子どもの心を安定させるために夫婦で取り組みたいこと
夫婦が信頼しあっている健全な家庭に育った子どもは精神的に安定し、自分の周囲の人と上手にコミュニケーションできるように育ちます。子どもをそのように育てるには、どんな家庭を築いていけば良いのでしょうか。
子育てに父親が加わるとこんなメリットがある
子どもがしっかりと自立していくためには、幼いころに母親との間で情緒面の結びつきを中心にしたしっかりとした愛着が形成されていることが大事になってきます。母親が子どもに対して愛情を十分に示し、母親に対して子どもが思う存分依存し甘えていられるような母子関係を作り上げることが、その後の子どもの自立を促すためには必要不可欠になってきます。
少し前までは、子どもを母親に依存させすぎたり甘えさせすぎたりすることが子どもの自立心の形成を妨げる要因であるというような意見もありました。しかし最近では、むしろ母子間にしっかりと愛着が形成されてないと、子どもの自立が妨げられるという考え方が主流になっています。
つまり、子どもが母親から独り立ちし、社会に飛び込んでいくためには、ただ強くあれと育てるだけでは駄目だということです。まずは幼いころに母親に存分に甘え、続いて周囲の人を自分の味方として信じることが重要です。
幼いころに母子間にしっかりとした愛着が形成されなかった場合、子どもは周囲の人を自分の敵と見るようになってしまいます。そして、その子どもは周囲ときちんとした人間関係を作れないようになってしまうのです。あらゆる人が敵、という環境にただ一人放り込まれるわけですから、子どもにとってはたいへん辛いと言えるでしょう。
子どもが人間に対する信頼感を会得するのは、まずは母親との関係性においてになります。そしてそれを基礎に据えた上で、父親、きょうだい、祖父や祖母、そして家族以外の周囲の人たちといったようにそれを拡大して行くことになります。このように信頼感を拡大する時、一番大事になってくるのが父親と子どもとの関係です。こうしたプロセスにおいて、母親と子どもとの間に結ばれた関係をゆっくりとほどき、子どもの心の中に他人への信頼感を芽吹かせるという重要な位置に父親が位置しているからです。
最近日本では、父親が子育てに参画する重要性が言われるようになってきました。父親が子育てに参画することによって、母親のみで子どもを見ているよりも子育て行為のレイヤーが増加し、また複雑なものになっていくという利点があります。
より細かく言えば、子育てを母親のみがするわけではなくなるため、万が一母親に何かあったような場合のリスク分散が可能です。また、子育ての問題を家族の中で抱え込んでしまうことなく、周囲の人たちにより見えやすくなる可能性があるという利点や、子どもにかけられる期待が母親のものだけでなく父親のものも入ってくることで、価値観に多様性が生まれるというような利点もあります。
子育てに父親が参画することにより利点を得られるのは子どもばかりではありません。父親本人にとってもいいことがあります。それは、ともすると仕事一辺倒になりがちな人間関係を広げられる機会が得られることであったり、地域の人たちとの関わり合いが増えることにより生活の基盤となるものが増えるということです。父親がより自立した人間となるためにも資するものと思われます。
子育てをする際には子どもに対して責任を負わなければなりませんし、気力や体力といったものも必要になってきます。その反面、子どもとの時間をたくさん過ごすことにより、毎日の生活に多面性が生まれ、それが良い意味での刺激をもたらしてくれることもあります。いずれにしても、子育てをする際にはあまり気負わず、楽しんで参加することが大事になってきます。
夫婦の関係がよければ子どもは健全に育つ
子育てに父親が関与する場合、母親のしかたとは違ったやり方で関与するようにすべきです。もし父親が母親と同じやり方で子育てに関与した場合、子どもは二重のプレッシャーを受けることになってしまい、発育上悪影響が及びかねないからです。
違うやり方でとは言っても、父親と母親の関与のしかたが正反対で対立するようなことになるのも問題です。父親の考えと母親の考えが対立する中で育った場合、子どもはどちらが正しいのか混乱して悩んでしまうことになるからです。
両親の夫婦関係が悪化していてあまり意思疎通が図られていないような家庭で育つことは、子どもの心理面に大きな悪影響を及ぼす傾向が高いとされています。また、夫婦間の関係が悪く、しかも子育てについて父親がまったく関与せず母親に任せきりというような場合、母親が不安を感じてそれを紛らわせるために子どもに依存するということがおきがちです。子どもは元々母親に依存するものですから、こうした家庭では母子が互いに依存し合う関係性ができあがってしまいます。
母親が父親に対してネガティブな評価をしているような場合、子どもは母親の価値観を取り込みやすいために父親に対してネガティブな感情を抱くようになり、父親を信じられなくなります。こうなるとその子どもは他の人間に対する信頼感を育むことができなくなってしまい、周囲の人すべてを敵と見るようになってしまうこともあります。
子どもの健全な成長という点から考えれば、夫婦が一体となってそれぞれの弱点や短所を補完し合い、健全な家庭を築き上げ、子どもに関わりを持っていくというやり方が望まれます。そのためには、夫婦間でコミュニケーションがきちんととられ、愛情にあふれたやりとりが交わされていること、互いに相手のことを信頼しあい、思いやっていることが重要になります。
父親と母親が信頼感で結ばれた健全な家庭で育つことができれば、子どもは他人との関係を築く上でのコツといたものをごく自然な形で学びとることができるようになり、他者とのコミュニケーションを上手に取れるようになります。また、さほど苦労せずに自立の道を歩むことができるようになるのです。
夫が子育てや家事に非協力的なときには
ほとんどの家庭で、子育てをしている母親が夫に比べて自分は不公平な立場にあると感じていると言われます。子育てに関する苦労が自分だけにのしかかり、子育てに時間を取られているうちに社会で通用しない人間になってしまうのではないか、という不安に苛まれてしまうのです。こういった母親たちは、「母親であること」をうまく受け容れることができずにたいへんな思いをしています。
特に最近の女性は、子どものころから男女平等と言われて育ち、結婚して家庭を持つまでは家庭でも職場でも男性と同じような接し方をされてきました。にも関わらず、結婚し子どもができると子育てその他の負担がすべてのしかかってくるようになるとなれば、そのような不満を抱くようになってもおかしくはないと思われます。
職場で仕事をしているときにはちゃんと周囲からの評価も得られ、また何かをやり遂げたという充足感を得ることもできたわけですが、こと子育てとなると周囲も評価してくれませんし、これだけできれば合格、といったようなめどもありません。このため充足感が得られにくく、それがさらなるストレスとなって追い打ちをかけるのです。
さらに、日本においては旧態依然とした母性観がまだ息づいているところがあります。「子育ては女性の仕事である」であるとか、「子育てをすることによって女性は喜びを得るはずだ」といったような考え方です。こうした考え方は社会全体に漠然と漂ったままであり、夫もそうした考え方を持っていることがままあります。
最近でこそイクメンなどと言われ子育てや家事を分担してくれる男性も増えてきていますが、それでもまだ大多数を占めるまでには至っていないのが実情です。週休二日制がほぼ定着はしたとは言え、それでも今の日本の労働環境では夫が子育てや家事の多くを分担するのは難しいというのが実際のところでしょう。
しかしながら、似たような条件下で働く男性を夫にしている場合であっても、妻の側がその状況を不満と感じるケースと、不満に感じないケースとがあります。どうしてそこに差異が生じるのかですが、夫婦間の意思疎通がきちんとなされているかどうかに違いがあるからだと言えます。子育てや家事を実際に分担することは時間的な都合で無理だとしても、夫が妻ときちんと意思疎通を図り、その不満に共感を示しているかどうかが非常に重要なのです。
子育てや家事をしていて感じた妻の不満に対し、夫が話を聞いて共感し、相談に乗ってくれる場合、妻の感じる不満はかなり軽減されるということが分かっています。実際に夫が子育てや家事をすることができなかったとしても、妻が子育てや家事でこんなにたいへんな思いをしている、ということを理解し、ねぎらいの言葉をかけてくれるだけで、妻にしてみれば一人だけたいへんな思いをしているのではなく、夫とともに子育てや家事に協力して当たれているというように感じることができるのです。そうすれば、多少不満があってもそれを重荷とは感じずにいることができるのです。
にもかかわらず、不満を聞いてもらおうとしたのに取り合ってもらえなかったり、突き放されたり、面倒くさそうな対応をされたりすれば、妻にしてみれば「なんで自分一人だけが……」という気持ちになり、子育てや家事を重荷に感じ始めてしまいます。最悪の場合自分の子どもを愛せない、というところまで行き着いてしまう場合さえあるのです。
子育てや家事に非協力的な夫の言い分として「仕事が忙しい」というものがありますが、これは妻にぶつける言い分としては正当性がありません。どれだけ忙しく働いていたとしても、協力しようという気持ちさえあればなにがしかのことはできるはずだからです。
とはいえ、協力的でない夫を子育てや家事といった活動に引き込むのは簡単ではありません。そういった場合、次のようなテクニックを使って夫を子育てや家事に引っ張ってみることをおすすめします。
・夫にきちんと謝意を伝える。ささいなことであっても、夫が何か手伝ってくれたときにきちんとお礼を言っているでしょうか。感謝されれば気分が良くなり、また手伝ってやろうと思うようになるものです。「お父さんにやってもらってよかったね」と、子どもと一緒になって感謝を示してみるのも効果があります。
・「お父さんにしてもらうのがいいんだって」という形で、子どもをうまく使う。夫が子どもとたくさん時間を共有するようになれば子どもをかわいいと思うようにもなりますし、また子どもに関わるのが楽しいと感じるようにもなります。
・夫が休みが取れた日に、子どもについての話を多めに振ってみる。
・夫が休める日に寝込んでみせる。仮病でも構いませんので、急に調子が悪くなったふりをして寝込んでしまいましょう。少々無理矢理ではありますが、夫は育児に協力せざるを得なくなります。
・子育てに積極的な夫を持つ家庭と家族ぐるみのつきあいを始める。相手の家族のあり方を見ることで、夫も自分の態度を考え直すかもしれませんし、良い意味で触発されてくれるかもしれません。
・夫が休みの日に、子どもを任せてさっさと外出してしまう。これも少々無理矢理ですが、何もしないわけにはいかなくなります。
仕事をしている母親なら1日数分だけは子どものために使いましょう
最近では、結婚して子どもが生まれてからも仕事を継続する母親が増えてきています。子どもができてなお働くというのですから、なにがしかそうしたい理由というものがあるはずですが、いったい自分が何のために働いているのか、ということを少し立ち止まって見つめ直してみることをおすすめします。
そして、子どもに「どうしてお母さんは働いているの?」と尋ねられたなら、子どもが理解できる程度までで良いので自信を持ってその理由を答えてあげてください。母親がなぜ働いているのか、ということを子どもが理解すれば、あまりかまってもらえなくても不満に感じることが減ります。また、親子の間での意思疎通も良好になります。
仕事を続けている母親が最も気にすることといえば、自分の子どもとともに過ごせる時間が短くなりがちであるということではないでしょうか。1日は24時間しかなく、自分の身体は1つしかありませんから時間が短くなってしまうのは致し方ありません。しかし、母親と子どもとの関係において大事になってくるのはどれだけ長い間一緒にいるかではありません。たとえ時間は短くても、そのぶん濃密な時間を子どもと過ごすことができれば大丈夫なのです。
大事なのは、親としてどれだけ子どものことを思っているか、愛しているかということを確実に子どもに伝えることです。「お母さんは忙しいけど、いつもわたしのことを考えてくれてる」と子どもが感じることができるように、子どもと過ごす時間を充実したものにするように努力しましょう。
外に仕事を持っていると、帰宅してからは目眩がするほどの忙しさ、となっているかもしれません。限られた時間でやるべきことをすべてやらなければならないのですから、それも当然です。ですが、そこでせめて5分~10分ほど、他にすることを頭から閉め出して子どものために時間を割いてあげてください。
子どもが今日幼稚園や学校で経験したこと、遊んでいるときに思いついたことなどを、その時間を使ってじっくりと聞いてあげるようにするのです。1日たった数分のことですが、こうすることで子どもは親の愛情を感じ、心が安らかになります。
注意したいのは、数分間の間にちゃんと話をしようとするあまり、話をせかしてしまったり、子どもの話を遮ってこちらから話をしてしまったりしないようにすることです。あるいは、「予習復習はちゃんとしたんでしょうね?」などと、居丈高な感じで勉強のことばかり尋ねる、といったようなやり方もよくありません。
外で仕事をしていると、どうしてもストレスがたまりがちになります。日によっては嫌なことも経験するかもしれませんし、1日働いてどっと疲れてしまっているかもしれません。だからといって、そのストレスや疲れた感じを子どもとの関係に持ち込まないように注意してください。仕事から帰ったらちゃんと「お母さん」に戻ってあげることが大事です。
あまりにも疲れてしまった日には、家事を多少手抜きすることも考慮に入れましょう。疲れて苛立ちが募っていたりすれば、気がつくと笑顔を忘れてしまったりするものです。また、子どもに話す言葉にも指示や命令、禁止の表現が多くなり、たいしたことでもないのに大げさに叱りつけてしまったりすることもあります。
そうした母親の苛立ちは子どもにも必ず伝わり、そして子どもは感情的に不安定になってしまいます。そうなってしまうと子どもは親の言葉を素直に聞こうとしなくなるため、親はさらに苛立ちを募らせる……という悪循環に陥ってしまいます。
このため、忙しくて疲れているときほど、子どもに対してイラッときたらまず一呼吸置き、「笑顔、笑顔」と自分に言い聞かせてみてください。また、母親なのに仕事をしていてあまり子どもにかまっていないということをあまり負い目に感じないようにすることも大事です。そこを負い目に感じてしまうと、思わず何か玩具を買ってあげてしまったりすることになります。
母親の愛情やスキンシップを求めている子どもに物をあげても、本質的には満足することはありません。それは子どもを大事にしている行為ではなく、単なる「甘やかし」似すぎないと肝に銘じてください。
母親でありながら仕事を持っている、ということを気にすることなく、むしろそのことをプラスに変えるような子育てを目指しましょう。母親が仕事をし、それを生きがいに溌剌と生きていれば、それを目にする子どももうれしく感じるものなのです。