できた!が脳を発達させる
何か新しいことに挑戦してそれができた時、子供は目を輝かせて喜びますね。そんな姿を見るのは、親としてとてもうれしいものです。実はこの「新しいことができた!」という体験が、子供の脳をグンと発達させるのです。詳しく見ていきましょう。
何かを学習すると脳全体が活性化する!
「うれしいな」「楽しいな」という感情は、脳内の腹側被蓋野(ふくそくひがいや)という部分からドーパミンという物質を分泌させます。このドーパミンは脳内のあらゆるところを駆け巡り、その通ったところは全て活動が活発になるのです。つまり、腹側被蓋野が刺激されてドーパミンが分泌されれば、脳全体が活性化するということになります。
さて、この腹側被蓋野については、面白い実験報告が出されています。実験用マウスの腹側被蓋野を取り除くと、新しいことを学ぶことができないということが分かったのです。つまり、なにか新しいことができるようになる時には、腹側被蓋野が働いているということになります。
さらに言えば、新しいことができるようになって腹側被蓋野が活発に働いている状態になれば、その時には脳の全体が活発に働くようになる、つまり頭がどんどん良くなるということになるわけです。この実験は、まだ人間の脳で試されたわけではないですが、人間も同様であると考えられています。
できないことに挑戦することは、すでにできていることをするよりは努力が必要です。少し頑張る必要があるのです。そして頑張った暁にできるようになるということが、脳を活発に働かせ、脳の発達をもたらすのです。
脳が活性化するのは新しいことができた時
なにかができるようになった時、そしてそれをほめられた時、子供の脳全体は活発に働きます。だからといって、できて当然なことをやらせて、それをほめたとしても、あまり脳は活性化しません。
ただし、子供がまだ幼いうちは違います。もう一歩でできそうだなということを、大人がさりげなく手伝いながら自分でやらせて、「ほらできた!すごいね」と大げさにほめるのは、子供の自信を育てますし、できてうれしい、ほめられてうれしいという感情が脳を活性化させるでしょう。
しかしこれは3歳くらいまでの話です。それ以降になると、すでにできていたことやちょっとやればすぐにできることができたとしても、あまりそれは脳に刺激を与えなくなるのです。
九九の暗記を例に挙げてみましょう。1から6の段までは覚えられた子供に、それを何度も暗唱させることは脳を活性化させませんが、今まで覚えられなかった7から9の段を正しく言えるようになった時、脳全体の働きがよくなるというわけです。社会や理科の暗記、漢字の暗記などにも、同じことが言えます。
ただし、算数の計算の場合は、少し話が違ってきます。もうできた問題であっても、繰り返し取り組むことによって、問題を解くスピードが速くなっていくからです。この時、脳内ではそれまでよりたくさんの神経細胞が働いています。同じことの繰り返しであっても、前より速くやろうとすると、その分だけ頭を使うというわけです。
そう考えると、同じテストの問題で100点をとったとしても、40分使って解くよりも20分しか使わずに解いた方が、脳をたくさん使っていると言えます。ちなみに、大きな声で話すのと小さな声で話すとでは、大きな声で話す方が脳を使っています。同じことをしていても、やり方が違えば脳の活性化の度合いも違ってくるというわけです。
新しいことにわくわくする心を持たせよう
子供が、今までにない新しいことを知って「すごい!」と感動したり、今までできなかったことが「できるようになった!」と達成感を味わったりする時、脳全体が活発に動いています。そんな気持ちを味わわせるには、まずは「知りたいな」「できるようになりたいな」という気持ちを引き出すことが大切です。難しそうですが、意外とチャンスは転がっているものです。
例えば新学期。子供たちは新しい教科書をランドセルに詰めて帰ってくるでしょう。そんな日は、帰ったらすぐにどの教科書もすべて、ざっと読ませるとよいのです。知りたい意欲がもともと高い子供なら、言われなくても進んで読み始めるかもしれません。学年によっては、また、教科によっては、それをするだけで大まかなところは理解できるものです。
子供が、新しいことに対して興味や関心を持てるようにするのは、とても大切なことです。それが、子供を発達させる力の源となるのです。
段階を踏んで、未経験のお手伝いもやらせてみよう
新しいことができるようになるという経験は、子供の脳を大いに刺激します。今まで覚えられなかった漢字を覚えられた、解けなかった計算問題を解けるようになった…新しいことができるようになる機会はたくさんあります。
また、それは勉強の場面だけとは限りません。家であれば、お手伝いもよい機会となるでしょう。ただその時は、いきなり難しいことにチャレンジさせるのではなく、その子にとってのスモールステップを踏まえながら取り組ませましょう。
例えば、今まで料理を手伝ったことのない子供に、いきなりカレーを作れと言うのはハードルが高すぎます。まずは野菜を洗うことから始めるべきでしょう。それができるようになったら皮むき器を使って皮をむくとか、包丁を使って切るとかいう段階に進めます。その次になってやっと、フライパンや鍋を使って炒めたり煮込んだりということに挑戦させられるというわけです。
ただ、その子の現状にぴったり合った課題だったとしても、すぐにできないことの方が多いものです。それをしっかりと頭に置いて、おおらかな気持ちでやらせましょう。
それから、その子に合った課題というのは、年齢で決まるものではありません。それは、子供の発達のスピードは人それぞれだからです。子供の同級生ができているからといって、いきなりハードルを上げて難しい課題を我が子に与えることのないように、気をつけなければなりません。これでは達成感を味わわせるどころか、できない自分に失望し、新しいことに挑戦する勇気も失ってしまいます。
子供自身が「あの子ができるなら僕だって」「あいつには負けないぞ」という気持ちを持って頑張るなら、脳の発達にも良い影響をもたらしますが、本人がそう思っていないのに周りが勝手に「お友達もできているんだから」とけしかけてもうまくいきません。やる気もないのにやらされているという状況下では、子供の脳はそれほど刺激を受けないのです。
今までやらなかったことにチャレンジさせるのは、脳の発達にとってとても有意義なことです。しかしそれは「その課題が子供の発達の度合いにぴったりと合っている」という大前提があってこそ言えることなのです。