中学受験で選ぶ中高一貫校のメリット
私立の学校の多くは、中学部と同時に高等部を開設しており、中高一貫教育が行われています。近年では、公立の中高一貫校も増えています。中高一貫校にはどのようなメリットがあるのか、私立と公立にはどのような違いがあるのかについて詳しく見てみましょう。
学歴ではない中高一貫校の価値とは何か?
中高一貫校を受験する人に対して、「学歴が大事なのか」「人生は勉強だけではない」などと批判する人がいます。中間一貫校を受験するのは、学歴やよい大学に入るためだという思い込みによる批判だと考えられます。
「公立中学校から進学校に進んでも十分よい大学に入ることができる」「大学付属高校へ進学した方が結局はいい大学に入れる」などと言って、中高一貫校を否定しようとする人もいます。このような考えこそ、最終学歴至上主義の現れだと言えます。
中高一貫校へ進学するのは、学歴のためなのでしょうか。中高一貫校のカリキュラムが大学受験において有利に働くことはありますが、「学歴のために中高一貫校を選ぶのだ」と考えるのは浅はかと言わざるを得ません。学歴ではない中高一貫校の価値はたくさんあります。
中高一貫校では先取り教育ができる
中高一貫校に通う生徒達は、入学時点で高校3年までの6年間の教育を保証されており、高校入試を受ける必要がありません。その結果、「ゆとり」が生まれ、先取り学習が可能になります。
一般的な中高一貫校では、中学2年までに中学課程が終了し、高校2年までには高校課程が終了します。通常の高校より1年間早く課程が終了するので、高校3年では1年間全てを大学受験対策に費やすことができます。
また、私立では公立に比べて授業時数が多いため、教科書の進みも早くなります。更に、試験を経て集まった学力差が少ない生徒達に授業をするため、教師側は授業の難易度を設定しやすく、よりスピーディー、かつ効率的に授業を進めることができます。
高校入試の対策が不必要なこと、授業時数が多いこと、授業を効率的に進められることなどから、中高一貫校では「ゆとり」を持った先取り教育ができるのです。このことが大学受験において有利に働くことは間違いありません。
中高一貫校では、中学で基礎固めができる
中高一貫校において高校入試がないことは、先取り教育ができるという点において大きなメリットを持ちます。高校入試がないことのもう一つのメリットが、中学生のうちに基礎固めができるという点です。
高校入試を控えている生徒達は、どうしてもテストごとに希望校に行けるだろうかと、自分の点数に一喜一憂してしまいます。中高一貫校の生徒達は、高校入試のためにテストの点数を気にする必要がありません。
中学校から新たに導入される英語や数学といった科目においても、どうやって良い点を採るかではなく、学問として純粋に学ぶことを楽しむことができます。英語は、実際に使えるコミュニケーションの手段として、数学は論理的思考を鍛える学問として学ぶことが可能です。
小学校から継続している他の科目においても同様のことが言えます。特に暗記ものと捉えられがちな理科や社会においては、授業の幅が大きく広がります。理科では、実験や観察を中心としてカリキュラムを組むことができます。社会では、時事問題を積極的に取り上げたり、ディスカッションをしたりする余裕も生まれます。
名門と呼ばれる私学こそ、知識の詰め込みではなく、体験による学びを重視しています。体験を通じて学び、体験をもとに考えを深め、自分の言葉で表現するという教育が行われてきました。
高校入試を意識しなくてよい環境において、中高一貫校では中学生のうちに体験を通した学習の基礎固めができるのです。基礎をしっかり固めているからこそ、その後の高校での学習や大学入試対策の演習・応用などにおいて力が発揮できると考えられます。
中学受験で思春期を過ごす場所を選ぶ
中学、高校という時期は、人間の発達においてとても重要な時期です。「思春期」と呼ばれるこの時期は、それまで疑問を抱くことのなかった親の価値観に疑念を持ち、自分自身の価値観を構築していく時期にあたります。
学校、親、社会へ反発したり、他者との関わりに葛藤したりするなど、様々な経験を積んで成長していきます。肉体的にも大人への成長し、性的にも成熟していきます。また、脳内においても大きな変化が現れ、考え方やものの見方が変化していきます。
子供から大人へと生まれ変わるこの時期は、大きな変換の時期であり、幼虫が成虫に変わる「さなぎ」の時期とも言われます。自分はどんな大人になるのか悩み、葛藤するこの時期は、繊細で傷つきやすく、環境の影響を大きく受けます。
親からの独立心が芽生えると同時に、どこかに属していたいという帰属意識、依存心が芽生え、仲間との関わりが大きな比重を占めていきます。中高生にとって、依存できる仲間や先輩のいる学校や部活動が自分の居場所になり、親との会話が減るのは思春期特有の成長過程だと言えます。
思春期における学校は、帰属意識を持てる場所、依存心を満たせる場所にならなければなりません。学校で仲間や憧れられる先輩を見つけられなければ、学校外にその存在を探すことになります。他校の生徒とつながったり、遊び仲間を見つけたりすることになれば、様々な危険が待ち受けていることは想像できるでしょう。
思春期を過ごす環境は、後の人生に大きな影響を与えるとても重要なものなのです。中学受験は、その思春期を過ごす場所を自ら選ぶ行為と言えます。自らの生き方について悩む時期だからこそ、誰とどのように思春期を過ごしたかが、人生観や幸福感にまで影響を与えるのです。
中高一貫校では、思春期教育が分断されない
学校教育は、初等教育、中等教育、高等教育の三段階に分けられています。初等教育は小学校、中等教育は中学校と高校、高等教育は大学を指します。中等教育にあたる中学と高校は思春期真っ只中であり、成長カーブは大きく紆余曲折を描きます。
筑波大学附属駒場中学・高等学校の学校案内には、「6年間の心の成長」が示されています。中学1年生は「様子見期」からはじまり、中学2年生まで続く「混乱期」に入ります。「混乱期」には、自我が芽生え、自己中心的な言動や足の引っ張り合い、コミュニケーションの不足などが見られるようなります。「自分くずし・選別」を行っている時期です。
中学3年になると「検索期」に入ります。「検索期」は3段階に分けられ、第1段階である中学3年生では、安心できる場を求め、仲間を探し、自分の「居場所作り」を行います。他者への評価が厳しい、大人に対して批判的であるなどの特徴も見られます。
高校1年生は「検索期」の第2段階です。安心できる場を見つけ、仲間を確定させていき、「グループ化」を行います。高校2年生になると「検索期」は最終段階に入ります。2年時に作られたグループを強化し、「やりたいこと」を探し始めます。
そして、高校3年生は「大人化」と呼ばれ、他者との関わりや交流を上手く行えるようになります。この時期になると自己認識ができるようになり、他者へも優しい評価ができるようになります。
中学1年生の「混乱期」から、中学2年生から高校2年生までの「検索期」を経て、高校3年生で「大人化」していきます。「中学1年生と高校3年生を比べると、まるで子供と大人のようだ」と言われるのは思春期の6年間で大変動の時代をくぐり抜けるからです。
思春期の子供を持つ多くの親は、子供の変化に戸惑い、関わり方に悩みます。「混乱期」には接し方がわからなくなり、「検索期」にはいい意味で諦め、支援、見守るという方向に進んでいきます。子供が「大人化」すると、我が子を個人として評価することができるようになります。
駒場中学・高等学校では、思春期の心の発達の特徴を踏まえ、学業・学校行事・クラブ活動を人間形成の場だけでなく、精神を鍛える場になるように工夫しています。日本屈指の名門校だからこそ、紆余曲折を経る思春期の特徴をよく理解して教育を行っているのでしょう。
中高一貫校のカリキュラムは、どの学校も6年間の中等教育を2年ずつ3ステージに分けて組まれています。まだ子供とみなされる中1・2年、反抗期のピークである中3・高1、反抗が収まり、進路決定に向けて歩み出す高2・3の3ステージです。それぞれのステージに合わせて学業、学校行事、キャリア教育が行われているのです。
思春期をトータルで見られることが中高一貫校の最大のメリットであると言えます。高校入試がないための先取り教育や中学生のうちの基礎固めなどの学業面におけるメリットに大きく勝ります。
中高が分断されてしまう従来の中等教育では、「自分くずし」「自分づくり」の時間が十分に確保できないという難点があります。また、「仲間探し」と「仲間の確定」の時期である中3と高1が分断されてしまうことは非常に残念なことです。
海外に目を向けてみると、ヨーロッパでは中高一貫の教育が一般的です。アメリカでは州によりますが、日本ほど高校受験が大きな意味を持つことはありません。思春期の特徴を踏まえると、中等教育6年間のあり方は中高一貫である方が理想的だと考えられます。
思春期6年間の成長を見通せる中高一貫校
中高一貫校では、中学1年生から高校3年生までが共に学校生活を送ります。反抗期真っ只中の中学3年生は、先生や親に反抗し、様々なトラブルを起こします。制服を着崩してみたり、髪を染めてみたり、大人に挑戦的な態度をとる生徒が見られます。
一方、高校3年生は中学3年生と比べて体はずっと大きいのに、大人に対して反抗的な態度はとりません。先生達とも大人同士のように自然に接しています。中学1年生は、この違いに疑問を持ちます。しかし、次第にこれが成長なのだと気づくのです。
名門と呼ばれる学校ほど、自主・自立・自由を重んじるところが多く、校則はあまり厳しくありません。中には校則自体がない学校もあります。それでも風紀が乱れることはありません。そこには目に見えない抑止力が働いているからです。
従来の公立の中等教育では、思春期のちょうど中間で教育が分断されてしまいます。中学1年生は中学3年生を最高学年として仰ぎます。反抗期のピークにある大人に対して挑戦的な生徒達を見て、自分たちの2年後を想像します。
それに対して中高一貫校では、中学1年生は高校3年生を最高学年として仰ぐことができます。大人として振舞う先輩達を見て、将来像を描くことができます。保護者も「中2、中3でやんちゃをしても高校生になると落ち着くんだな」と長い成長を見通して、安心することができます。
反抗期の盛りの中2、中3の生徒達も、高校生の言うことはよく聞きます。大人に対して疑いの目を向け、挑戦的になっている時期でも、年の近い先輩達の話には耳を傾けられるのです。生徒同士の縦の教育力があるからこそ、教師が細かなところまで口を出さなくてすむのでしょう。
中高一貫校で一生の友人ができる
中高一貫校では中1から高3までが一緒に過ごすため、長い目で見た成長を見通すことができます。また、反抗期のピークを通り越して大人になりつつある高校生の存在により、縦の教育力が生徒同士の間で働きます。
それだけでなく、中高一貫校には横の教育力も存在します。6年間続く同級生との友人関係は、人生において大きな糧になります。6年間といっても小学校とは異なるのは、激動の思春期の6年間であるという点です。
自分は何者なのか、将来はどうなるのかという不安や悩みを分かち合い、共に葛藤した友人は、心の成長を共にしたからこそ分かる真の理解者となり得るのです。実際に中高一貫校に通ってよかったこととして「一生の友人ができたこと」を上げる人が多く存在します。
同質の仲間と過ごす中高一貫校の危うさ
中高一貫校には、入学時に試験が設けられており、学力的に均一な生徒達が集まります。授業においては、学力差が少ないのでレベルが設定しやすく、効率的に進めることができます。生活指導においても、生徒の質が似通っているので厳しさの基準を決めやすいという利点があります。
しかし、学力的に均一で質が似通っているということは、多様性に欠けるということでもあります。一旦社会に出れば、様々な背景や考え方を持った多様な人々が存在します。中高という大きく成長する時期に多様な人に触れる機会が限られることは、中高一貫校の弱点と言えます。
高校からの入学枠を設けている学校では、ある程度、多様性が広がることは期待できます。しかし、特に首都圏の場合は、学力の上位層は中学入試の時点で私学に流れており、公立中学校に進んだ上位層の子供達は公立の進学校に進むことがほとんどです。このような状況から定員を確保できず、高校入学枠を廃止する学校も増えています。
そこで、新たに中高一貫校が力を入れているのが帰国子女の受け入れです。文化や背景の異なる生徒を受け入れることで多様性を広げることができ、グローバルな視点を持つことが期待できます。
介護施設や保育園などでのボランティアを積極的に取り入れている学校もあります。自分とは生活環境や考えが異なる様々な人と触れ合うことで、価値観を広げ、多様な考えを受け入れる素地を作ることができます。
一方で、思春期は自己理解を深める時期であり、自分と似た友人と深く関わり合うことで自己理解を深めることができ、その結果として他者への理解も深まるという考え方もあります。思春期に自己を見つめる時期に、同質の集団に属することは必ずしもマイナスに働かないと考えることもできます。
このような考えを踏まえても、同質と仲間と過ごす中高一貫校では価値観が狭まる可能性があることは否定できません。誰もが自分と同様の価値観を持ち、同様の考えをすると考えてしまう危険性があります。
保護者は、同質の仲間と過ごすことになる危うさについて十分に理解した上で、受験するかどうかを決断するべきです。中高一貫校でも公立の中学校でも、それぞれにメリットとデメリットがあります。デメリットを理解した上で、どんなメリットを取るかが重要なのです。
中高一貫校なら私立と公立に違いはないのか
中高一貫校には、高校入試がないことによる先取り教育、中学時代に可能な基礎固め、思春期6年間が分断されない一貫教育などのメリットがあります。中高一貫校であれば、私立でも公立でも教育に差はないのでしょうか。
公立の中高一貫校でも、私立と同様に先取り教育や中学時代の基礎固めは可能です。6年間を見通した思春期をトータルで教育する点でも私立と差異はありません。また、指導力が高く、意欲旺盛で熱意にあふれた教員が集まるため、質の高い教育を受けられることは間違いありません。
生徒の質という点でも、PISA型の適性検査が行われており、学力の高い生徒達が集まります。学力的に均一な生徒が集まることで授業を効率的に行うことができます。指導法においても、数学や英語で習熟度別に授業を行うなど、様々な工夫がなされています。
一方、私立と公立の徹底的な違いは、建学の精神があるかどうかという点です。私立には長い歴史があり、建学の精神に裏打ちされた伝統があります。公立にも伝統は存在しますが、競争の激化を避けて行われた「学校群制度」などの影響で薄れてしまっているのが現状です。
※学校群制度:複数の公立普通高校で作った「学校群」内の学力が均等になるように、合格者を振り分けるシステム。
建学の精神と伝統がある私立中高一貫校
建学の精神や伝統も建前だけのものなら必要はありません。しかし、私立中高一貫校は長い歴史の中で、建学の精神や伝統が脈々と受け継がれています。それらが学校の隅々にまで行き渡り、学校の教育力として力を発揮しているのです。
建学の精神に基づいたぶれない教育は、徐々に伝統になり、生徒達にも染み込んでいきます。卒業生や在学生に染み込んだ伝統は「らしさ」を生み出します。名門私立の卒業生を見て「○○の卒業生っぽい」と言われることがあります。学校の隅々に染み込んだ伝統が生徒に染み込み、卒業後も生きているからでしょう。
「らしさ」は、生徒だけでなく学校で働く先生にも染み込んでいます。私立では異動や転勤がないため、同じ先生が長年同じ学校で勤めています。新しい先生が入ってきても長年の指導法や考え方は伝統として引き継がれ、「らしさ」が身についていくのです。
毎年新しい生徒が入学し、学校で生活する生徒達は変化し続けます。それでも建学の精神や伝統は学校のDNAとして存在し、大きな教育力を発揮しているのです。その中でも他の追随を許さないほどの風格を持ち、威厳を示す学校は「名門」と呼ばれます。
私立における「らしさ」は、生徒達の「誇り」になり、帰属意識を高めます。思春期において、「誇り」に支えられた帰属意識を持つことは素晴らしいことです。「誇り」は後の人生においても心の支えになり、努力の原動力にもなりえます。建学の精神に基づいた伝統、「誇り」が私立の魅力だと言えます。
更新日:2019/11/29|公開日:2017/11/01|タグ:中学受験