が多いといったこともあり得ます。このような妊娠の確率を下げる症状は単独で起きていることも併発していることもあります。

 

造精機能障害が起きてくる要因は今のところまだはっきりしていない部分が多いのですが、精索静脈と呼ばれる精巣の上のところにある静脈に問題が起こり、血液がうまく流れなかったりするような場合や、精巣を刺激する効果のあるホルモンに異常が発生することによって起きたりするということが分かっています。

 

精索静脈にトラブルを持つ男性はそんなに少なくはありません。調査によっては、男性の15%に何らかの問題があるというものもあります。精索静脈に問題があると精子の数が減ってしまったり、異常な精子が多くなったりすることがあります。

 

ホルモンの異常としてはゴナドトロビンと呼ばれるホルモンにトラブルが起きることで造精機能が低下することがあるとされています。

 

不妊の原因はどこにあるのか――女性の場合

不妊といってもさまざまな原因があります。大きく見た場合でも、男性側に原因がある場合と、女性側に原因がある場合とがあるわけですが、このうち女性側に原因がある場合についてチェックしていきましょう。

 

女性側にトラブルがあって妊娠できない場合、一番見つかりやすいのは卵巣と子宮をつないでいる卵管に問題があるケースで、全体のおよそ1割を占めています。

 

卵管は子宮の左右に伸びた10cmぐらいの細い管で、一番狭いところでは内側の直径が1mmほどしかない部分もあります。このため卵管が詰まってしまったり癒着してしまうことがよくおこるのです。

 

卵管は精子と卵子が出会って受精する場所ですから、妊娠を考える際にはかなり大事な器官となってきますが、卵管にトラブルが発生するとそもそも精子と卵子が出会えなくなってしまうため、妊娠できないという結果をもたらすわけです。

 

このような、卵管が原因で妊娠できないということが起きる疾病としては、子宮内膜症やクラミジアによる卵管炎といったものが考えられます。

 

このうち子宮内膜症というのは、本来子宮の中にしかないはずの内膜の組織が卵管や子宮の筋肉層に入り込み、そこで増えてしまうことによって起きるものです。子宮内膜症が卵管で起きるとその部分で癒着してしまい、元から細い卵管がさらに細くなってしまったり、完全にふさがってしまったりします。

 

卵管が細くなったりふさがってしまうと受精障害などを招いてしまい、結果として妊娠できない、という状況を引き起こすことがあります。このように子宮内膜症がなぜ発生するのかについてはまだはっきりしておらず、研究が進められている段階です。

 

クラミジアというのは性感染症の1つで、感染すると炎症が起こります。この炎症が卵管で発生すると卵管炎を起こすわけですが、そのようになると受精しにくくなったり、受精した後で胚になったものが移動できないといったようなことが起こったりします。

 

女性側が原因の不妊の中で治療が比較的やりやすいものとしては排卵にトラブルを抱えているケースで、こちらは全体のおよそ2割を占めます。

 

排卵にトラブルを抱えるのは、例えばホルモンが正常に分泌されないといったものや、間脳や下垂体、あるいは卵巣自体の機能に問題があるといったケースです。

 

このほかに、多囊疱性卵巣症候群と呼ばれる疾患もあり、こちらは卵子を包んでいる卵胞がそれなりの大きさまで成長するのに排卵がなされず、結果として卵巣に数多くの卵胞があるというような症状です。

 

また、子宮そのものにトラブルを抱えるケースも全体の1割半ほど見受けられます。例えば子宮自体に奇形があるような場合や子宮筋腫、子宮内膜のポリープといったものです。それ以外にも、性感染症や中絶手術などが原因で子宮内膜が癒着してしまうこともあり、いずれも不妊を招くことになります。

 

以上のケースはいずれも明確に症状や病気が不妊を引き起こしているわけですが、こうした要因が全くなかったとしても、単に母体が高齢であるというだけでも不妊になるケースがあります。年齢を重ねることによって卵子自体の質が落ちてきているような場合です。

 

それ以外にも、年齢に関わらず、全体の約1割~2割ほどは原因不明の不妊というものも存在します。

 

妊娠適齢期は何歳ぐらいになるのか

卵子は母体と共に老化して質が下がり、それが不妊へとつながっていくわけですが、ではどれぐらいの年齢がいわゆる妊娠適齢期ということになるのでしょうか。卵子が年と共に老化するからといって、とにかく若ければいいのかというとそうとばかりも言えないように思えます。

 

女性の体は10代の頃はまだ月経のサイクルが不安定であることが多く、多くの場合18歳ぐらいになるとだんだんと規則的になってきます。このため、人間を生物という観点から見た場合には、妊娠適齢期はおよそ20歳ごろから35歳ごろまで、ということができるかと思います。

 

しかし、子どもの出産というのは産んでしまって終わり、というものではありません。子どもを産めば産んだ女性は母親としてその子どもを育てなくてはなりません。そうするには社会的にも精神的にもより成熟していることが求められますから、まだ大学や短大などに通っていることの多い20歳という年齢はそうした点から適齢期と言うには不向きなのではないかと思われます。

 

こうした実際的な観点も合わせて考えるなら、現代の女性の妊娠適齢期は25歳から35歳というのが妥当なところではないかと考えられます。

 

現代的な考え方からするとこういった結論が出てくるわけですが、昔の考え方はどうだったのでしょうか。これは、厚生労働省が毎年発表している合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの平均数)を見ることである程度見えてきます。

 

合計特殊出生率の統計を見ると、平成25年は1.43、大正14年は5.11となっています。つまり、平成23年の時点では一人しか子どもがいない家庭が多い一方で、大正14年時点では五人も子どもがいるのが普通であった、ということが分かります。

 

現在の一人に対し五人というとたいへんな子だくさんのように思えます。さぞ若い頃から妊娠・出産を繰り返していたのだろうと思われるかも知れませんが、興味深いことに、当時も25歳から35歳ぐらいの時期に集中して子どもを産んでいたというデータがあるのです。

 

国立社会保障・人口問題研究所によれば、明治43年における平均初婚年齢は男性が27歳、女性が23歳となっていて、女性の初婚年齢は昭和35年近くになるまでずっとこの年齢の辺りで推移しています。その後はゆっくりと上昇し初め、平成12年には27歳、平成21年には28.6歳となっています。

 

逆にさらに昔について見てみると、江戸時代の東北地方の農村では、男性が10代後半、女性が10代前半で結婚しているというデータがある一方で、山口県の寺に残る史料によれば男性が28.5歳、女性が22.7歳という平均初婚年齢のデータもあり、地域によって差が大きかったことがうかがわれます。

 

いずれにしても、女性の初婚年齢が20代前半付近であったというのは、月経のサイクルが安定的になって妊娠しやすくなる年齢という視点から見るとまったく理に適っていると言え、昔から妊娠や出産をしやすい年代というのが知られていたということが分かるかと思います。

 

卵子そのものの若さは分からない

最近、実際の年齢よりもかなり若く見える女性というのが増えています。いわゆる「美魔女」というやつですが、もしかしたら実年齢は45歳でも体の年齢としては35歳以下とさほど変化がないというような方もいるかもしれません。

 

体の老化の方が変化がないのであれば、卵子の方の老化にも個人によって差があるのではないか、という考えかたが出てくるのも無理ないことです。そして、実際に卵子の老化についても個人差は存在します。

 

臨床上の症例を見ると、45歳前後での自然妊娠・出産の事例はありますし、体外受精であっても、自分の卵子を用いてそれぐらいの年齢での妊娠・出産という事例はあります。とはいえ、こうした例はものすごくレアな症例です。

 

芸能人などの有名な人が高齢出産をした場合、そうした話題は報道などによってすぐに広まります。芸能人でなくても、不妊治療をして高齢での出産に成功した人の話も聞こえてくるかもしれません。しかし実際のところ、その影には不妊治療に失敗したり途中であきらめたような女性が数多く存在するのです。

 

自分が長年不妊治療を行い、それでも子宝に恵まれなかったらどうするでしょうか。そうした体験を他の人に語りたがるでしょうか。普通の人であれば、そうした辛い気持ちは心の奥に秘めて、誰にも言わないのではないでしょうか。

 

つまり、レアケースである高齢出産の成功はよく耳にしがちですが、それよりもたくさんある不妊治療の失敗は耳に入りにくいということです。ですから、有名人のケースを見て自分も大丈夫だと根拠なく思い込むことは実は危険なのです。事例から導き出されるデータはむしろ逆であるということを認識しておいた方がいいでしょう。

 

卵子そのものの老化の度合いを何らかの検査で知ることができれば一番いいのですが、現在のところそういった医療技術はまだありません。

 

また、30代の後半になり卵子の数が2.5万個を切った場合であっても、それら卵子の質は1つ1つ異なっており、実際に閉経して妊娠ができなくなる寸前まで、一生の中で一番よい質の卵子が排卵される可能性はゼロではありません。

 

まだ2.5万個もの卵子が体内にあり、しかも質のいい卵子が存在する可能性があるという限り、妊娠を目指して治療を続けようとする方はまちがいなくいるでしょう。

 

こういった人たちの興味をひこうというのか、最近一部のマスコミでAMH検査というものが取りざたされています。マスコミなどで紹介されるときにはよく何歳まで妊娠可能かをみる検査といった言い方をしているようです。

 

しかしこのAMH検査というものは誤解されて紹介されているように思えます。もともとAMH検査とは抗ミュラー管ホルモンというホルモンの量を調べる検査なのですが、これによって体内に残っている卵子の質が分かるという性質のものではないのです。

 

AMH検査は卵胞から分泌されるホルモン量を調べ、その数値から残っている卵子の量を推し測るというもので、まだ確固たる指標になるほど完成したものではありません。

 

AMH検査で確実に分かるのは、今のところ加齢するに従って体内の卵子の量が減るという事実そのものだけです。そして、産科の現場では、不妊治療を続ける意味があるかどうか、というところを判断するときの指標として利用されているのが現実です。

 

つまり、妊娠できる可能性ではなく、これ以上は妊娠ができなくなっているかどうかを見るために使われているのです。

 

自己未受精卵子保存の実際

加齢とともに卵子の質が下がるという事実をきちんと知っている方であっても、医学的に勘違いをしている方は多く見られます。自己未受精卵子の保存に関する誤解などがその例です。

 

自己未受精卵子の保存というのは、読んで字の通り自分の卵子で受精が済んでいないものを取り出し、体外で凍結保存をしておくという技術です。この技術を使って、卵子の質がまた下がっていない若い頃に卵子を保存し、子どもを産める状況になったときに体外受精させてそれを自分の体に戻して妊娠・出産しようというものです。

 

こうした技術そのものやそれを利用したいという考え方自体をとやかく言うものではありませんが、そうであってもこの技術の特徴や限界をきちんと理解した上で利用するべきだと思います。

 

というのも、この技術で卵子を凍結保存し、その後体外受精させて戻したときの成功率があまり芳しくない、という事実を見逃している方が多いように見受けられるためです。

 

現在のところこの技術での成功率は10%以下なので、若い頃に卵子を取っておけば年を取ってからでも間違いなく子どもが授かる、という性質の技術とはまだ言えないのです。

 

若い頃に卵子を2つ取っておいたので、将来子どもが欲しくなったら2人まで産める、などというのは完全に誤解です。確率を考えると、むしろ1人も産めない可能性の方が大きいのです。

 

そして現在の医学的な常識に照らせば、仮にうまく体外受精に成功したとしても、それがそのまま出産につながるかもまだ未知数です。高齢出産というのはそれだけで危険がある行為であり、卵子の質や受精卵の状態に関わらず問題が発生することが多いためです。

 

卵子を若返らせる移植技術の実際

卵子そのものを核移植によって若返らせる、という技術の研究も進んでいます。

 

高齢で出産をしたい女性の卵子をとり、そこから遺伝情報が入った核を抜き取り、若い女性の卵子から核を抜いたところに移植します。ドライバーが車を乗り換えるように、遺伝情報を持つ核以外の部分を取り替えてしまおうという技術です。

 

近い将来こういった技術が開発され、高齢でも問題なく出産できるのではと期待している女性もあるかもしれませんが、この技術はまだ実用化のめどが立っておらず、まだまだ実験段階でしかない、ということもまた知っておかなければなりません。

 

たとえば、卵子細胞の内部にはミトコンドリアという組織が存在しています。このミトコンドリアは呼吸機能などに大事な役割を持っている組織なのですが、実はこの組織内部にも別の遺伝子が存在しています。

 

つまり、仮に核だけを抜き出して別の核を移植しても、卵子細胞の中に別の遺伝情報を持ったミトコンドリアがまだ存在するわけですから、その遺伝情報が混ざり合ってしまいかねない、という問題がまだ払拭できていないのです。

 

このように、現在の医学技術の進歩を見たときに、人間が長生きできるようにする技術は実用化できても、妊娠・出産可能な年齢をひきあげるのはまだ難しいと言わざるを得ません。

 

確かに子孫を作り生物として種を繁栄させていくことはどんな動物にとっても大事ではあるのですが、個人個人のレベルで見たときには必ずしもそうとは言えません。これは、女性が体調を崩すとまず真っ先に生理に影響が現れることを見ても明らかです。

 

つまり、種の保存というテーマは女性一人一人のレベルで見たときには最優先事項ではないということになっているのです。一番大事なのは自分自身の生命活動を維持することであり、それが満たされて初めて種の保存を行える、ということなのです。

 

逆に言えば、それだけ妊娠や出産はたいへんな生命活動だと言うこともできます。であるならばやはり高齢での無理な出産は避け、肉体的にも社会的にも精神的にも充実している妊娠適齢期にそうした活動に従事すべきではないかと思われます。

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