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チーズはなぜ良く伸びるのか?カゼインの特徴を知ることで生まれるチーズのバリエーション

伸びるチーズ(チーズフォンデュ)

液体だった動物の乳は、酵素で固めることで固体となり、様々な工程を経てチーズになります。さらに私達の食卓に届く頃には、熟成されてなめらかでとろけるような口当たりに変化しています。

 

また、温めたチーズが糸を引くように伸びる様子は食欲をそそりますが、「温めると溶け、伸びる」のはチーズの主成分であるカゼインの特徴でもあります。この特徴を熟知した上で作られる様々なチーズや、カゼインの不思議な性質について見て行きたいと思います。

 

チーズの組織は液体から固体へ、そして熟成と大きな変化を繰り返している

物にはそれぞれ性質的な特色があり、それが、その物の個性と呼ばれるものです。チーズの個性や特徴を計る物差しは、チーズ組織がなめらかでキメ細かいのか、それともポロポロしたものなのかといった点、そして水分を多く含んでプルプルしているのか、弾力が少ないのか、といった組織の硬さなどに置かれています。

 

また、物質としてのチーズは、大きな変化を繰り返しています。出発点は液体である乳ですが、乳を固める酵素であるキモシンを加えると、一瞬にして固体に変化を遂げます。その後の熟成期間には、チーズ内部の乳酸菌や酵素、カビなどの働きにより、チーズの組織はなめらかに変化します。白カビチーズなどは、溶けたような柔らかさが生まれます。

カマンベールチーズ

 

加熱することにより物質としての大きな特徴を見せるのも、チーズの特徴です。中でもモッツァレラチーズは、糸を引くようによく伸びることで知られ、ピザのトッピングなどで欠かせない存在です。

モッツァレラチーズトマトとモッツァレラのピザ

 

日本の食卓でもおなじみの「ストリングチーズ(さけるチーズ)」は、モッツァレラチーズがよく伸びる性質を利用して作られた、新しいチーズです。モッツァレラを加熱し、よく引き伸ばしてから冷やすのを何度も繰り返すと、引き伸ばした際に出来た糸状のチーズが束のようにまとまった、新しい質感のチーズが出来るのです。

さけるチーズ

 

チーズの主成分カゼインは、熱に強い希有なたんぱく質

チーズの大きな特徴である、「熱を加えると糸を引くようによく伸びる」点は、チーズの美味しさを引き立てています。私達もピザを見た時には、漂う香りだけでなく、チーズが糸を引いている様子に、食欲をそそられているはずです。

 

なぜチーズは加熱するとお餅のようによく伸びるようになるのでしょうか?この秘密は、チーズに含まれるたんぱく質の主成分カゼインが握っています。

 

カゼインの最大の特性は、熱に強いということです。お肉を焼くと硬くなってしまうのは、一般的にたんぱく質が、加熱によって組織が縮んで硬くなるという特性を持っているからですが、110℃の熱を10分程度加えられてもその性質が変わらないカゼインは、これに当てはまらない非常に珍しいたんぱく質なのです。

 

また、カゼインが持つ耐熱性については、多くの学者が研究を行っており、その過程で接着剤として利用する手法が開発されるなどしています。

 

カゼインが熱に強い理由は、赤ちゃんでも消化しやすい構造にある

チーズの原料である、生乳に含まれるたんぱく質の80%を占めているのがカゼインです。カゼインの分子の中には、プロリンというアミノ酸が多量に含まれていますが、乳の中に均一に、散らばった状態で存在していることがポイントです。

 

たんぱく質というものは一般的に、アミノ酸同士が鎖のように繋がっており、様々な形の立体構造をしていますが、プロリンが含まれているたんぱく質は例外で、カゼインは分子の状態のまま乳の中を漂っています。そのため、カゼインは消化しやすく、速やかにアミノ酸に分解されて体をつくるために役立てられるのです。

 

本来は乳飲み子の消化を助けるための構造ですが、これがもう一つ、我々人間にとって非常に役立つ特徴に繋がりました。それは、カゼインの耐熱性です。他のたんぱく質にはないこの特性により、チーズの魅力である「加熱したときにトロリととろける」姿が見られるというわけです。

 

カゼインは伸び縮みする網のように繋がっているから、温めると伸びる

加熱によって硬くならず、柔らかくトロリと溶け、糸を引くように伸びるという、チーズならではの特性はカゼイン独特のものです。その背景には3つの理由があります。そのうちの1つは先ほど述べた、カゼインの独特な構造にありますが、残り2つの理由についても見て行きましょう。

 

カゼインは乳の中で粒状で浮遊しており、それをカゼインミセルと言います。このカゼインミセルは、さらに小さなカゼインサブミセルが1000個ほど集まって出来ていますが、同じく乳中に分散しているリン酸カルシウムが、カゼインサブミセル同士が手を繋ぐような形で結合するのを助けています。

 

また、チーズの内部で、カゼインミセル同士も繋がり合い、フレキシブルな網目状の構造をしています。この構造が、チーズの組織の柔らかさの理由ですが、これはチーズに熱を加えた場合も変わりません。カゼインの分子構造のみが変化し、それらを繋ぐ構造はそのままとなり、結果温めたチーズはよく伸びる、という訳です。

 

また、カゼインには、熱を加えると溶ける性質を持っています。チーズを加熱して伸ばすと、カゼインの分子はまるで繊維のようになり、伸びた方向に向きを揃えます。この特性を応用することで新しいタイプのチーズの開発に繋がり、日本でお馴染みの「さけるチーズ」が生まれました。

 

どんなに熟成が進んでいても、ナチュラルチーズであれば、カゼインの、熱を加えると溶ける性質は変わりませんが、「糸を引くように伸びる」という性質は、熟成によりたんぱく質が分解されることによって失われて行きます。

 

長期熟成型のパルミジャーノ・レッジャーノチーズなどはやはり、加熱しても糸を引くように伸びることはなくなりますので、リゾットやスープなどのお温かいお料理に使う場合は、おろし金で細かくしたものを混ぜ込んだり、上から振りかけて使うことをお勧めします。

パルミジャーノ・レッジャーノをおろし金で削っている様子

 

温めても伸びないプロセスチーズと、とろけるスライスチーズの作り方

熟成による変化を楽しむナチュラルチーズの対極にあるのが、プロセスチーズです。プロセスチーズは、ゴーダやチェダーなどのナチュラルチーズを原料とし、乳化剤を加えて加熱して一旦溶かしてから、再び冷やし固めた加工食品です。そもそも兵士の携帯食として開発された歴史があり、長期保存ができて風味に変化がないところが最大の特徴です。

プロセスチーズ

 

プロセスチーズの作り方は次の通りです。まず、原料となる複数のナチュラルチーズを細かく刻みます。そこに乳化剤として、クエン酸ナトリウムやリン酸ナトリウムを加えて均一に溶け合った状態を作ってから、加熱して完全に溶かします。それを型に入れ、冷やして固めると完成です。

 

これにより、チーズの風味はこれ以上変化することはなくなります。これは、ナチュラルチーズで熟成をすすめる乳酸菌や酵素などが、高温で加熱することにより死んだり、活動できなくなるためですが、長期保存しても味や香りが変わらないプロセスチーズの特色は、ここで作られています。

 

スーパーマーケットなどの店頭には、様々なタイプのプロセスチーズが販売されています。その中でもスライスチーズは「普通のタイプ」と「とろけるタイプ」の2種類があり、用途によって使い分ける必要があります。普通のタイプはサンドイッチや冷たいオードブルに、とろけるタイプは肉で包んで焼いたり、チーズトーストなどにして楽しめます。

普通タイプのスライスチーズととろけるタイプのスライスチーズ

 

どちらも同じプロセスチーズなのに、一方は加熱した時に伸び、もう一方は伸びないのはどうしてなのでしょうか?プロセスチーズはナチュラルチーズに乳化剤を加えて作ったことは先ほど述べましたが、どんな乳化剤をどれだけ加えるかがポイントとなっています。

 

前述の通り、原料のナチュラルチーズの中にあるカゼイン分子の粒(カゼインサブミセル)は、およそ1000個ずつリン酸カルシウムによって結合していますが、乳化剤が加えられ、原料の乳化が進んで行く過程で、リン酸カルシウムが溶け始めます。

 

つまり、リン酸カルシウムによる結合が切れ、伸びるための構造であった「フレキシブル網目構造」が崩れていきます。このため、加熱しても溶けて伸びなくなるのです。従って、とろけるチーズを作るためには、完全に乳化させないという製造上の工夫が必要となります。

 

とろけるチーズは、パッケージの色やデザインで分かりやすく区別されています。チーズ売場をご覧になる機会があれば、ぜひご自身の目で確かめていただければと思います。

 

プロセスチーズ作りの重要な工程「乳化」は、どのように起き、どう変化するのか

異なる物質同士が溶け合って一体化することを乳化といいますが、これをもう少し詳しく見て行きましょう。

 

チーズに含まれるたんぱく質や脂肪は、そのまま合わせても混ざり合うことはなく、加熱すると分離してしまうため、均質な組織のチーズを作るために「乳化剤」が必要です。プロセスチーズを作る場合は、クエン酸ナトリウムやリン酸ナトリウムなど、高温で溶かした塩が乳化剤として使われています。

 

カゼインサブミセルと呼ばれる粒状の分子は、リン酸カルシウムが間に入って繋ぎ合わせるように結合しています。この構造により、チーズは加熱するとよく伸びる性質を持っていますが、同時に酸に弱いという特徴があります。

 

同じ原料乳から作られていても、ヨーグルトは乳酸菌の働きによる乳酸の増殖が進んでおり、この結合が溶けてしまう結果、カゼインミセルは分子レベル(カゼインサブミセル)までバラバラにほどけてしまいます。従って、ヨーグルトは加熱してもトロリと溶け、伸びる性質を持たないのです。

 

プロセスチーズの原料に乳化剤を加えると、まず初めに、リン酸カルシウムによるカゼインサブミセルの結合が解かれます。これは、乳化剤に含まれるナトリウムイオンが、リン酸カルシウムのカルシウムイオンと置き換わる反応で、温めたチーズが伸びる前提となっている「フレキシブル網目構造」が失われることになります。

 

なお、乳酸を多く含むヨーグルトで、カゼインサブミセルの結合が溶けてしまうように、プロセスチーズの酸性度が高ければ高いほど、カゼインサブミセルの分解は進みます。

 

次に、結合が解かれてバラバラになったカゼインサブミセルは、乳化が進むにつれて水に溶ける性質に変わります。分子レベルまで分解され、水に溶けるようになったカゼインは、カゼインナトリウムという物質となり、液体の中に分散して行きます。

 

このカゼインナトリウムは乳化剤の役割を果たすため、残りのカゼインの乳化が更に進みます。この頃には、加熱すると伸びて糸を引く、ナチュラルチーズらしさは消え失せています。

 

伸びるチーズの代表格「モッツアレラ」は、カゼインの構造を利用して作られている

糸を引くように伸びる様子はチーズの魅力の一つですが、数あるチーズの中でもその特徴がよく現れているのがモッツァレラチーズです。熟成させずに出来立てをいただく「フレッシュチーズ」の一種で、トマトやバジルと合わせてカプレーゼとして、またパスタやピザのトッピングとしてなど幅広く利用されています。

モッツァレラチーズカプレーゼ

 

モッツァレラチーズは、イタリア南西部カンパーニャ州が原産のチーズです。本来は水牛の乳が原料ですが、現在は牛乳から作られたものの方が多く流通しています。

 

原料乳が違うとチーズの風味にも差が出ますが、水牛のモッツァレラの方が良質とされています。水牛の乳は牛乳と比べて採れる量が少ないのですが、たんぱく質の含有量が多いためです。また水牛の方が飼育が難しいこともあり、水牛のモッツァレラの方が希少価値があり、価格が高くなっています。

 

水牛の乳で作られたモッツァレラチーズの正式名称は、モッツァレラ・ディ・ブッファラ・カンパーニャと言います。これは、1993年にDOP(イタリア版・原産地名称保護制度)に認定されたためで、カンパーニャ州で生産された、水牛の乳から作られたモッツァレラチーズであることを表しています。

 

モッツァレラチーズの製造方法は、非常にユニークです。低温殺菌した原料乳に凝乳酵素を加えて固め、できたカード(乳の塊)を細かく切断するところまでは他のチーズと同じです。次のステップでは、一般的なナチュラルチーズであれば、撹拌しながらゆっくり加熱しますが、モッツァレラチーズを作る場合は、95℃の熱湯をカードに加えます。

 

すると、細かく切り刻まれていたカードは、再び1つにまとまってきます。また、ボソボソしていた表面の質感も、つやつやで滑らかなものに変わります。カードが80℃くらいまで冷めてきたら、モッツァレラチーズ作りのハイライトとも言える、次の工程に移ります。

 

カードの塊を練り、弾力が出てきたら、2人で引っ張り合って伸ばします。そして、丸い形にちぎってから、塩水の中で冷まします。これでモッツァレラチーズの完成です。「ちぎる」はイタリア語で「モッツァーレ」と言い、モッツァレラチーズの名前の由来ともなっている、大切な工程なのです。

 

このように、加熱したカードを練り、引き伸ばすチーズの作り方をパスタ・フィラータ製法と言います。モッツァレラチーズだけでなく、カチョカヴァッロやスカルモッツァなどが同じ方法で作られており、そのままいただいてもモチモチとした弾力があり、加熱すると非常によく伸びる特徴が共通しています。

 

パスタ・フィラータ製法で作られたチーズは、何故こんなによく伸びるようになるのでしょうか?これには、チーズの中にあるカゼインの構造が影響しています。

 

原料乳に凝乳酵素キモシンを加え、乳を固めたことで、主要なたんぱく質であるカゼインの粒子の表面は疎水性(水となじまない性質)に変わっています。この粒子がリン酸カルシウムによって結合すると、外部から引っ張られる力に対し抵抗するようになります。お餅のような粘り気は、この構造が生み出したものなのです。

 

熱を加え、練ってから引っ張った時に伸びているのはたんぱく質だけですが、カードにはたんぱく質だけではなく、脂肪球や水分なども含まれています。ですが、たんぱく質が引き伸ばされた方向に整列するように並ぶことにより、全体が一体となり、まとまっていくのです。

 

モッツァレラチーズの製法を応用して作られた「さけるチーズ」

パスタ・フィラータ製法で作られたチーズで忘れてはならないのは、日本でもおなじみの「さけるチーズ」です。雪印乳業から初めて発売されたのは1980年のことでしたが、ホタテの貝柱やさきいかのように手で細く裂くことが出来るこのチーズはとても新鮮で、私達を驚かせました。

さけるチーズ

 

さけるチーズは、モッツァレラチーズを製造している過程で開発されました。カードに熱を加え、こねて引っ張ると、繊維質の組織に変化することを応用したものです。モッツァレラチーズと同様に、「加熱→こねる→引き伸ばす」という作業を何度か繰り返した後に硬化させると、さけるチーズが完成します。

 

ナチュラルチーズの組織は熟成によりなめらかになるが、あまり伸びなくなる

ナチュラルチーズは、熟成前と熟成後で大きく変化します。旨味成分であるグルタミン酸が増加することで風味が良くなり、チーズ独特の香りも生まれますが、同時にチーズの組織も変わります。それは、熟成期間中にたんぱく質(カゼイン)が分解されるためで、ボソボソともろかったカードの組織はなめらかになり、食感がぐっと向上します。

 

一方、チーズを加熱した時に溶け、糸を引くように伸びる性質は、モッツァレラチーズなど一部のフレッシュチーズが群を抜いています。チェダーやゴーダなど、熟成するタイプのチーズは、組織はなめらかになりコクも出ますが、加熱してもそれほど伸びません。

 

そこで、熟成チーズの旨味、風味を保持しつつ、伸びを実現させる一挙両得な調理法があります。

 

チーズフォンデュという料理をご存知の方も多いと思います。チーズフォンデュはスイスの家庭料理で、溶かしたチーズにフランスパンや温野菜、ソーセージなどを絡めていただくものです。

チーズフォンデュ

 

チーズフォンデュで使われるチーズは、エメンタールチーズとグリュイエールチーズの2つが一般的です。これらをおろし金ですりおろしたものにコーンスターチをまぶし、温めた白ワインで伸ばしつつ鍋で煮溶かして作ります。トウモロコシのデンプンであるコーンスターチを加える理由は、加熱による分離の防止です。

エメンタールチーズグリュイエールチーズ

 

熟成型チーズであるエメンタールチーズやグリュイエールチーズは、加熱すると一旦溶けるのですが、鍋で煮続けるとたんぱく質と脂肪分に分離してしまいます。コーンスターチを加えることにより2種類のチーズがなじみ、またとろみがつくので食材にもよく絡むようになります。

 

チーズフォンデュは、チーズの特徴を踏まえた上で、一番美味しくいただく工夫が凝らされた料理と言えます。機会があれば、寒い冬の日に、ぜひご自宅で手作りフォンデュをお試しいただきたいと思います。

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