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子供たちのピロリ菌感染を防ごう!

ピロリ菌

ピロリ菌という細菌をご存じでしょうか。人間の胃の中に生息して炎症を引き起こす細菌で、放っておくと胃がんを引き起こしてしまうこともある怖い細菌です。子供がピロリ菌に感染しないようにするためにはどうすればいいか見てみましょう。

 

ピロリ菌は胃がんをも引き起こす菌

40年ほど前までは、人間の胃の中には細菌が生息できないと考えられていました。人間の胃からは塩酸が分泌されているため、細菌が生き延びられる環境だとは思われていなかったためです。

 

しかし、1982年にオーストラリアのウォーレンとマーシャルという研究者が、胃の中の塩酸をアルカリ性の物質で中和しながら胃の粘膜に住み着く細菌を発見しました。これがヘリコバクター・ピロリ、俗にピロリ菌と呼ばれるものです。

 

ピロリ菌は子供が小さなうちに胃の中に入り込み、胃の粘膜部分に住み着きます。何らかの形で粘膜を傷つける作用を持っているため、粘膜に定着して増えてしまうと胃に炎症を引き起こしてしまい、最悪の場合胃がんの原因となります。

 

ピロリ菌は体調3~4ミクロン、幅0.5ミクロンほどの大きさの菌で運動するための鞭毛を有しています(1ミクロン=0.001ミリメートル)。ピロリ菌に対する感染率は衛生環境によって大きく左右されます。このため開発途上国は高感染率となる傾向があり、逆に先進国では低い傾向にあります。

ピロリ菌

 

日本でのピロリ菌の感染率を見ると、まだインフラの整備が未熟であった頃に子供時代を送った中高年は途上国レベルの感染率を示しており、最近の若者世代は先進国レベルの感染率を示します。これから誕生する子供たちは、さらに感染率が下がっていくと考えられています。

日本人の年代別ピロリ菌感染率

 

とはいえ、もともと日本人は胃がんの多い国民ですので、ピロリ菌に感染することだけでもなくしていくことは重要になってきます。

 

ピロリ菌はどうやって感染するのか?

ピロリ菌は、多くの場合子供の頃に感染するものと考えられています。特に2歳ぐらいまでの時期に感染する場合が多いようですが、最近の子供たちは他の疾病を治療するために抗生物質を投与されることが多くなっているため、感染しても自然に除菌されているような場合もあるようです。

 

ピロリ菌の感染ルートはさまざまです。どの時期に子供時代を過ごしたのか、あるいはどの地域に住んでいたのか、生活習慣などに左右されます。とはいえ、胃の中に住み着く菌ですので、経口感染によるのは間違いありません。

 

衛生面で問題がある社会の場合、井戸水や川の水を飲むことによって感染することが多いのですが、日本ではこうした感染ルートは考えづらいと言えるでしょう。このため、子供への感染ルートとして一番考えられるのは、家族間での感染であったり、保育園・幼稚園や学校などで集団生活を送る際の感染です。

 

特に、ピロリ菌を持っている大人が、それを知らずに離乳食などを赤ちゃんに口移しして食べさせるようなことで、感染が起きているのではないかと考えられています。

 

生後8ヶ月の赤ちゃんに関してピロリ菌感染の有無を調べた調査では、母親からの口移しをしたことがある赤ちゃんでは全体の10.4%がピロリ菌に感染していました。一方で、口移しをしたことのない赤ちゃんでは2.8%に留まり、口移しをすることがピロリ菌感染の一端になっていることが見えてきます。

 

とはいえ、口移しをしていないのに赤ちゃんがピロリ菌に感染しているような事例も数多く出てきているため、口移しがメインの感染ルートであるとまでは言い切ることができないのもまた事実です。

 

成人したらピロリ菌の検査・除菌も選択肢の一つ

親が子供に口移しをするというのは、確かにピロリ菌の感染を防止するために注意を払った方がいい行動かもしれません。しかし、親が子供に愛情を注ぎ、それによって良い効果があるということも考えれば、口移しの是非について論じるよりも、子供が成長して親になる前の時期、例えば20歳になったらピロリ菌の有無を調べて除菌を行った方が効果があると言えます。

 

口移しが原因であるかどうかはともかく、家庭内での感染が主要な感染ルートの1つであるのは間違いないとされています。このため、祖父母がピロリ菌の感染者の場合、その子供である親世代、そして赤ちゃんへと世代を通じて連鎖的にピロリ菌に感染していく場合が多く見られます。

 

こうしたルートで感染することが多い以上、成人した時など子供が親になる前にピロリ菌の除菌を行うことには一定の意味があります。

 

その他にも、20歳前後で除菌することは、ピロリ菌に感染している本人にとってもメリットがあります。ピロリ菌に感染すると、早い場合20歳になる前に萎縮性胃炎を起こすような場合があります。萎縮性胃炎は胃がんに発展しかねないので、胃炎をおこしピロリ菌感染が疑われるような場合には、15歳~20歳ぐらいに検査・除菌を行うことには大きな意味があるのです。

※ピロリ菌を除菌すると、胃がんの発症率が1/3に抑制されるという報告があります。

 

ピロリ菌を除菌する場合、2種類の抗生物質を含む薬を合わせて3種類、1週間飲むという形で行われます。ただし、胃に潰瘍や炎症があるわけではなく、将来の胃がん予防ということでピロリ菌の除菌を行う場合、健康保険が適用されないという問題もあります。

 

現在ピロリ菌感染の検査・治療に保険適用されるのは、以下に該当する患者でピロリ菌感染が疑われる場合のみです。

・胃潰瘍、十二指腸潰瘍

・胃MALTリンパ腫

・特発性血小板減少性紫斑病

・早期胃癌に対する内視鏡的治療後

・慢性胃炎

 

つまり、特に病気が発症しておらず、ピロリ菌に感染しているかもしれないので検査・除菌したいという場合などは、保険は適用されません。

 

上記の年代別ピロリ菌感染率のグラフの通り、年代によっては結構な割合でピロリ菌に感染していると考えられますが、その全員が保険適用で検査・除菌できるというわけではありません。

 

ピロリ菌への感染があっても胃がんになりやすいケースとそうでないケースがあることも分かってきているため、胃がんになりやすいケースを判別できるようになることが、まずは大事ではないかという専門家の意見もあります。

 

ピロリ菌の検査・除菌の費用

ピロリ菌の検査・除菌は、以下の流れで行います。

1. ピロリ菌感染の検査(診察、検査)

2. 薬を1週間飲んで除菌治療(診察、処方)

3. 除菌確認の検査(診察、検査)

 

除菌に失敗した場合は、薬を変えて1週間服用します(再除菌)。1回目の除菌で成功率は7~8割、再除菌で8~9割となっています。再除菌も失敗した場合は、薬を変えて再々除菌(3次除菌)を行うか、ピロリ菌の専門家を紹介してもらうことになります。むろん除菌に失敗すれば、診察・検査・薬代が増えますので、その分費用もかさんできます。

 

ピロリ菌の検査方法は、以下の6種類があります。

①迅速ウレアーゼ試験・・・胃の粘膜を試薬と反応させ色の変化で判定する

②鏡検法・・・胃の粘膜を顕微鏡で観察して判定する

③培養法・・・胃の粘膜を培養してピロリ菌の増加で判定する

④尿素呼気試験・・・検査薬を飲み、吐いた息で判定する

⑤抗体測定法・・・血中や尿中のピロリ菌の抗体の有無で判定する

⑥便中抗原測定法・・・糞便中のピロリ菌の抗原の有無で判定する

 

①~③の検査は内視鏡(胃カメラ)を使用します。各検査それぞれ特徴があり、どの検査が良い/悪いとは一概に言えず、単独で最適な検査がないため6種類全てが採用されています。そのため、複数の検査を組み合わせて行うことを推奨している病院もあります。

 

各検査の精度は以下の通りです。

検査方法 精度
感度 特異度
迅速ウレアーゼ試験
 除菌前
 除菌後
 
85~95%
61~100%
 
95~100%
91~100%
鏡検法
 HE染色
 ギムザ染色
 
47~99%
87~96%
 
72~100%
79~99%
培養法 68~98% 100%
尿素呼気試験
 除菌前
 除菌後
 
95~98%
95%
 
95~97%
95%
抗体測定法 91~100% 51~91%
便中抗原測定法
 除菌前
 除菌後
 
96%
95%
 
97%
97%

(出典:日本ヘリコバクター学会誌「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断と治療」)

 

感度とは、“ピロリ菌に感染している場合に、感染している”という結果が出る確率です。
特異度とは、“ピロリ菌に感染していない場合に、感染していない”という結果が出る確率です。
感度、特異度のバランスが取れているのは、尿素呼気試験、便中抗原測定法と考えられます。

 

ピロリ菌の検査・除菌の費用はいくらぐらいなのか、保険適用されない全額自己負担(自費診療)の場合について見てみましょう。検査方法が複数あるため、「尿素呼気試験(感染判断)→薬→尿素呼気試験(除菌判断)」の場合について、いくつか列挙します。

 

■病院A(自費診療の場合)

1. 尿素呼気試験(診察、検査):11,880円

2. 薬(診察、処方):9,720円

3. 尿素呼気試験(診察、検査):9,720円

計:31,320円

 

■病院B(自費診療の場合)

1. 尿素呼気試験(診察、検査):8,000円

2. 薬(診察、処方):15,000円

3. 尿素呼気試験(診察、検査):7,000円

計:30,000円

 

■病院C(自費診療の場合)

1. 尿素呼気試験(診察、検査):6,950円

2. 薬(診察、処方):8,850円

3. 尿素呼気試験(診察、検査):6,950円

計:22,750円

 

いくつか調べてみた結果、病院によってばらつきがありますが、2万~3万円のところが多いようです。(上記の通り、「尿素呼気試験(感染判断)→薬→尿素呼気試験(除菌判断)」の場合。他の検査方法を組み合わせたり、除菌に失敗した場合などは更に費用がかかります)

 

※検査設備の有無などで行われる検査は病院によって異なり、選択できない検査もあります。また、検査・除菌の費用に関しては、病院によってばらつきがありますので、検査を試みる場合は必ず事前確認してください。

 

ピロリ菌はまったくの悪役なのか?

ピロリ菌は胃の粘膜を荒らし、それが進行すると胃がんや潰瘍を引き起こしかねない菌ではありますが、はたしてそういった悪い側面だけを持っている菌なのかということについては、専門家の間でも意見が分かれています。

 

ピロリ菌が胃の中に生息していることにより、日本人の多くが胃酸分泌が抑制されているという考えがあります。こういった人のピロリ菌を除菌した結果、胃酸の分泌が増えてしまって逆流性食道炎や食道腺がんが増加するのではないかという考え方もあるのです。こうしたテーマについては、欧米においても議論がなされています。

 

しかし、今のところ日本人の場合では、ピロリ菌を除菌をせずに胃がんを引き起こす確率の方が、除菌して逆流性食道炎や食道がんを引き起こす確率よりもはるかに高いという考え方が主流です。

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