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子供の貧困で日本が失うカネと未来

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お先真っ暗の日本

深く静かに広がってきた子供の貧困問題は、放っておくと将来の日本から莫大な金額を失わせ、貧困とは直接関係ないすべての人たちにも重荷を背負わせることになります。貧困家庭に生まれた子供がどんな人生を歩むことになるのか、そしてそれが国によって放置されてしまったら国の財政にどんな損害を与えるのかを、具体的な金額とともに見ていきましょう。

 

貧困状態にある子供たちを家庭の生活状況から分類する

日本で貧困状態にあると言えるのは、どんな子供たちなのでしょうか?最近メディア等で見ることが増えてきた「相対的貧困」という考え方もありますが、ここでは生活状況の違いで分類し、グループ化して捉えていきます。

 

子供の貧困と一口に言いますが、経済的に困っているのは子供ではなくて、その親です。つまり家庭環境が貧困の要因となっているからです。

 

日本の未成年者人口2,182万人※1のうち、

・生活保護を受けている家庭の子供は、271,896人※2

・親と離れて児童養護施設で暮らす子供は、27,288人※3

・ひとり親家庭の子供は、1,471,990人※4

となっており、この3グループを「貧困生活を送る子供」とみなすことができます。

※1 2016年10月1日時点 / 出典:総務省統計局「人口推計」

※2 2015年7月末時点 / 出典:厚生労働省「平成27年度被保護者調査」

※3 2016年10月1日時点 / 出典:厚生労働省「社会的養護の現状について(平成29年7月)」

※4 母子のみ世帯数:79.3万世帯、父子のみ世帯数:7.8万世帯、児童のいる世帯の平均児童数:1.69人(2015年6月4日時点 / 出典:厚生労働省「平成27年国民生活基礎調査」)より推計

 

生活保護、児童養護施設の子供の貧困生活はイメージが付くかと思いますが、ひとり親の子供に関しては、本当に貧困生活なのか?と思う人もいるかと思います。

 

むろん、全てのひとり親家庭の子供が貧困生活を送っているわけではないですが、多くは厳しい生活を送っています。厚生労働省の2012年の調査では、大人が2名以上いる家庭の相対的貧困率は12.4%ですが、ひとり親家庭の相対的貧困率は54.6%と非常に高くなっています。

※相対的貧困率については、こちら(日本における子供の貧困の現状>相対的貧困)を参照ください。

 

子供の貧困を生活状況の違いでグループ化して捉えるメリットは、進路の追跡調査ができることです。なぜなら、子供の貧困問題で重要なのは世代を超えた連鎖が生まれている点であり、子供時代の経済的な違いが受ける教育の違いに学歴の差が、その先の就職や年収に、それぞれどれだけ影響を及ぼしているかを明らかにしなければならないからです。

 

内閣府の「子供の貧困対策に対する大綱」(2014年)に紹介されているのは、家庭の生活状況別に子供の進学率、就職率そして中退率を捉えたデータです。

【生活状況別の進学率、中退率、就職率】
全世帯 生活保
護世帯
児童養
護施設
ひとり
親家庭
中学卒業後就職率 0.3% 2.5% 2.1% 0.8%
高等学校等進学率 98.6% 90.8% 96.6% 93.9%
高等学校等中退率 1.7% 5.3%
高校卒業後就職率 17.3% 46.1% 69.8% 33.0%
大学等進学率
(専修学校、短大含む)
73.3% 32.9% 22.6% 41.6%

(出典:内閣府「子供の貧困対策に関する大綱」)

 

この表を見ると一目瞭然なのが、貧困家庭の子供の高校・大学等への進学率の低さです。それだけでなく、中学・高校卒業後の就職率が高くなっている点も見逃せません。また、生活保護世帯の子供にフォーカスしてデータを見ていくと、その差はさらに顕著にあらわれてきます。

 

高校進学率が全体で98%にのぼるなか、生活保護世帯では90%しかありません。高校の学費という、一見当たり前とも思える教育への投資の優先順位の低さが伺えます。では高校等の中退率はどうでしょうか。生活保護世帯の中退率は5.3%ですが、これは全世帯合計1.7%の実に3倍と、驚くべき高率となっています。

 

これは単年のデータですので、高校3年間で考えてみると、単純計算でなんと約16%の子供たちが卒業せずに学校を去っていることになります。経済的理由だけでなく、学業を勧めるという親としてのサポート体制が不十分な様子が想像できます。大学等進学率にいたっては、全世帯の半分にも満たない状況となっています。

 

このように、家庭の経済力が子供の学歴の差を生み出していることが分かります。それぞれのグループごとに、これまで蓄積されたデータを用いることで、子供の貧困問題の実態を把握しやすくなり、さらにそれを時間軸で捉えることも容易となります。

 

子供の貧困を放っておくとどれだけの損なのか?

子供の貧困問題は、何か手を打たないと自然に解消するものではありません。つまり、放置したままでは状況は同じであり、それが社会にどの程度の損失を与えるのかは明らかになりません。

 

そこで、もし貧困対策が功を奏して状況が改善された場合を想定します。そのシミュレーションで算出された数字と現状の数字とを比較することによって、対策を打たなかった場合の社会的な損失額を求めることができます。

 

では、貧困対策がうまく行ったとして、その数値の改善幅はどの程度を想定すればよいでしょうか?子供の貧困対策とその効果について、自然科学的アプローチで検証した研究事例は、まだ日本にはほとんど存在しません。そこでここでは、アメリカでの研究事例をもとに設定することとします。

 

アメリカで行われた研究は、就学前の幼児に教育プログラムを施し、その教育が子供たちの将来にどんな影響を与えるか、貧困対策に有効なのかなどを長期間にわたって追跡調査するというものです。対象者は所得の低い層から選び、教育プログラムを受けるグループと受けないグループそれぞれを追跡調査していく、というのが基本のスタイルです。

 

非常によく知られた研究「アベゼダリアンプロジェクト」によって得られた効果の1つに、大学進学率の大幅な改善があります。教育プログラムを受けたグループの大学進学率が36%となり、プログラムを受けていないグループより22%も高い結果となったのです。

 

日本の子供の貧困対策が上手く行った場合のシミュレーションには、大学等進学率の改善幅としてこの数字(22%上昇)を採用することとします。

 

貧困対策に効果が見られた場合の推計では、貧困世帯の子供の進学率と中退率が改善します。まず高校進学率と高校中退率は一般の(貧困でない)子供と同程度になり、さらに貧困世帯の子供の大学進学率が22%改善するというシミュレーションとなります。

 

貧困対策をせず放置したケースは、当然ですが、貧困世帯の子供の進学率および中退率は現状のままとなります。貧困対策を行った場合と比べ、最終学歴が中卒・高卒・高校中退といった層は増加するけれども大卒は減少してしまいます。

 

すると正社員への道は狭まり、非正規雇用になったり職に就けなかったりということも増えてきます。収入もそれに伴い低くなるので、国に納める税金や社会保険料も減少、場合によっては生活保護などの支出が増大する懸念すらあります。

 

貧困世帯の子供(15歳)が、この先の人生19歳から64歳まで働いたとして手にする毎年の所得から、所得税や社会保険料を差し引きます。給与天引きと同じような感じです。次に、医療給付金や生活保護費といった公的サービスで受け取るお金を加えます。

※現在日本にいる約120万人の15歳児童のうち、生活保護を受けている家庭の子供は約22,000人、親と離れて児童養護施設で暮らす子供は約2,000人、ひとり親家庭の子供は約155,000人います。

 

これが一人分の大まかな計算方法です。これを社会全体として合算していくのですが、貧困対策によって改善されたケース、貧困対策をしないで放置していたケースそれぞれについて合計額を計算します。両者の差が、「貧困対策をしなかった場合の社会的な損失額」となります。

 

具体的に計算するにあたっては、雇用形態別に分類した上でそれぞれの人数に、①平均所得額/年、②税・社会保険料、③社会保障給付額を乗じることで社会全体の合計額が求められます。

 

簡単のため、日本の人口が1000人だった場合で計算してみましょう。所得は500万円、税・社会保険料は100万円、そして社会保障給付額は働いている/いないに関係なく10万円一律としてみます。

 

貧困対策で状況が改善したケースでは全員が仕事に就いているので所得の総額は50億円で、税・社会保険料として10億円が国の収入となります。社会保障給付額の合計は1億円となり、こちらは国の支出です。10億円の収入マイナス1億円の支出ですので、国としては9億円が手元に残る計算です。

 

一方、貧困対策をせずに放置したケースでは、1000人中就業しているのは7割にあたる700人としてみます。所得の合計は35億円で、税・社会保険料負担額は計7億円となります。ところが社会保障給付金は全員に支払うため、合計1億円で状況が改善する場合と同額です。この点が影響して、国の財政収入としては6億円にとどまります。

 

ここで両者の推計額の差を見てみましょう。貧困対策に手をつけず、現状のまま放っておいた場合、所得は15億円、国の財政収入は3億円それぞれマイナスとなることが分かります。

 

切りの良い数字を当てはめ人口1000人で簡単なシミュレーションをしてみましたが、子供の貧困対策を疎かにしつづけることによってこれだけの金額が失われていくのです。(上記考え方に沿った具体的な国家規模の推計は、日本財団、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行っていますので、後ほど要約してご紹介します)

 

財政悪化が表面化すれば、増税や社会保障の削減、公共サービスの縮小にもつながりかねません。これこそが「社会的な損失」です。この数字を目の当たりにしたら、これまで我関せずとやりすごしてきた、身近にある子供の貧困問題に目を向けざるを得なくなるはずです。

 

子供の貧困問題の放置で失われるのは財政収入だけではない

子供の貧困に端を発する社会的な損失は、実に多面的なものです。この問題をより深刻に捉えてもらいたいという思いから、経済的な側面に焦点をあてていますが、それ以外にも重要な要素があり、子供の貧困問題を考えるにあたって避けて通ることはできないものばかりです。

 

第一に、治安悪化への懸念があげられます。貧困状態にある子供の環境を考えると、犯罪に手を染める子供が増える危険性は否定できません。犯罪多発地域は総じて治安が悪く、安心して暮らせるとは言いがたい環境とも言えます。そういった地域においては、パトロールなど取り締まり強化に伴うコスト負担の増大が予想されます。

 

また犯罪を犯した青少年に対しては、更正・社会復帰に向けたプログラムなど支援にかかるコストも見積もる必要があります。海外の研究では、子供の貧困による社会的な損失に与えるインパクトは、治安への影響が最大だと言われています。

 

次に挙げられるのが未婚化・晩婚化と少子化の更なる進行です。わが国では婚姻率・出生率が低迷して久しいですが、若い世代が結婚や出産に及び腰な理由はやはり「お金」です。結婚はいずれしたいけれど結婚資金が足りないという声や、お金がかかるから安易に子供は作れないといった声を耳にすることもあります。

 

子供の貧困対策をなおざりにしていると将来的な所得レベルが下がり、その結果金銭的なハードルにより結婚や出産が遅れていくことが心配されます。子供の貧困は少子化問題の原因にもなっているのです。

 

もう一つは連鎖する貧困です。子供時代貧困状態だった人は大人になっても所得は低いままのことが多く、その子供世代も貧困家庭で育つことになります。世代を超えて何度も繰り返される貧困は、出口が見えません。

 

教育格差が生み出す3つの格差

教育の格差は、子供時代に育った家庭の経済状況が背景となって起こります。では、異なるレベルの教育を受けた子供の就職や収入レベルは、どのような違いを見せるでしょうか?

 

高学歴イコール高い就業率

何らかの仕事を持っている人の割合を就業率といいます。以下の表は、学歴ごとに分類した40歳の人の就業率を一覧にしたものです。さらに男女別になっているので、同じ最終学歴を持つ人の男女差を比較することもできます。

40歳時点の就業率(性別、学歴別)

 

まず、学歴が高いほど就業率も基本的には高くなります。最も差が大きいのは中学卒と高校卒の就業率で、その差は10ポイント以上と大きな開きとなっています。

 

例えば中卒の40歳男性の就業率は76.6%ですが、高校まで出ていると就業率は89.9%とぐんとアップします。中卒女性の就業率はさらに低く56.4%にとどまっていますが、学歴が高卒になると67.7%へと大幅に改善されます。その差はおよそ20%、見逃せない数字です。

 

高学歴イコール安定した雇用

働くと言っても、その中身は多様です。昔とは違い、正規雇用の社員だけではなく、契約社員やパートタイム、アルバイト採用など労働力の雇用形態は様々で、それらがモザイクのように労働市場を構成しています。

 

40歳で仕事を持っている人のうち、正社員(正規雇用者)がどのくらいなのかを見てみましょう。昇進・昇給の機会があり雇用が守られるなど、他の雇用形態と比較して安定しているという意味で、正規雇用者が全体のどれだけを占めているかは長期的に安定した経済状況にある人の割合を示していると言えます。

40歳時点の就業者に占める正規雇用者率(性別、学歴別)

 

やはり「学歴=安定した雇用」という傾向が、一目瞭然となっています。大学や大学院を卒業した働く男性のじつに85.6%が正規雇用されていますが、中学卒だとわずか60.5%が正規雇用として働いていることが分かります。

 

つまり中卒だと、いわゆる働き盛りである40歳男性のおよそ4割が非正規採用という、不安定な雇用形態で働いているということです。

 

女性についても同様で、中卒か大学・大学院卒かの違いは、雇用形態に大きな違いをもたらしています。中卒、大学・院卒それぞれに正規雇用の占める割合は、25%以上の開きを見せていることが見てとれます。

 

高学歴イコール安定した収入

収入面ではどのような違いがあるでしょうか?以下の表では40歳時点での収入(給与の年間合計)が性別、雇用形態別そして最終学歴別に比較できるようになっています。

男性40歳時点における平均年収(雇用形態別、学歴別)

女性40歳時点における平均年収(雇用形態別、学歴別)

 

日本社会というのは雇用形態に関わりなく、若い頃の収入には大きな差はみられないのが特徴です。差がついてくるのは年齢を重ねてからなのですが、これは正社員には年齢給など、年功序列的な定期昇給につながる給与制度が現在も数多く残っているからです。

 

40歳時点での比較を行うこの表では、大きな賃金格差が見られます。1つ目は雇用形態の違いによる年収の差です。最終学歴が同じ大学や大学院卒の男性でも、正社員の年収676万円に対して非正規雇用の年収は387万円と、正社員の6割以下の収入レベルにとどまっていることが分かります。

 

2つ目は同じ雇用形態で学歴が異なる人同士の年収の差です。これは特に正社員で顕著な傾向で、男性の場合、大卒・院卒男性の平均年収は676万円である一方、中卒だと正社員であっても439万円にとどまっていることが分かります。

 

女性間の賃金格差についても同様の結果が出ています。大学・大学院卒の女性正社員の年収544万円に対し、同じ学歴を持つ非正規社員の年収はわずか313万円となるなど、正社員か非正規か、あるいは最終学歴によって収入レベルに大きな差がついてしまいます。

 

高校卒を目指すことが経済格差解消には大切

以上の3つの格差の内訳をよく見てみると、就業率と雇用形態における学歴による格差は、「高校を出ているか否か」に大きく影響を受けていることが分かります。また、正社員の所得格差に一番影響を与えているのは、「大卒か否か」であることが分かります。3つの格差は複雑に絡み合いつつ、「高学歴イコール経済的勝ち組」の図式が成り立っています。

 

子供の貧困問題を改善するためにまず目指すべきは、貧困世帯の高校進学率の向上および中退率の抑制であると言えます。国として政策的に取り組むことにより、所得格差の解消につながっていくはずです。

 

以下の表は生活状況別の最終学歴をグラフ化したもので、男女それぞれの、貧困世帯出身者と貧困ではない世帯の出身者の最終学歴の違いが一目で分かるデータとなっています。

最終学歴人口割合(性別別、生活状況別)

 

経済格差の鍵とも言える、中卒人口の割合を見てみましょう。非・貧困世帯出身男性における中卒の割合は4.6%ですが、貧困世帯の中でも経済的困窮が明らかな生活保護家庭出身の男性では23.8%にものぼる人が中卒となっています。

 

やはり、まずは高校進学、そして卒業を目指すことが日本社会で貧困から脱出するための手がかりとなることが明らかです。そのための支援策は、国が政策的に行っていくことが肝要です。

 

学歴は貧困から抜け出す武器になる

育った家庭環境、経済格差が引き起こす教育の格差と、その結果としての学歴の違いが将来的な収入格差をもたらし、そしてその格差は次世代に引き継がれ、繰り返されることは十分お分かりいただけたと思います。

 

一方で学歴至上主義への疑問を唱える人も数多くいます。学歴というのはあくまで結果であり、本来的には学びのプロセスにおいて知識を深め、また社会で通用するスキルを習得することこそが教育の目的であるはずという考えです。

 

子供の貧困問題がはらむ危険性を分かりやすく伝えるためには、教育機会を得られた高学歴の子供と、そうでない子供の双方を追跡調査して比較するという手法が最適であるため、調査ターゲットを最終学歴で分類していますが、言いたいことは高学歴こそ正義である、ということではないとご理解ください。

 

児童養護施設の現状に詳しい元法政大学現代福祉学部教授の高橋利一氏は、学歴が全てではないという世間の風潮があるが、施設の子供にとって学歴はかなり重要であると言います。

 

高橋氏は長年児童養護施設の運営にも尽力された方だからこそ、親の貧困に巻き込まれて不利な状況のなか、将来の道を探る子供たちの姿を数多く見てきています。教育は、そんな子供たちの形勢逆転のツールとなりうるという高橋氏の言葉もまた、重みをもって受け取られなければならないでしょう。

 

大卒が高給取りになれる訳

大学での4年間を思い出してみて下さい。がむしゃらに勉強したという人は、案外少ないのではないでしょうか。苦しかった大学受験戦争のことはすっかり忘れ、卒業までの4年間を目一杯遊んで過ごすのが、日本でよく見かける典型的な大学生の姿であるとも言えます。

 

日本の大学は、その様子から「レジャーランド」と、有り難くない称号を頂戴しています。だったら大学など行かずに、即戦力として社会で役立つスキルを身につけた方が、よっぽどいいのでは?という声すら聞こえてきます。

 

遊んでばかりなのに、卒業後就職すると高給取りになるという、矛盾とも言える状況の背景には何があるのでしょうか?経済学の分野で立てられている2つの仮説をご紹介します。

 

シグナリング仮説(学歴を見れば能力が分かる)

シグナリング仮説は、学歴は個人の潜在能力の高さをアピールするための一つのツールであるという考え方です。大学で学ぶことで能力が高くなっているのではなく、その大学で学ぶ私はそれだけの価値がある、だから卒業後の年収も高くなるということになります。となると大学で頑張って勉強する意味は薄れ、大学はレジャーランドで構わないという考え方にもつながります。

 

人的資本仮説(大学で受ける教育のおかげで能力が高まる)

人的資本仮説は大学教育に価値を置く考え方です。大学での学びにより能力やスキルがレベルアップし、その結果就職後の労働パフォーマンスが上がって所得も高くなる、という非常にシンプルな考え方です。

 

それでも「高学歴イコール高収入」の流れは継続傾向

シグナリング仮説、人的資本仮説どちらにも一理あるところですが、実際のところ大卒労働者の賃金は順調に上昇しています。大卒・高卒賃金格差というデータを見てみましょう。

 

大卒・高卒賃金格差は、大卒労働者の賃金を高卒労働者の賃金で割って求めます。高卒労働者の賃金を1とした場合の、大卒労働者賃金の数値が大きくなればなるほど、両者の格差は拡大しているということになります。

 

この賃金格差の推移を、1981年より現在まで過去30年以上にわたって見てみると、格差は縮まるどころか拡大傾向が続いています。

 

1990年代半ばまでは約1.2倍程度の数値を維持してきました。これは高卒労働者の賃金より、大卒労働者の賃金の方がおよそ2割増しであるということですが、この数値が2000年代に入ると伸びを見せ、最新データ(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」2016年版)によると1.3倍を超えて推移しています。

 

男性の大学進学率の伸びを、同じように1981年から現在まで追ってみます。大学進学率は、大学進学者数を高校卒業者数で割って算出しますが、大学定員が増えていることにより分子(大学進学者数)が増え、同時に少子化が進み18歳人口が減ってきているため分母(高校卒業者数)が減ったので、自ずと大学進学率が上昇する仕組みになっています。

 

1980年代から1990年代初頭までずっと30%台半ばで推移してきた大学進学率が急速に上昇したのはこのような理由があったからで、文部科学省「学校基本調査」(2017年5月発表分)によれば最新の大学進学率は52.6%で前年比0.6%増となっています。

 

「大学全入時代」とも言われるほど大学進学率が上がったのなら、これまでならば大学に合格できないレベルの大学生が増加してもおかしくないはずです。卒業後はそのまま能力が低い大卒労働者が数多く誕生します。それなのに大卒で働く人たちの賃金が順調に伸びているのはどういうことでしょうか?

 

労働市場も他のマーケットと同様、需要と供給のバランスによって価格が決まります。大卒労働者人口が増加してマーケットへの供給が増えれば価格(賃金)は下がるはずが、実際はそうなっていません。

 

市場原理に基づいて考えるならば、大卒労働者数の供給増を上回るペースで、大卒労働者に対するニーズが急速に高まっているということになります。マーケットで求められているのなら、大学進学率を上げることは市場原理にかなっており、また高い収入も見込める方策でもあります。

 

大卒労働者に対する需要の高まりについて考えるにあたり、まずはアメリカ国内の労働者のうち、定型業務についている人の割合がどのように推移しているかを調査したデータを見てみましょう。

 

定型業務とは、難しい判断などを必要とせず、仕事の内容や手順が決まりきった業務を指します。例えば、マニュアルさえあれば誰であってもこなせるような仕事のことですが、この定型業務につく労働者の割合は2000年を境にぐんと落ち込んでいます。

 

調査を開始した1980年から1990年台前半までは概ね35%前後であったのが、最新のデータ(2010年)によれば20%台半ばまで大きくそのシェアを落としています。

 

次に、日本の製造業へのアンケート結果を表にまとめたものを見てみましょう。これは経済産業省産業構造審議会が2012年に発表した、「経済社会ビジョン『成熟』と『多様性』を力に」に掲載されたものです。新産業構造部会の報告書としてまとめられたものですが、製造業の多岐にわたる業務工程のなかで、付加価値貢献度が高まったと思う業務工程について尋ねています。

3年前と比較して付加価貢献度値が高まった業務工程(製造業)

 

製造業の業務工程は、よく川の流れに例えられます。表を見ても、上流にはものづくりのスタートラインにあたる商品企画や研究開発、マーケティング、中流には実際の生産工程に関わる業務、そして下流にはエンドユーザーと接する販売やサービス部門と、全工程がまさに1つの川のように連なる様子が分かります。

 

冬の保温ジャケットを生産している衣料品メーカーを例にとると、保温性の高い素材の開発やカラートレンドの調査、商品デザインなどが上流、素材の生産や縫製が中流、店頭ディスプレイや販売、また商品クレームへの対応などは下流の業務工程にあたります。

 

この中では中流工程がいわゆる「定型業務」で、上・下流工程は「非定型業務」と呼ばれるものです。非定型業務とは自分の判断や思考力を駆使してすすめる業務のことで、企画力や臨機応変に対応するスキルが求められる仕事です。

 

グラフを改めて見てみましょう。製造業のどの工程が企業として重要だと捉えられているかが一目瞭然となっていますが、付加価値貢献度が高くなっているのは上流工程・下流工程に集中しています。定型業務が中心の中流工程については付加価値貢献度が低下しているものが目立ちます。

 

近い将来、定型的な仕事はロボットやAIに奪われてしまうと言われています。コンピューターやロボットに任せられる仕事よりも、人間だからこそできる業務、つまり非定型業務への需要が膨らむのは当然のことと言えます。

 

またこういった非定型業務では、高等教育を受けた労働者の活躍の場が多くなります。だからこそ国内外の実証研究を通じて、人的資本仮説をより強く推す声があがるのです。

 

高等教育には価値があり、教育を受けたものだからこそロボットにこなせない複雑な業務を行えるという考え方です。大卒労働者に対して需要が高まっているのは、ここに理由があると考えられます。

 

子供の貧困の社会的インパクト 学歴編:中卒が4倍に増え、大卒は半減

次に、日本財団・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「子どもの貧困の社会的損失推計」に沿って、子供の貧困の社会的インパクトについて見ていきたいと思います。(前述の人口1000人で簡単にシミュレーションした推計の国家規模のもの)

 

子供の貧困を放置した場合の、社会的な損失額の算出方法は、既にご紹介しました。そのやり方に沿って、まずは学歴別の人口という点から、社会的損失を推計します。子供の貧困対策に効果が見られた場合、子供たちの最終学歴はどう変わるでしょうか?

 

大学を卒業する子供の数は6万2000人になります。現在15歳で貧困状態にある子供は約18万人ですから全体の約34%を占めます。また、全体の95%以上の子供が高卒以上の学歴を手にすることができるようになります。中卒にとどまる子供もいますが、その数は8000人(全体の4.3%)に抑えられます。

 

次に、貧困世帯の子供の現状の進学率や中退率が、全く改善されない場合の学歴別人口を見てみましょう。最終学歴が中卒の子供は3万2000人にのぼります。貧困対策が功を奏した場合は8000人なので、実に4倍に膨れ上がる計算です。

 

この中卒3万2000人の内訳で見逃せない点は、2万人にものぼる高校中退者の多さです。貧困家庭の子供が高校中退に至る理由の多くは、本人ではなく家庭の事情です。せっかく入学した高校を卒業しようと頑張るための、家庭のサポートが期待できない環境が目に浮かびます。

 

高校から先、大学や短大、専門学校を卒業する子供は合わせて5万5000人で、貧困対策に効果が見られた場合の9万9000人の半分程度に減ってしまうことが分かります。一方、中卒と高卒を合わせた人数は12万5000人で、改善効果が見られた場合の8万2000人の1.5倍にもなります。

 

具体的な数値を目にすると、貧困家庭における教育の優先順位の低さが浮き彫りになり、いかに子供の教育にとって厳しい環境であるかが分かります。

 

子供の貧困の社会的インパクト 仕事編:派遣・アルバイト・無職が1割増加

子供の貧困対策に効果が見られれば、正社員・派遣やアルバイト従業員・それ以外の自営業者、また無職の人たちそれぞれの就業状況が改善される試算結果が出ています。

 

現状18万人中8万1000人が正社員として働いていますが、貧困対策に効果が現れるとその数は9万人に増加します。非正社員の数は3万6000人から3万3000人に、自営業者は1万5000人から1万3000人にそれぞれ減少が見られます。職に就いていない人の数は、4万8000人から4000人減って4万4000人になります。

 

つまり、子供の貧困問題に手をつけないと正社員が減り、より所得レベルが低い労働者や無職の数が増加することになります。

 

子供の貧困の社会的インパクト 収入編:生涯賃金が1600万円減る

19歳から64歳まで45年間働いて手にする生涯賃金も、子供の貧困対策の効果次第で大きく変わってきます。

 

貧困対策効果が出ると、現在15歳で貧困と呼べる暮らしを送る子供18万人の生涯賃金の平均は約1億4200万円となり、改善前と比べると1600万円上乗せされることになります。年収では改善前の約280万円から約315万円へ、およそ35万円増える計算です。

 

つまり、子供の貧困をそのままにしておくと一人あたりの所得が毎年35万円減り、生涯所得に直すと1600万円も減ってしまうということです。

 

試算にあたっては、就職前の学生である期間や出産・子育てで仕事から離れている期間、そして定年後で無収入となる期間も考慮して算入しています。平均年収315万円はいささか少なく見えるかもしれませんが、より実情に即したリアルな数字となっています。

 

子供の貧困の社会的インパクト 国の財政収入編

1人あたりでは、一生涯で600万円の損

1人の労働者は、一生涯のうちで国の財政にどの程度貢献することができるでしょうか?国の財政にプラスとなる収入のことを純財政収入といいます。純財政収入は、国に納める所得税と社会保険料(年金、医療、介護)を合わせた額から、医療や生活保護など社会保障の給付額を差し引いて求めることができます。

 

なお社会保険料については、会社員であれば企業が定められた割合を負担していますので、企業負担分も加算して計算します。

 

では、子供の貧困問題に改善が見られた場合の純財政収入について見てみましょう。給与から支払った所得税の合計(一生分)はおよそ900万円で、社会保険料の合計は約3600万円となります。社会保障給付は合わせて740万円ですので、給与と社会保険料を合わせた4500万円から差し引くと約3800万円で、これが1人分の純財政収入となります。

 

貧困対策をしなかった場合の純財政収入はどうでしょうか?所得税の合計が約780万円、社会保険料は約3160万円とそれぞれ減少します。所得税では120万円以上、社会保険料も450万円以上納付額の合計が減額となり、その分国の財政収入が減ってしまうことが分かります。

 

一方、医療や生活保護費などの社会保障給付が増大します。試算では一人当たり16万円の増加で、計756万円が支払われます。

 

以上から、貧困対策をそのままにした場合の純財政収入は約3200万円となります。つまり、子供の貧困問題を改善しなければ、一人がその生涯で国の財政に貢献できる金額が600万円以上減ってしまうということです。1年ごとの純財政収入が70万円ですので、一人当たりの納入額が毎年15万円程度減るということです。

 

将来の子供たちに一人でも多く、社会を財政的に支える担い手になってもらうためには、やはり現在の子供の貧困問題に目をつぶる訳にはいかないのです。

 

貧困生活を送る子供全体では、16兆円もの財政収入が消える

ところで、東京スカイツリー建設にかかった総事業費がいくらだったかご存知でしょうか?正解はおよそ650億円ですが、毎年それと同じ額が、子供の貧困問題をそのままにする結果失われることが分かっています。

 

これまで、現在15歳の「1人の子供」が一生涯で得る所得やその中から納める税金や社会保険料、受け取る社会保障給付金の額が国の財政に与える影響を見てきましたが、次は18万人いる「現在15歳の、貧困状態にあると言える子供たち」全体で合算していきます。子供の貧困問題がいかに大きな問題であるかが明らかになるはずです。

 

子供の貧困対策に効果が見られた場合の生涯所得は、18万人分の合計で約25兆5000億円になると試算されています。一方、貧困問題をそのままにしていると約22兆6000億円にとどまり、実に2兆9000億円もの減少となります。毎年約650億円の損、つまりはスカイツリーを1本立てられるだけの金額が失われていくのです。

 

これだけの所得が減るということは、国家の財政に与える影響も甚大なものとなります。子供の貧困問題が現状のままであれば、財政収入の合計は約5兆7000億円ですが、もし貧困対策がうまく進めば、約6兆8000億円まで財政収入を伸ばすことができます。

 

両者の差は約1兆1000億円と非常に大きな額となり、毎年約240億円の財政収入を失う危機に瀕していると言えます。

 

忘れてはいけないのは、貧困状態の子供は15歳だけではないということです。0歳〜14歳の子供たちの中にも同じ境遇にある子供は当然含まれているので、この部分を加えて0歳〜15歳の子供全体で再度集計を行ってみましょう。

 

所得で見た場合は42兆9000億円の損失、国の財政収入では15兆9000億円もの損失となります。2017年度の国家予算が約97兆円であることを考えると、いかに莫大な金額が子供の貧困に伴って失われるかが分かります。

 

また、GDPの約1割にあたる大きな額を失う可能性をはらんでいるとも言えます。GDPとは国内総生産のことで、日本の国力を数値化したものです。ちなみに2014年度の日本のGDPは約490兆円とされていましたが、国連の新しい基準を採用したことにより推計し直した値によれば同年のGDPは510兆円を超える上方修正となりました。

 

子供の貧困対策における子供の支援のための支出額は、まだまだ足りない

毎年約1兆円の所得が減り、失われる財政収入は約3500億円と推計されますが、貧困家庭に対する支援にかかる費用はどうなっているでしょうか?

 

児童扶養手当の支出額は約5000億円です。これは母子家庭・父子家庭に対して支給されるもので、国と地方自治体それぞれの支出額合計となります。

 

厚生労働省も子供の貧困対策に力を入れています。高校中退者を減らすための対策や、低所得の家庭を訪問して子供の学習支援や生活全般の相談に個別に対応するなど、各自治体の貧困家庭への支援策に対する補助金を上積みする予算を2016年に組んでいます。

 

とはいえ、これらにかかる金額は微々たるものなのが実情です。子供の貧困に対策を打たない場合、失われる所得は児童扶養手当の2倍に匹敵する額ですし、厚生労働省の上記の予算総額はわずか33億円です。子供の貧困をそのままにしてしまった場合の損失額を考えれば、焼け石に水であると言わざるを得ません。

 

子供・子育てなどに使われる支出を総称して「家族関係社会支出」といいます。配偶者や子供の扶養のために支払われる家族手当をはじめ、出産・育児休業手当や保育にかかる費用、幼稚園の教育費などが含まれており、これは貧困家庭だけではなく、すべての子供に対する支援額を意味しています。

 

我が国の家族関係社会支出の合計は、2011年度のOECD集計によれば6兆4000億円です。対GDP比を見ることにより、その国が子供・子育てにどのくらい力を入れているかの目安となりますが、日本は2014年度で1.34%です。この値はフランスやスウェーデンなど欧米諸国と比較すると非常に低い水準となっています。

 

子供の貧困による社会的な損失額の大きさを考えると、もっと子供のための支出額を増やすことにより子供の貧困対策の効果を上げていく重要性が見えてきます。まずは、子供の貧困問題を解消する取り組みが、将来の社会に対する投資であることを理解する必要があります。

 

例えば、貧困家庭の子供への教育支援は、将来の収入格差をまねく可能性が高い教育格差をなくしていく取り組みには欠かせません。しかし、こういった支援策は場所の確保、講師の採用と人件費負担、そして教材にかかる費用など様々な支出が見込まれる上、地道な取り組みが求められるため年数もかかります。

 

ですが支援の結果、子供の進学率・中退率が改善すれば、大人になった彼らは国の財政にとりプラスを生み出す存在になるわけです。表面的なコストばかりに目が行ってしまうと、将来日本社会に計り知れない損失をもたらすことになりかねません。

 

大学進学率が低いことが、社会的な損失の50%を招いている

子供の貧困問題が改善するための条件を今一度整理してみましょう。第一に、高校等への進学率が普通の家庭の子供レベルまで上がること、第二に、高校中退率も同様に低下すること、そして第三には大学進学率が22%上がることでした。これら3つの条件がそれぞれ社会の損失に与える影響を、内訳を見ながら考えてみます。

 

所得損失は42兆9000億円ですが、大学等進学率に由来する所得損失は20兆8000億円となっています。財政収入損失でも合計の15兆9000億円に対して7兆9000億円と、いずれも半分を占める推計となっています。大卒になると正規雇用のチャンスが拡大し高所得が見込めるため、社会の損失への影響が大きくなります。

 

高校への進学率と中退率が与える収入や財政への影響にも注目してみましょう。貧困家庭の子供の高校進学率の低さが招く所得損失は7兆3000億円、財政収入損失は2兆6000億円です。また、高校中退率の高さは、10兆7000億円の所得と3兆8000億円の財政収入を失わせています。高校中退率がいかに社会の財政にとって大きな損失であるかが分かります。

 

2015年4月に「生活困窮者自立支援法」が施行されました。金銭的に困窮し、生活保護の一歩手前の段階にある人に、早めに自治体に具体的な相談ができる窓口を設け、適切な助言や指導を行うことにより自立を促すのが目的です。

 

この中でも、子供に対する学習支援や保護者への進学助言が必須事業として位置づけられていますが、その重点は高校進学におかれています。

 

高校進学が生涯所得の大きなターニングポイントだという考えからですが、ここまでの推計を見る限り、高校中退率を改善することの重要性に疑いの余地はありません。

 

生活保護世帯の高校中退率は高く、せっかく入学しても約16%の子供たちが卒業することなく中退の道を選んでいます。高校を卒業した人と比べた場合、40歳時点で見た場合の男性の就業率で13.3%、仕事を持つ人に占める正社員の割合では実に16.1%もの開きが出ているなど、最終学歴が中卒か高卒かでは、その後の雇用や収入の安定に大きな差が生まれます。

 

やはり、高校へ進学できたからOKではなく、無事卒業するまでをきちんと見届けるべきだということです。

 

子供の貧困が財政に与える影響:都道府県別ワーストランキング

子供の貧困により社会が失う金額の地域差についても考えてみましょう。所得の損失を比較するにあたっては、世帯別の子供数の平均や所得水準など、地域差が大きい要素が集計に影響を与えてしまわないよう単純比較を避けることとします。

 

そこで、まず0歳から15歳の子供全員分に当たる所得損失42兆9000億円を、各都道府県の県内総生産(GDP)に占める割合で求め、それを元に比較していきます。

 

また財政収入面での損失を比較する場合は、「1人あたり◯◯円減少」といった金額表記の方がイメージしやすいので、こちらの表記方法を採っています。

 

そのように推計した都道府県別の子供の貧困に由来する社会的損失額の中で、所得の減少額が最も大きいのは沖縄県です。沖縄のGDP(県内総生産)の1.29%、金額にして490億円が、子供の貧困に手をつけずにいると将来失われてしまいます。

子供の貧困の社会的損失 ~都道府県別の所得減少額(対GDP

 

沖縄は元々、所得水準の平均が低い地域として知られており、児童扶養手当の2016年度予算を約24億円計上しています。この金額の約20倍にあたる所得額が、子供の貧困によって失われることを考えると、貧困解消は喫緊の課題なのがお分かりいただけるでしょう。

 

沖縄県の財政収入の減少額は全国8位で、子供一人あたり101万円です。財政収入が減ると、自治体は財源確保策を講じなければなりません。支出の削減だけでカバーしきれなければ増税に頼ることになり、暮らしに深刻な影響を与えるのは確実です。

子供の貧困の社会的損失 ~都道府県別の財政収入減少額(子供

 

財政収入の損失額ワースト1位は、子供一人あたり155万円で大阪府です。損失総額は、1296億円です。

 

大阪は、近い将来起こると言われている南海トラフ地震対策や新たなインフラ整備など、大都市として様々な大型投資を抱えています。2017年度当初予算において建設事業費予算として1709億円計上していますが、子供の貧困が解消されないままだと、その約75%にあたる財政収入が失われてしまうことになります。

 

大阪の所得減少額は全国4位で、大阪のGDPの0.94%、金額にして3465億円です。

 

所得の減少額ランキングの上位には他に、高知(0.97%)、奈良(0.95%)、北海道(0.83%)が名を連ねています。反対に、減少額が少ないのは、山形、富山、福井(ともに0.31%)、そして新潟(0.34%)が続きます。

 

財政収入の減少額ランキングの上位には他に、東京(146万円)、北海道、京都(ともに113万円)となっています。反対に、財政収入の減少額が少ないのは、山形(36万円)、福井(43万円)、岐阜(46万円)が続きます。

 

子供の貧困が与える社会的損失の中でも、財政収入に与えるインパクトは最大で4倍以上開くなど、地域間の格差が大きいことは注目に値します。従って、子供の貧困解消のための対策は地域の実情に即した、きめ細かいものが求められます。

 

日本の将来のために、子供の貧困対策は避けて通れない

子供の貧困をそのままにしておくと、将来の日本社会にとって大きな痛手となることがお分かりいただけたと思います。42兆9000億円の所得が消え、国の財政にとっても15兆9000億円の減収となります。

 

1年単位で見ると、所得は約1兆円、財政収入は約3500億円がそれぞれ失われる計算です。子供の支援や貧困対策も行われているものの、その支出額は莫大な損失額に見合っていません。

 

即効性がないからと言って、子供の貧困問題解消に向けた施策を打ち出していかなければ、必ずこの先大きな負担として私たち一人ひとりが抱えることとなり、日本社会の成長にとって足枷となります。

 

ですが同時に、長期的に見ると大きな効果が期待できる投資であり、しかも社会全体を潤すことができるものでもあります。

 

貧困家庭に生まれてしまうと進学が難しく、安定した職に就けず収入にも恵まれません。その結果、自分の子供にも同じような人生を歩ませてしまうという、この負の連鎖を止めない限り、日本の未来は真っ暗と言わざるを得ません。

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