子どもたちの土踏まずがなくなる?
足の裏に土踏まずという部分がありますが、これは人間が持っている独特の特徴の一つです。最近この土踏まずに問題を持つ子どもが増えてきています。ここではそうした問題について見ていきましょう。
生活様式が変わることで土踏まずがなくなる
人間は他の動物とは違って二本の足で直立して歩きます。しっかりと直立しているためには、足の親指・小指・かかとの3カ所で体重をきちんと支えることが必要で、そのために発達してきたのが土踏まずというくぼみです。
2004年に行われた調査では、五歳児を調査したところこの土踏まずがきちんと形作られていた子どもの割合が約46%であることが分かりました。つまり半数以上の子どもの土踏まずに問題があることになります。1980年の調査では75%程度ですので、土踏まずに問題がある子どもが24年で実に3割も増加した計算になります。現在は更に増えているのではないかと考えられます。
こうした変化については、子どもの生活様式の変化が原因ではないかという説が出ています。子どもたちの遊び方が昔とさま変わりし、屋外でよく遊んでいた子どもたちが屋内で遊ぶことが多くなったからではないかというのです。
もともと土踏まずは足の指を使うことによって発達が促されます。足の指が使われて屈伸が起きると、足首の下にある足根骨という骨がその動きに連動します。足根骨はこのとき上方向に動き、そうすることでその下にある土踏まずに当たる部分も引っ張り上げられます。これによって土踏まずが形成されていくのです。
子どもの生活様式が変化し外で遊ぶよりもゲームなどをして遊ぶことが増えた結果、足の指に力を入れて曲げ伸ばしする機会が減っているということについてはうなずかれる方も多いのではないでしょうか。そうしたことが積み重なり、浮き指(足の指が地面に付かない状態)であったり、足の指を上手に使えなかったり、土踏まずがない子どもが増えてきていると考えられています。
足裏の変形による背骨の歪み
教育の現場でも、こうした足裏の変形による影響が実感されています。幼稚園・小学校の教師たちから、外で子どもが遊ぶ時に転びやすいとか、遠足などで長く歩くと疲れやすいといった指摘が出るようになってきているのです。
飲み物の瓶や缶を見てみて下さい。床に接する底面が真っ平らにはなっていないと思います。これは、底面が真っ平らだとちょっと揺らしただけですぐに倒れてしまうためです。それを防ぐために、瓶や缶には中央にドーム状のへこみがつけられているのです。これは人間にも当てはまります。土踏まずがきちんと形成されていると、足の親指・小指・かかとの三点できちんと自分の体重を支えることができるようになります。
また、土踏まずによって足裏に隙間ができることにより、衝撃を受け止めるクッションの機能が生まれます。このため、土踏まずがない子どもはバランスが悪く、しかも疲れやすい特徴を持つようになるのです。
土踏まずが発達しないのは足の指をきちんと使っていないことが原因ですが、足の指がきちんと使われていないと外反母趾になったりする危険があるだけでなく、足裏の変形からさまざまな問題が生じる危険があります。
足裏が変形して左と右の足の大きさが違ってくると、それが原因となって左右の脚の長さも等しくなくなってきます。そうなると骨盤のゆがみが生じ、またそこからまっすぐ伸びるはずの背骨にもゆがみが生じてきます。背骨のゆがみは姿勢の乱れのみならず腰痛、肩こり、膝の痛みといったものを招いてしまいます。
背骨が歪むことによって起きてくる問題はそれだけには留まりません。背骨につながっている肋骨にも歪みが生じます。肋骨は呼吸をするときに上や下に動く部分ですが、それが歪むわけですから呼吸も乱れ、浅くなってしまいます。
呼吸が浅くなれば疲れやすく、また疲れがなかなかとれない体になってしまいます。そればかりか、いらつきや情緒不安定といった症状にさえつながりかねないのです。
土踏まずをきちんと作るためには
体のバランスを保つためにも、また体の各所に歪みが生じないためにも子どもの土踏まずがきちんとできるようにすることは大事ですが、どのようにして土踏まずを発達させてあげればいいのでしょうか。
土踏まずをきちんと作るためには、子どもが幼いころから運動させたり遊びを通じて足の指を使うように促してあげることが必要です。土踏まずは指をよく使うことによってできあがっていくものだからです。
足の指をよく使い指が屈伸されると、その動きに連動する足根骨が上方向に動き、その下にある部分が引っ張り上げらて土踏まずが形成されていきます。この足根骨という骨は5歳~6歳には形が決まってきますので、この時期までにきちんと足の指を使ったかどうかが大事になってくるのです。
きちんとした土踏まずを持つ健康な足を作るためには、かけっこをしたり踏ん張ったりするような遊び、例えば鬼ごっこやドッジボールといったものをして毎日遊んでいるのが理想的です。
両足の指を同時に曲げ伸ばし、ずるようにちょっとずつ前に進む芋虫歩きや、足の指を立てた状態で正座するように座り、そのままゆっくり5つ数えながら後ろを振り返る、という簡単な運動をしてみてもいいでしょう。
こうした運動は割合すぐに効果が出ます。すぐに土踏まずが深くなるので、運動後にあぐらをかいたり足を組んだときにすぐに分かります。土踏まずが一時的にせよ深くなることで両足の長さがそろいますので、どちらの足を上にして組んでも大丈夫になるからです。
また靴についても、足の指をきちんと曲げることができ、足にぴったり合った子供靴を使わせてあげるといいでしょう。足を着地させるときにはかかとから、そして足の指で蹴り出すような歩き方がきちんとできるような靴を選んであげればいいのです。
最近の子どもの足は土踏まずが低く、また足が全体的に細長くなってしまっている場合が多いのですが、そういう足の子どもに対して足の長さに合わせた靴選びをすると、靴の幅が広すぎて足にぴったりしない靴を選ぶことになってしまいます。
靴が足に合っていないと、ちょうどスリッパのようにぺたぺたと歩くようになってしまいます。靴が脱げないように足の指を丸くして足裏全体でべとっと着地してしまうようになるのです。
最近では靴底がきちんと曲がることで指を曲げやすいものや、足の甲を固定できて脱げにくく工夫してあるような子供靴も開発されていますから、そうしたものを探してみて下さい。
また、昔から日本でよく使われてきた草履も土踏まず形成のためにはいい履き物です。草履を履いて歩くと歩くときに必ず足の指が曲げ伸ばしされるからです。
幼稚園で半年の間草履を使わせたところ、土踏まずが正しく作られた割合が平均で27%も増えたという実験があります。また、外反母趾を呈する子どもの割合も50%程度からなんと2%にまで減ったそうです。
ミュールやハイヒールといったおしゃれ靴を子どもの頃から履かせるのは土踏まずの形成という観点からは考えものです。子どもの健康を考えれば、履きやすい運動靴が一番なのです。