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0の0乗の正解がネット検索しても見つからないので作成した。

0の0乗はいくらでしょうか?

0の0乗はいくらですか?
正しい解答を答えられますか?

 

事の発端は、昨年2月の読売新聞に「0に0をかけると0だが、0を0乗すると1になる」と書き始め、学力低下について批評した記事が出回ったところから始まります。これについて、「バカなことを言うな」「間違っていますよ」「最近はそう教えているの?」・・・などとネット上で論争が爆発しました。

 

この0の0乗事件から、もうすぐ2年になろうとしているので、さすがに誰かが正してくれていると思いネット検索してみたのですが、いろんな言い分は多々見受けられましたが、正しい解答に言及しているサイト(ページ)は見つからなかったので、僭越ながらここで正しい解答を記述しておきたいと思います。この機会に「0の0乗」について正しく理解いただければ幸いです。

 

前提 ~どの世界観で説明するか?~

0の0乗がいくらになるかを考えるためには、ある程度の数学的素養が必要となりますが、この記事では高校レベルまでの算数・数学の範疇での解説とします。

 

どういうことかというと、(ざっくり簡単に言えば)そもそも数学とはある前提下での理論体系を説明するものです。理論体系とは、世界観と思っていただければよいと思います。つまり、「こういうことをルールとしたとき(定義したとき)に、こういう世界観が見えてきますよ・広がりますよ」ということです。

 

従って、前提を変えれば異なる世界観がそこにできることになります。

 

通常、人の頭の中にはいろんな情報が入っているため、「0の0乗はいくら?」と聞かれたときに、その頭の中の情報をベースとした先入観・思い込みなどで判断してしまう傾向にありますが、白紙の状態で見れば「0^0(0の0乗)」はただの記号です。この記号に意味を持たせるには、どの前提下で見るか、どの世界観で見るか決めなければなりません。

 

つまり前提の数だけ(世界観の数だけ)、0の0乗の説明(解答)も存在することになります。先ほど述べた通り、この記事では高校レベルまでの数学を前提とした解答に限定したいと思います。(高校数学を超えた範疇の議論は、この記事ではしないものとします)

 

0の0乗の解答は上記の通り、どの理論体系下(前提下)で説明するかによって変わってきますが、高校数学までの素養で説明する場合、専門用語で言えば、代数学か解析学で説明することになります。

 

0乗の復習

今回、事前調査として数名にヒアリングしてみました。

・2の0乗はいくら?⇒これは全員答えられました。2の0乗は1です。

・なぜ2の0乗は1になる⇒全滅。

 

結局、「0の0乗」の前に、「0乗」を理解していない人が結構いるかもしれない?ということが分かりました。

 

ヒアリングで分かったことですが、どうも原因は数学の教員、塾の講師に起因するようです。どういうことかというと、「0乗したら1と覚えなさい」と教えている方が多いようなのです。理由もなく覚えるのは困難が伴うと個人的には思いますが、真面目な生徒は先生の言うことを聞くということなのかもしれません。個人的には、こういう教え方は辞めた方が良いと思っています。思考力が身につかず、数学的なスキル向上に全くならないからです。

 

前置きが続いて恐縮ですが、まず「0乗」を説明しておきます。

 

2の0乗は、なぜ 1 か説明します。もちろん、2でも3でも良いのですが、0乗を簡単に理解するために何か例を挙げて説明した方が良いと思いますので、取りあえず2でいきます。

 

そもそも「累乗(○○乗)」というのは簡単に言うと「何回掛けましたか」というもので、何回の部分を「指数」と言い右上に記述します。2を3回掛けたら(2×2×2)、2^3(2の3乗)と記述します。言うまでもなく、これはただの記号です。3回ぐらいならいいのですが、100回とかになると「2×2×2×2×・・・」と書くのが大変なのでこういう記号があると便利なのです。

 

また、累乗は 2^{-3} というように、マイナス乗という概念も存在します。これは 1/2^3 のことです。これもそういう記号で表すというお約束です。「2をマイナス3回掛けたら・・・」とか考えると混乱します。定義は定義としてすんなり受け入れなければいけません。

 

累乗の説明が終わったので0乗の説明に行きます。ここまで来ると簡単です。

2^0=2^{1-1}=2^1 \times 2^{-1}=2/2=1

つまり、2の0乗というのは2/2(2÷2)なので1なのです。

 

例として2で進めましたが2以外の数でも同じです。従って、0の0乗とは、0/0(0÷0)のことです。

 

準備が長くなりましたが、以降「0の0乗」がいくらになるか、「代数学」「解析学」において各々説明します。

 

0の0乗の代数学下における説明

「0の0乗」とは「0÷0」のことですので、0÷0が代数学下でいくらになるか見ていきます。

 

代数学下において、実数は実数体です。どういうことかというと、小中高で実数という場合、実数体(実数体の元)という前提で議論されています。体(たい)とは集合に所定の演算ルールを定義した体系です。

 

2つの演算(★、※)を備えた集合Kにおいて、以下の3つの公理を満たすときKを体といいます。

(1) Kは演算★に関して可換群を成す。

(2) Kから演算★の単位元を除いた集合K×は、演算※に対して可換群を成す。

(3)演算※は演算★に対して分配法則が成立する。

 

きちんとした定義を記述すると、記号ばかりで分かりにくいと思いますので、実際の実数の集合(Rとする)の場合に、どういうことなのか見てみましょう。

 

実数体は、K=実数の集合(R)、★=+(足し算)、※=×(掛け算)で定義されています。上記定義の全てを実数の場合にどういうことなのか確認していくと長くなりますので、0の0乗に関係する(2)の公理のみ見てみたいと思います。

 

実数の集合Rの場合に、(2)は「Rから0を除いた集合R×は、掛け算(×)に対して可換群を成す」と言い表されます。この一文が何を言っているのかを理解するには、「可換群」というものが何なのかを理解する必要がありますが、これを説明し出すと相当長くなりますので、可換群の説明は割愛して、この一文と0の0乗がどう関係しているのかを説明します。

 

実は、「Rから0を除いた集合R×は、掛け算(×)に対して可換群を成す」という一文には、いくつかの情報が含まれているのですが、「Rから0を除いた集合R×の全ての元(要素)で割り算(÷)が可能です」という情報も含んでいます。

 

つまり、0以外の実数(1,48,5.7,3/4,-\sqrt 2,\pi など無数にあります)で割るという行為は定義されていますが、0で割ることはそもそも定義されていないのです。

 

従って、実数体においてはゼロ除算(0で割る)という数式を考えること自体がありえないわけです。つまり、ゼロ除算を考えるというのは、「定義をきちんと読んでいないだけ」ということになります。

 

つまり、0の0乗と0÷0は同じですので、代数学下では「0の0乗という数式は存在しない(定義していない)」という解答になります。

 

ちなみに、高校の数学の教科書には、本文内の囲み箇所(重要箇所)に、「a≠0の時に、aの0乗、マイナス乗が定義される」という内容の記載があった記憶があります(日本語ではなく、もちろん数式ですが)。つまり、高校の教科書でも0の0乗や0のマイナス乗は定義されていないときちんと書かれているのです。(今の教科書に記載があるかどうかは不明ですが、重要事項なのでおそらくあると思います)

 

また、小学校の算数の教科書には、(通常では欄外もしくは巻末に)「0の割り算は定義されていない」という内容の記載があった記憶があります。(こちらも今の教科書は不明です)

 

なお、ゼロ除算(0で割る)について、小学校の教員や塾の講師で、生徒から質問があった際に「0で割ってはいけない」と教えている方をたまに見かけますが、厳密に言うと間違っています。割ってはいけないではなく、存在しないです。禁止(存在しているがNG)ではなく、存在しないです。

 

0の0乗の解析学下における説明

解析学においても実数は実数体なので、むろん0の0乗は定義されていません。しかし極限の略記で0^0と記載することがあります。

 

解析学というのは、高校数学で習う微積分(微分積分)といわれているカテゴリーで、極限は、文系・理系に関わらず高校で皆習う概念です。

 

極限とは、ある関数f(x)とある数aを定めた際に考えることのできる概念で、xaに近づけた時にf(x)が近づく値を「xaに近づけた時のf(x)の極限」と言い、「 \lim_{x \to a} f(x) 」と記述します。

 

注1) 「 \lim_{x \to a} f(x) 」と「f(a)」は厳密には同じではありません。例えば、f(x)=1/x とした場合、「 \lim_{x \to 0} f(x) 」は存在しますが「f(0)」は存在しません。このようなケースが多々あるため、極限(近づけると何に近づくか)という概念が存在するのです。

注2)定義なのに「近づける」というアバウトな表現を使用しましたが、アバウトではなく厳密に極限を定義するには、ε-δ論法というものを使用する必要があり、説明が長くなるためイメージ定義としました。

 

先ほど述べた通り、解析学では0^0という記載が存在します。

 

解析学においては、厳密ではないが稀に以下のように記述することがあります。

\lim_{x \to a} f(x)=0,\lim_{x \to a} g(x)=0 の時に、「 0^0=\lim_{x \to a} f(x)^{g(x)}

この略記において、0^0 を考えることが可能となります。

 

注1)この略記は説明の通り、「0を0乗する」ということではないので注意願います。(再掲ですが、0を0乗するという行為は実数体では定義されていません)

注2)略記 0^0 と略記 0 \div 00/0)は厳密には同じではありません。0の0乗と0÷0が代数学的には同じ意味だからといって、解析学(極限)の上記の略記で同じになるとは限りません(先ほどの定義で説明の通り、そもそも代数学的な0の0乗と上記の略記は意味が異なります)。

例えば、f(x)=x , g(x)=1/ \log x とすると、

0^0=\lim_{x \to +0} f(x)^{g(x)}=e

0/0 = \lim_{x \to +0} f(x)/g(x)=0

となり、0^0 \neq 0/0 となります。(各々の証明は、高校数学レベル(大学受験レベル)で可能ですが、説明が長くなるため割愛します)

 

結論を言うと、解析学下では「略記0^0(0の0乗)の値は、定義関数f(x)、g(x)に依存する」という解答になります。

 

上記定義に従えば、解析学下において0^0(0の0乗)を考えることは可能ですが、0^0(0の0乗)を定義するには、2つの関数が必要となります。この定義学を無視して、(数式をこねくり回す、屁理屈こねて)0の0乗は1だとか、無限だとか、定まらないとかネット上で議論されているのが検索して見受けられました。言うまでもなく、前提を無視した議論は本質的ではありません。

 

「略記0^0(0の0乗)」と言われてもピンとこないと思いますので、いくつか例を挙げて0^0(0の0乗)はいくらになるのか見ていきたいと思います。

 

■例1

f(x)=x , g(x)=\log n/\log x (n0以外の実数) とすると、f(x)^{g(x)}=x^{\log n/\log x}x \to +0 の時に 0^0型の極限になります。

つまり、0^0=\lim_{x \to +0} x^{\log n/\log x} です。

\lim_{x \to +0} x^{\log n/\log x}=n なので、0^0=n となります。

 

\lim_{x \to +0} x^{\log n/\log x}=n (n0以外の実数) の証明は高校数学レベル(大学受験レベル)で可能ですが、説明が長くなるため割愛します。

※言うまでもなく、nは0以外の好きな数(1,48,5.7,3/4,-\sqrt 2,\pi, ・・・)なので、0^0=1,0^0=48,0^0=5.7,0^0=3/4,0^0=-\sqrt 2,0^0=\pi, ・・・というように、いろんな値を取る場合があります。

 

■例2

f(x)=e^{-1/x^2} , g(x)=-x とすると、f(x)^{g(x)}=(e^{-1/x^2})^{-x}x \to 0 の時に0^0型の極限になります。

つまり、0^0=\lim_{x \to 0} (e^{-1/x^2})^{-x} です。

\lim_{x \to 0} (e^{-1/x^2})^{-x}=\infty なので、0^0=\inftyとなります。

 

\lim_{x \to 0} (e^{-1/x^2})^{-x}=\infty の証明は高校数学レベル(大学受験レベル)で可能ですが、説明が長くなるため割愛します。

f(x)=e^{-1/x^2} , g(x)=x とすると、0^0=\lim_{x \to 0} f(x)^{g(x)}=\lim_{x \to 0} (e^{-1/x^2})^{x}=0 となります。また、f(x)=-e^{-1/x^2} , g(x)=-x とすると、0^0=\lim_{x \to 0} f(x)^{g(x)}=\lim_{x \to 0} (-e^{-1/x^2})^{-x}=-\infty となります。つまり、0^0=\infty の場合もあるし、0^0=00^0=-\infty の場合もあるということです。

 

以上のように、持ってくる関数(f(x),g(x))で 0^0 の値は変わります。

 

まとめ

0^0」の解は、高校数学までの素養で説明できる範囲では、代数学か解析学で説明することになり、各々以下の通り。

・代数学下では、「0^0という数式は存在しない」

・解析学下では、「略記0^0の値は定義関数f(x)、g(x)に依存する」(関数f(x)、g(x)の定め方により、いろんな値をとる)

 

※記事作成協力: NPO法人イー・プロフェス 三村彰裕氏(数学に関する主な経歴:早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻修士課程修了、専門は整数論)

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