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虐待を受けた子どものケアは9歳ぐらいまでにする必要がある!

虐待

最近全国の児童相談所に虐待された子どもについての相談が寄せられる件数が増えてきています。平成5年度には1,611件だった件数は10年後の平成15年度には26,569件、さらに10年後の平成25年度には73,765件となっています。こうした虐待は子どもの心や脳にどんな影響を与えるのでしょうか。

 

虐待と発達障害

愛知県大府市にあるあいち小児保健医療総合センターには育児支援外来があり、ここでは児童虐待やそれに関係する症例を専門に扱っています。

 

この外来は平成13年の11月に設置されましたが、設置してから3年間の間に虐待の被害に遭うなどして受診するに至った子どもは全部で342名にのぼりました。そして、そのうち57%にあたる195名の子どもが発達障害であるということが分かりました。

 

発達障害というのは、行動・コミュニケーション・社会適応などの面で問題を抱えるもので、自閉症、広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などが含まれます。比較的低い年齢でそうした症状が出るもののことを指していいます。

 

発達障害の子どもは、脳に機能面での障害を抱えています。しかし、発達障害が虐待の結果生じたものなのか、あるいはもとから発達障害を持っている子どもが親に虐待されたのかを見分けることは相当に困難だとされています。

 

自分の外部または内部からの要因によって肉体的ないし精神的な衝撃を受け、長期間それにとらわれてネガティヴな影響を受けてしまうことを心的外傷(トラウマ)と言います。幼い頃から継続的にこの心的外傷を負い続けると脳の発達に大きな悪影響を受けるとされています。

 

しかし、倫理的な観点から日本においては心的外傷に関する研究はなされていません。そういった経緯もあって、虐待と発達障害との間に関連性を見いだせるかもしれないこうした事例のデータがあることは重要な意味を持ってくると言えます。

 

心的外傷後ストレス障害(PTSD)と脳の関係

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、生命の安全が脅かされるような出来事や天災、事故や犯罪、虐待などにより強い精神的衝撃を受けることがもとで、ひどい苦痛や、生活機能の障害をもたらしているストレス障害のことを指していう言葉です。

 

そのような体験の記憶が心的外傷となり、その人の意志に反してなんどもよみがえり、全く関連のないちょっとした刺激に対しても過度に反応してしまうといったような特徴があります。

 

東京大学の精神神経科では、PTSDを抱えた患者の脳の研究を進めてきました。具体的には、平成7年に起こった地下鉄サリン事件によってPTSDを発症した患者の脳と、事件に巻きこまれたもののPTSDを発症するには至らなかった人の脳をMRI(磁気共鳴画像装置)を使って画像処理して比較する研究を行ったのです。

 

研究の結果、前頭葉のなかの「前部帯状回」と呼ばれる部位に差が見られました。PTSDに苦しむ患者は総じてこの部分の体積が小さくなっていることが分かったのです。

 

PTSDについては、ベトナム帰還兵の問題を抱えたアメリカでさまざまな研究が行われています。そちらの研究によれば、PTSDを起こすと前部帯状回への血液の流れが少なくなる一方で、情動や記憶を中心的につかさどっている大脳辺縁系への血液の流れが増えるようになるということが分かっています。

 

こうした研究結果から、前部帯状回という部位は大脳辺縁系が過剰に働いて感情や記憶の機能が暴走するのを抑える役目を持っているのではないかということが分かります。PTSDの患者はこうした機能がうまく働いていないのではないかというわけです。

 

このような研究は主に成人について行われたもので、子どもを例に取った研究は日本のみならずアメリカにおいてもほとんど行われていません。虐待の被害を受けた子どもは脳梁とよばれる左脳と右脳をつないでいる部位の面積が小さいというような調査結果も出ていますが、研究事例が少なく今後の研究が待たれています。

 

虐待された子どもへの対応

虐待などで子どもが心的外傷を負ってしまった場合、親その他の身近にいる人などとの間に愛着(身体的・精神的な結びつき)ができあがっているかいないかで影響の受け方に大きな差が出るとされています。

 

親に虐待されていても、祖父母や近所の人など、子どもが自分のことを守ってくれるというふうに感じることができる人物が近くにいればまだましです。そうした人もいなかった場合、子どもは他人を極度に警戒して信用できなくなり、人間不信のような状態に陥ってしまいます。

 

このような「愛着に欠ける」子どもの場合は、思春期に入る前の9歳ぐらいまでには何らかのケアをすることが必要で、こうした対応は早ければ早いほどいいとされています。そうした子どもは年齢を重ねるに従ってケアをするのがどんどん困難になっていくためです。

 

一方、虐待を予防するという考え方も重要視されるようになってきています。

 

そもそも子どもの虐待がどんな理由で発生するかというと、その多くは子育ての際に親が感じるストレスにあるとされています。この点を考えるならば、大変な子育てを少しでも楽にするための支援を社会のさまざまなレベルで増やしていくことが一定の効果を持つだろうと考えられます。

 

さらに、虐待を受けて育った子どもが自分の子どもを持つと、今度は自分の子どもに自分が受けたような虐待を加えることが多いという研究もあるため、子どもが虐待を受けている時にそれを発見し、必要なケアを与えていくことが未来の虐待予防につながっていくということもできます。

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