テレビと子どもの脳 ~ポケモンショックを振り返って~
現代の家庭にはほとんどの場合テレビがあり、赤ちゃんや子どもをテレビの影響を受けずに育てることはほとんど不可能になってきています。では、テレビが子どもの脳に危険を及ぼすことはないのでしょうか。
テレビの危険性 ~ポケモンショック~
1997年12月16日、当時子どもたちに人気が高かったアニメ『ポケットモンスター』(ポケモン)を見ていた子どもたちの一部が体調不良を訴え、全国各地で医療機関に搬送されるという事件が発生しました。俗に『ポケモンショック』などと呼ばれるようになったこの事件では、750人ほどが病院に搬送されたばかりか、そのうち135人が入院するという騒ぎになりました。
子どもたちが訴えた症状としては、痙攣、ひきつけ、失神、気分が悪くなる、頭痛や吐き気、めまいなどといったものでした。事件後の調査により、原因は『光過敏発作』と呼ばれるものだということが分かりました。
『光過敏発作』は、視覚に飛び込んでくる光刺激により、脳に異常な反応が起きることによって引き起こされるさまざまな症状のことです。問題の番組では、ストロボやフラッシングなど光が激しく点滅するような場面が多用されており、特に後半部分では1秒間に12回もの頻度で赤い光と青い光が入れ替わるようなシーンがあったとされます。こうした光による刺激により、子どもたちに発作などの症状が起きてしまったのです。
発作を起こしやすい子どもの脳
『ポケモンショック』に関する調査では、赤い光と青い光が規則的に入れ替わるという光刺激がどのような効果をもたらすかも調べられました。fMRIなどを使用して調べた結果、こうした光刺激によって後頭葉の一部が特に大きく興奮し、それが大脳の広い範囲の興奮を引き起こして脳の機能が阻害されることがあるということが分かったのです。
また、どのような環境で見ていた場合に発作が起こったのかということも合わせて調査が行われました。その結果、
(1)部屋が暗い状態で番組を視聴していたこと
(2)テレビからの距離が非常に近い状態(1m以内)で視聴していたこと
の2つの条件が重なっていたケースで、体調不良を訴える子どもが特に多かったということが分かってきました。
体調不良を訴えた子どもについてもともとけいれんなどの持病があったかどうかを調べた調査では、8割以上のケースでそうした既往歴がないことが分かりました。しかし、病院を受診した子どもの脳波を調べたところ、そうした既往歴がない子供であっても4割近くに脳波の異常が見つかり、また実に2/3近くの子どもが光刺激によって脳波に異常が出るというということも合わせて明らかになったのです。
こうした調査からは、けいれんなどの持病がない健康な人間であっても、何らかの原因で発作を起こす可能性があるということが浮かび上がってきます。特に10代前半ぐらいまでの子どもの場合には刺激を抑制するシステムがまだ未熟であるため、より発作を起こしやすいのです。
テレビの映像には危険が潜むことを知っておこう
こうした調査結果を踏まえて、民放やNHKでは番組作りのための指針を作成し、光過敏発作を引き起こしかねない映像効果を多用しないという対応を取りました。また、視聴者の側に対しても、番組の最初で「テレビを見るときは部屋を明るくして離れて見てください」であったり「部屋を明るくして離れてみてね」というようなメッセージを表示するなど、注意喚起を行うようになりました。
騒ぎの発端となったポケットモンスターの放映元であるテレビ東京では、民間放送連盟の指針よりも更に厳しい基準を作り、番組製作の現場に周知徹底をはかり、基準を満たさない映像については内容に関わらず一切放映しないという厳格な体勢をとっているといいます。
とはいえ、光過敏発作はアニメ放映でしか起きない現象ではありません。脳に発作が起きやすいような状況が重なればそれ以外の状況でも起こりえるものです。たとえば、強い光が明滅することの多いコンサート中継であったり、ストロボやフラッシングなどが激しくたかれる記者会見の映像などでも場合によっては発作を起こす人が出る可能性があるといいます。
そもそも人間の脳は自然の中で発達してきたものであるため、それ以外の「不自然」な刺激には対応できず、それによって光過敏発作などが引き起こされるわけです。子どもにテレビを見せる際には、そうした「不自然」な刺激にあい思わぬ健康被害を受けてしまう可能性を常にはらんでいるということを念頭に置いておくようにすべきでしょう。
更新日:2019/11/29|公開日:2015/11/01|タグ:ポケモンショック