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人間特有の行動、「まね」

まね

赤ちゃんはよくお母さんやお父さんの行為や態度、口癖といったものをまねます。こうした「まね」という行為は人間に特有なもので、他者との関係を築くための最も基礎的な要素となっています。

 

人間はまねをする動物である

赤ちゃんは生後2ヶ月ぐらいまでの間、大人の表情などをまねすることがあります。こうした行為は初期模倣と呼ばれる生まれたばかりの子供に特有の原始的行動です。人間の赤ちゃん以外にも、チンパンジーなどにも見られることがあります。生まれて間もないチンパンジーの赤ちゃんに舌を出してみせると、同じように舌を出したりすることがあるのです。

 

こうした初期模倣は生後2ヶ月ぐらい続き、その後は消えてしまいます。しかし人間の赤ちゃんの場合、生後8ヶ月目ぐらいになると自分からより積極的な形で周囲の人のまねをするようになります。

 

赤ちゃんはあえて周囲の人のまねをしてみて楽しんでいるのですが、こうした自主的かつ積極的なまねは他の生物には見られない人間特有の行為です。人間はこうした高度なまねを繰り返すことによってさまざまなことを学んでいくわけです。

 

チンパンジーの子どもは初期模倣こそあれ、それが消えた後はこうした主体的なまねを行いません。しつこく教えればそうした行為を覚えることはありますが、その場合でも自分から進んでまねをしようとはせず、またまねする速度は遅く熱心には行わないのです。

 

その他に人間に特有な行為として、赤ちゃんや子どもなど他人に自分のまねをすることを奨める、というものがあります。

 

例えば石で木の実を割るという行為があるとして、そこに子どもが興味を覚えて近づいてきた場合、人間ならばお手本を見せ、木の実と石を手渡して自分でやってみるように促すと思います。しかしチンパンジーの親が子どもにそういった行動を取ることはありません。

 

つまり、人間は積極的にまねをする動物というだけでなく、積極的にまねすることを奨める動物でもあるというわけです。積極的にまねをせず、また真似させようとしない野生のチンパンジーの場合、木の実を石で割るという行為を覚えるまでに5年はかかるといいます。この点に人間と他の動物との差が現れると言っていいでしょう。

 

まねという行動の軸には他者への共感がある

人間に特有のまねという行動はどのような仕組みで発生しているのでしょうか。それを明らかにする鍵になるのが「ミラーニューロン」です。ミラーニューロンはイタリアのリゾラッティという神経生理学者がサルの脳から見つけた神経細胞で、人間の脳のなかにも見られます。

 

ミラーニューロンは言語をつかさどっているブローカ野という部位に存在しています。自分の体は動かしていないにも関わらず、他の人が運動しているのを見た時に、あたかもそれと同じ動きをしているように反応を示します。その様子が鏡のようだということでこう名付けられました。

 

人間の持つまねの能力は、他の人が行っている行動を自分の体で捉えている状態で、その人に対して無意識で共鳴している状態だと考えられています。

 

他人の行為をまねする際に大事になる機能として予測することというものがあります。実験対象となる人物に人工的に作成した言語について文法上のルールを教え、その言語の活用形を繰り返させると、対象となった人はだんだんとそのルールを覚えて次の活用形を予測して発音するようになるといいます。

 

こういう時の脳をfMRI(機能的磁気共鳴画像装置)を使ってモニタリングすると、ミラーニューロンのあるブローカ野が活発に反応しており、このことから他人の意図をくんだり予測しようとする際にはミラーニューロンが活動しているらしいことが分かります。

 

リゾラッティは、ミラーニューロンを意識せず自動的に他の人に共感を示す神経細胞であるとしています。人間は他の人に共感を示すことのできるミラーニューロンを発達させ、それを軸にして人間特有の高度な意思疎通や言語を理解する力を発展させてきたのではないかと考えられるのです。

 

まねには人間関係と動機付けが大事

最近では他人との意思疎通をはかったり、他人と関係を構築するのがうまくできない子どもが増加してきています。こうしたことから、その素地となる「まね」が脚光を浴びつつあります。

 

人間が「まね」の力を発揮するためには、広範な人間関係と動機付けが重要になってきます。愛着や信頼感を持っている相手でなければまねの対象にしようとは思わないからです。

 

赤ちゃんが自分以外の他者として最初に関係を築くのは言うまでもなく母親という存在です。そして、母親との関係を築いた後は兄妹や友だちとの信頼関係を築くようになる、といった具合に、さまざまなお手本が身の回りにあることが理想的なのです。

 

そうすることで、例えば友だちに負けたくない、といったような競争心や向上心であったり、父親がしている仕事にあこがれる、といった共同意識といったものを培い始めます。自分の目的にあわせて動機を探り、まねする相手を決めるようになるのです。

 

こうしたまねの行為は遊びや他者とのコミュニケーションをはかる中で自然に身についていきます。おままごとのような見立て遊びやごっこ遊びなどは重要なファクターで、場合や立場を想定する創造力や、想定を元にした行動を予想する力といったものを育てていくことになります

 

人間が自分の体を認識するのはまだ母親のお腹の中にいるときだとされています。これがまねの基礎になるというのは重要な視点です。まねのおおもとはこうした胎児期に求められるのかもしれません。

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