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女子校に根付く教育カリキュラム

共立女子中学高等学校の礼法授業

少子化に伴い、水面下では学校同士の生徒獲得抗争が続いています。そのような中で、ある一定の保護者からは「校則の厳しい女子校」が未だに強い人気を誇っています。個性や自由を尊重する傾向にある現代において、なぜルールの厳しい女子校が人気なのでしょうか。その秘密を見ていきましょう。

 

女子校に求められるのは規律の厳しさ

あなたは女子校と聞くと、どのようなイメージを抱くでしょうか?校則が厳しく、厳粛な雰囲気の漂うお嬢様学校をイメージする人が、多いのではないかと思います。

 

しかし実際、女子校出身者や女子校の教員に話を聞くと「女子校の中身は意外にも厳しくない、みんなリラックスしている」「現状を知ったらびっくりするかもしれない」とコメントする人も多くいます。

 

都内のいくつかの女子校の生徒の保護者に対するアンケート調査では、子供の進学先として女子校を選択したことについて、96.8%が満足していると回答しています。

女子校に入学させてよかったですか?(2006年度東京私立女子中学合同相談会参加校の高校3年生の保護者へのアンケート結果)

 

自分の子供にどのような女性になってほしいかという質問に対しては、「夢に向かって努力できる女性」「相手の立場を尊重できる女性」「感性豊かな女性」「仕事とプライベートを両立できる女性」「自律した女性」「国際社会で活躍する女性」といった回答が返ってきています。

これから自分の子供がどのような女性になってほしいですか?(2006年度東京私立女子中学合同相談会参加校の高校3年生の保護者へのアンケート結果)

 

また、女子校の教育のどのような点を魅力に感じているのかについては、「しつけや生活指導をしっかりしてくれるところ」という回答を多く得ています。

なぜ女子校を選んだのですか?(2006年度東京私立女子中学合同相談会参加校の高校3年生の保護者へのアンケート結果)

 

これは世間一般のイメージと相違がありません。では、なぜ女子校にはこのような規律の厳しさを期待する声が集まるのでしょうか。

 

確かに校則の厳しい女子校というのは、共学校よりも多く存在するかもしれません。しかし、校則を厳しくすることが現代に求められている教育の魅力だというのなら、共学校でも簡単に真似することは可能です。

 

ここで大切なのは、厳しい校則があるにも関わらず、女子校の生徒たちはそれらをしっかりと守り、自分の糧にしているということです。女子校に通う生徒たちは、厳しい校則やルールを守りながら、学校の中では非常にリラックスして学校生活を過ごしています。必要な場面に応じてメリハリをつけて生活しているのです。

 

女子校の中には、礼法や作法を学ぶ授業や教育カリキュラムを設けている学校も多数あります。このような教育方針によって、場に即したお辞儀や着席の仕方を身につけていきます。そうすることで普段はリラックスしていても、大事な場面では正しい作法に則り、自信を持って振る舞うことが出来るようになるのです。

 

これらの礼節を身に着けた女子校に通う生徒を目にするたびに、私たちは女子校に対して厳しい規律を期待し、魅力を感じているのだと考えられます。

 

女子校なら、女子に合った教育ができる

男女、とりわけ中学校や高校に通う年齢の男女には、学習の方法やスピードに大きな違いがあります。女子校や男子校といった男女別学の教育が進められるのは、こういった学習の方法やスピードにおける性差に注目した結果です。

 

男子には男子の、女子には女子の、それぞれに合った教育カリキュラムを施すことで、生徒たちの個性は飛躍的に伸びると考えられています。

 

男子は学習において理屈を求めがちです。なぜ今この学習が必要なのか、自分自身が納得できなければその学習は上手く進みません。一方で女子は学習において感覚を優先します。理屈は後回しにして、ひとまず真似て体験することから入ることができるのです。

 

女子校には礼法や作法を教える教育カリキュラムが組まれているところが多くありますが、男子校でそのような教育カリキュラムが組まれているところは、ほとんどありません。また共学校でも、そのような教育カリキュラムが功を奏したという話もあまり聞きません。

 

その原因として、中学校や高校に通う年齢の男子が、礼法や作法を習う意味を理解するのにとても時間を必要とするからではないかと考えられます。なぜこの場ではこのような礼法や作法に則らなければならないのか、お辞儀をしなければならないのか、着席をしなければならないのか、全てを理解しなければ素直に学習することが難しいのです。

 

本来は礼法や作法には、歴史に基づいた意味があるのですが、限られた学校の教育カリキュラムの時間の中ではどうしてもその意味を説明しきれません。まずは見様見真似で、形だけでも教えようとする学校も少なくないでしょう。

 

そのような学習方法に、男子は反発します。中には他の生徒の学習を妨げるくらいに、大きく反発する子も出てくるかもしれません。女子は男子に比べて、見様見真似の学習が得意です。しかし、男子の反発を前にして十分な学習をすることも難しいと考えられます。

 

だからこそ、共学校で礼法や作法の教育カリキュラムを導入しても、期待以上の効果が見られないのです。その点、女子校には当然ながら男子は在籍しません。男子に邪魔されることなく、礼法や作法の教育カリキュラムを定着させるのには何の苦労もいらないでしょう。

 

元々、女子は理屈なしに真似をして学習をするのが得意なのです。そして一度正しい礼法や作法を身につけると、その通りに行うことの気持ちよさを体感することで意味を理解し、今度は自分から率先して礼法や作法を執り行うようになるのです。

 

一度身に着けた技能は、自転車の運転がそうであるように、なかなか忘れません。だからこそ女子校出身者は、社会の一線にでても堂々としており、正しい振る舞いを見せて、周囲を魅了するのです。

 

礼法や作法を学ぶことは女子校と相性がいい

見様見真似で学習することが得意な女子にとって、礼法や作法を学ぶことはとても簡単です。とても相性がいいと言えるでしょう。では、なぜ共学校の女子には正しい礼法や作法が定着しづらいのでしょうか。それは先にも述べたように男子の目があるからだと考えられます。

 

中学校や高校生の男子と女子を比べると、精神的にみて男子は圧倒的に女子よりも幼いとされています。見様見真似で学習することが苦手な男子にとって、自分よりも女子が容易く礼法や作法を学ぶことは面白くありません。自分のできないこと、苦手なことを一生懸命取り組む女子の姿を見て、茶化したくなってしまいます。

 

礼法や作法を学ぶ時には、体全体の神経に意識を尖らせ集中する必要があります。そのような場面で、幼い男子の茶化すような視線を受けては、女子も気もそぞろになってしまい、十分な学習ができないでしょう。だからこそ、礼法や作法を学ぶことは、女子校という学習環境ととても相性がいいのです。

 

もちろん中学校や高校に通う時期は思春期の真っただ中であり、女子の中にも一生懸命に取り組むことについて、冷やかすような態度をとる生徒が存在します。しかし、女子は協調性を重んじる傾向にあります。男子のように大げさに茶化すような態度はとらないのです。

 

女子校では生活指導もしやすい

女子校の中には、厳しい校則が存在しますが、意外にもその中の生活指導のルールは簡単にしか定めていないところも存在します。「学生として、正しい振る舞いをすること」「学校、制服にふさわしい身だしなみをすること」といった、抽象的なものです。

 

それでも女子校に通う生徒たちは、このような抽象的なルールを自分たちの中で解釈して、守っています。自ら考えてルールを守ることで「自律」の精神が養われていっています。

 

一方で共学校では、このように簡単にはいかないことが多いのが実状です。そもそも男子生徒、女子生徒それぞれが生活する場であるため、単純に女子校よりも倍の数の校則やルールが必要になってきます。またそれぞれのルールについても細かく定めなければ、双方に折り合いがつきません。

 

中学校や高校に通う年齢では、女子よりも男子の方が幼くやんちゃをしたがります。そのため生活指導の際には、教員の目は男子生徒の方に向きがちです。おとなしい女子生徒にまで目を向け切れていないのが現状です。だからこそ、予めルールを細かく決めて、機械的に指導をしていかなければ対処しきれないのです。

 

男女では「自律」の身に付け方も異なる

オーストラリアのACER(The Australian Council for Educational Research)は、2000年に6年間の調査結果として、男女別学教育を施した方が、生活態度が良好である旨を報告しています。これは男女別学教育を施すことによって、それぞれの特徴に合わせて指導ができた結果ともとれるでしょう。

 

実際に男子校、女子校の生活指導の違いを考えてみましょう。

 

男子は失敗を経験することで学び、「自律」が可能になると考えられています。だからこそ厳しい校則やルールは、むしろ彼らの「自律」の妨げになるのです。男子校の教員たちはあえて生徒たちを始めから厳しくしつけることなく、失敗をさせて「自律」を身に着けさせようとします。

 

一方で女子は「他律」からも見様見真似で「自律」を習得できると考えられています。だからこそ、女子校では厳しい校則やルールを予め提示し、生徒本人に解釈させることで「自律」を身につけさせる狙いがあるのです。

 

その点、男子生徒と女子生徒が存在する共学校では、男子と女子それぞれに共通する校則やルールを設けなければなりません。どちらか一方が多くても少なくても不平になるため、それぞれに細かい校則やルールを取り決め、機械的に守らせる指導をすることが、現状できる精一杯の生活指導です。

 

そこで全く「自律」が身につかないとは言いませんが、取りこぼしが生まれてしまう可能性も否定はできないでしょう。

 

女子校の伝統教育

女子校で生活する生徒には「自律」が身につきやすい理由は、女子の学習の仕方以外にも考えられます。それは女子、もしくは女性ならではの特徴とも言えるでしょう。このことを女子校には伝統校が多い点もふまえて見ていきたいと思います。

 

先にも述べたように、女子は理屈抜きに見様見真似で学習を始められるという特技を持っています。だからこそ、厳しいルールを定めても、柔軟に受け入れて、順応し、学校や教員の与える「他律」から「自律」の精神を養うことができるのです。

 

新設の女子校であっても、女子独特の学習の仕方から、厳しいルールを定めさえすれば同じように「自律」の精神を養い、育むことが期待できます。さらに伝統のある女子校では、新設校以上に「自律」へのスピードを速め、強固なものにすることができると期待できます。

 

女性は、他者に共感する力や他者と強調する力が、男性よりも高いとされています。それ故に伝統のある学校であればあるほど、学校の雰囲気というものを感じ取り、なじむようになっていくのです。

 

「この学校の生徒としては、このように振る舞うのが当たり前」という感覚を、学校のカラーが濃ければ濃いほど、女子生徒たちは敏感に感じ取り順応していきます。

 

すでに学校に順応し、「自律」をした先輩たちの存在も大きいでしょう。思春期には髪型や服装など、ルールを違反してもお洒落したい気持ちが大なり小なり生まれているはずです。実際に行動に出る生徒は、女子校の中でさえいるでしょう。

 

しかしそこで既に「自律」し、落ち着いて学校の生徒として順応した先輩の姿を目にすることで、次第に我を振り返り、「学校にふさわしい生徒」としての自覚を身につけていくのです。真似る対象が目の前にいることはとても学習には効果的です。時には、先輩が注意を促してくれることもあるかもしれません。

 

先輩を見て、後輩が育つというサイクルを、伝統のある女子校では確立しています。この流れは一度出来上がれば、学校が続く限り受け継がれていきます。だからこそ、伝統のある女子校は生徒の「自律」を促進し、強固なものにする期待がより一層期待できるのです。

 

女子校らしさを身につける

世間では今、個性的な事に注目が集まりやすくなっています。個性的なことをよしとし、それを生かした社会への貢献が求められています。

 

その一方で個性を伸ばす場所でもある学校は、少子化の煽りを受け、どんどん無個性で画一的な共学校へと変わりつつあります。誰でも受け入れることができて、誰でも入学が希望できれば、生徒の獲得数が上がるだろうという狙いがあるからです。

 

しかし、それで本当にいいのでしょうか。本当に個性を伸ばすことを目的にするのならば、それぞれの個性に合わせた教育の場が必要なのではないでしょうか。男女別学校は、いわば性別という一つの個性に着目した教育の場とも言えるのです。

 

女子校は、女子の見様見真似で学習する方法、「他律」から「自律」を学ぶ方法を上手く捉え実践している教育現場です。女子生徒たちは学校にいる短い時間の中で、自らの個性を育てていきます。その個性が学校のカラーと合っていればいるほどに、それは色濃く育っていくでしょう。

 

学校には一定の期間しか在籍できません。毎年どの学校でも、生徒が卒業して、新しい生徒が入学していきます。どの年もすべて同じ生徒がいるわけではありません。それでも伝統のある学校のカラーというのはぶれることなく、生徒たちに引き継がれていきます。それは伝統や校風という形で生徒たちを律しているからでしょう。

 

この伝統や校風を対外的に示すことで、それを理想とする生徒やそれに合った生徒たちが魅力を感じて入学を希望してきます。本能的に自分の個性を伸ばせる、相性のいい場所だと感じ取っているのかもしれません。

 

少子化で生徒確保の条件が厳しくなっている今だからこそ、画一的な教育を施すのではなく、生徒一人一人の個性に目を向けることが必要になっていくのではないでしょうか。生徒の個性はやがて学校の個性となり、魅力となるからです。

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