高校受験が無い中高一貫校には、数多くのメリットがある
中高一貫校は、6年間という長い時間をかけて、一貫した中等教育が行えるという特徴があります。これは、中高一貫校に高校受験が無いからこそ出来る事です。受験勉強に時間を取られない事、受験に影響する内申点に気を取られない事で生まれる様々なメリットは、思春期の成長にも、これからの大学受験にも役立ちます。
今回はこのような、高校受験の無い中高一貫校だから行える教育とそのメリットについて、詳しく見ていきたいと思います。
高校受験が無い中高一貫校だから、出来る授業がある!
高校受験が無い事は、中高一貫校の一番の魅力と言えます。これは、普通の中学3年生のように必死に受験勉強をする必要が無いから楽が出来るという意味ではなく、受験勉強ではない、もっと大切な勉強に時間をかけられるという事です。
高校受験が無いので、それに響くテストの点数も、中学生のうちはそれほど気にする必要もありません。だから、一つ一つの授業を「テストの為の授業」ではなく、自分で考える時間や、とことん調べる時間をたっぷりと取った「学力を伸ばす為の授業」として行っていく事が出来ます。
例えば数学では、図形の面積をただ求めるだけでなく、その求め方が何通りあるかをクラスでじっくり話し合う時間を取れるなど、より多くの発見を得られます。また理科では、実験のレポートをまとめる時間を多く取れる分、より深い考察が出来るでしょう。
さらに社会では、実際に裁判所や工場などに出掛けてみる事も出来ますし、自分で調査した国や土地についてみんなの前で発表し話し合うというような、プレゼンテーションやディスカッションの場を多く設ける事も出来ます。
また、「超スロー・リーディング」というものをご存知でしょうか?一冊の本を時間をかけてゆっくり読むというもので、灘中学の国語の授業で実際行われていた事で有名になりました。
この授業では、『銀の匙』という200ページ程度の文庫本を教材として扱い、中学3年間をかけて読んでいきます。本の中に駄菓子屋が出てくれば実際に駄菓子を生徒達と食べてみたり、凧揚げが出てくれば凧を手作りしてみたりと、時に本を閉じて脱線したり追体験したりしながら、深く掘り下げながら読み進めます。
このような授業が出来るのも、高校受験に時間を取られない中高一貫校だからであり、まさに「本当のゆとり教育」であると言えるでしょう。中学生のうちに時間を惜しまずしっかりと学力の基盤を作っておけるから、高校生になってさらに伸びる学力を、その基盤の上にどっしり構築していけるのです。
「中高一貫校に高い大学進学実績を残している学校が多いのは、中学生のうちに高校の履修内容まで先取り学習して、大学受験対策の時間を沢山取れるからだろう」と言われる事があります。しかし実際は、「高校受験が無いからこそ行えるゆとり教育の成果が、大学合格への高い学力につながっている」と言うのが正しいのです。
高校受験が無い中高一貫校だから、思春期に人生の基礎をしっかり作れる!
思春期を高校受験に邪魔されないという事も、中高一貫校の大きなメリットです。
中学生・高校生の子供は、ちょうど思春期にあたります。この時期は人生で最も多感な時期であると共に、今後の人生に大きな影響を与える非常に重要な時期でもあります。
中でも14~15歳頃に迎える反抗期は、大人に反抗しながら様々な葛藤を味わう中で、自分の価値観や人生観を見出す、人生の基礎作りの時期です。
多くの人との出会いや、様々な経験から得られる感動や失敗を通して、より広い視野で自分を見つめ直し、自分らしさを発見していく必要があります。このようにして精神的自立を果たし、子供は大人へと成長していきます。
ですが最近、若者に対して「自分らしさを出せない」とか「意欲が無い」「いつまでも子供のまま」などという批判的な声が聞かれる事が多いと思います。
実はこれには、子供達が思春期の精神的な成長の過程をしっかり踏めていない事が関係していると考えられています。その原因の背景にあるのは、反抗期と高校受験が重なってしまう現在の日本の教育制度です。
この教育制度によって子供達は、「本当は外に出てたくさん冒険したいけど、受験勉強があるから机に向かっていないといけない」、「本当は思い切り先生や親に反抗したいけど、内申書が気になるから抑えなくちゃ」という状況にさせられ、健全な思春期を過ごせなくなっています。反抗期に高校受験がある事は、日本の教育制度の大きな難点なのです。
高校受験が無い中高一貫校は、思春期の子を持つ親にとっても魅力的
反抗期の高校受験は、親にとっても大変な事です。我が子の将来に関わる高校受験を前に、親としては進路について子供とちゃんと話し合って、助言を与えたり支えになったりしたいと思いますが、反抗期ではそれもままなりません。親の話など全く聞かず、助言しても強く突っぱねられてしまう事もあるでしょう。
こうやって親との距離を取ったり、反発したりする事で親離れをしていくのが反抗期なのだと、心の中で分かってはいても、高校受験が絡んでいては落ち着いて対処するのも難しくなってしまいます。また子供本人も、反抗期で勉強に身が入らず、本来の力を発揮出来ないまま受験に臨む事になる場合もあるでしょう。
このようなリスクや不安を考えると、高校受験の無い中高一貫校が、子供達の成長や進学にとってどれ程好ましい環境であるか、よく分かると思います。
高校受験が無い中高一貫校だから、内申点や入試制度の変更に惑わされない!
2002年度から、それまで相対評価だった内申点が、絶対評価に切り替わりました。相対評価とは、学年やクラスの順位に応じて成績を決める方法で、5段階評価のうち5は7%、4は24%という具合に、それぞれ人数が割り振られていました。
この方法では、例えば90点が取れていても、他が100点なら1がつけられてしまう可能性もあり、学力の高い中学校の生徒ほど不利になります。また学年内の順位争いが過熱してしまったり、学校間の学力の差には対応出来なかったり等の懸念もありました。
対して絶対評価は、5段階それぞれに人数制限が無く、観点別に定められた目標に対する個人の到達度を評価します。全員100点なら、全員5も有り得ます。
しかし、絶対評価であっても、内申点のつけ方としては完璧と言えないのが現状です。教師の評価が甘ければ内申点は上がるし厳しければ下がるというような、教師の主観による差が、どうしても生じてしまう為です。
また、内申点には基本的に「知識・理解」、「思考・判断」、「技能・表現」、「関心・意欲・態度」の4つの観点がありますが、中でも関心・意欲・態度については、教師の主観的な判断による部分が特に大きいと指摘されています。
確かに、大人しい生徒の心の内で溢れている意欲を見抜ける教師は少ないでしょうし、問題行動を頻繁に起こす生徒の反抗的な態度を、完全に無視して成績をつけるのも、教師としては難しいかもしれません。
教師と上手く関わる事が出来、気に入られるような生徒ならいいですが、そうでない大半の生徒にとっては、教師の主観が入り込む絶対評価では内申点が上がらないという不安があります。そこで思い至るのが、中高一貫校という選択肢です。中学校で内申点が取れず、高校受験で不利になると考える親子が中学受験に踏み出すケースは、珍しくないのです。
また東京都では2016年度から、これまで学校独自に定めていた、都立高校入試における学力検査と内申点の割合が、7:3に変更されています。同時に、実技系科目である美術、音楽、体育、技術・家庭の比重が増し、以前は1.3倍としていた評定が、2倍されるようになりました。
主要5科目だけでなく、実技系科目も加えた全9教科をパランス良くこなせる生徒が、一気に有利になったのです。
実技系科目は、得意不得意が顕著に表れる教科と言えます。主要5科目の成績は抜群に良いのに、苦手な実技系科目の成績が受験で足を引っ張ってしまう生徒も少なくないはずです。このような悩みのある受験生も、やはり中高一貫校を選択肢に挙げます。高校受験の無い中高一貫校であれば、度々実行される入試制度の改定に、惑わされる事もありません。
そもそも内申点は必要無い?!入試で内申点を考慮しなかった高校が明らかにした衝撃的事実
現在、公立中学での学力評価及び公立高校入試において、当たり前のように判断材料として使われている内申点ですが、大学進学においては、その良し悪しが必ずしも影響するとは言えません。それを証明する事例となったのが、堀川の奇跡です。
1999年、京都の京都市立堀川高校は、知的探究心を育む教育を目指し、大規模な改革を行いました。この時の様々な改革の中で、内申点を入試の合否判断に用いないといった内容も決められました。結果は大成功で、この数年後には堀川高校の国公立大学合格者数が、改革前の30倍にまで増えているのです。
他にも様々な理由が折り重なって起こった奇跡ではありますが、内申点を入試で考慮する必要性を否定するようなこの事実は、公教育にとって衝撃的なものでした。大学入試で力を発揮できる能力と内申点は関係ないという事を、堀川の奇跡は示唆しました。
高校入試制度の変更に惑わされるのは受験生だけじゃない!公立高校にも及ぼす影響とは
常に議論のある公立高校の入試制度ですが、その頻繁な改定は、本来好ましい事とは言えません。より適切な入試制度にする為に行われる改定ではあるのですが、改定直後はどうしても選抜の精度が乱れます。
改定により、有利・不利になる部分を考慮して志望校を変更する受験生も相次ぐので、倍率の大きな変動が予想されます。
そうなると合否予想が難しくなり、不安や混乱を避ける為に「公立は辞めて、私立を受験しよう」と考える受験生が増えてきます。教育熱心な家庭ほどこの傾向は強く、優秀な子供が私立へ流れる為、公立高校の大学進学実績が落ちていきます。
都道府県別公立高校の東大合格者数推移に関する調査では、神奈川県がここ20年程、低推移を続けている事が分かっています。神奈川県は、入試制度を頻繁に改定する事で知られています。それに対し愛知県は、1989年以降、大きな入試制度の改定は行っていません。愛知県の東大合格者数は、1990年代から現在まで、ずっと多い状態を維持しています。
つまり、高校入試制度の頻繁な改定が、その自治体の高校の大学進学実績を低下させているという事が言えるのです。
高校受験が無い中高一貫校は、新しい大学入試に強い!
詰め込み教育と呼ばれるような日本の知識偏重型教育が批判されるようになったのは、最近の話ではありません。学校教育法では学力の三要素として、基礎的な知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度が挙げられていますが、大学入試においても、知識・技能の部分だけが重視されているような部分が指摘されてきました。
これを改めるべく、現在大学入試改革の議論が行われており、2020年以降、新たな大学入試が導入される予定です。具体的には、思考力・判断力・表現力をより重視する入試になります。
国公立大学の二次試験でも、調査書や活動報告書、資格・検定及び各種大会の成績といった書類審査や、面接、プレゼンテーション、集団討論などを順次導入する方針です。さらにAO入試・推薦入試枠の拡大も進められており、2016年からは、東大と京大が推薦入試を取り入れ始めています。
このように多様な方法の入試に変えていく事で、学力の三要素を総合的に評価出来るようになると同時に、ペーパーテストだけでは測りきれない、個々の能力の発掘が可能になります。
大学入試が変われば、受験生の対策も変えていく必要があります。今回の改革が、これまでの知識偏重型教育を改める為のものであるという点からも、短期間で一気に知識を頭に入れたり、暗記したりという対策では通用しません。
普段の学校生活の中でコツコツと培ってきた学力や、様々な活動を通して積み重ねてきた経験や実績が、評価対象となるのです。
ですがこれらを、高校生になって受験を意識し出してから身に付けようと思っても、まず無理と言えるでしょう。なぜなら新しい入試で求められている学力は、時間をかけなければ養われないものばかりだからです。
その点、中高一貫校には6年間という時間があります。前述の通り高校受験が無いので、中学生のうちから時間をかけて丁寧に学力を身に付ける事はもちろん、ボランティア活動をしてみたり、海外研修に行ったりして様々な経験を積む事や、各種大会や試合などに十分に力を注いで結果を残す事も出来ます。
つまり中高一貫校で過ごす毎日が、受験対策になっていると言っても過言ではないのです。
欧米式の大学入試になって分かる、中高一貫校の実力
今回の大学入試改革では、進学経路の最終段階である大学の入試をまずは変えて、徐々に初等教育~中等教育の学力観も変えていこうという意図があるので、現時点ではまだ過渡期です。そして、この改革は主に欧米のやり方を参考に進められています。
ですから大学入試改革が実行されてしばらくは、日本独自の中等教育を受けてきた子供達が、欧米式の大学入試を受けるという形になります。日本独自とはいわゆる6・3・3制の、中学・高校で中等教育が分断されている教育制度の事です。
その為今後は、中等教育も欧米式に揃えていく必要があります。欧米の中等教育は、中高一貫教育が一般的なので、日本の公立中学・高校を中高一貫校化していく流れが、本来正しいはずです。
しかし日本が今推進しているのは、中高一貫校化ではなく、小中一貫校化です。中一ギャップ解消の為と銘打ってはいますが、実際は日本の義務教育が小・中学校期間であり、高校が非義務教育であるという組織上の都合が優先されています。
そもそも中一ギャップは、この頃の子供の発達上、ちょうど思春期に入り脳の使い方が変わってくる時期なので、あって当然の事です。発達心理学的にも教育学的にも、初等教育と中等教育の接続のし易さより、中等教育の連続性の方が重要視されるべきなのです。
大学入試を欧米化しても、役所都合により中等教育の連続性が薄められてしまえば、逆に世界とかけ離れていく一方です。結局日本独自の教育制度のままであり、世界のスタンダードに乗る事が出来ません。
そして過渡期の今、欧米化された大学入試においては、少数派である中高一貫校の方が有利になるのは言うまでもないでしょう。それを「大学入試改革の失策」ではなく、「中高一貫校の本領発揮」として捉えられる教育観を持ちたいものです。
更新日:2023/05/31|公開日:2018/05/26|タグ:中高一貫校